みなさん、こんにちは。村石怜菜です。
デジタル化が進む現代では、単なる「店舗」ではなく、顧客が商品・サービスを直接体験することでブランドを感じる「体験型店舗」が注目されています。特に金融業界では従来の「銀行に行く」という行動が希薄化するなか、従来の銀行とは異なる新しい体験を提供し、顧客との接点を深める取り組みが進んでいます。
2024年5月に、三井住友銀行とカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が共同で渋谷に開設した「Olive LOUNGE(オリーブラウンジ) 渋谷店」は、その代表的な存在です。今回のコラムでは、Olive LOUNGE 渋谷店を体験して感じたことと、8月末に改装開業したIKEA渋谷を含め、体験型店舗がどのように広がっているかを考察します。
Olive LOUNGE 渋谷店で、新しい銀行体験!
「え? 渋谷の西武に銀行があったっけ?」―― この新形態の店舗開業のニュースを見たとき、私が最初に感じたことです。大学生時代には、あえて渋谷経由の定期券を購入して、明治通り沿いの店舗でアルバイトをし、社会人になってからも8年ほど渋谷で働いていた私でさえ記憶にないことが驚きでした。
インターネットバンキングやスマートフォンで簡単に資産管理や金融手続きができる今の若者世代にとって、銀行の存在を意識する機会はますます少なくなっているのではないでしょうか。Olive LOUNGE 渋谷店は、従来の銀行のイメージを一新する場所です。
日常生活の一部としての「場」を提供
西武渋谷店の一角に位置し、スターバックスやコワーキングスペースといった日常のライフスタイルに関わる店舗と、銀行サービスが融合しています。私が日曜日の正午に訪れた際には、1階のスターバックスには10〜20代の若者や外国人観光客が多く、彼らは銀行であることを意識せずにリラックスした時間を楽しんでいました。この場所が銀行だと知らないで利用している人も多いのではないか、と感じました。
ATMコーナーは一般的な銀行の無機質な雰囲気とは異なり、温かみのあるデザインが施されていました。普段はキャッシュレス生活をしている私ですが、緊急時用に持ち歩いている現金が少ないことを思い出し、ここでお金を引き出しました。
Olive LOUNGEでは、友人とリラックスして会話を楽しむ若者や、一人で勉強や作業をしている姿が見られました。銀行が「金融手続きのために行く場所」から「日常生活のなかで自然に過ごす場所」へと変化していることを強く実感しました。銀行業務だけでなく、日常生活の一部としての「場」を提供するこの店舗は、若年層と銀行の距離を縮める効果があると感じました。
お目当ての「Oliver's Place」へ
私がOlive LOUNGE 渋谷店を訪れた一番の目的は、三井住友銀行の「Olive」サービスを使っているOliverユーザー(とその同伴者)のみが利用できるラウンジ「Oliver's Place」に行くことでした。いよいよ、そのお目当ての「Oliver's Place」に入ります。
Oliver's Placeには4〜5室の会議室やソファ席があり、元貸金庫をリノベーションしたスペースもあります。元貸金庫には銀行の施設とは思えない独特な雰囲気が漂っていて、映画のスクリーンのなかに入ったかのような非日常的な感覚を味わいました。Oliveユーザーの同伴者も利用できるためか、特に若者の利用が目立ち、カップルや友人どうし、勉強目的の学生も見受けられました。
新しい体験型店舗がブランドロイヤリティを高める!
金融業界が他業種とコラボレーションする理由は、主に若者層の獲得を狙っていると考えられます。若者にとって、銀行はネットバンキングで事足りる存在であり、わざわざ店舗に足を運ぶ理由は少なくなっています。現在は、複数の口座をもつのが一般的で、ネット銀行の利用も増えています。
そうしたなか、スターバックスのような日常的に利用する場所と銀行が融合することで、銀行に行く行為が自然なものとなり、ATM利用やその他のサービスを利用する機会が増えることになります。
来店者数は、ATM利用者2,000人、スターバックス利用者2,000人、TSUTAYAのコワーキングスペース「SHARE LOUNGE」利用者200人の計4,200人/日、年間153万人*と予想されています。デジタルマーケティングの用語で表現すれば、銀行という店舗の「インプレッション数」や「ユニークユーザー」が増加し、結果的にロイヤリティ向上や口座開設数の増加、コンバージョンレートの向上が期待されます。
*引用元:日経クロストレンド「三井住友銀、異例の店舗戦略 あえて「Olive LOUNGE」開業のワケ(https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/02461/)」
また、金融セミナーやトークイベントを開催できるイベントスペースも設置され、顧客が銀行を訪れる動機を多様化させている点も注目に値します。銀行業務のためだけでなく、生活の一部としての場所を提供することで、顧客との接点を増やし、ブランドロイヤリティを高める戦略が進んでいます。
IKEA渋谷での体験:インタラクティブなショッピングの未来!
Olive LOUNGE 渋谷店を訪れる前に、IKEA渋谷にも足を運びました。IKEA渋谷は、2024年8月27日に改装。店舗は渋谷の中心地にあり、若者が多く行き交う渋谷センター街と井の頭通りに挟まれた場所に位置しているため、都市型店舗として若年層に向けたアプローチを強化しています。
IKEAはEC(電子商取引)への誘客を重視しており、この渋谷店はその意図を反映しています。実際に、都市型店舗の開業後、来店客とオンライン販売の両方で売上が伸びており、「都市型店舗の開業後、EC化のスピードが早まった」と日本経済新聞の記事「IKEA、渋谷店をデジタル改装 都市型ビジネスの実験店」に記載*されています。同記事によると、2022年8月期のEC比率は15%でしたが、今では20%にまで増加し、IKEA渋谷がEC誘客において重要な役割を果たしています。
*引用元:日本経済新聞「IKEA、渋谷店をデジタル改装 都市型ビジネスの実験店(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC238HR0T20C24A8000000/)」
IKEA渋谷には「インタラクティブルームデザイン」という巨大な湾曲サイネージが導入され、タブレットを使って仮想的に部屋をデザインするシステムが搭載されています。選んだ家具やインテリア商品をサイネージで確認し、そのままECサイトで購入できる仕組みが提供されており、来店者は商品を確認しながらオンラインで購入手続きができます。
また、商品をスキャンして簡単に決済できるサービス「IKEA Scan & Pay」が導入されており、これを利用している買い物客も見受けられました。このように、店舗とオンライン購買をスムーズにつなぐ仕組みが提供されている点が、IKEA渋谷の大きな特徴です。
見直されてきている「店舗のあり方」と「体験設計」
Olive LOUNGE 渋谷店やIKEA渋谷といった店舗が人々を引きつける理由は、単に商品やサービスを提供するだけでなく、ライフスタイルや文化に溶け込んだ空間を提供している点にあります。特に若者のライフスタイルに合わせた柔軟なサービスや、デジタル技術を活用したインタラクティブな体験が、彼らを引きつける要因となっているのではないでしょうか。
体験型店舗は、金融業界やリテール業界を問わず、顧客との新しい接点を提供しています。2020年に日本に上陸した体験型店舗「b8ta(ベータ) Tokyo」も含め、これらの店舗は「商品を買う」だけでなく、「ブランドやサービスを体験する」ことを重視しています。
渋谷には、コスメブランド「KATE(ケイト)」の旗艦店や、西武渋谷店のOMO(Online Merges with Offline)型店舗「CHOOSEBASE(チューズベース) SHIBUYA」、そして「b8ta Tokyo」など、体験型店舗が集まっています。渋谷全体が、体験型店舗の集積地として発展を続けているのです。
今後、体験型店舗は顧客との長期的な関係を築き、ブランドの世界観を実感させる場としてさらに進化するでしょう。Olive LOUNGE 渋谷店のような体験型店舗は、若者を中心に新しいユーザー体験を提供し、銀行という伝統的なサービスに新たな価値を加えています。また、IKEA渋谷のように、インタラクティブなデジタル技術を活用して、顧客に新しい購買体験を提供するリテール業界の取り組みも見逃せません。
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オリジナル記事:「Olive LOUNGE 渋谷店」「IKEA渋谷」で感じた、見直されるリアル店舗のあり方と体験設計! | [マーケターコラム] Half Empty? Half Full?
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