「良い商品」だけでは「届かない」。中川政七商店のマーケターが語る「ブランディングに大切な視点」 | デジマ4つのマイルール

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yu-ta(ゆーた)26歳、会社員 PC.スマホ周辺機器やスマート家電など ガジェットを使って スマートな生活を送っています。 このサイトでは管理人おすすめの 最新の便利ガジェット情報や お得に買えるセール情報を中心に 発信しております。
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「良いサービスだという自信がありましたが、事業はクローズしました」
いい商品でも売れない時代。デジタルを駆使すれば売れるのかというと、必ずしもそうではない。

新卒で入社した会社でスーツレンタルの新規事業の立ち上げに携わるも、「良いサービスだったのに事業が撤退する」という経験をした。「商品を届ける」難しさを痛感してきた中川政七商店のマーケターである中田氏。現在は、「日本の工芸を元気にする!」という会社のビジョンに向かって、CRMデータを活用したブランド戦略に取り組んでいる。常に「デジタルにおけるブランド体験」と向き合っている中田氏に、仕事に関するマイルールを聞いた。

株式会社中川政七商店 コミュニケーションデザイン室/MONJU プロジェクトマネージャー 中田 勇樹氏

「商品の良さだけでは魅力は届かない」ことを痛感

中田氏のマイルール

ルール1 RPGのようにキャリアを積み重ねる

中田氏は、新卒で入社したAOKIホールディングスで、スーツレンタルの新規事業立ち上げと撤退を経験した。

中田氏はそれまで実店舗での販売や商品企画、生産管理を担当し、プロジェクトではレンタル商品の管理をする役割でアサインされた。ただ、プロジェクトメンバーは、10名以下の少数精鋭のチーム。最終的には職種の枠を飛び越え、サブリーダーのような立ち位置で事業の計画立案から経理の申請など細かな業務も一貫して自分たちで行った。

スーツをレンタルするビジネスでは、会員の望むサイズに対応できるよう20〜30もの幅広いサイズ展開のスーツを用意する必要がある。できる限りコストを抑えるにはどうしたらいいか、どのようなサイクルで商品をまわすかを考える必要があった。

今までの仕事とはまったく違う思考が必要で、それが大変でもありおもしろくもありました。自分の知識不足を感じて、その頃からベンチャー企業の経営本やデジタルマーケティングの本などを読むようになったんです。チームには本が好きな人が多く、週に2〜3冊本を読んでは会社の本棚に置いていきます。チームの机の近くにあった空の本棚は、あっという間にいっぱいになりました(中田氏)

プロジェクトチームには一体感があり、それぞれが熱をもって仕事に取り組んでいた。しかし、サービスのローンチから半年ほど経った頃、新規事業の撤退を余儀なくされる。事業をグロースすることが困難だという経営判断が下ったのだ。

仕入れていた商品を店舗で販売するために各所に相談したり、経理の細かな処理をしたり。何よりつらかったのは、時間を共に過ごしたメンバーがチームから去っていくこと。私は最後まで処理を続けていましたが、クローズ処理がすべて終わるまでモチベーションを維持し続けることが難しかったです(中田氏)

新規プロジェクトが撤退という形で幕を下ろし、中田氏が強く思ったのは「商品の良さだけではお客様には届かない」ということだ。商品やサービスを広めるには販促の知識やスキルが必要だと痛感した。特にこれからの時代は、インターネットやデジタル系のスキルが不可欠と考え、デジタルのコンサル事業会社へ転職。異業種への転職だが、身につけたいスキルを経験できる環境に魅力を感じたという。

キャリアを振り返ると、『RPGの主人公のようなキャリアだよね』と言われたことがあります。最初は布の服を着て、木のこん棒を持って冒険に出かける。いろんな街で経験を積んでレベルアップし、新たな武器を使いこなせるようになる。たしかに『自分に足りないものを身につけたい』という気持ちで転職先を選んでいます(中田氏)

中田氏のこれまでのキャリア

デジタルに精通しても商品は売れない

ルール2 デジタルの知見 < 一気通貫に携わること

中田氏が転職したのは、地方の中小企業向けにデジタル施策の支援をする企業だ。中田氏は集客からネット広告の運用、商品の作り方について顧客に提案する。実は、顧客にコンサルティングするときにブランディングの事例として話していたのが、後に勤務する中川政七商店だった。

当時のお客様の傾向として、商品があって販売促進でデジタルを活用するのではなく、『デジタルで何かやってみたい』という要望が多かったのです。しかし、デジタル施策は手段のひとつであり、その会社の状況によってはデジタル提案がフィットしないときもあります。そんなときは、会社として何をやっていきたいか、どんなビジョンをもつのかを考えることの重要性を、ブランディングに重きを置く中川政七商店の事例を基に話していました(中田氏)

中田氏が一番多く手がけた仕事は、商品をつくった顧客が、クラウドファンディングでテストマーケティングを行うというプロジェクトだ。仕事を通じて実感したのは、商品の魅力が伝わらなければ、いくらデジタルの知見があっても商品は売れないということだった。

どれだけ商品を磨き上げても、お客様がいなければ商品が使われる機会が作れず、お客様をたくさん集められても、商品やコミュニケーションの仕方が合わなければ商品の魅力は届きません。つまり、商品の企画からお客様に届ける施策まで一気通貫して取り組むしかない。上流から下流までを一通りわかるスキルを身につけたいと思ったのです。そのための方法論のひとつがブランディングでした(中田氏)

ちょうどその頃、中川政七商店が大規模な採用を始めたことを、中田氏は知る。興味をもってオンラインイベントを観たところ、独立研究者であり著作家の山口周氏が、中川政七商店の社外取締役として登壇していた。実は、中田氏は山口周氏の本を愛読していた。その偶然が最後のきっかけとなり、中田氏は中川政七商店への入社を決めた。

奈良にある中川政七商店の本社にて

ブランディングの実現と業務の簡略化、どちらも両立させる

ルール3 トレードオフではなくトレードオン

中田氏は中川政七商店でコミュニケーションデザイン室に所属し、広告の運用やECチームの戦略立案、全社横断のシステム導入などに関わる。現在メインで取り組んでいるのは『MONJU』というブランディングツールのプロジェクトマネージャーの仕事だ。
MONJUは中川政七商店が2社と共同開発したブランディングのためのツールだ。利用する企業は可視化されたユーザーデータから顧客が見た自社の姿を把握する。そして、ブランドが目指すべき姿とのずれを検証し、顧客の見ている姿と自社が目指す姿が重なるよう自社をアップグレードしていくのだ。

MONJUのプロジェクトで意識しているのはトレードオン、つまり相反するものを両方実現することです。たとえば、ユニクロが『高品質と低価格を両立させた』ように、それまで相反すると考えられていた質と価格を実現したからこそ支持されています。これをブランディングに置き換えるなら、ブランディングの実現と、業務の簡略化の両立を図ることです。MONJUを活用すれば、なるべくコストや工数を使わずに自社ブランディングを実現できる。そんなツールに育てていきたいと考えています(中田氏)

MONJUのプロジェクトにおいて、中田氏はブランディング担当者である自分なら、どんな機能やUIを求めるかという視点を大事にしている。この考えは中川政七商店の「自分起点」のものづくりに基づいている。中川政七商店はユーザーが求めているものは何かという「ユーザー視点」よりも、自分たちが欲しいものを起点に全国約800の工芸メーカーと共にものづくりを行っている。
ユーザー起点の商品づくりでは多数にいいと思われる中央値の商品となりやすく、独自性が生まれにくい。常に中川政七商店がつくる意味を考えているのだ。

自分視点でものづくりを行った後に、商品を市場に出してユーザーに共感してもらうときには『ユーザー視点』を大事にしています。中川政七商店は自分視点とユーザー視点のバランスを大事にしているんです(中田氏)

ブランディングツール「MONJU」のデータ例

挑戦・学習し続けることの落とし穴

ルール4 一生謙虚、一生挑戦、一生学習

実は、1社目での新規事業の撤退という経験によって、中田氏はひとつの財産を手に入れていた。本を読むことが習慣になったのだ。今も業務の過程で本を読むことは多い。とりかかる仕事の途中でふと引っかかりを感じ、読みかけの本を読み返す。そして他の本で書かれていたこととの関連や自分の考えなどを白い紙に書き出す。そして業務に活かしていくのだという。そんな読書を愛する中田氏に大きな影響を与えたのが『ふつう』(深澤直人 |d BOOKS)という本だ。

プロダクトデザイナーの深澤さんは、ちょっといい『ふつう』を作りたいと語っています。ちょっといい『ふつう』を生み出すと、やがてそれが普通になります。普通になったら、またちょっといい『ふつう』をつくる。つまり、何か特別なものを作るのではなく、日常におけるちょっといいものを繰り返し作ることを大切にしていると話しています(中田氏)

中田氏おすすめの書籍。上から『ふつう』、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』、『アフターデジタルセッションズ 最先端の33人が語る、世界標準のコンセンサス』

このように本を通じた学習で知見を深め、転職の度に商品企画、デジタルマーケティング、ブランディングと新たな仕事への挑戦を続けてきた中田氏。まさにRPGの主人公のようにさまざまな武器を手に入れて、新たな冒険を繰り返してきた。そんな中田氏は「一生謙虚、一生挑戦、一生学習」を心がけたいと語る。1社目のAOKIホールディングスで心構えとして学んだこの言葉は、当時はピンとこなかったが挑戦や学習を繰り返す中で腹落ちしたのだという。

挑戦と学習を繰り返していくと『自分はできる』と勘違いしやすいです。でも、勘違いが始まると挑戦をやめたり、学習しなくなったりする。挑戦と学習の支えとなる謙虚さを大事にすることで、学習と挑戦を続けられるのだと思っています(中田氏)

挑戦と学習を重ねてスキルが高まっても謙虚さを失わない。心がけていたとしても、それはとても難しいことのように思える。謙虚さを失わないためのポイントは何だろうか。

一定のところまで深掘りしたら、学習や挑戦のジャンルをどんどん変えていくようにしています。絶えず新しいことをしていると『自分よりできる人がたくさんいるので、頑張らないと!』と謙虚な気持ちを持ち続けられます(中田氏)

仕事中にもよく本を読んでいるという中田氏
中田氏のマイルール(再掲)
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