2023年春の改正道路交通法で、自転車に乗るすべての人のヘルメット着用が努力義務化され、大きな注目を受けている株式会社オージーケーカブト(以下、Kabuto)。Twitterは約2年でフォロワー数が1万増。各種SNS戦略に迫りました。
五輪メダリストやMotoGP参戦ライダーも使用する「グローバルニッチ」メーカー
2023年で創業41年目を迎えるKabuto。主にオートバイ用と自転車用のヘルメットの製造を行っており、オートバイ用ヘルメットでは業界シェア国内3位に、自転車用ヘルメットにいたっては国内トップの売上を誇るメーカーです。
さらに、世界各国のオリンピック自転車競技メダリストや、世界最高峰のバイクレース「MotoGP」参戦ライダーにもヘルメットを供給するなど、「グローバルニッチ企業」としての地歩を固める中、2021年頃からSNS運用の強化が全社的に決まりました。
既に多く存在していた「UGC」
現在Kabutoがアカウントを有しているSNSプラットフォームは、「Twitter」「Instagram」「Facebook」「YouTube」「note」の5つ。この中で特に力を入れるようになったのが「Twitter」です。
2023年現在では、Kabutoの公式Twitterフォロワー数は18,000人ですが、本格的な運用を開始する前の2021年のフォロワー数は、8,000人ほど。効果的な運用ができていませんでした。
本格運用の前にまず行ったのが「エゴサーチ」。ブランド名の「Kabuto」に、「ヘルメット」「バイク」「自転車」「サイクリング」「ツーリング」など、商材に密接なワードで検索をしていくとある「発見」をしました。
Twitterでは「トピック」と呼ばれる機能が2019年から実装されています。これは、ユーザーが興味のあるトピックをフォローすると、そのトピックに関連した投稿がタイムラインに表示される機能です。
企業の中では、SNSマーケティング戦略においてターゲティングとして活用されるほど、トピックの「ジャンル」は多岐に渡るのですが、「Kabuto」に関係する「サイクリング」や「オートバイ」、「マウンテンバイク」、「MotoGP」さらに特定の有名選手のトピックも存在していたのです。
さまざまなユーザーがトピックに関する情報を日々発信し、それに対して多くの反応(いいね・リツイート)が寄せられ、かなりの規模感を持つ「コミュニティ」を形成していました。
前述の通り、バイク自転車双方において「トップメーカー」に分類されるKabutoですが、トピックで流れてくる投稿の中にはKabutoのユーザーも多く含まれていました。中には「インフルエンサー」ともいえる著名人も含まれており、既にかなりの数の「クチコミ(UGC)」が存在していました。
コミュニケーション方法を使い分ける
Kabutoやヘルメットに関するTwitter上の投稿を集めて、どんなことが話題になっているかなどを調べていくなかで、次に取ったアプローチが自社商材に関する投稿をしているユーザーに対して、「いいね」「リプライ(返信)」「リツイート」などを駆使した「コミュニケーション」でした。
しかしながら、当初は「ネガティブな反応になるのでは?」という懸念も少なからずあり、運用担当者である小川裕輔氏は試行錯誤しながら運用していました。
SNS運用を始めたばかりのころは企業アカウントという立場として、一般ユーザーとの距離感や、この投稿に反応するべきか? など臆する部分があり、運用のむずかしさを感じていました(小川氏)
実際のところはポジティブな反応が大半で、「見てくれている!」「嬉しい!」といったコメントつきの投稿も多く寄せられました。「N1」という小さな水準ではありますが、ファンマーケティングとして確かな「成功事例」を生み出したのです。
これを踏まえて小川氏は、「コミュニケーション」を使い分けた発信をしていきました。
たとえば、
- 反響が大きな投稿(バズ)があれば引用して紹介する
- 購入やツーリング・サイクリングを楽しんだ投稿内容ならばリプライする
- 販売店舗のイベント紹介ならばリツイート など
自社商材に対してユーザーたちのさまざまな角度からの「つぶやき」に対して、公式Twitterとして丁寧にコミュニケーションをしていきました。
一方で、「つぶやき」は決してポジティブなものばかりではなく、時にはネガティブなものも含まれています。それらの内容にも目を通し、社内で共有した上でネガティブな意見にも公式Twitterとしてコミュニケーションを取るようにしています。
というのもKabutoでは2019年に、経済産業省から東大阪衣摺工場のJIS認証の取り消しをされています。製品の安全上に問題はなかったものの、書類上の不備により日本国内のヘルメット生産の安全基準であるJISマークの認証が取り消しされ、SNS上で「炎上」を引き起こした経験があります。
起こした事実に対し真摯にそれを認め、加えて今後に向けた改善策を提示。現在進行形で「安心安全」を従来以上に徹底化していることもあり、騒動は沈静化しました。一方で当時のことを指摘する投稿がゼロになったわけではありません。
また、Kabutoが実施しているさまざまな「サービス」に対しても、時に厳しい声が寄せられることもあります。都度社内で共有した上で、適切な「アクション」を取っています。
広告は使わず、投稿へのいいねやリプライ、キャンペーンや他ブランドとのコラボキャンペーンなどの運用によって、約2年間で1万フォロワー増を達成することができました。
特性に合わせたSNS運用
他のSNSプラットフォームも、それぞれの特性に応じた運用をしています。
「Safety Meets Style」という、Kabutoのビジョンを意識した運用を行っているのが公式Instagramです。
本格運用開始前の2021年のフォロワー数は3,000人ほどでしたが、ストーリーズ投稿や契約するオートバイライダーや自転車サイクリスト・チームに関する投稿をすることで、徐々にフォロワー数が伸長。2023年には、2021年の3倍以上の9000人超のフォロワーを獲得し、Instagramでの投稿には常時数百単位での「いいね」が寄せられるようになりました。
さらに、子供向けの「チャイルドメット」シリーズ普及のため「kabuto_child_helmet」のInstagramアカウントも別途開設。グループ会社である自転車用部品メーカー「オージーケー技研(フォロワー数2万超)」と合同でインスタライブを開催するなど、今後の本格スタートを前に、さまざまな施策を試しているところです。
note
Twitter、Instagram以外に「Facebook」「YouTube」「note」も運用しています。Facebookは1万程度のフォロワー数がいますが、近年新たに力を入れているのが「note」と「YouTube」です。Kabutoがユーザーに伝えたい「メッセージ」を「静」と「動」で発信しています。
2022年に開設したnoteでは、それまでFacebookで行っていた「MotoGP」に関するレースレポートを横展開させた上で、国内外で活躍する「Kabutoユーザー」たちの特集、「鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)」などのイベントをヘルメットメーカー目線でレポートしています。
ユーザー、すなわち契約選手やインフルエンサーなどに関しては、「ギネス記録を持つサイクリスト」「世界最大の家電見本市でも注目された『折り畳み電動バイク』開発者」「世界40か国近くを自転車で回った冒険家」「イタリアを拠点にするZ世代ライダー」「ヨガインストラクター兼自転車ユーチューバー」など多士済々。「世界に展開するバイク&自転車用ヘルメットメーカー」という強みを生かした構成となっています。
YouTube
ヘルメットだけにとどまらず、広い視点で読み物コンテンツとして発信しているnoteに対して、ヘルメットに焦点を当ててヘルメットの特徴を分かりやすく伝えようとしているのがYouTubeです。広報チームが制作に携わる「Kabuto ACTIVE CHANNEL」と、総合アカウントとして運用する「オージーケーカブト」を用途に応じて使い分けています。
ヘルメットは身近な製品ではあるものの、取り外しや脱着といった「正しい使い方」や、先述のチャイルドメットを含めた「ラインナップ」は伝えきれていません。動画だからこそ伝わりやすい内容をピックアップして紹介しています。
このようにヘルメットに関する、潜在的な疑問や安全・安心に関する情報を提供し、お客様をファン化していくことを目指して、プラットフォームの特性に応じたSNS活用をさらにアップデートしていきます。
SNS運用強化、2年間での「発見」
ユーザーの声をSNSで収集
Kabutoはヘルメット以外にも、自転車ハンドルの滑り止めアイテムである「バーテープ」や、選手からの詳細な意見を商品開発に反映させた「サイクルグローブ」などを開発・販売しています。これらの製品は、SNS上で多くのユーザーが話題にし、レビューをしてくれています。
SNSを通じて取得するユーザーの声は、商品開発にも生かされています。SNSを積極的に活用することで、今までとは異なるユーザーの声を集められるようになったことは大きな成果です。
多数のコラボを実現
また、SNS運用での一種の“醍醐味”ともいえる「コラボ」も、数多く実現できました。
企業間では、2021年と2022年の2回にわたり、素材メーカーの帝人とTwitterキャンペーンを実施。Kabutoでは、バイク用ヘルメットの一部製品で、同社の「高機能ポリカーボネート」を使用しており、重要なビジネスパートナーに位置付けられる存在です。
関係性を踏まえて、「バイクの日」にあたる8月19日に記念コラボを実現できないか打診。帝人側担当者の快諾もあり、2021年はKabutoと帝人の2社間で、翌2022年にはカシオ計算機も加わった3社コラボを実現できました。
毎年Twitterトレンドの上位に入るほど、高い注目を集める「バイクの日」。Kabutoの実施したハッシュタグ付きコラボキャンペーンは大きな注目を集め、(2021年:#私とバイク 2022年:#おバイクはいいぞ)バイクをこよなく愛するユーザーからの「UGC」が数多く集まりました。
話題のTATAMEL BIKEにも協力!
また、株式会社ICOMAが開発しているTATAMEL BIKE(タタメルバイク)。「変形ロボット」に着想を得て開発された折り畳み式の電動バイクですが、ヘルメットメーカーとしてKabutoは協力しています。さらに、電動バイクの世界最高峰レースである「MotoE」に、アジア人として唯一参戦している大久保光選手を、参戦当初からKabutoがサポートしている縁から、大久保選手のオフシーズン中にタタメルバイクのテスト走行に参加してもらうという「コラボ」も実現しました。
改正道路交通法でヘルメット着用が努力義務に
2023年4月に施行された「改正道路交通法」。「自転車ヘルメット」の着用が、13歳未満の子どもに限ってのものから、全年齢対象の「努力義務化」に拡大しました。
同法は、2022年春の時点で改正法案が国会で可決されていました。その後、年末の閣議決定により正式化されたことで、Kabutoにはメディアの取材や、店舗・一般の方から問い合わせが殺到し、公式サイトの閲覧数も激増しました。
来たる「需要」を見越して、Kabutoは事前に生産体制を強化していたにもかかわらず、ヘルメットのモデルによっては入荷が数か月待ち状態の売れ行きを記録。さらに、法律改正に合わせて警視庁が着用するヘルメットメーカーにも選定され、フードデリバリー「Uber Eats」は、配達パートナー向けオフィシャルヘルメットとして採用されました。
改正道路交通法による利用者層の変化に対応するため、数年前からキャップ帽デザインのカジュアルタイプや、女性向けを意識したファッション性の高いハットタイプなども併せて開発しています。
「自転車ヘルメット」といえば、工事現場でもお馴染みの“ドカヘル”や、アスリートが使用するスポーツタイプの印象が強いですが、従来のイメージと一線を画すフォルムは、法改正によるライフスタイルの変化において、大きくクローズアップされています。
最後に、公式アカウント強化プロジェクトの中心として関わってきた柿山昌範氏にSNS運用に対する思いを聞きました。
私たちのミッションは、『すべての人に安心と安全を届け、笑顔を守ること』です。警察や自治体と協力したり、競技・大会や中高生が関わるイベントに積極的にかかわったりしています。タッチポイントを増やすことと、『楽しみ』『安全啓発』の両輪で活動しています。
ヘルメットは、自転車に乗り始める子供から大人までが使う身を守る身近な製品で、“生涯パートナー”ともいえるはずです。
製品開発からイベントまで、ユーザーの皆様に私たちの根底にある『想い』を知っていただき、そこから『少しでも気のおけない存在』にKabutoがなっていけたら、という思いでSNSを運用しています(柿山昌範氏)
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オリジナル記事:ヘルメットメーカー「オージーケーカブト」が実践する「中の人に頼らない」SNSブランディング術 | ビジネスに役立つSNS
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