パナソニック コネクトはなぜ「デザイン&マーケティング」を統合した? “顧客起点”な組織を目指して

事例/インタビュー
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yu-ta(ゆーた)26歳、会社員 PC.スマホ周辺機器やスマート家電など ガジェットを使って スマートな生活を送っています。 このサイトでは管理人おすすめの 最新の便利ガジェット情報や お得に買えるセール情報を中心に 発信しております。
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  • 皆で“顧客起点”を標ぼうしているのに、意思決定までのプロセスが長い…
  • 決裁が下りるまでに、何人ものハンコが必要…

プロセスを重視する企業や、大企業ではよくある話ではないだろうか――。その状態では、マーケティングは進まず、ビジネスも加速しない。そんな課題を解決するために注目されている「デザイン思考」だが、実現できている企業は数少ないだろう。

パナソニックグループでB2Bソリューション事業を手がけるパナソニック コネクトも、そんな課題をかかえる会社の1つだった。そのため、数年かけて、マーケティング組織の改革を進めてきた。そして、顧客起点でスムーズな組織を作るために、2023年4月1日付で、製品やサービス・ソリューションのデザインを行う「デザイン部門」と、ブランディングやデマンドジェネレーションを担当する「マーケティング部門」の統合を発表した。

そこで、実際に行った組織の改革や部門統合に至った背景や課題、今後の展望について、パナソニック コネクトの山口有希子氏にお話をうかがった。

パナソニック コネクト 執行役員 ヴァイス・プレジデント CMO兼 デザイン&マーケティング本部 マネージングダイレクター、DEI推進担当、コネクトカルチャーHUB担当
山口有希子氏

“大企業病”を解消するところからはじめた組織改革

パナソニック コネクトがスタートしたのは2022年4月。パナソニックの持株会社制への移行に伴い、パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社(CNS社)のBtoB事業を引き継ぐ形で発足した。山口氏は、CNS社のB2Bソリューション事業におけるCMOとして、国内外のマーケティング機能の強化とビジネス・カルチャー改革に取り組んできたという。

企業トランスフォーメーション 3階層の改革

同社が6年前から推し進めてきたトランスフォーメーションは、上のような構造となっている。中でも、1階層目の「風土改革 カルチャー&マインド」は、まさに企業改革のベースラインだ。

パナソニックは100年を超える大企業です。ディシジョンが遅い、ヒエラルキーがある……いわゆる“大企業病”的なカルチャーを変える必要がありました。役員の個室がないオープンなオフィスを採用したり、役員の服装も威圧感がなく、話しかけやすくなるようにスーツからビジネスカジュアルにしたり、そういったことから変えていきました。

マーケティングやデザインにおいて、顧客起点でブランドを作り、ビジネスをドライブしていくことを考えたとき、ベースとなるのは『健全なカルチャー』なのです(山口氏)

今回のデザイン部門・マーケティング部門の統合も、そうした企業改革のひとつだと山口氏は語る。

マーケティングとデザインの共通のコアは“顧客起点”

ビジネストランスフォーメーションが急速に進む中、“顧客起点”のビジネス実現のためにデザイン思考やマーケットイン、カスタマーインの考え方は日に日に重要性を増している。しかし、この考えを取り入れるにはまず、「顧客に提供している価値は何か?」を明確にしなければならない。

変化の早い今の時代、商品の持つ顧客便益や競争優位性は、常に変わっていきます。日本の製造業はいいものを作っていれば売れましたが、もうそうじゃない。本当のバリュープロポジションとは何かを見つめなおさなくてはなりません。顧客起点であるために、N1インタビューなどを実施して本質的なコアバリューを理解する必要があります(山口氏)

山口氏はマーケティング本部とデザイン本部の管轄を兼任したことがきっかけで、「顧客起点の考え方を組織全体に広める」という課題解決のために部門統合の必要性を感じたという。

マーケティングだけで企業は変わりません。でも、マーケティングが影響して、企業全体に顧客起点の考え方を広めることはできる。そのために、設計、製造、プロモーション、営業……全部を“繋ぐ”ことがすごく重要。マーケティングもデザインも、お客様のためを思う『顧客起点』の考えは共通です。顧客起点のビジネスを加速させるためにはデザインとマーケティングの統合が欠かせないと思いました(山口氏)

企業におけるデザインのニーズが多様化する中で、マーケティングとデザインの重なりは大きくなっている。そのコアにあるのが「顧客起点」だと気づいたことが、今回の統合のきっかけだった。

統合に必要だったそれぞれの部門の組織改革

しかし、統合の背景には課題もあった。マーケティング、デザインそれぞれの組織改革だ。それぞれの課題と改革について紹介する。

5年半におよぶマーケティングの組織改革

まずはマーケティング部の組織改革だ。実は、パナソニック コネクトのマーケティング部門は創設当初、新製品発表などを行う「PR・広報担当」と「展示会担当」という大まかな区分で、実務的な業務のみ行っているのが実情だった。

創設当初のマーケティング組織

タクティクスだけをやるのではなく、本質的な戦略に基づいたマーケティング活動をできる組織にするという課題がありました。もともとWebやカタログの作成などのマーケティングオペレーションはしていましたが、事業戦略とは上手く連携がとれていませんでした。それを、約5年半かけて『マーケティングと一緒に戦略を作っていく形』に変えたのです(山口氏)

改革後のマーケティング組織

上図が改革後の組織図だ。改革の結果、マーケティングと事業戦略が連携したマトリックス組織を作り、各事業部やグローバルとも連携を深めた。マーケティング部門で「戦略PR」ができるようになったことで、2019年時点と比べて現在は発信件数が約3倍になったという。

プレスリリースなど発信件数が約3倍に

もちろん、上層部が『露出を増やしたい』と思うだけでは増えません。適切な組織作りに加え、大切なのはやっぱり社内の意識改革です。ボードメンバーを含め、『みんなで発信をしていこう』という空気感を高めていきました。広報によるエグゼクティブ向けのメディアトレーニングなど、地道な努力がカギです(山口氏)

デザインのトランスフォーメーションの必要性と組織改革

次はデザイン本部の組織改革だ。デザイン本部には以下2つの課題があった。

  • コストセンター型の組織
  • デザインスキルの多様化

それぞれの課題について説明する。

コストセンター型の組織だったデザインチーム

大企業で業務がサイロ化する中、デザイナーはプロダクトの上流がどうなっているのかわからないまま、「この製品のデザインを、この予算で」と注文される状態だった。山口氏は、「最初にデザイン部門を担当した際、これが最も根本的な問題だとすぐにわかった」と苦笑する。そこで、デザイン部門にもプロダクトの意図や何をするかを伝え、年間予算を割き、プロフィットセンターとコストセンターのハイブリッド型に変えた。

もともとデザイン部門は全体的に受け身の態勢で、それぞれの事業部において戦略的に重要なところにリソースを張ることができなかったんです。ハイブリッド型の組織にすることにより、『頼まれたものを全部やる』のではなく、川上の事業戦略から一緒に考えることにより、会社として優先度が低い案件はデザイナー側が断れるようにしました。これはマインドセットの大変革です(山口氏)

ビジネスモデルの変化にともなう、デザインスキルの多様化

次の課題は、デザインスキルの多様化だった。もともとパナソニックはものづくりの会社でプロダクトデザインが中心だが、クラウドやセキュリティ、企業向けのソリューションなどを扱うビジネスモデルに変革したことにより、デザインもプロダクト周辺のUI・UX、サービスやビジネスのデザイン、ブランドデザインなど、多様化している。

パナソニックがこれまで力を入れてきたようなプロダクトデザインにおいても、全体のUXが重要になっています。製品そのもののデザインだけではなく、それを使うお客様のことを考えて、周辺のソフトウェアとの関連性を考慮したデザインをしなくちゃいけない。デザイナーのスキルに求められるものが格段に増えて、デザインスキルのトランスフォーメーションが必要な時期になったのです(山口氏)

顧客起点の組織にレイヤーアップするにあたり、デザイン部門では、「機能別」から「事業部別」にフォーメーションを変えたという。デザイナーがプロダクトの上流の議論に加わり、ビジネスの文脈を理解した上でデザインを行えるようにする狙いだ。

デザイナーとしても、『ただものづくりをしていればいい』ではなくて、文脈がわかった上でデザインをしたいですよね。そのために、事業戦略やマーケティングと連携させ、ビジネスにアラインしやすい組織作りを進めています(山口氏)

統合のカギは「コミュニケーション」と「成功体験」

企業全体の「顧客起点」なビジネスを加速させるためにスタートしたデザイン&マーケティング本部。とはいえ、もともと全く別の組織だった2つの部門を統合させるのは簡単なことではなかった。

統合において1番重要なことは、デザイナーとマーケターがお互いの仕事を理解し、一緒に仕事をすることの納得感や成功体験を作り出すことでした。それぞれのキーパーソンが『一緒にやったほうがいい』と思える状態まで持っていかなくちゃいけない(山口氏)

そうした土壌を作るため、山口氏は1年半ほどの時間をかけて以下のような施策を重ねた。

  • 1on1ミーティングでの相互理解
  • デザイナーとマーケターが一緒に取り組むプロジェクトやワークの提供
  • マーケティングのキーメンバーがデザインチームを兼務

以上の取り組みのように、まずはコミュニケーションをとれる機会を増やしていった。特に、一緒にできるプロジェクトを作って「実際に連携して動いてみること」は、現場での成功体験を積み上げるために重要だった。パナソニックコネクトが独立会社になるにあたって、パーパスやコアバリュー、ブランドのロゴなどを決定したときも、マーケティングとデザインが共同でワークを行ったという。

『連携するとよりいいね、早いね』と実感できる機会が増えることで、統合の意義がひとりひとりの中で腹落ちする。そうして徐々に空気を盛り上げていき、最後は部長陣とオープンディスカッションをして……最終的に全員から『一緒になったほうがいい』というコンセンサスを得ました(山口氏)

たとえば記者発表会のパワーポイントひとつにしても、『こういうことを伝えたい』とデザイナーさんに共有すると、よりいい形でデザインに落とし込んでくれる。山口は、『デザイナーと一緒に仕事するとこんなにいいんだ』と感じさせる機会作りをしてくれました(同社 広報担当:菅原氏)

もちろん、こうした大きな変革には痛みが伴う、と山口氏は語る。約3万人の大企業だからこそ、新しいチャレンジに「前向き」な人もいれば、「このままでいい」と考える人もいる。そういう人を動かすのに大切なことは、「変化していくことへの希望や楽しさを伝えること」だという。

必要なのは、絶対に揺るがない旗です。絶対によりよくなるという信念、そのことに納得感をもってもらえるプログラムの創出……そして何より、大多数の社員に『ワクワクする』と思ってもらうことです。誰も不幸にするためじゃない、よりよくするための変革だから(山口氏)

顧客起点で「ビジネスと社会に貢献する」ために

パナソニック コネクトの組織改革は始まったばかりだ。今回の統合の最終的な目標は、ビジネスドライバー、そしてパーパスの実現だと山口氏は力強く語る。

同社のパーパスである「現場から 社会を動かし 未来へ繋ぐ」には、多様な「現場」に寄り添い、顧客の安心安全な生活、そして未来を支えていくという想いが込められている。顧客起点の考え方をより浸透させ、ビジネスと社会に貢献できる「デザイン&マーケティング本部」として、今後も変化を続けていくそうだ。

私たちのマーケティングやデザインの現場が変わることで、会社やビジネスによい影響を及ぼし、その先のお客様や、社会全体に価値をもたらす。今回の統合はそうしたよりよい未来につなげていくことの、第一歩とも言えます(山口氏)

 

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