Googleは米国時間の2024年7月22日、同社のChromeブラウザ(以下、Chrome)におけるサードパーティCookieのサポート廃止を実質的に取りやめ、代わりとなる「新たなアプローチ」を取ることを明らかにしました。この発表に対してはグローバルで大きな反響、議論が渦巻きましたが、Googleが公約として掲げていた、プライバシー保護を実現するためにサードパーティCookieを広告で使えなくするという既定路線は変わらず、それを実施する主体がGoogleからユーザーへと変わっただけです。
Googleが言う「新たなアプローチ」に関しては、現時点で明らかになっておらず、世界中でさまざまな推測が行わている状況です。しかしながら、今後、Chrome上でサードパーティCookieを広告で利用するためのユーザー許諾が何らかの形で行われると予想されます。もし、AppleのATT(App Tracking Transparency)と似たような許諾の仕組みが提供されると仮定すると、Cookieの利用許諾をするのは20~30%程度で、残りの80~70%は、Cookieの利用を許諾しないことが予想されます。
つまり、「サードパーティCookieが利用可能な環境」と「利用できない環境」が混在する「ハイブリッドCookie環境」になることを意味します。いずれにせよ、Googleによる発表前の「ポストCookie対策」は引き続き推進する必要があるわけです。今回は、ハイブリッドCookie対策として、広告を出稿している企業が何をすれば良いのか、何から始めるのが良いかを解説します。
ハイブリッドCookie対策へのアプローチ
一口にハイブリッドCookie対策といってもいろいろなアプローチがあります。まずは自社環境を把握し、今後やっていきたいことを整理し、選択肢となるソリューションとの相性や導入可能性を模索することが重要です。次の具体的なステップをとることを推奨します。
- 把握する:ハイブリッドCookieの自社への影響範囲を把握、代替対策の理解
- 整理する:自社データの整理、自社プライバシーの調整
- 実行する:ファーストパーティデータ活用、代替ソリューションの活用
1. 把握する ハイブリッドCookie環境の自社への影響範囲を把握する
1つ目の「把握する」ステップでは、まず次の2点を確認しましょう。
- デジタル広告への投資状況
- ターゲティングや効果測定ができなくなることでの利益低下の試算と予測
特にリターゲティング広告に頼ってきた広告主は影響度が大きいことが予想されます。全ページのブラウザ/OS単位で影響度をシンプルに試算するところから始めてもいいかもしれません。
また、経営層や他の部門・チームを巻き込むことも重要になってきます。上記の影響度が試算できたら、経営意思決定に次のようなことが実施可能か確認しましょう。
- 利益低下分をカバーするための追加施策への投資予算額
- ファーストパーティデータを本格的に外部利用することが可能であるか
実施可能となった場合、ファーストパーティデータを活用していくには、法務、情報システムなど複数部門に協力してもらう必要があります。連携が可能なのか、動いてもらえるのか、調整してもらうことが必要になってきます。
2. 整理する 自社データの整理と、プライバシー調整を行う
2つ目の「整理する」ステップでは、次のことを確認していきます。
- ファーストパーティデータを外部活用するために、ユーザー許諾が問題なく取れているか確認
- ファーストパーティデータを保有している場合は、棚卸しを行い、どのようなデータ項目があり、どの程度蓄積できているのかを把握する
- CRMにある会員情報(氏名/E-mail/電話番号)
- 購入/申込/注文履歴
- WEB/APP 行動ログ
- エンゲージメント(メルマガ/SNS/広告など)
- 定性調査(アンケートなど)
もし、ユーザー許諾が取れていない場合は、再取得する必要があります。許諾が取れている場合も、プライバシーポリシーやデータポリシーに広告配信への利活用に関する記載があるかを確認し、ない場合は必要に応じて更新を行う必要があります。このステップでも法務や情報システムとの調整が必要になってきます。
3. 実行する 世の中にあるソリューションをいくつかの角度で理解し、導入を検討する
3つ目の「実行する」ステップでは、次のことを確認します。
- 自社に合うソリューションを探し、テストする
「ファーストパーティデータを収集しているか?使える状態か?」で分類すると取り組みやすいかもしれません。その上で、①すぐ活用可能か、②個人情報が必要か、③技術的難易度は、④導入コストと想定リターンは、の4つのポイントから検討しましょう。
新しい施策を試す上では、POC(Proof of Concept=概念実証と訳され、アイデアや技術、製品などが実際に有効かどうかを確認するために行う試験的な取り組み)を実施することを推奨します。大規模な開発や投資を行う前に、リスクを最小限に抑えた検証ができるのが良い点です。POCを実施する上で重要なことは、限られたリソースと時間の中で効果的に成果を出し、プロジェクトの方向性を明確にすることです。具体的には以下の通りです。
- 明確な目的とゴール設定
1.1.POCの目的を明確にすることが最も重要です。何を検証したいのか、成功基準は何かを具体的に設定します。これが曖昧だと、評価が難しくなり、意思決定に役立てられません。 - 最小限の範囲で実施する
2.1全ての機能や要素を一度に試すのではなく、最も重要な部分に焦点を絞り、最小限のリソースで実施します。これにより、効果的に進捗を確認し、リスクを最小限に抑えることができます。 - 成功基準の定義
3.1.POCの成功をどのように測るか、明確なKPIを定めます。技術的な検証だけでなく、ビジネス的なインパクトも含めて判断基準を設けることが重要です。 - 関係者の合意とコミュニケーション
4.1.プロジェクトに関わる社内外のステークホルダー全員の合意を得ることが重要です。POCの範囲や目的、期待される成果について全員が同じ理解を持つことで、後々のトラブルや誤解を防ぎます。
前述のChromeに対するユーザー許諾の何らかの機能追加が具体的にいつ実装されるかは発表されていません。プライバシー保護の観点から考えると、早ければ今年の年末になる可能性もありますし、規制当局との調整に時間がかかることも考えられるので来年かもしれません。いずれにしてもハイブリッドCookie環境になるまでの時間はあまり残っていないと考え、とりうる策はとっておくことが肝要と思われます。
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オリジナル記事:「デジタル広告そのままでいいの?」 ハイブリッドCookie時代の現実的なアプローチ | 杉原剛のデジタル・パースペクティブ
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