「SEOとGAなら会社で一番詳しい人になる!」イラストレーターからWebのスペシャリストに転身 | 森田雄&林真理子が聴く「Web系キャリア探訪」

自己紹介
yu-ta(ゆーた)26歳、会社員 PC.スマホ周辺機器やスマート家電など ガジェットを使って スマートな生活を送っています。 このサイトでは管理人おすすめの 最新の便利ガジェット情報や お得に買えるセール情報を中心に 発信しております。
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「サントリーの社員は、エネルギッシュな人ばかり。だから私も負けないよう“昨日より今日、今日より明日”と少しでも成長して、サントリーのすばらしさを伝える伝道師になりたいですね」

こう話すのは、サントリーシステムテクノロジーの石川けい氏だ。新卒で鉄鋼メーカーに入社したものの、学生時代から願っていた絵を描く仕事への想いが断ち切れず脱サラ。しかしイラストでの収入では生活が厳しく、たまたまWebデザイナーを募集していたことから現職にアルバイト入社した。

最初は依頼された仕事をこなすだけだったが、いつしか「サントリーのビール(ザ・プレミアム・モルツ)の美味しさをインターネットを通じて届けたい」という思いが仕事をするうえでの核となった。アルバイト入社から正社員となり、現在はWebサイトの全体統括をするまでになった石川氏に、これまでのキャリアを伺った。

Webが一般に普及してすでに20年以上が経つが、未だにWeb業界のキャリアモデル、組織的な人材育成方式は確立していない。組織の枠を越えてロールモデルを発見し、人材育成の方式を学べたら、という思いから本連載の企画がスタートした。連載では、Web業界で働くさまざまな人にスポットをあて、そのキャリアや組織の人材育成について話を聞いていく。
インタビュアーは、Webデザイン黎明期から業界をよく知るIA/UXデザイナーの森田雄氏と、クリエイティブ職の人材育成に長く携わるトレーニングディレクター/キャリアカウンセラーの林真理子氏。

鉄鋼メーカーに入社するも、絵を描く仕事を目指すことに

サントリーシステムテクノロジー株式会社
デジタルサービス部 スペシャリスト
石川けい氏

林: まず、Webに触れたきっかけから教えてください。

石川: 新卒で大手鉄鋼メーカーに入社し、原料の輸入や工場の需給を担当していたところ、インターネットを業務に導入する社内プロジェクトが発足し、メンバーの1人となりました。私がいた部署は、外国と電話やFAXでやり取りすることが多かったのですが、そうした業務をインターネットを導入することで効率化するという目的のプロジェクトでした。Windows95が発売される前のことで、私はもちろんのこと、世の中のほとんどの人がインターネットについてよくわかっていなかった時代です。

林: 鉄鋼メーカーに入社した経緯というのは?

石川: 正直なことを言えば、バブル最盛期になんとなく大手へ入社しました。でも、実は幼い頃からマンガ家になるのが夢だったんです。中学3年のときに描いたマンガが雑誌に入賞して、担当編集者がつきました。高校時代は部活もせずに3年間頑張って、2か月に1本は漫画を描いていましたが、なかなかデビューできず……。

林: 中学時代に入賞! 担当編集者がつくほど、本格的に取り組んでいらしたのですね!

石川: 大学時代は、マンガからはいったん距離を置き、「日本女子大学相撲研究会」というサークルに入り、お相撲さんの応援に熱中していました。しかし社会人になってからも「絵を描く仕事がしたい」という夢をあきらめきれず、会社勤めをしながら、夜間のデザイン専門学校に通うようになりました。

森田: 「絵を描く仕事」という夢は実現したのですか?

石川: はい。昼間は会社で働きながら、新聞小説の挿絵や小学生向けの本の挿絵などの仕事をしていました。友人を通しての紹介で、ラッキーにも仕事をもらえたんです。ただ新聞小説の挿絵は毎日が〆切なので苦労も多く、イラストの仕事に集中するために、会社を退職しました。

イラストだけでは食えず、アルバイトでWebデザイナーに転身

森田: イラストレーターとして独立したのですね?

石川: そうなんですが、月の報酬は15万円程度で。最初は退職金を切り崩して暮らしていましたが、底をついてきたので、アルバイトを始めることに。1996年に、サントリーシステムテクノロジーの前身であるサンモアテックに、Webデザイナーとしてアルバイトで入社しました。Webデザインの経験は皆無でしたが、Macでイラストを描けることで採用されたようです。

森田雄氏(聞き手)

林: ここから本格的にWebに携わるようになるんですね。90年代後半だと、何もないところからWebサイトを新規に立ち上げていくフェーズですよね。サントリーさんだと事業領域も幅広く、サイトの数も1つ2つでは済まないですよね。石川さんは実際、どの範囲を担当していたのですか?

石川: 当時は、デザインだけでなくコーディングやディレクションなど、何でもやっていました。最初は言われた通りのものを仕上げるのに精一杯で、こちらから提案するようなことはありませんでした。ただ、だんだん「このWebサイトの存在価値はなんだろう?」と思うようになったんです。サイトオーナー自身もサイトの目的をわかっていない。担当者の好みでデザインが変更されることもしばしば。このように目的や目標の不明瞭なサイトを作る仕事に対して、違和感を抱くようになりました。そんなとき、飲食店様向けの営業担当をしていた方が、Webマスターの部署に異動してきました。その方から、樽生達人のセミナーを受講し、本当においしいザ・プレミアム・モルツの味を教えてもらいました。それは私にとって、まるで稲妻が走ったかのような衝撃的な出来事でした。「モルツの真の美味しさを多くの人に知ってもらいたい、それにはどうしたら良いのだ?!」と強く思うようになったんです。それ以降、言われた通りのサイトを作るのではなく、サントリーの商品の魅力をきちんと伝えていくには、どうすればよいかを考えるようになりました。

林: その方との出会いが転機になったんですね。

石川: はい。その方に出会っていなければ、今頃は転職していたかもしれません。また同じ頃に、Google アナリティクスの前身である「Urchin(アーチン)」を使ってアクセス解析にも取り組むようになりました。UrchinがGoogle アナリティクスに統合されて以降はツールの精度が上がり、どんな人がやってきて、どうサイト内を回遊しているのかがわかるようになり、ますます解析のおもしろさにのめり込んでいきます。

森田: アルバイトとして入社していますが、いつのタイミングで正社員になったのですか?

石川: 2007年くらいですかね。結構遅いです。会社がアルバイトの制度をやめることになったタイミングで正社員となりました。気がつけばアルバイトの私が一番社歴が長く、周囲もやりづらかったのかもしれません(笑)。

相撲部屋のWebサイトを運用、身銭を切って広告出稿したことも

林: 現在は、サントリーさんが運営するWebサイトに、どのような役割で関わっていらっしゃるんですか。

石川: 最近は制作・運用を専任エンジニアに任せて、私はプロジェクトマネージャーをしています。ガイドラインの整備、制作会社の成果物チェック、個別サイトの改善コンサルティングを行っています。サントリーは商品以外に、文化・スポーツ、レシピなどたくさんのサイトがあり、それぞれ担当者がいます。担当者は制作会社と自由にコンテンツを作っているので、私が全てのサイトを把握し尽くすことはできません。もしも企画立案の段階で相談があれば、たとえ怪しげなSEO業者から提案を受けても、ブロックできるのですが、すり抜けて途中で気がつくことも……。そんなときは進行中でも、中断してもらいます。だから社内で嫌われることも多いですね。

林: 最後の砦として、大事な役割とも言えますね。

石川: 私の発言に説得力を持たせるためにも、2年前からGoogleの「プロダクト エキスパート プログラム」に参加するようになり、現在はプラチナランクのステータスです。Google から認定された資格を名刺にも記載しており、これが怪しいSEO業者の提案を撃退する水戸黄門の印籠のような役目を果たしてくれれば良いのですが(笑)。

林真理子氏(聞き手)

森田: 広告は担当していないのですか?

石川: 広告担当は宣伝部なので、私は関わっていません。個人活動では、リスティング広告を運用したことがあります。ボランティアで、相撲部屋のWebサイトを10年以上運用してきました。そこで、身銭を切ってWeb広告に出稿したことがあります。自分のお金だと思うと、キーワードの選定やランディングページの構成にも慎重になります。他にも表示速度改善やAMPの実装、構造化データの実装などを実験しながら運用し、成果が出れば、サントリーのサイトに活かすこともありました。

森田: どういう経緯で相撲部屋のWebサイトを任されたのですか?

石川: 相撲研究会のサークルの先輩が、相撲部屋のおかみさんになったんです。そのご縁で、やらせていただきました。あるとき、おかみさんから「所属力士がケガをしてしまって、弟子が足りない。これでは稽古ができなくて相撲部屋の危機だ」というお悩みの相談を受けました。そこで、私はまずは部屋のサイトに新弟子募集のランディングページ(LP)と応募フォームを作り、リスティング広告を出稿したところ、なんとすぐにコンバージョン。新弟子に入門してもらうことに成功しました! LPのペルソナは中学生男子のお母さんに設定しました。お母さんは我が子を相撲部屋に入門させることに不安を感じて、引き止めたくなるかもしれません。そんなお母さんの不安を受け止めるため、「親方とおかみさんが、愛情を持って弟子を育てていくから安心してほしい」ということをLPのメインメッセージで伝えたんです。これが功を奏しました。個人活動でのコンバージョン成功体験は、仕事での自信にもつながります。

森田: そのサイトは今も運営しているのですか?

石川: 親方が定年になり、相撲部屋は一旦閉じることになりましたが、ドメインは保持しています。今後、後継者がいればWebサイトの運用をまたお手伝いしたいなと考えています。

SEOとアナリティクスなら会社で一番知っている人になる!

林: 管理職と専門職に大別するなら、石川さんのキャリアは専門職志向で舵をとってこられたようにお見受けしますが、上司との面談の場などでそうしたキャリア選択の意思表示はしてこられたのでしょうか。

石川: 自分の意思でキャリアを考え始めたのは、ごく最近のことです。26年間勤めてきて、やっと方向性が見えてきました。いつの間にかマンガ家の夢は忘れていました。Webデザイナーとしても、あとから入社してきたセンスある若いWebデザイナーにはかなわないと思い、引退しました。私は、絵もWebデザインも突き抜けられず、会社員としてはマネージャーの方向も向いていないと感じています。今はスペシャリストとして、SEOとアナリティクスなら会社で一番詳しくなろうと思っています。その根底には、やはり「ザ・プレミアム・モルツの美味しさをインターネットを通じて伝えたい」という思いがあるからです。

森田: では最後に、今後の展望を教えてください。

石川: 会社にも「3年後・5年後・10年後どうしていきたいか?」と面談で聞かれますが、難しい質問で、なかなか答えられません。周囲のサントリー社員はエネルギッシュでヒューマンスキルが高い人が多いのです。ボンヤリしていたら、フレッシュマンにもあっという間に抜かされてしまいます。だから私も負けないよう、“昨日より今日、今日より明日”と少しでも成長して、サントリーのすばらしさを伝える伝道師になりたいですね!

本取材はオンラインにて実施

二人の帰り道

優秀なフレッシュマンが入ってくる、自分は気が小さいのでビクビクしているし、人がいないほうに逃げているんだと笑ってお話しされる中にも、深い自己洞察に基づく聡明なキャリア戦略、それを実現するオーナーシップや胆力がうかがえました。ビクビクして縮こまってしまうのではなく、そこで自分をどう生かしていくと、自分も楽しくやりがいがあって、会社や社会にも貢献できるのかを、肯定的かつ冷静に見極めて舵を取っている。それを具現化すべく慢心せずに学習しつづけ、組織や市場変化も力まず受け入れながら、自分の役割や専門性を拡張し続けてこられた。「昨日より今日、今日より明日」と自分になじむ方針を大事にしながらも、「~の伝道師に」や「~を会社で一番知っている人に」と中長期で自身が果たしたい役割を併せもっている。そう周囲に認知され、信頼を得て相談をもらえるよう、日々の学習・実験・実践にとどまらず、得られた成果や知見を発信していく活動も怠りなく。ご自身で好循環を生み出していくマネジメントを包括的に、自然体でやっておられる姿が、実に魅力的でした。

森田

アルバイト入社のまま10年くらいも社歴を重ねてからの正社員で、さらにそこからもう15年も働いていらっしゃいます。最初はデザインからコーディングまで色々やるWebデザイナー、そのあとはWebマスター、そして今ではGoogleプロダクトエキスパートプログラムのプラチナランクを持つWeb担当者と、時流に合わせてかろやかに転身されているなと感じました。モルツの真の美味しさを知り、サントリーの商品のすばらしさを広める伝道師になりたい、そのためにはどうしたら良いのだ?と思ったというエピソードも良いですよね。なんというか、サントリーで働くことをとても楽しんでるなって感じました。そういう職場に出会えて、ずっとエネルギーをもってやることに向き合えるのって、なんというか羨ましいなというか。中長期の先よりもまずは今日よりちょっとでも良い明日の積み重ねですと、きっぱりと言えちゃうのも、大前提として良い環境に身を置いてらっしゃるからこそだなと思いました。働く場所の選び方、あるいは出会い方って、すごく大事だなと改めて感じた今回の取材でした。

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