こんにちは、花王株式会社の辻本です。私の記事は今回で最終回です。
1人のマーケターとして、3年半にわたり皆様に情報をお届けしました。
私が記事を書いてきた理由は、「自身の経験や考えを形式知にすることで、弊社のマーケティングをより良くするだけではなく、同じような悩みを持つマーケターや、駆け出しの社会人の支えになれば……」という想いがあったからです。
最終回はSECI(セキ)モデルをテーマに、形式知化の大切さやマーケティング活用ついて書いてみたいと思います。
暗黙知を形式知に変えるSECIモデル
みなさんは暗黙知と形式知はご存じですか。
暗黙知とは、人間が経験や勘に基づき習得した、文字で表すことの難しい知識です。
一方、形式知は、作業手順やマニュアルのような文章や図表で表すことのできる知識と定義づけられています。
世の中には暗黙知が数多くあります。
たとえば、陶芸家の手の使い方、F1レーサーの運転、アイドルの決め顔、インフルエンサーやSNS担当者の投稿、実演販売員のセールストークなど、挙げたらキリがありません。
これらは経験を積んで得られる知識であり、常人が目で見て瞬時に理解して掴むことは難しいです。もしできる人がいれば天才です。
しかし人間は文字や言葉で知識を伝承できます。先人が知識を暗黙知から形式知にし、わかりやすく広め伝えれば、後世の人が習得して成長スピードが早まり、新たな経験を積みやすくなります。
つまり、企業や研究機関のような代々何かを引き継ぐ集団には、暗黙知を形式知にするプロセスが欠かせません。そこで役に立つのがSECIモデルです。
SECIモデルとは、一橋大学の野中郁次郎名誉教授が提唱したナレッジマネジメントのフレームワークで、
- 共同化(Socialization):経験の共有などによって暗黙知を伝達
- 表出化(Externalization):暗黙知を第三者と共有できるように形式知に変換
- 連結化(Combination):形式知を組み合わせて新たな形式知を創造
- 内面化(Internalization):形式知を個人のスキルとして習得
の4つを繰り返して、次々と新たな知識を創造するプロセスをいいます。
身近な業務の例であれば、新入社員のためにわかりやすい業務マニュアルを作ることは「表出化」に当たりますし、業務マニュアルに自分のアイデアを混ぜて、新たな暗黙知を習得することは「内面化」と言えます。
企業の人材がスキルアップしていくには、SECIモデルが機能しているかどうかに掛かっていますが、実際のところ、暗黙知を形式知にするのは大変です。
仕事の現場で、日々の業務に追われながら、マーケティングの経験を形式知化して社内に共有するのは、かなりの負荷がかかります。
頭ではなんとなく理解していることを、初見の人にわかりやすく伝えるのは、非常にハードルが高いです。「Web担当者Forum」のコラム記事執筆を担当して実感しました。
記事を読む人は、必ずしもマーケティングに詳しいとは限りません。初心者でも理解できるようなわかりやすい記事を書くために、プライベートの時間に落ち着いて自分の仕事を振り返り、読者の業務に転用できるような本質的なポイントを整理するプロセスは、ハードであるとともに貴重な経験でした。
また、このプロセスを通じて、整理した知識を次の自分の仕事に活かすというサイクルも生まれていました。「Web担当者Forum」の記事執筆は、私にとって、SECIモデルの一環だったのです。
今後、業務時間内に新たな形式知をどんどん生み出して、共有していくプロセスを継続できるか、やや不安を感じています。これまで記事を執筆していたときは、エレベーターを待っているときや、シャワーを浴びているとき、洗濯物を干しているときのような、ちょっとした時間に仕事を振り返り、ポイントが見つかればスマホやノート、付箋にメモをとり、整理していました。これからもこうしたわずかなスキマ時間をうまく使うことができれば、記事執筆が終わってからも続けられるかもしれません。
マーケティングの種はいつでもどこにでも存在する
先ほど申し上げたように、人間は文字や言葉で知識を伝達できます。たとえば、
- 「昨日みた映画がすごく良くて、もうずっと泣きっぱなしだった。主題歌も良くて、さっそくダウンロードした。〇〇っていう曲だけど知ってる?」
- 「スニーカー買うならAショップよりもBショップの方が、種類がいっぱいあっていいよ」
- 「いま、××で悩んでるんだけど、調べても良い解決策がなくて困ってるんだよね」
1は文化に関する知識、2は売り場に関する知識、3は××に対する良い解決策がないという知識、といったように、世の中にはさまざまな知識があります。人によってはあまり価値がないと感じ、聞き流してしまうかもしれません。
ある知識に価値があるかないか、どのような知識を価値があると考えるかは、人によって異なります。ある知識に価値があると感じた人は、発話者となり、他の人に伝達します。発話者の属性や価値観などを整理すれば、発話者と似たような多数の人たちに向けたマーケティング活動を検討しやすくなります。
よって、マーケターは「人を知り、世の中を把握する」という意味で、知識の価値を自分で判断せず、とりあえず記憶しておき、必要なときに「どこかで聞いたな」程度に思い出すことができれば、マーケティングの種に困ることはないだろうなと私は考えます。
一見“どうでもいい知識”でも、どこで活きるかわかりません。文化の知識があれば、狙いたい層に響く素敵なコンテンツが作れるかもしれません。売り場の知識があれば、どこならば自社の商品が購入されやすいかわかります。ある特定の問題の解決策がないという知識があれば、それをビジネスにすることだってできるかもしれません。
エレベーターを待っている間や、シャワーを浴びているときなどに、自分の仕事内容と“どうでもいい知識”を混ぜ合わせて、新たな暗黙知を作り出す。スマホやノート、付箋などに形式知として残してみる。そのようにプライベートなSECIモデルを絶えず回していけば、マーケティングの種はいつでも、どこにでも見つかります。その種が仕事で花を咲かせ、会社のSECIモデルもワークさせられれば、見事な両輪駆動のサイクルとなるわけです。今後、私はそうした活動ができるようになりたいです。
最後に
冒頭にお伝えしたとおり、今回の記事が最終回です。3年半にわたり私の記事をご覧いただきました皆様、ありがとうございます。
私の記事のどれか1つでも、読者の皆様のSECIモデルに組み込まれ、お役に立っていれば幸いです。
「Web担当者Forum」の皆様、貴重な機会を与えていただき、ありがとうございました。そして、私の家族、友人をはじめ、「記事を読んだよ」と言ってくれた方々、3年半続けて来られたのは皆様のおかげです。ありがとうございました。
また機会があれば、より良い情報をお届けできるように、ひと回り、ふた回り成長して帰ってきますので、応援よろしくお願いします。
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オリジナル記事:マーケティングの種を見つけて育てる SECIモデルの活用法 | [マーケターコラム] Half Empty? Half Full?
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