「デイリーポータルZ」がサイト改善で入会数54.6%増! ウェブ解析士マスターと語る裏話 | 【レポート】Web担当者Forumミーティング 2022 秋

【レポート】Web担当者Forumミーティング 2022 秋
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yu-ta(ゆーた)26歳、会社員 PC.スマホ周辺機器やスマート家電など ガジェットを使って スマートな生活を送っています。 このサイトでは管理人おすすめの 最新の便利ガジェット情報や お得に買えるセール情報を中心に 発信しております。
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デイリーポータルZの有料会員を増やしたい!」という林編集長の相談で始まった連載企画「楽しく学ぶアクセス解析&サイト改善【DPZ×ウェブ解析士】」。ウェブ解析士マスター井水氏による協力のもと、実際に行ったサイト改善施策を紹介し、大好評を得た。

Web担当者Forum ミーティング2022 秋」では、デイリーポータルZの林雄司氏と石川大樹氏、エスファクトリー代表の井水大輔氏が登壇。連載内容を振り返りつつ、DPZの現状について語った。

(左から)東急メディア・コミュニケーションズ デイリーポータルZ編集部 編集長 林 雄司 氏/東急メディア・コミュニケーションズ デイリーポータルZ編集部 専任アシスタントマネージャ 石川 大樹 氏/エスファクトリー代表 井水 大輔 氏

収益で悩むDPZ。サイト改善って何から始める?

「デイリーポータルZ(DPZ)」は2002年オープン。「役に立つよりも、読んでいて楽しい」をコンセプトに、日刊ペースで記事掲載をしている人気メディアサイトだ。

デイリーポータルZでの記事

DPZの初期立ち上げに携わり、当時から現在まで一貫して編集長を務めてきた林氏だが、サイトの収益性には悩んでいたという。Web担当者Forumでの連載初回は、林氏が開口一番「DPZの収益を増やしたいんです。端的に言うとお金が欲しいんですが、どうしたらいいですか!」と井水氏に相談するところから始まった。

生々しすぎる相談から連載スタート

井水氏は「この出だし、記事なのでネタかと思われるかもしれませんが、実際によくある話です」と苦笑する。しかし、ページ単位の直帰率を一時的に改善できたとしても、サイト全体での目標達成や収益性改善にはつながらない。

ウェブ解析士協会の理事を務めるなど、まさにアクセス解析のプロである井水氏は、「こうした相談をされてまず実施するのは、データを見ることではなくヒアリングだ」と述べる。

まずは「ヒアリング」でユーザーを理解する

なぜヒアリングをするのか?

ヒアリングをする一番の目的は、事業を理解すること、つまりユーザーを理解することだ。それをもとに、Webサイトの役割・目的を確認していくという。「メディアサイトなのでPVを増やしたい」「他のサービスへ送客をしたい」「単純にブランディングしたい」など、担当者によって目的が異なっていると、当然施策もブレたものになる。前提条件を言語化し、共通認識をもっておくことが重要だと井水氏は指摘する。同様に、できること・できないことを洗い出しておくことも重要だ。

Webサイトで一般的な改善案を提案しても、社内事情の関係で実現が難しい場合がある。このあたりを理解していないと、理想論的な改善案が出て終わってしまう。理想よりも実効性がとにかく重要です(井水氏)

また、実際にヒアリングする際に井水氏が意識しているのが、「ユーザーになりきって(サービスを)使ってみる」ことだ。

「はげます会」の当初のランディングページ
「はげます会」の当初の新規登録ページ

DPZは「はげます会」という有料会員制度があり、この会員数を伸ばすことが収益向上策とされていた。井水氏は、「はげまず会」のランディングページ(LP)を最初に見たとき、以下の点に気づいたという。

  • 情報が整理されておらず、そもそも有料会員制度であるかわからない
  • 登録しようとすると、なぜかAmazonアカウントでのログインが求められる(料金の支払いのために必要なのだが、説明が不足していた)
  • はげます会のLPへのリンクの場所がわかりにくい

このように、まずはユーザー目線で問題を整理し、改善できそうな点を洗い出す。分析すべき場所、改善効果の大きいポイントをイメージし、絞り込んでいくのだ。

「現状確認」で課題を探る

サイトの目的を明らかにしたうえで、次に行うのが「現状確認」。理想とするサイトと現状とのギャップを確認し、「どこに課題があるか」を明確にする工程だ。

ユーザーはどこから来ているのかを知る

実際に井水氏が分析したところ、DPZではGoogle アナリティクスで「Direct」と扱われる流入が多いことがわかった。これは、正確な流入元がわからない、つまりブラウザのブックマークやメールマガジンからのアクセスが多いことを示している。また、掲載記事数の多い日に必ずしもPVが増える訳ではなく、平日・休日の違いにも要因があるようだった。

何のデバイスで見られているか知る

さらに、「何のデバイスで見られているのか」を確認すると、DPZの場合は8割程度がモバイルからの閲覧で、パソコンは2割弱であった。しかし、有料会員の申込者が多いのはパソコンで、モバイルの2倍以上であることがわかった。

どんなキーワードで検索してきているかを知る

また、Google Search Consoleを使って検索流入時のキーワードを調査したところ、「デイリーポータル」「DPZ」などの指名検索が多い一方で、「へびいちご」「バラムツ」といった単語が上位に上がっていた。林氏によると「へびいちごが食べられるのかを検索している人が一定数いる」とのことで、過去記事の実用性が意外と高いのではないかという気づきとなった。また、ライターの個人名も上位に入っており、「ライター軸」の施策を探るきっかけにもなった。

現状確認をしつつ、深掘りするべき箇所をイメージしていく

これらの現状確認は、分析の方向性を見つけていくために大切なファクターだという。「重要なのはデータを見る前に仮説をもち、予想と異なるデータがあれば、そこを深掘りすることだ」と井水氏は指摘する。

ユーザーが離脱している原因を「分析」する

ここからが分析の本番となる。今回は「なぜはげます会が知られていないのか?」「なぜ入会してくれないのか?」の2点を軸として進められた。

まず、はげます会の入会に最もつながっていると考えられるのは、メルマガなどからランディングページに直接訪問したユーザーだった。

LPに直接訪問したユーザーの入会率が高かった

逆に、サイトのTOPページからLPを訪れたユーザーが入会する割合は低かった。TOPページへの流入は全流入の20%以上を占めるにもかかわらず、入会数は月に1~5件程度と極端に少ない。

ヒートマップ分析したところ、多くの人が入会ボタンまでスクロールせずに離脱していた

はげます会のLPのメインビジュアルは当初、林氏の写真が大々的に使われていた。このページをヒートマップツールで分析したところ、「入会ボタン」までスクロールしたユーザーは、スマートフォン利用者で51%、PC利用者でも71%だった。つまり、スマートフォン利用者の1/2、PC利用者の1/3が入会ボタンにたどり着かずに離脱しているわけだ。

データ/分析から見えてきたことと課題

最終的に、井水氏があげた課題は上の8つ。多いように感じるが、有料会員を増やすことを目的として、「なぜはげます会が知られていないのか?」「なぜ入会してくれないのか?」をユーザー視点で考えたからこそ絞れた数だ。

施策は実施してこそ! 重要度・難易度で優先順位づけ

以上の分析結果をもとに、井水氏は9つの改善案を提案した。これらを全て実施できればよいが、現実の作業を考えればこれでも多い。

具体的な提案。詳しくは連載をご覧ください

ここで一番重要なのは、「施策の重要度、開発の難易度をふまえて、実施順序を決めること」だと井水氏は述べる。実施できる施策には限界があるため、優先順位をつけて着実にアクションにつなげることが、課題解決への一番の近道だという。

施策の重要度、開発の難易度をふまえて、優先順位をつける

DPZの場合、LPのファーストビューの変更から取りかかった。LPに辿り着くユーザーは、そもそもDPZのファンである確率が高い。そこで、「はげます会に入ったらどんないいことがあるのか?」をページの最上部にわかりやすくまとめた。

ただ、林氏はページとしての面白さ・楽しさも残したいと考えていた。そこで、サイト内に度々登場する編集部をメインビジュアルに起用した。検索キーワード分析の結果、ライター個人のファンが一定数いることが明らかになった故の対応だ。

はげます会ランディングページ Before/After

こうした改善の結果、1カ月後には入会者数が54.55%アップした。

メインビジュアル変更後1か月で、会員獲得数は大きく伸びた

この他にも、はげます会の入会に必要となるAmazonアカウントについて、利用の方法をより明確に説明する・入会までの画面遷移数を3ステップから2ステップに抑えるなど、複数の実施を実施。新規登録ページの遷移率の改善につながった。

編集者は「サイト改善」に向いていない!?

井水氏の協力もあり、なんとかサイト改善に成功したデイリーポータルZ。林氏はここまでの経緯について、「(編集部がアクセス向上策を実施するのは)向いていない」と振り返る。

編集者とは、そもそも『変わったことをやる』『珍しいことをして人の気を引く』という発想をしている。私もそれで20年やってきた。でもWebサイトの改善は、素直かつわかりやすいことが大事。

(編集者とは目標が真逆すぎて)向いていないと、井水さんとのやりとりの中で何度か感じました。だって、LPで変わったポーズの男がいたら絶対面白いじゃん! (林氏)

石川氏もこの発言に同意。「会議をやっていても、真っ当なこと、普通のことをやるのは良くないという雰囲気ができてしまっている。今回井水さんに王道的な施策の重要性を教えていただき、目が覚めました」と笑顔で話した。

対談の様子

DPZは面白さを追求したサイトではあるが、他の企業サイトなどでも「とりあえずかっこよく」「競合他社みたいに」と本来の目的から離れてしまう例は多くあると言う。「俯瞰的にみて、『ユーザーにとってはどうなの?』を意識すべき」と井水氏は指摘した。

Webサイト改善はオーソドックスな施策の積み重ね

井水氏は講演終盤、Webサイト改善は長い道のりであり、成功事例の背後には数々の積み重ねがあると語った。

これをやったらアクセスが1年で5倍になりました! とか、そういうキラキラ成功事例が取り上げられることもあります。でも、それは大量の積み重ねのうち、どれか1つにフォーカスしているだけなんです。1%の改善を20個、30個とやっていかなければ(井水氏)

一方で林氏は、編集者としてひたすら「面白さ」と向き合ってきたが、Webサイトの改善には、別の視点が必要であることに気づいたという。

井水さんと話をする前までは、井水さんがとてつもない技を知っていて、それを一発やったら大変な効果が出るとも考えていました。ただ実際に提案してくれた案は、うっすらと頭の中にあったような、オーソドックスなものでした。結局、そういう地道な改善が成果につながるんだと思います。オーソドックスって大事ですよ(林氏)

石川氏は「井水さんの案に触れたのがきっかけで、編集部内でも『改善を継続する』『小さな事を積み上げていく』という意識が生まれてきた」と明かす。実際、はげます会の運営にあたっては連載終了後の今もなお、面白さだけを優先しすぎず、「わかりやすく・オーソドックスを積み上げていく」ことに努めているという。

井水氏はこれを喜び、「施策が終わった後に、サイトの運用・改善の文化が社内に根付くか否かが、サイトを育てていける企業とそうでない企業の大きな差になってくる」と述べ、セッションを締めくくった。

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