みなさん、こんにちは。瀬川義人(@motoy0shi)です。
突然ですが、みなさんはWebサイト制作で「こんなはずじゃなかったのに……」という経験はありませんか?
お恥ずかしい話、私はあります。
かつて自社のWebサイト制作に関わったときのことです。制作のプロジェクトマネージャーとして入ったのですが、始まって早々、別の急ぎ案件が入ってしまい、なかなか時間が捻出できず、プロジェクトが停滞。さらにいざ再開してからも、思わぬトラブルに巻き込まれてしまいます。
結果的には納期が数ヵ月遅延し、工数もかなり超過してしまいました。思い出すと、今でも苦い気持ちになります。
データを調べてみると、Webサイト制作での失敗は意外と多いようです。ナノカラー社の調査によれば、71.7%の回答者がWeb制作会社に依頼して”失敗した”と感じた経験があるそうです。
なぜWebサイト制作は失敗するのでしょうか? リスクを減らし、Webサイト制作プロジェクトを成功させるためには、どうしたらよいのでしょうか?
それを考えるにあたり、今回紹介したいのが、ベント・フリウビヤ/ダン・ガードナー著『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』(サンマーク出版、2024年)です。
『BIG THINGS』は、鉄道敷設やビル建築、オリンピック開催といった巨大プロジェクトを実現した方法を分析した書籍です。同書によれば、予算・工期・便益の3点をクリアするプロジェクトは、全体の0.5%しかないそうです。
本書で取り上げられているプロジェクトの失敗の理由や対策は、まさにWebサイト制作にも通じるところがあります。
そこで今回は、Webサイト制作が思うようにいかない要因と、どうしたらプロジェクトを成功させられるのかについて、『BIG THINGS』を踏まえて考察してみたいと思います。
Webサイト制作がうまくいかない理由
①当初の目的がすり替わってしまうから
Webサイトには必ず制作する理由があり、成し遂げたい目的があるはずです。しかし、いざ制作を始めようとすると、さまざまな思惑が混ざってしまい、徐々に当初の目的からズレてしまうことはよくあります。
『BIG THINGS』では、とある夫婦のキッチンリフォームのエピソードが紹介されています。
ニューヨークに住むある夫婦は、自分たちの住んでいた家のキッチンをリフォームすることにしました。建築士を雇い、綿密に設計を練って工事をはじめました。しかし、いざリフォームを始めてみると、キッチンの床を支える基礎部分に問題があることが分かります。そしてどうせ基礎を直すならと、ついでに床材をすべて張り替えることに。さらには他に気になるところも一緒にリフォームをして行った結果、最終的には予算が4.7倍も超過し、さらに3ヶ月で終わる工事は、1.5年もかかったそうです。
Webサイト制作においても、似たようなことは起こりがちです。たとえば、最初は「Webサイトで集客できるようにしたい」と考えたとします。しかし、話を進めていくにつれて、「せっかく作るのだから、おしゃれなデザインにしよう」とか、「採用も強化したいから採用サイトも一緒につくろう」とか、追加で要望が出てきます。
このように途中で要件を増やしていくと、たいていの場合、スケジュール遅延を招いたり、工程が複雑になるため、思ったような仕上がりにならなかったりするのです。
②常に「ベストケース」を想定してしまうから
Webサイト制作をする際は、WBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)を作成することが多いはずです。しかしながら、多くの場合、WBSで決めたとおりには進みません。なぜなら、WBSはすべてが順調にいったケースを想定しているからです。
実際には、なかなかデザインの方向性が決まらなかったり、技術的な問題で開発が遅れたり、スタッフの体調不良で業務が停滞したりと、予期しないことが起こります。
また、人は作業にかかる時間を実際よりも少なく見積もってしまう傾向があるそうです。『BIG THINGS』では、このように述べられています。
ある実験は、学生に学業やプライベートのさまざまなタスクの所要時間を、信頼度(確度)別に示してもらった。(中略)驚いたことに「99%の確率で」、つまり「ほぼ確実に」終わると宣言した時間で実際にタスクを終わらせた人は、45%に過ぎなかった。
それゆえ当初想定していた工数だけでは足りなくなってしまい、結果としてスケジュールに無理が出るといったことが起こるのです。
③計画を軽視して、実行を始めてしまうから
Webサイトの制作において一番重要なのは、企画の部分です。
何の目的でサイトをつくるのか。サイトを通して何を伝えたいのか。見た人にどのような行動をしてほしいのか。目的が定まるからこそ、デザインや訴求するメッセージが決まってくるのです。
しかしながら、こういった企画の部分は面倒で労力もかかります。むしろ早くデザインにとりかかり、Webサイトの実制作を始めたい衝動に駆られます。その方が「前に進んでいる」感じがあるからです。また社内に報告するときも、形があるほうが説明しやすいでしょう。
しかし、企画や計画を軽視して実作業をはじめてしまうと、必ず歪みが出てきます。歪みを正そうと場当たり的な対応をしていけば、他のところに影響が及んでしまい、またその対応をするという負のループに陥ることは少なくありません。結果として、スケジュールの遅延につながってしまうのです。
Webサイト制作を成功させるための方法
ここまではWebサイト制作が思ったように進まない理由について述べてきました。では、どうしたらWebサイト制作を成功させられるのでしょうか。
適切な予算と時間を確保する
Webサイト制作を成功させるには、適切な予算と時間の確保が不可欠です。依頼側と受注側(制作会社)の双方で予算と時間の現実的な見積もりを行い、それに基づいて計画を立てることが重要です。
Webサイト制作の現場では価格破壊が起きています。ただ作るだけならかなり少額でも可能ですが、思いどおりのものができるかは別です。Webサイトの原価はほとんどが人件費であり、稼働した人数と稼働時間で算出されます。きちんと思いどおりのWebサイトを作るには、それなりの時間と費用がかかるのです。
また、実際に時間やコストを見積もりする際は、基準(アンカー)が重要です。根拠となる基準が正しくなければ、適切な見積もりはできません。
『BIG THINGS』では、見積もりの方法として、「参照クラス予測法」を提唱しています。この方法は、費用や時間をタスクの積み上げとして計算するのではなく、類似となる事例でかかったコストや時間を基準にして計算します。
Webサイト制作に置き換えると、まず同じような規模のWebサイトの事例で、どれくらいコストや時間がかかったのかを把握します。その上で、それらの事例の平均値をとり、リスクなどを加味した現実に即した予算や時間を計算するのです。
経験豊富な人を巻き込んだ良いチームをつくる
Webサイト制作には、多くの専門知識と経験を必要とします。そのため、プロジェクトを成功させるためには、経験豊富な人材を集めた良いチームを作ることが重要です。
では、どうしたら良いチームを作れるでしょうか。一番手っ取り早いのは、経験豊かなチームを抱えている制作会社に発注することです。自分たちの業界や商材に知見があったり、Webサイト制作の実績が多い会社に依頼したりすることで、リスクは大きく減らせるはずです。
また制作の段階では、丸投げにせず、チームとして仕事をすることも重要でしょう。私の経験上、依頼側が主体的にサイト制作に関わり、コミュニケーションをとらないと、トラブルが起こる可能性が非常に高まります。
事業について詳しいのは依頼側、Webサイト制作に詳しいのは制作側です。それぞれが自分たちの詳しい領域の知見を持ち寄り、チームで協力することで、成功確率は高まるはずです。
計画段階で、徹底的に「実験」する
計画段階での「実験」は、Webサイト制作の成功に欠かせません。具体的には、プロトタイプやワイヤーフレームを作成し、それを基にユーザーテストを行うことで、初期段階で問題点を洗い出すことができます。また、デザインや機能の仮説を検証し、必要な修正を行うことで、後々の手戻りを減らすことができます。
『BIG THINGS』でも述べられているように、成功するプロジェクトは計画段階で多くの時間を費やし、さまざまなシナリオをシミュレーションしています。これにより、リスクを事前に把握し、適切な対応策を講じることができます。
サイト制作でデザインやコーディングを始めてしまうと、なかなか逆戻りすることが難しくなります。仮にできたとしても、かなりの工数や時間を無駄にすることになります。
実験を通じて得られたデータやフィードバックを基に計画を練り直し、より現実的で実行可能な計画を立てることが成功への近道になるはずです。
「スモールシングス戦略」で、ブロックを組むようにWebサイトをつくる
『BIG THINGS』では、巨大プロジェクトを成功させるために、「スモールシングス戦略」を提唱しています。スモールシングス戦略とは、1つの大きいものをつくるのではなく、多くの小さいものをつくり、それを組み合わせることで、プロジェクトを完成させる考え方です。小さいものは複雑性が少なく、また繰り返し作ることで、飛躍的に生産性は向上するのです。
そして、この考え方は、Webサイトでも応用できるのではないかと思っています。
一般的に、Webサイトの制作時はディレクトリマップをつくり、ページすべてを作り上げてから公開するという手順をとります。
しかしながら、この手法では問題があったときに全体に影響してしまい、修正自体に工数がかかるほか、再度全体をチェックする必要が出てきます。
であれば、「1つのWebサイトをつくる」のではなく、「多数のWebページをつくって組み立てる」という考え方はどうでしょうか。さらには、Webページ内もパーツの集合体と考えることで同じパーツを使い回せるため、効率はさらに高まります。
実際、最近のCMSでは、「モジュール」や「ブロック」という名前のパーツを組み立てて、1つのWebページやWebサイトをつくるような手法が広がっています。
今後のWebサイト制作は、小さく作ることが主流となっていくのかもしれません。
おわりに
この記事では、Webサイト制作がうまくいかない理由とその解決策について考えてみました。
記事中で紹介した『BIG THINGS』には、他にもプロジェクトマネジメントに関する示唆深い話が多くあります。ご興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。ご意見やご感想などあれば、ぜひX(Twitter)などでお知らせください。
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