アドビは、2022年9月12日に「Adobe Experience Makeres Live 2022」をブルーノート東京で開催。特別講演として、北米で「The Experience Maker of the Year」を受賞したVerizon Business Group(ベライゾン・ビジネス・グループ)から、マイク・シンガリ氏と同社のニティン・アフージャ氏が登壇した。進行を務めたのはアドビ株式会社のマニッシュ・プラブネ氏だ。
特別講演のゲストとして登壇したシンガリ氏、アフージャ氏が所属するベライゾン・ビジネス・グループは、大手通信会社べライゾン・コミュニケーションズの子会社で、2022年「Adobe Experience Maker Awards」の北 米 で「The Experience Maker of the Year」を受賞。
2021年に約1,330億ドル(約13兆円)を売り上げ、両者が担当するビジネス部門だけでも310億円の規模があるという。150カ国で事業を展開し、全体で約22,000人の従業員を抱えている。
マーケティング・サイエンスとは?
まず、シンガリ氏が自身の仕事について「マーケティング・サイエンスは簡単に言うと“データによる意思決定”だ」と語る。
どうすればデジタルエンゲージメントを実現できるのか、営業やサービスセンターが顧客とコミュニケーションするときにどんな情報を提供すべきか。ライフサイクルのどの段階に顧客はいて、マーケティング担当者が実施するキャンペーン情報をどう顧客に届けるか。
すべてのインタラクションとすべてのエクスペリエンスの最前線でデータによる意思決定を推進することが、私たちの役割です(シンガリ氏)
ベライゾン・ビジネス・グループ内のマーケティング部門の約50%がマーケティング・サイエンスを担当し、アフージャ氏をはじめとするデータサイエンティストたちは、200以上のAIモデルを作成し、常に顧客データを分析して約8,000万のデータを所持しているという。この膨大なデータによって、顧客がライフサイクルのどの段階にいて、どう対応すれば良いのかをあらゆる場面で把握できるという。
残りの50%はマーケターで、ダイナミックコンテンツの画像やメッセージを作ったりと、主に制作を担当しており、シンガリ氏によると、特にメールを重視しているそうだ。さらに、デジタルジャーニーを既存顧客だけではなく、新規顧客や見込み客にも活用するにはどうすべきかを考えているという。
消費者のライフスタイルの変化はBtoBもBtoCも同じ
シンガリ氏は、BtoCの世界は特に消費者のライフスタイルが変化していると言われているが、BtoBにもその変化が起きていると指摘する。
特にアメリカでは、従来の小売業や他のチャネルがコロナウイルスによってダウンし、BtoB取引でもデジタルの必要性が加速した。デジタル化を進める上では3つのポイントがあるという。
- モバイルを中心としたブランド体験を迅速に実現すること
- 常に消費者と繋がるシステムを構築し、優れた体験を提供する
- ジャストインタイムデリバリーを実現し、購入サイクルを短くする
リアルタイムCDPで約12億の顧客属性データを活用
続いて、アフージャ氏が自身の仕事について語った。アフージャ氏はマーケティング・テクノロジー・プラットフォームの戦略・実装、プラットフォーム・マネジメントなどを行っている。最近はあらゆるデータを顧客プロファイルに変換し、リアルタイムで更新できる、顧客体験の管理に特化した「Adobe Experience Platform」を基盤としたB2BとB2Cを問わず、マーケターがあらゆるデータポイントから顧客データを収集、標準化し、さまざまな施策に活用できる統合顧客プロファイルを構築する「Adobe Real-Time Customer Data Platform(CDP)」を導入し、顧客データプラットフォームを構築。約12億もの顧客属性データを所有している。
膨大なデータを所有しているベライゾン・ビジネス・グループだが、多くのデータをさまざまなチャネルでやり取りするために、もちろん課題もあったという。
まず、チャネルのサイロ化という古典的な課題があった。オンラインデータとオフラインデータが入り乱れていた。オフラインデータでも20~30のシステムの中にデータがある状態だった。これらのデータをできるだけ早く、拡張性のある形でまとめるのが大変だった。 また、優先順位の課題もあった。既存顧客から焦点を当てて体験を改善、そこから新規顧客へと焦点を当ててデータをパーソナライズしていった(アフージャ氏)
特に、既存顧客から体験を改善していくのが重要だと語る。
Adobe Experience PlatformやAdobe Real-Time CDPなどの新しい技術を導入するには、組織にとって大きな投資となる。そのため、ビッグバン的なアプローチを試みるのではなく、できるだけ早く結果を出す必要がある。そこで、既存の顧客のデータを活用し、CDPを活用すればどんな価値が得られるかを組織にアピールしてさらに予算を獲得。そこから取り組みを拡大していったという。
現在アフージャ氏は新規顧客へのアプローチを始めているが、特に気をつけているのはデータプライバシーだ。メールアドレスやその他の個人情報は規制を考慮し、顧客に同意を得てデータを活用しなければならない。プライバシーに配慮しているとアピールすることも非常に重要だと語った。
また、アフージャ氏はAdobe Experience Platform を軸に、広告・販売・マーケター間のノーススター(目指すべき)アーキテクチャを開発するアプローチを提唱。Adobe Real-Time CDPのほか、Adobe Experience Platformを軸にAdobe Analytics の機能を拡張した「Adobe Customer Journey Analytics」や、一人ひとりのカスタマージャーニーを最適化する「Adobe Journey Optimizer」を使用し、カスタマージャーニーの改善と異なるデータセットを利用した、単一のプロファイルに統合を実現したという。
さらに、ベライゾン・ビジネスの傾向モデルを使用したデータドリブンなアップセルキャンペーンの実施や、eメールのパーソナライゼーションの提供、カート放棄をした人のナーチャリングキャンペーンなどを実施。それらと並行して、パーソナライズされた体験を大規模に提供できるようアーキテクチャの改善も行ってきたという。
その結果、売上CVが50%以上向上、売上CVRも15%改善した。さらに、LP作成に2~3か月かかっていた時間も、1~3時間に短縮し、市場投入までのスピードを86%向上させたそうだ。
マーケティング組織に求められているのは人材育成とテクノロジーへの適合
アフージャ氏は、現在のマーケティングはコンテンツやクリエイティブを中心としたものから、データサイエンス、テクノロジー、CXへとシフトしていると語る。それに合わせて求められる人材も変わっている。アフージャ氏も実際にテクノロジーに対するスキルを重視してチームを編成しているが、テクノロジーに関するスキルに加えて重要なのはビジネスを深く理解し、イノベーションを行っていける人材だという。
膨大なデータをリアルタイムにマーケティングに活用していくには、テクノロジーに関する知識に加えて、顧客のコンテキストを理解する必要がある。テクノロジー技術だけに傾倒し、顧客をないがしろにしていては、ビジネスは立ち行かない。
また、アフージャ氏は新たな技術を導入するためのワークフローを作成し、どんな新しい技術やシステムでも効果的に導入できるような設計を作り、プロセスも改善し続けており、人材育成とテクノロジーの両面からアプローチしているそうだ。
これからのマーケティングのトレンドは?
次のテーマはこれからのマーケティングのトレンドについてだ。アフージャ氏は今後5年間に次の3つの変化があるのではないかと語る。
- Web3.0(特にメタバース)
リーダーシップをとって新しいコンテンツを作成していくことが大事 - デジタルファーストやデジタルオンリー
デジタル化は進んでいるが、今までのように営業やアシスタントセールスの仕事はまだまだある。どうやってデータを活用して顧客と結びつけるか、営業チームの収益を向上させていくかが大事 - ガイドセリング
今までは経験や勘で営業を行っていたが、データやインサイトなどのガイドを使いながらセールスを行うことが大事
特に、ガイドセリングについては簡素化が大事だという。たとえば、セールスやプロダクトは複雑なものが多く、営業は混乱しやすい。営業が混乱して何を売り込めば良いか、何を提供していいかわからない状態だと、顧客もプロダクトや製品の良さがわからない。社内のエクスペリエンスも向上させ、ベストプラクティスをみんなが使えるようになることが重要だと、アフージャ氏は語った。
続いて、シンガリ氏もこれからのマーケティングを考えると、目指すべきものは次の3つだと語った。
- 一人ひとりの顧客にパーソナライズされた体験を提供することで、3年から5年先の収益の伸長させるビローザラインマーケティング
- 顧客をもっと理解し、リアルタイムで購入の意思決定を促せるようにする
- 顧客だけでなく、内部の担当者にとってもシンプルな体験を提供する
マーケターができること・大事なことは? 潮流を読み、革新していくマインド
最後に、マーケターへのアドバイスを求められると、シンガリ氏は次の3つのポイントを語った。
- 顧客を知り、ニーズを予測すること
- 技術を革新し続けること
- 顧客のエクスペリエンスをすべての接点の最後まで理解すること
いろんなポイントの顧客接点で、エンドまで観測してどんな体験につながっているかを把握することが大事だ(シンガリ氏)
一方、アフージャ氏はマーケターはデジタルファーストやテクノロジーの進化、プライバシー規制などを受け入れて、体験を構築していく転換点を迎えていると語る。これまでマーケターの仕事の中心だったクリエイティブやコンテンツ制作、ブランディングからデジタルなスキルが求められる仕事へと役割が変化していっているため、焦点を絞って再構築する必要があるという。
時代の変化に適応するために、マーケターは大胆にリスクをとって革新していくマインドセットと、テクノロジー・パートナーシップを大事にして欲しいと、アフージャ氏は言う。特にテクノロジー・パートナーシップは互いに学ぶことでイノベーションを進め、双方の成長を促す投資になるという。
トライ&エラーではなく、データをもとにテスト&ランを推奨する(アフージャ氏)
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業Webサイトとマーケティングの実践情報サイト - SEO・アクセス解析・SNS・UX・CMSなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:「CXにおけるデータ活用のポイント」と「これからのマーケターに求められるマインドセット」
Copyright (C) IMPRESS CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.