こんにちは、花王株式会社の辻本です。
皆さんはITを活用した企画立案やサービス開発に悩みはありませんか?
最近では、生活者との接点を増やすための自社アプリ開発やEC構築、外部の決済アプリ連動などのマーケティング施策を行う企業が多いです。
それに伴って、マーケターの悩みも増えました。
「アプリ開発はしたことがないから、どう考えれば良いかわからない」
「サービスの利用継続率が悪い」
「企画の参加者が少ない」
この悩みの原因は、マーケティングとITがしっかり融合していないことで、ハードかソフトのいずれかに「生活者にとっての壁」が存在するためです。
今回は、ITを活用した企画やサービス開発をうまく進めるためのポイントを、事例を交えて紹介します。
企画やサービスに必要なハードとソフトを理解する
ITを活用した企画立案やサービス開発を進めるにあたって、まずは、自分たちの企画やサービスを構成するハードやソフトを洗い出し、何が必要か大枠を整理することが重要です。
- 生活者が使用するデバイス(必要な性能、普及率、IoTであれば自社開発など)
- 情報インフラ(サーバーの管理方法、蓄積する情報、セキュリティ対策など)
- アプリやWebサイトなどの顧客接点(自社開発か、既存プラットフォーム活用か)
- サービスや企画そのもの(生活者の便益、利用手順、利益をどう得るかなど)
例として挙げただけでも、検討すべき項目が多いとわかります。
また、情報インフラ構築や、アプリインストール広告などの投資を回収できなければいけません。サービスや企画の対象者が誰であり、何人参加すれば投資回収ができるかを考えます。具体的な数値目標を立てなければ、無理のある計画なのかを事前に判断することができないからです。
さらに、企画やサービスを通じて顧客データを取得する場合は、顧客体験としてシームレスな形で、かつ技術的に希望するデータを取得できるか検討しなければなりません。
自社アプリを開発する場合は柔軟に対応できるかもしれませんが、既存アプリを利用する場合は、どのデータまで取得可能で、プラットフォーマーからどんなデータを提供してもらえるのか事前に、目線合わせをする必要があります。
ここまでの話を総括すると、理想を実現するにふさわしいハードとソフトの掛け合わせを要件定義したうえで、最適解を決めることが重要です。加えて、理想を実現するために必要な投資金額と投資回収計画を立てる必要があります。
マーケターが1人で要件定義する必要はありません。概念図を描き、情報システム部門やデータサイエンティストなどを含めたプロジェクトチームを結成して、お互いの専門的な目で必要事項をリストアップできれば良いのです。
LINE販促キャンペーンの概念図はどのように描くのか
概念図を描く例として、マーケターの方々でもわかりやすいように、「LINEでのアカウント登録獲得 & 販促キャンペーン」を取り上げます。
いきなりLINE内でのユーザー動線を描くのではなく、まずは全体を俯瞰する作業から入りましょう。
たとえば、「A社」「生活者」「小売店」「LINE」「ツールベンダー」の5つの関係者があるとして、そこでのハードとソフトを洗い出します。この時、取得したいデータがあれば、抜けや漏れがないように書き並べます。そのあと、書き並べた内容を詰めていきます。具体的には、
- このキャンペーンに参加してくれる小売店は何店舗あるか
- キャンペーンの対象となる生活者はLINEポイントに魅力を感じているのか
- キャンペーンを通じて取得したデータは、ツールベンダーから開示可能なのか
などです。この具体的な詰めの作業で初めて、LINE内のUXやUIを検討します。
ゲームを例に考えるユーザー獲得の戦略と戦術
では、自社アプリをつくる場合はどうでしょうか。LINE販促キャンペーンよりも話が複雑です。
なぜなら、そもそもLINEは日本ではあらゆる世代で利用率が高いのに対し、自社アプリは生活者にインストールさせたうえで、さらに継続的に利用してもらえるような価値を提供しなければならないからです。
これはかなり難しい話です。冒頭で書いたとおり、そのためにはハードとソフトが融合されていて、企画やサービスの対象となる人々が参加してくれるような仕掛けが必要だからです。
なるべく多くの方々にわかりやすく説明するために、eスポーツで人気のFPSゲーム『VALORANT(ヴァロラント)』と、2022年9月に発売されたNintendo Switch用アクションシューティングゲーム『スプラトゥーン3』を例に挙げます。
ゲームはデバイス(ハード)とコンテンツ(ソフト)の2つで成り立ちます。スマホやIoTデバイス、アプリを絡める話と近しいため、マーケターの方々にも参考になるはずです。
『VALORANT』と『スプラトゥーン3』の違いを比較しやすいように表にまとめてみました。
VALORANT | スプラトゥーン3 | |
---|---|---|
ユーザー層 | 大人が中心 | 子ども~大人 |
デバイス | ゲーミングPC | Nintendo Switch |
ゲーム形式 | FPS(一人称視点の射撃) | TPS(三人称視点の射撃) |
企画 | 銃撃戦 | 色塗りバトル |
※ゲームに詳しい人からからすると、さまざまなご指摘があるかもしれませんが、マーケティングの参考にするために簡略化しています。ご了承ください。
ユーザー層は、『VALORANT』は大人が中心で、『スプラトゥーン3』は子どもから大人まで幅広いです。このユーザー層の違いには、デバイスと企画内容が関係しています。
『VALORANT』はFPS(First-person shooter)というゲーム形式を採用しており、一人称の視点(自分の姿は画面には表示されない)で相手を武器で倒すゲームです。
敵を探すのが難しいうえに、コンマ何秒の差で勝負が決まるため、ゲーマーの腕前だけではなく、デバイス性能や通信環境の良さも重要です。
しかし、処理能力の高いゲーミングPCや高速な通信環境を整えるにはコストがかかります。この時点で、マーケティング対象となる人が限られてくるわけです。
対して、『スプラトゥーン3』はTPS(Third-person shooter)という日本でなじみのあるゲーム形式を採用し(自分の姿が画面に表示される)、第三者視点で戦います。
Nintendo Switchでプレイするため、プレイヤーごとのデバイス性能の差は出ません。本体価格も、ゲーミングPCに比べたら安価なので、導入コストが比較的安いです。
また、ルールを「チームカラーを塗った床面積の多い方が勝ち」にしたのは秀逸です。なぜなら、相手に照準を合わせて攻撃するなどの細かい操作が苦手なゲーム初心者でも楽しめるだけではなく、戦闘ゲームを避けたい保護者の気持ちに配慮しているため、子どもたちに安心して遊ばせられるからです。こうした企画内容は大人から子どもまで幅広いゲームユーザーを獲得できる重要ポイントでしょう。
ゲームコンテンツのユーザー獲得施策は、対象者が持つデバイスなどのインフラ環境(ハード)および、企画・サービス内容(ソフト)で変わります。両者は異なる戦略と戦術のもと企画立案しており、どちらが優れているという話ではありません。
アプリやIoTも一緒です。どういう生活者を対象にするかによって、ユーザー獲得の戦略と戦術は変わります。より多くの人に使ってもらうためには、イノベーター理論(新しいものが一般に普及する過程を5つのグループに分類するマーケティング理論)を頭に描いて、ハードの普及率を前提とした企画やサービス(ソフト)が重要になってきます。今回ご紹介した2種類のゲームは、アプリ開発やIoTの開発を手がけるマーケターの参考になると思います。
まとめ
ITを活用した企画立案やサービス開発は、単なるデジタル化やマーケティング施策を超えたDXであり、経営戦略に沿った事業戦略、情報戦略のもとで行われる新たなビジネスモデル創出です。
DXは、マーケティングとITを適切に融合できない限り達成できません。マーケティング業界に身を置くITストラテジストとして、この点を自分自身肝に銘じて日々の業務を進めていこうと思います。今回の記事を読んだ方々とぜひ意見交換できると嬉しいです。次回もお楽しみに。
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オリジナル記事:スプラトゥーン3を例に考える IT企画やサービス開発を進めるためのポイント | [マーケターコラム] Half Empty? Half Full?
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