サイバーエージェントは、日本国内における主要メディアの運用型広告で圧倒的な成果を上げている。なぜ、サイバーエージェントの運用型広告は各メディアで結果を出せるのか。
Microsoft 広告が日本でローンチして2年以上が経過し、日本で初となる代理店を表彰するアワード「Microsoft 広告 Agency Award 2024」が2024年6月に開催され、総合売上部門、オーディエンス広告部門の1位となる「Platinum」を受賞したのはサイバーエージェントだ。
Microsoft 広告だけでなく、Google 広告、Yahoo!広告、Meta広告などさまざまな運用型広告でも成果を上げている同社。受賞を記念して、日本マイクロソフトの有園雄一氏とサイバーエージェントのインターネット広告事業の統括である蜷川親将氏、Microsoft 広告を担当するコンサルタントの原拓未氏に成果を出せる秘訣などを聞いた。
サイバーエージェントの広告運用の強みに迫る
まず、広告運用の強みを聞く前に、Microsoft 広告で初めてとなる代理店のアワードを開催した理由について、日本マイクロソフトの有園氏に聞いた。
Microsoft 広告を含め、運用型広告を出稿する企業のほとんどが、代理店のサポートを受けています。メディアだけでは運用型広告は成り立たないため、クライアントと関係を構築し、運用を行っている代理店に感謝の気持ちを込めて開催しました(有園氏)
総合売上部門でトップとなったのがサイバーエージェントだ。サイバーエージェントは、Microsoft 広告はもちろん、国内の主要メディアでもトップの実績を誇る。サイバーエージェントの運用型広告は、なぜこんなに強いのだろうか。
サイバーエージェントの運用型広告事業の統括である蜷川氏は、「世界で一番、広告効果を出すことを目指しています。経営層トップも含めて、投資対効果が最も優れた集団であることを追求しています」と話す。
サイバーエージェントの強みについて次の4点から蜷川氏に語ってもらった。
- アルゴリズムの理解
- オペレーション力
- 技術力
- コンサルタント集団
アルゴリズムの理解 メディアごとのアルゴリズムを徹底研究
広告配信に使われる各種アルゴリズムは、メディアによって異なるため、それぞれを理解することに力を入れている。
アルゴリズムを理解するリーダーを、メディアごとに配置しています。Microsoft 広告であれば原が担当しています(蜷川氏)
一人がすべてのメディアを理解しようとすると、理解の差によって注力するメディアが偏ったり、軽視してしまうメディアが出てきたりするため、組織として全メディアを理解できる仕組みを整えている。
アルゴリズムの理解においては、社内に専門組織「アルゴリズム研究センター」があり、各メディアの検証などを行っている。その検証結果を持った上で、メディアの仕様について直接メディアに確認する。時には、アメリカの開発者に直接質問する場合もあるという。
アルゴリズムが重要なのは、アルゴリズムによって配信される広告が大きく変わるからだ。たとえば、キャンペーンで広告AとBを用意したときに、あるメディアでは配信効果の高いAに配信を増やすが、別のメディアでは均質に配信し続けることがある。均質に配信し続けるなら、効果の低い広告は削除したり、差し替えたりする必要がある。
アルゴリズムは常に変化するので、一つずつ検証して、効果を確認する。その検証結果が正しいのかメディア側にも確認する。この繰り返しで各メディアのアルゴリズム理解を深めていきます(蜷川氏)
有園氏は、サイバーエージェントの担当者から細かい仕様を聞かれて驚くことがあるという。たとえば、広告の品質を評価するクオリティスコアは、競合とのオークションや掲載順位にも影響するが、同じクリエイティブでもアルゴリズムやユーザー層によってメディアごとにスコアが異なる。
ここまで細かなレベルで質問するのは、サイバーエージェントくらい。しかも、サイバーエージェントは、現場担当者だけでなく、役員もアルゴリズムへの理解力が高いと感じています(有園氏)
本気で広告効果を最大化しようとするなら、メディアの仕様を確認するのは当然のことです。役員も関心が高いので、経営会議でアルゴリズムの情報共有をしています(蜷川氏)
オペレーション力 海外も含めた多拠点で700人の専門人材がオペレーション業務をバックアップ
広告運用のオペレーション業務を担当するのは、サイバーエージェント100%子会社のシーエー・アドバンスである。シーエー・アドバンスは、ベトナム、グアム、沖縄、仙台、京都、札幌など各地に拠点があり、約700人が従事している。
オペレーション業務は主に、広告の入稿作業とレポーティングだ。広告クリエイティブの8割は、内製で作成しており、その数は3ヶ月で約10万件にのぼり、レポーティングも月に数10万本以上作成している。
サイバーエージェントでは業務の効率化を図るために、2020年から独自開発でAIを活用した「極予測AI」シリーズを導入している。クリエイティブ制作の他、広告コピーやLPなど、広告運用にかかわるさまざまな業務効率化と成果向上にAIを役立てている。AI活用と現場の効率化、ノウハウの蓄積によって、大量の運用であっても、ミスなく成果が出せる体制が構築されているという。
技術力 生成AIを取り入れることで、生産性が27倍向上
月数万単位の広告クリエイティブの制作を支えているのが、2020年から本格運用を開始している生成AIの「極予測AI」である。
3ヶ月で制作する10万のクリエイティブのうち、9割を極予測AIが作成している。これにより制作できる量が4.5倍になった。
バナーを個人の好き嫌いではなく、広告効果の予測スコアを見て判断できるので、制作効率を上げることができますし、地方の拠点でも作成できます。制作コストはAI活用以前と比較すると、およそ1/3まで下がりました(蜷川氏)
AIを活用したクリエイティブ制作では、新人でも効果の高いクリエイティブを作成できる。経験や知識のあるベテランよりもパフォーマンスが高いことも多い。
なお、極予測AIのクリエイティブは、効率化だけでなくパフォーマンスも高い。同社では、過去のクリエイティブよりも上回る成果を出すことを「当たり」と表現しているが、当たり率が2倍に向上した。
つまり、4.5倍制作件数が増加し、2倍当たるようになっているので9倍効率があがっている。さらに制作コストが1/3まで下がっていることから、生産性が27倍になっていると算出している。
サイバーエージェントは、Thundermark Capital が毎年公表する、「AI Research Ranking 2022」において、日本4位、世界49位にランクインしている。同社はAI研究のリーディングカンパニーでもあるのだ。
コンサルタント集団 顧客と向き合うコンサルタント。優秀なコンサルタントの条件とは?
運用コンサルタントは約300人いる。主要メディアごとに担当者がいて、顧客との折衝、説明、方針策定、検証などを行う。
コンサルタントの仕事は、お客様の目標達成に向けて、施策を提案し、実行、分析して、次の戦略を立てていくことです。
仮に、お客様が3,000万円の予算で、1,500件の注文を受注するという目標があったとしましょう。現状のままでは、1,000件までしか到達しない見込みなので、ギャップの500件を獲得するための施策を実施し、目標を達成するのがコンサルタントの仕事です。
広告のクリエイティブを変えてもいいし、ターゲティングを変えてもいい。出稿するキーワードを見直してLPを作り変えてもいい。インプレッション数、クリック率、コンバージョン数の改善を積み重ねて、目標が達成できるよう軌道修正していきます(原氏)
コンサルタントの施策設計では、AIを活用することもあるが、最終判断はコンサルタント自身だという。
広告予算配分については、AIが推奨値を算出するのでそれを利用することもあります。分析に関しては、今後AIを活用していく予定です。AI活用が進む一方で、施策自体は過去の実績などを踏まえてコンサルタントが決めています。コンサルタントは、目標達成請負人として、責任を持って戦略設計をしています(蜷川氏)
なお、優秀なコンサルタントの条件として、原氏は次のように話す。
アルゴリズムを研究しているチームからのインプットをしっかり理解し、それを施策にアジャストして出せることです。単に“クリックされないから広告を変えよう”ではなく、この広告のクリック率が低いのは、インプットされている仮説Aではなく、仮説Bが影響しているのではないかと考え、論理的に施策の取捨選択ができる人は、優秀だと思います。加えて、課題に対して仮説に基づいてアクションに落とし込める人は、施策の空振り率が低いです(原氏)
蜷川氏は、優秀なコンサルタントの条件として、顧客の事業成功に対する向き合い方を挙げた。
お客様の事業を成功に導くロードマップをお客様視点で描けることです。時には、お客様が言う目標を見直したほうが、事業成長になるのであれば、それを伝えて一緒に道筋を考えることもあります。知識がオンライン広告だけに偏っていては、そういった視点は持てません。
もう一つ私が期待していることは、検証の結果から成功パターン、失敗パターンを導くことです。トップコンサルタントは、さまざまなデータを通して「この配信をすると、こういう結果が出る」という発見をします。この発見はAIへの学習ピースにもなり得ます。そしてその発見で他のコンサルタント、オペレーターの作業が変わります。若手コンサルタントは、トップコンサルタントが発見したピースをかけ合わせて、施策を考えていくことになります(蜷川氏)
Microsoft 広告の強みは、ビジネスに紐づくユーザー情報
すでにオンライン広告に投資している企業でも、まだMicrosoft 広告には出稿したことがないというケースがある。サイバーエージェントが、Microsoft 広告に注力する理由はなんだろうか。
正直、注力しない理由がありません。ユーザー数も多く、広く消費者にアプローチでき広告効果も高いです。広告出稿されている企業は、以前はBtoB業種が多かったですが、最近は全業種・業態で広告出稿ニーズが広がっています(蜷川氏)
他のメディアのバナー型広告を配信したときに、リーチが広すぎてノイズが多く、パフォーマンスにつながらなかったお客様が、Microsoft 広告を活用することで、成果をあげています。配信面は限られていますが、ユーザーの質が高い配信面に絞って出稿できることが、成果につながっています。
一方で、ユーザーとの相性が合わないお客様はトライしにくい現状がありますが、今後配信ネットワークが拡大したり、ユーザーが増加したりすれば、可能性が広がると思います(原氏)
BtoBの場合、スマートフォンにビジネスの広告が配信されても、業務時間でなければクリックしない傾向がある。Microsoft 広告は、会社のパソコンで調べ物をしている時などに広告の接触機会があるので、タイミングがマッチしているのだ。その他、BtoCであっても、不動産、転職など、人生に関わる重要な決断が必要な広告はマッチしているという。
AIによる進化に期待
サイバーエージェントでは、広告のためのAI活用をさらに進化させる予定だ。広告の発注を受けてから、施策設計、広告配信、レポーティングまで自動化できるように、現在開発を進めている。
自動化がさらに進化すれば、誰でも効率的に広告運用ができるようになります。現在、当社のお客様は広告予算が大きい企業が多いですが、AI化が進めば、全国各地の企業にもご活用いただけるようになるので、裾野が広がります(蜷川氏)
最後に、Microsoft 広告を含め、Microsoftの今後の展望について、有園氏は次のように話した。
Microsoftは、2009年に「ユーザーの意思決定を支援する検索サービス」としてBingをスタートさせましたが、これは検索エンジンだけにとどまらず、AIの研究開発も目的としています。現在、チャット型のAIアシスタントCopilotの利用がPCやモバイルで増加しており、WindowsやMicrosoft 365、Edge、Azureなどのあらゆる製品に組み込まれることで、ネットワークが広がっています。さらに、Microsoft 広告でもCopilotが利用可能です。
日本におけるMicrosoft 広告では、動画広告などの新しいプロダクトの提供を目指しているほか、LinkedIn連携によるユーザーターゲティングといった広告効果を高める機能を拡充しています。また、インターネットに接続されたコネクテッドTV(CTV)との連携も進められており、配信面の拡大が期待されます。グローバルではリテールメディアの強化も進んでおり、Xboxを活用したゲーム内広告も出稿可能です。
Microsoftは、SNS、ゲーム、検索エンジン、リテールメディア、コネクテッドTVなど、多様な配信面を持ち、DSP(Demand-Side Platform)やSSP(Supply Side Platform)も提供しています。さらに、Microsoft アカウントという質と量に優れたファーストパーティデータを有しており、多くの可能性を秘めています(有園氏)
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オリジナル記事:なぜ、サイバーエージェントの広告運用は業界トップなのか? 理由を聞いた | インタビュー
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