モノが溢れる時代において、商品・サービスを認知してもらうだけでは購買には繋がらなくなっている。そこで重要なのが「パーセプション」、つまり「世の中や消費者が特定の商品・サービスに対して抱く認識」だ。
「デジタルマーケターズサミット 2023 Winter」では、PRストラテジストで『パーセプション 市場をつくる新発想』の著者でもある本田哲也氏がパーセプションの基礎を解説し、おやつカンパニーの田中雅洋氏がロングセラー商品「ベビースターラーメン」において新パーセプション創出にどう挑んだのか事例を紹介した。
『パーセプション 市場をつくる新発想』
(著者:本田哲也 出版:日経BP)
- パーセプションとは「モノゴトの見え方や捉え方」
- パーセプションを構成する5要素、「事象」「リテラシー」「グループ」「タイミング」「コントラスト」
- パーセプションの5つの活用方法。パーセプションを新たにつくった事例を紹介
- 行動変容を起こすことがゴール。パーセプションチェンジは有効な手段の1つ
- PRのピラミッド
- ベビースターラーメンが新たなパーセプションづくりに取り組んだ理由
- 「料理にも使えるお菓子」を新たなパーセプションにマス・デジタル・オフラインでキャンペーンを実施
- パーセプション発見に至る過程は? デジタルで効果のあった施策は? 社内調整での苦労は?
- 施策をやりきるには信念を持って、しつこくやり続けること
- レゴ、貝印、おやつカンパニー、リクルートなどが語る広告主・マーケター限定のオンラインLIVE配信
パーセプションとは「モノゴトの見え方や捉え方」
まず本田氏が、「認知(Awareness:アウェアネス)」と「認識(Perception:パーセプション)」の違いを解説した。「認知」は知っているかどうか。認知重視型のマーケティングは限界を迎えており、「みんなが知っている」だけでは、モノやサービスが売れなくなっていると本田氏は指摘する。
一方、パーセプションとはなにか。辞書では「知覚」「理解」「認識」といった意味だが、本田氏は「モノゴトの見え方や捉え方」と定義する。ポイントとして、パーセプションは人や、時代によって見え方・捉え方が異なる。つまり、「商品の売り手がどう思っているかではなく、自社のブランドや商品がお客様にどう思われているか」ということだ。他者の認識を客観的に把握することが重要だ。
パーセプションを構成する5要素、「事象」「リテラシー」「グループ」「タイミング」「コントラスト」
では、パーセプションはどのようにできあがるのか。本田氏は5つの要素を挙げた。
事象
何らかのファクトを伴う具体的な事象や事実。顧客が商品に対して漠然と抱く「イメージ」ではなく、あくまでファクトがある点に留意。
リテラシー
受け手の経験や価値観に依存する影響。たとえば、受け手のバックグラウンド、文化的背景、経験や価値観によって、商品の捉え方は異なるだろう。
グループ
区分により理解を深める認知プロセスによる影響。何の仲間だと思われるか。たとえば、「あの商品と似ている」「あのカテゴリーに属する商品だ」という認識のされ方。
タイミング
大きな社会の潮流や時流。世の中の空気による影響。
コントラスト
比較対象が提示された時の相対的な影響。比べるものによって認識が変わってくること。たとえば、「東京タワーは高い」という認識が、東京スカイツリーの登場によって「相対的にみると低い」と変わり得ること。
パーセプションの5つの活用方法。パーセプションを新たにつくった事例を紹介
パーセプションには5つの活用方法があると本田氏は以下のスライドを示した。
この5つの活用方法から、本田氏はパーセプションを理解するための事例を紹介した。まずは、パーセプションを「つくる」の事例として、男性向け整髪料・洗顔用品ブランドの「UNO」の取り組みだ。同ブランドのBBクリーム販売において、「メイクは女性がすること。男性は恥ずかしくてできない」という認識があり、当時はBBクリームの男性利用者は国内にほとんどいなかった。
メイクは恥ずかしいという気持ちはあるものの、探っていくと『第一印象を良くしたい。自信を持ちたい』というインサイトが、特に仕事・転職・就職活動などの場面においてあることがわかった。そこで、『第一印象はつくれる』というパーセプションを日本の男性に広めていくことにした(本田氏)
つくったパーセプションをもとに、起業家向けセミナー、転職セミナーなどの場で、BBクリームは仕事やプライベートを充実させる手段であると紹介した。試供品を配ったり、商品の機能性を単純に説明したりするのではなく、「第一印象はつくれる」というパーセプションを積み上げるための施策を実施していった。テレビCMにおいても、単純な機能訴求とせず、「商談の日、朝起きてひどい顔だったがBBクリームを塗ったことで商談が成功」という、「第一印象はつくれる」という認識を訴求できるストーリーとした。
UNOの事例はパーセプションを「つくる」事例であったが、続いて紹介するのは既存商品のパーセプションを「かえる」方法だ。本田氏が取り上げたのは、森永製菓の「ラムネ」だ。当時の「ラムネ」の状況は、45年の歴史を持ち、認知度85%に達するお菓子で、知らない人はいないという状況。共通認識は「子どものお菓子」であった。
5年ほど前、「ラムネが二日酔いに効く」というクチコミがSNSで話題になり、それをきっかけに森永製菓が「ラムネ」のパーセプションを「子どものお菓子」から「大人のパートナー」に変えていった事例だ。一時は試行錯誤した時期もあったようだが、「大粒ラムネ」の開発・販売につながり、結果として4年前と比較し2倍の売上となった。
森永ラムネ独特の緑と赤のビジュアルや成分はそのままにもかかわらず、受け手の認識が変わっただけでここまでの売上に貢献したということ。パーセプションチェンジが売上増につながったこと示す事例だ(本田氏)
行動変容を起こすことがゴール。パーセプションチェンジは有効な手段の1つ
事例を踏まえて、本田氏はパーセプション戦略を考える際の5つのポイントを紹介した。
(1)ビフォーとアフター
何をどう変えるのかを言語化し、明確にすること。
(2)主観と客観
自分たちがどう思うかではなく、受け手からどう見られているか、客観性のある認識であること。
(3)カテゴリーとプロダクト
UNOやラムネの事例はプロダクトを変えた事例であったが、所属するカテゴリー全体を変えることもある。認識を変える対象はどちらなのか。
(4)完全変容と拡張
認識を完全に変えていくのか、ラムネの事例のように少し拡張していくのか。
(5)ブランドエクイティ
パーセプションを変えればよいというものではない。変えてはいけないところがあるので、ずっと大事にされている本質・資産は変えずにどうしていくかを考える。
PRのピラミッド
続いて、「何のためにPRを行うかというと、“行動変容“を起こすためだ」と、本田氏はPRのピラミッドを紹介した。
行動変容の有効な手段の1つとして、認識を変容させるという考え方がある。パーセプションを新しく作ったり、既存のパーセプションを変更したりすることをゴールとせず、どう行動変容させるかまで考えていくことが重要だとしてパートをまとめた。
ベビースターラーメンが新たなパーセプションづくりに取り組んだ理由
続いて、おやつカンパニーの田中氏がベビースターラーメンの新パーセプション創出までの取り組みを紹介した。おやつカンパニーの代表的商品と言えば「ベビースターラーメン」だ。同社はもともと即席麺を製造・販売していたが、製造工程で発生する“麺のかけら”を有効活用できないかと思案。
集めた麺のかけらに味付けして社員に配ったところ好評だったため、1959年から「ベビースターラーメン」として販売をしている。誕生から65年が経過したベビースターラーメンは、ブランド認知率は97.1%、喫食経験率(認知者ベース)は92.3%と極めて高い。
メインの消費者層は30~40代で、ベビースターとの歩みを紐解くと、子ども時代に駄菓子屋で見かけて出会い、10代~若者時代に離反。子育て世代になると、店頭でみかけ、懐かしさから子どもと一緒に食べたり、酒のおつまみとして食べられたりしているお菓子だ。
ベビースターラーメンは菓子市場、その中のスナック菓子市場に属する製品だ。コロナ禍の在宅需要で直近の売上は伸びたものの、人口減少などを鑑みると市場は「成熟期」といえる。スナック菓子市場におけるメーカーシェアでみると、おやつカンパニーのシェアは約5%。圧倒的ガリバー企業が存在する市場で、売場占有率を増やすことによる売上拡大は難しいという状況だ。
ベビースターラーメンの優位点は「子ども向け」「懐かしさ」。だが、駄菓子屋の衰退で「懐かしさ」は先細り
また田中氏は、スナック菓子は「非計画購買」型カテゴリーの製品であると指摘する。どの商品を買うか、事前に決めてから購買にいたるケースは全体の30%弱に過ぎず、店頭で商品を見てからどれを買うかが決定される。そのため、店頭で出会うまではブランドは意識されないカテゴリーとなっている。
こうした中でベビースターラーメンの優位点は『子ども向け』『懐かしさ』で差別化されている点です。メインユーザーが駄菓子屋で出会ったことで『懐かしさ』が醸成されている背景があります。ただ、駄菓子屋は約50年で事業者数が約90%減少しており、今後『懐かしさ』での差別化は難しくなるとみています(田中氏)
親世代である現メインユーザーは幼少期に駄菓子屋でベビースターラーメンと出会い、一度離反してから「懐かしい」という認識で再購入に至っているが、今後の若年層ユーザーにはそもそも駄菓子屋での接点がないため「懐かしさ」を感じることがなく、「懐かしさ」だけでは購入に至らない。現ユーザーの「懐かしさ」という認識を守りつつ、新たなパーセプションを見出していく必要がある。これが新たなパーセプション形成が必要だとおやつカンパニーが判断した背景だ。
「料理にも使えるお菓子」を新たなパーセプションにマス・デジタル・オフラインでキャンペーンを実施
新しいパーセプション創出にあたって着目したのが、ベビースターラーメンが家庭内料理や外食に多く使われている点だ。ファクトとしても、レシピ検索サイトにおいて、ベビースターラーメンを使ったレシピが多数投稿されていた。そこで「料理にも使えるお菓子」という新たなパーセプションを創出することにした。
「料理にも使えるお菓子」というパーセプションを広めるため、2018年にマス・デジタル・オフラインを複合的に実行するキャンペーンを行った。キャンペーンはマスとデジタルを活用して「発見と驚き」をもたらす「気づかせ期」、デジタルとアナログを活用しレシピに「慣れや親しみ」を感じてもらう「刷り込み期」、店頭で体感し「自分ゴト化」してもらう「体験期」というフェーズに分けて設計を行った。
商品パッケージも重要なメディアの1つだ。裏面にレシピを掲載するだけでなく、QRコードでレシピサイトへの導線を設け、マスプロモーションを補強。「刷り込み期」では、お菓子を料理に使うという一見難しいと感じる心理的ハードルを下げるため、身近かつ著名な料理系インフルエンサーをアンバサダーに起用してレシピを配信してもらった。
ユーザーに参加してもらえるようレシピ募集キャンペーンの実施や、SNSでちょい足してスピードテスト投稿キャンペーンを実施するなどして、認知と理解を促進させた。「体験期」では、同時期に業務用ベビースターラーメンの展開をはじめたことから、さまざまな外食チェーンとのコラボメニューを展開した。
レシピの投稿数、ベビースターラーメンの料理利用率が改善。売上も前年超えし、上昇トレンドへ
これらのプロモーション実施の結果、ベビースターラーメンのアレンジレシピの投稿数はプロモーション実施前と比べて128%増加しました。意識調査においても、3.8%だったベビースターラーメンの料理利用率が、施策後は9.3%(+5.5ポイント)と大きく改善しました(田中氏)
売上も前年比を超え、上昇トレンドに入りはじめる結果となった。現在もベビースターラーメンの料理利用の認知率は定点観測しており、年々増加傾向だ。最近では、SNSをきっかけにベビースターラーメンを知る若年層が増加したとの調査結果から、新たにTikTokでの動画配信を開始したという。
また、今後の取り組みとして、ベビースターラーメンを組み合わせて文字を書く「麺文字」がSNSで注目を集めたことから、「楽しむお菓子」としてのパーセプションを創出したいと田中氏は意気込む。
パーセプション発見に至る過程は? デジタルで効果のあった施策は? 社内調整での苦労は?
講演の後半では、本田氏・田中氏が聴講者からの質問に答えつつ、ディスカッションが行われた。
Q:「料理にも使えるお菓子」のパーセプションはどうやって発見にいたったのか。その過程をもう少し詳しく知りたい
東日本では、もんじゃ焼きにベビースターラーメンを混ぜるというのが一般的だが、おやつカンパニーの本社がある三重県も含め、西日本ではその利用法が認知されていなかった。それが1つの驚きとなって発見につながった(田中氏)
これに対し、本田氏は「新しいパーセプションの発見のためには『ファクトに注目する』というのが大事。何もないところから、パーセプションを生み出すのは難しい。実在している事実をヒントにパーセプションを広げたというのは、まさにその証拠のようなエピソードだ」と述べた。
Q:今回の事例は、テレビCMも含めた大規模なプロジェクトであったが、「デジタル」に限った視点で効果があった施策はどのようなものか
田中氏は「個別の施策の話とは若干ずれるが、『レシピはデジタルでアーカイブされる』という点において期待が高かった」と明かす。
レシピは毎日の食に関わる部分だけに、多くの人に関心をもってもらいやすく、コンテンツとしての注目度も高い。ベビースターラーメンを使った料理レシピがYouTubeやレシピサイトに蓄積されれば、集中プロモーション期間が終わっても、自発的に拡散される可能性がある。
Q:新しいパーセプションの候補が複数あるとしたら、どう優先順位をつけるのがよいか
ベビースターラーメンのケースでは、定量的に優先順位をつけることもできるが、ユーザーとのグループインタービューを重ね、“お客様の声が大きいもの”が優先順位の高いものと見立てたと、田中氏。本田氏によると、新しいパーセプションを決めるにあたって調査を行うケースもあるという。
Q:歴史ある企業・ブランドほど、「ブランドエクイティ」の保持が大切になってくる。社内調整で苦労したこともあったのでは?
食べ方提案を行う『目的』は社内で丁寧に説明しました。ベビースターラーメンはスナック菓子なので、食品としては完成型。
- 『そのまま食べてもおいしいのに、それを料理に使う(提案を行う)ことは売上に対して直接的ではないのでは?』
- 『単純においしさを訴求しては?』
という声はあった。市場環境は厳しく、ポテトスナックにおいしさの点で劣後している状況で、新しいパーセプションをつくって、お客様に流入してもらう必要性を説明してきました(田中氏)
各社の事例を見てきた本田氏も「率直に言って(社内調整は)大変だ。ただ、施策に反対する人がいても、それは敵対とは違う。ブランドへの愛着などが違うだけ。丁寧に説明していく。これに尽きるのではないか」と付け加えた。
施策をやりきるには信念を持って、しつこくやり続けること
最後に取り上げられたのは、マーケティング施策をやりきるために何が必要か?という質問だ。田中氏は「信念を持って、しつこくやり続けること」と答えた。たとえば、おやつカンパニーのTwitterアカウントでは平日ほぼ毎日、ベビースターラーメンを1本1本組み合わせて文字にする「麺文字」の写真が投稿されている。「『麺で楽しむ』というパーセプションが生まれるはずだという信念のもとでやっている。そういう気概が必要かもしれない」と田中氏は笑う。
最後に田中氏は「マーケティングの方法やツールは新しいものがどんどん生まれている。方法論に終始せず、目指すべきパーセプションに向けて、どうあるべきかを考え、方法を取捨選択できるといいのかなと思います」と語り、「ベビースターラーメンでは新しいパーセプションの創出活動を常に実施しています。コラボレーションできる方がいれば、ぜひお声がけください」と呼び掛け、講演を締めくくった。
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オリジナル記事:ベビースターラーメンの事例で学ぶ「パーセプション」 世の中の「認識」を変えて売上が増加 | 【レポート】デジタルマーケターズサミット2023 Winter
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