これからのマーケターが身につけておきたいスキルの1つがデータ分析。日常的なマーケティング施策の評価においてもデータ分析は欠かせない上、今後AIなどを実務で活用していくための業務整理にもデータの理解が求められる。そこで、データ分析の理解を深めるのに役立つ書籍を、メンバーズデータアドベンチャーカンパニーの社長 白井恵里さんに紹介していただいた。
データ活用の「全体像」をおさえ、「なぜデータが必要なのか」を理解するための本
1冊目 『いちばんやさしいDXの教本 人気講師が教えるビジネスを変革する攻めのIT戦略』(亀田重幸、進藤圭:著 インプレス:刊)
白井さんが1冊目にオススメしてくれたのは、ビジネスにおけるデータ活用の全体像をつかんで、データ分析の役割を把握するための本だ。書名に「DX」とあるが、業務がデジタル化されるとデータが蓄積され、そのデータを分析に活用できるようになる。こうしたDXとデータ活用への理解を深めるのに最適な書籍だという。
白井さんも過去にWeb広告運用をしていた時、データ活用ができていないことに課題を感じていたそうだ。
データ活用の全体像をつかんでおくことで、たとえばWeb広告配信結果の要因分析の際にデータの取得・分析・活用方法といった基本がわかるようになります。だからこそ思い切ってメンバーズデータアドベンチャーカンパニーを立ち上げたのですが、そこで相談に乗っていただいたのが著者の亀田さんでした。亀田さんには立ち上げの時にデータ活用支援事業の方向性について相談にのってもらい、感謝しています(白井さん)
データ分析を「ビジネス上の価値」にするための本
2冊目 『データ分析人材になる。目指すは「ビジネストランスレーター」』(木田浩理、伊藤豪、高階勇人、山田紘史:著 日経BP:刊)
続いてのオススメ本は、データ分析をビジネス上の価値にしていくための書籍だ。すでにビジネス力をつけている人が「データ分析という新しい力」を得るためにも読んでほしいという。
データはあるだけでは売上にはならない。データを収集し、加工して初めてお金に変えることができる。そのために、副題にある「ビジネストランスレーター」が必要になる。
全員がデータサイエンティストを目指す必要はありません。さまざまな定義はあるにせよ、データサイエンティストはデータ分析の専門家です。たとえばビジネス全体をレストランにみたてると、とても美味しい料理を作る人です。一方、お客さまが食べたいものを察知して、それをメニューにしていくのはビジネストランスレーターの役割です。
ビジネストランスレーターはビジネスとデータの間をつなぐ人です。高度な分析をしても、需要がなければお金には変えられませんから、ビジネストランスレーターは重要です(白井さん)
ビジネスにつながる「技術」の基本を理解するための本
3冊目 『図解即戦力 ビッグデータ分析のシステムと開発がこれ1冊でしっかりわかる教科書』(渡部徹太郎:著 技術評論社:刊)
3冊目は技術寄りの本だ。副題に「ビッグデータ分析」や「開発」という言葉があるので、自分には関係ないと思われる方もいるかもしれない。しかし、本書を読んでおけば、技術者と議論をするための基礎知識が得られるのでオススメだ。
たとえば、技術者でなくても、「システム上でデータがどう流れて、どうアウトプットされるのか」がわかる内容になっています。データが生成され、収集・蓄積されて、活用されるまでが明快な図で示されているので、理解の助けになると思います(白井さん)
こうした「データの生成」→「収集」→「蓄積」→「活用」というデータ分析の流れを知っておくとよいのはなぜだろうか? 一般的にマーケターがデータ分析をするとき、Google アナリティクスやCRMシステムなど、ツールによって収集されたデータを用いることが多いだろう。すると、データがどこから収集されているのかは見えない。Google アナリティクスなどに表示されている数値が、どうやって計測されているのかは、管理画面からはわからない場合が多い。
Web広告の現場では、「広告管理画面の広告クリック数」と「Google アナリティクス側の広告からのWebページへの流入数」が異なるというケースはよくある。この原因の1つとして考えられるのは、広告をクリックしても、Webページに設置しておいた計測用のタグを読む前にユーザーが離脱してしまう場合があることだ。
その場合、「Webページの情報が見られた回数」を知りたいのなら、前者は無視して後者の数字を参照すればよい。「広告の費用対効果」をはかりたいなら、前者と後者の乖離自体が論点になり、誤クリックによる即時離脱が発生しにくい媒体に出稿先を変えた方がよいかもしれない。このように、収集段階がわからないと、その原因が推測できない。分析システムの流れを知っておくことは、マーケターにとっても大切なことなのだ。
データを収集して加工してアウトプットし、お金に変わるまでの流れを把握しておくことは、マーケティング施策の実行判断において重要だと思います。
先に紹介した2冊目と本書を読めば、ビジネスとシステムの両面からデータがお金に変わる流れの理解を深められるでしょう(白井さん)
さらにデータ分析の「技術的な理解を深める」ための本
4冊目 『集中演習 SQL入門 Google BigQueryではじめるビジネスデータ分析』(木田和廣:著 インプレス:刊)
4冊目は、Google アナリティクスの管理画面だけでは満足できない人が、データベースからSQLを使ってデータを抽出、集計できるようになるための本だ。SQLはエンジニアが使うものだと思われるかもしれないが、データ分析のためのSQLに特化しているため、マーケターが理解しやすい内容になっている。
デジタルマーケティングの範囲での知識が、過不足なく得られるのが本書の特徴だ。エンジニアに依頼せずに自分で欲しいデータを抽出できることは、マーケターにとって大きな利点になるだろう。
これまでSQLの本といえばエンジニア向けが多く、マーケターには重すぎましたが、この本はマーケターが読むのに最適な内容になっています。SQLを使って、Google アナリティクス、広告、CRMシステムなどのデータを BigQuery(ビッグクエリ)にインポートして、 BigQueryから Tableau(タブロー)にデータを連携し可視化する実務的な構成になっています(白井さん)
ここまでの4冊をピックアップした理由について白井さんは次のように話す。
データ分析の勉強というと勧められることが多いPython(パイソン)やR(アール)といったプログラミング言語、また統計学の書籍は、今回のオススメ本からは外しました。なぜなら、そこから始めてもデータの使い方がわからなければ意味がないからです。
優れた包丁を手にしても、料理のやり方がわからなければ意味がないですよね。自分が置かれている状況において、何が最適な道具なのかを見極めることができる方が重要です。それがわかれば自分がわからないことを他の人に質問することもできますし、自分で検索して調べることもできます。今回は、PythonやRを学ぶ前に知っておきたい情報がのった本を選びました(白井さん)
番外編! データ活用プロジェクトを推進するコツもわかる本
番外編 『マーケター1年目の教科書』(栗原康太、黒澤友貴:著 フォレスト出版:刊)
続いて番外編として、データ分析以前にマーケターが最初に学ぶべきことが書かれた本を紹介してくれた。マーケターが必要なデータの発生源は、マーケティング部門以外であることが多い。たとえば、営業に渡したリードが案件化したか、受注につながったかは営業部門に聞かないとわからない。本書には、こうした他部署とのやり取りのコツなども書かれている。
実は私も執筆協力していて、マーケターが業務で必要なアクションを整理しました。データ分析そのものよりも、データ活用プロジェクトを推進する上での社内説得の仕方などを紹介しています(白井さん)
最新情報を知るには、勉強会に参加しよう
最後に、わからないことがあった時や、最新の情報にアップデートしていくための情報ソースについて聞いてみたところ、「個人や企業が行っている勉強会、セミナーなどのイベントの活用」をあげてくれた。実務でデータと向き合っている人たちの体験談やコツなどを聞くことができるからだ。
イベントは、自分の今の疑問を携えて質疑応答のために参加するのがオススメです。現場の第一線で活躍する人に、自分がやってみてわからなかったことを直接聞くことができます。データ活用は新しい業務領域であるため、体系的な情報収集がワンストップでできる媒体や書籍は少ないのが現状で、ベストプラクティスも確立していません。その点、イベントで質問してみると、自分に今必要な処方箋やヒントがわかることがあるので、オススメです(白井さん)
勉強会を探すには、Web担当者Forumなどメディアが運営するイベントのほか、信頼できる企業や個人を見つけてその活動をチェックするといいという。もちろん、Peatix(ピーティックス)、TECH PLAY(テックプレイ)などのイベント情報プラットフォームも有効活用したい。
オンラインイベントが増えて、イベント参加のハードルが下がりました。その分開催も増えたので、最初は、参加してみたけど実りがなかったということも多いかと思います。しかし、いろいろなイベントに参加したり実務でデータに触ってみたりすることで、自分が何がわかっていないかが把握できるようになります。だんだんと自分に役立つ勉強会かどうか判断できるようになりますから、どんどん参加してみてほしいですね(白井さん)
さて、今回はデータ分析というテーマでオススメ書籍を紹介してもらった。どれもマーケターとして一段階レベルアップするために大いに役立ちそうだ。ぜひ手にとって読んでほしい。
白井恵里
株式会社メンバーズ 執行役員。株式会社メンバーズ メンバーズデータアドベンチャーカンパニー 社長。
東京大学を卒業後、株式会社メンバーズへ入社。大手企業のオウンドメディア運用、UXデザイン手法での制作や、デジタル広告の企画運用に従事したのち、2018年11月に社内公募にてメンバーズの子会社(現、社内カンパニー)社長として株式会社メンバーズデータアドベンチャーを立ち上げ。データアナリスト、データサイエンティスト、データエンジニアなどデータ領域のプロフェッショナルの常駐により企業のデータ活用を支援し、顧客ビジネス成果に貢献するサービスを提供。2020年10月から株式会社メンバーズ執行役員兼務。現在カンパニーに所属するデータ分析のプロフェッショナルは約100名。
株式会社メンバーズ メンバーズデータアドベンチャーカンパニー
公式サイト:https://www.dataadventure.co.jp/
Twitter:https://twitter.com/Members_da
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