ファミリーマートでは、デジタルサイネージ・メディア「FamilyMartVision」の設置を進めている。2024年3月29日には、メディア運営会社であるゲート・ワンとファミリーマートから、設置店舗が1万店を達成したというリリースが発表された。読者の中にも、ファミリーマートのレジ前で巨大なサイネージを見かけたという人がいるのではないだろうか。FamilyMartVisionの特徴や活用方法について、ゲート・ワンの松岡豪氏(社長室長)と中野寛之氏(ブランドソリューション本部 カスタマー&マーケットナレッジ部 マネージャー)に聞いた。
FamilyMartVisionのリーチ力
FamilyMartVisionは、3つのモニターを横につなげた、大型のサイネージである。このため、設置条件を満たしている店舗で、設置工事が可能なタイミングなどの調整が必要となる。2021年に100店舗への設置からスタートしたが、2024年3月に当初の目標である1万店舗への設置を達成した。
コンビニは老若男女誰でも買い物をする場所で、巨大なリーチを確保できる。ファミリーマートは全国に約1万6,300店あり、1日約1,500万人が来店する。1万店舗への設置完了により、1週間で約6,400万人に接触可能という計算になり、「規模としては、存在感のあるメディアになった」と松岡氏は語る。
メディアの特徴としては、以下のような点が挙げられる。
- 売場(購買シーン)に近いリテールメディア
- 大きなディスプレイと店内全体に音が鳴るというリッチメディア
- 老若男女さまざまな人にアプローチできるリーチ力
屋外広告で音が鳴るものは多くないため、音が使えることを理由に利用を決める広告主もいるそうだ。また、昨今よく「テレビは若年層に弱い」と言われるが、コンビニはその範囲もカバーできる。
リテールメディアというと購買・販促に強いイメージかもしれないが、リーチ力を備えることによって、認知獲得にも効果が期待できる。ファミリーマートに売っている商品の広告はもちろんだが、売っていない商品やサービスの出稿も多く、取引企業数ではそちらが約6割という。
どれだけの人に届けられるかという、リーチ力にご期待いただいていると感じる(松岡氏)
配信メニュー強化で細かいターゲティングも可能
FamilyMartVisionは、設置1万店舗達成のタイミングで、広告のターゲット配信のメニューを強化した。従来は、全国のFamilyMartVisionが設置されている店舗で同じ広告内容が配信されていたが、地域別、都道府県別など、エリアを指定して配信可能になった。その他、位置情報を基に、さらに細かい立地属性でも出し分けできる。
- 駐車場の有無
- 場所の特性(住宅地、繁華街、オフィス街など)
- ○○に近い店舗(学校、病院など)
- 調査結果に基づく地域住民の属性(年収が高い住人が多い地域など)
たとえば、「駐車場がある店舗ということは、クルマに乗る客が来店するので、そうした客をターゲットとして自動車メーカーや自動車保険の会社が広告を出稿する」「大学の近くなら大学生が多いだろうから、学生向けサービスの広告を出稿する」のように、かなり細かくターゲティングできる。もちろん、細かすぎるとボリュームが出ないので、そこは考慮する必要がある。
FamilyMartVisionは、Web広告のように無限に広告在庫を生み出せるわけではない。効率やビジネスメリットと折り合いをつけつつ、広告主様のご期待に添えるような配信面を考えていく(中野氏)
多様なメニューで効果測定が可能
リテールメディアに限らず、広告主企業に出稿を促すには、精緻な効果測定ができることが必須条件だ。FamilyMartVisionは、以下の3つの検証メニューをサポートしている。
- ファミリーマートのPOSデータや、ID-POSによる購買行動の分析
- 「ファミペイ」アンケートによる来店者へのアスキング
- AIカメラによる視認分析
POSデータの分析はリテールメディアなら定番だが、ファミリーマートの決済アプリである「ファミペイ」にアンケート機能があるため、広告接触について購入者に直接質問できるのが差別化ポイントだった。さらに、FamilyMartVisionのモニタに設置されているAIカメラによって、年代、性別を推定したうえで、どれくらい見られたのかを広告主に提供する、視認分析のメニューが追加された。
物が売れたかどうかだけだと一過性になる。その先どう使うのか、認知から購買までファネルをイメージして、計測し数値を出すことで、メディアとしての価値をご理解いただける(中野氏)
また、この3つ以外にも、広告主からの要望があればリーチ検証のような調査も実施するという。テレビCMとFamilyMartVisionのリーチを計測し、FamilyMartVisionならではのリーチがどのくらいあるのか広告代理店とともに計測した例もある。その際には、ファミリーマートが所有するデータの活用を担うデータ・ワンと共同で検証を進め、結果を広告主に提供する。
理想としているのは、FamilyMartVisionがテレビやYouTubeなどと同列にメディアプランニングに並べてもらうことだ。その時に、FamilyMartVisionだけ効果測定できないとしたら、プランニングから外れてしまう。そういう意味でも、他のメディアと同様に効果測定できて同一の効果指標を目指している。
オリジナルコンテンツで新たな店舗体験を提供
FamilyMartVisionは、店舗体験を楽しくするメディアを目指して運営が始まった。このため、広告だけでなく、ニュースやクイズ、アート、ミュージックビデオ、お笑いコンテンツなど、さまざまな番組を配信している。2023年度は合計で約1,000種類の番組コンテンツを配信し、新たな店舗体験を提供していて、これがファミリーマート店舗への集客増加にもつながっているという。
しっかりしたコンテンツを作って届けることが、来店を楽しくすることにつながる。そのうえで、お客様が欲しい情報を届ける。この両方を併せ持つことで、いいメディアになることを目指している(中野氏)
他メディアや店舗施策との連動が効果的
FamilyMartVisionを認知獲得で利用する企業が増えているが、業種的には、官公庁、エンタメ系、金融系、通信業界、人材業界、自動車関連など、幅広い業種の広告主がいる。
枠は15秒で2週間が最小単位だが、コンテンツタイプの長尺クリエイティブの場合は、2枠つなげた30秒でも出稿できる。すでに年間契約で出稿を決めている企業もある。そのような企業はFamilyMartVisionだけで広告展開しているのではなく、テレビCMやWeb広告と併用している。
認知でFamilyMartVisionを使い、Web広告で獲得するという役割分担が可能。だからこそ、多方面のメディアを使っている企業に利用していただいているのではないか(中野氏)
ファミリーマート店舗内の販促利用では、FamilyMartVision単体ではなく、売場連動企画が効果的だ。利用が多いのは飲料で、冷蔵ケースに大きなPOPを配置するなどの店内装飾と連動させることで、売上が大きく伸びる。
代表的な例が、「コカ・コーラ」ブランド×ファミリーマートの「ファミチキ」のセット販売プロモーション(2023年4~5月)だ。キャンペーン中の併買率は、実施前と比較すると全店ベースで約6~7倍。また、FamilyMartVision設置店舗は未設置店舗の売上118%という、高い販売実績だった。
さらに、店頭施策、「ファミペイ」アプリ内のバナー広告、FamilyMartVisionの接触状況別で購買件数の上昇率も検証した。バナー広告とFamilyMartVisionの両方に接触したグループの購買件数の上昇率がもっとも高い数値を示しており、併用が店頭での商品訴求力をさらに高めることがわかった。
中野氏によると、この検証ではリピート意向や継続購買も計測している。そこからわかったのは、売場連動によって、新規ユーザーの獲得がぐっと上がったということだ。そもそもコンビニは新しい商品にチャレンジすることの多い場だが、目立つPOPを出すなどの売場連動企画で、新規ユーザーがさらに獲得できる。
その他、保険会社とVTuberによるタイアップ広告で、商品の特徴をクイズ形式で紹介するものがある。このようなコンテンツタイプの広告では、VTuberの世界観の中でいかに説明するかがポイントとなる。
FamilyMartVisionでは、どのようなクリエイティブが効果的か
ディスプレイが3つつながった横長のデジタルサイネージはあまり例がなく、どのようにコンテンツを作ると効果があるかは、まだ研究中だ。ゲート・ワンでは、アンケートデータとAIカメラによるアイトラッキングから検証を行っている。
FamilyMartVisionの活用パターンは、主に以下の4つに分類される。
- ダイナミック(3画面を横長に1の画面とした動画)
- 真ん中静止画/左右動画
- 真ん中動画/左右静止画
- 3画面同一動画
検証内容はゲート・ワンのリリースにあるので興味があれば参照していただきたいが、伝えたいメッセージの内容と要素量に応じて、適切なパターンを選択することが重要だ。傾向としては、以下のようなことが言えるようだ。
- あらゆるケースでもっとも効果が発揮しやすいのは、ダイナミック
- 伝えたい要素が多い場合は、真ん中静止画が効果的
- メインは動画、かつ静止画でのメッセージがシンプルな場合は、左右静止画
- 動画1点集中なら、3画面同一動画
また、FamilyMartVisionのディスプレイはレジ上にあるが、レジに並んでいる人だけが見ているわけではない。実は、入店時に見る人も多く、キャッチーな音が聞こえたので売場回遊中にわざわざ見に行くというケースもある。どういうタイミングで何を伝えるか、そのためには面をどう使うのか、という考え方がポイントとなる。
我々も、メディアプランニングやクリエイティブプランニングについて、データを基にアドバイスできる(中野氏)
テレビやYouTubeと並ぶ、新しいメディア
相性のいい業種、商品・サービスは、当然ながら第一にはファミリーマートに商品を置いている企業だが、リーチ力もあるので認知獲得にも効果がある。つまり、結論としては「全部」だと中野氏は言う。
全年齢に幅広くアプローチできるのが最大の特徴。その上で、ターゲティング配信ができる。いろいろな課題や目的に応じて、対応できるメディアになってきた(中野氏)
リーチ力を追求するなら、「FamilyMartVisionで放映されているコンテンツを見るために、ファミリーマートに人がやってくる」レベルのメディアに成長することで、広告主にとっても店舗運営者にとってもメリットがある。
ただし、FamilyMartVisionはファミリーマートに行かなければ見られない。一方で、テレビは非常に多数の人が見ているし、家で座って見ていることが多い。また、YouTubeは、また違うシーンで見ている。既存メディアをリプレイスするというよりは、複数のメディアを組み合わせて使うときに、FamilyMartVisionが必ず入ってくるというのが理想だ。
FamilyMartVisionは、テレビやYouTubeと並ぶ、新しいメディア。「ファミペイ」アンケートによるデータと、カメラでとれるアクチュアルデータの両方を持つことで、非常に強くなると確信している(松岡氏)
今後は、配信ターゲットの柔軟性を増やすことや、カメラによるオーディエンス計測の追求を考えていると松岡氏は言う。
これから他メディアと組み合わせたときの効果について実績を出し、広告主に知ってもらうフェーズに入る。視聴率や来店者数を作れるメディアなので、そのためのコンテンツや見せ方の工夫を考えているところだ(松岡氏)
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オリジナル記事:メディアプランニングに新しいメディアとして参入する「FamilyMartVision」 | インタビュー
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