人気アパレルブランドを展開するユナイテッドアローズでは、会員カードデータ基盤のCRM(Customer Relationship Management|顧客関係管理)を活用し、いち早くLINEや公式アプリで顧客とのコミュニケーションを積極的に行ってきた。「Web担当者Forumミーティング 2022 秋」では、ユナイテッドアローズのCRM推進チーム 池田 沙貴子 氏が登壇。その成功・失敗についてエピソードを交えて紹介した。
ユナイテッドアローズがCRMで大事にしていること
1989年の創業以来、セレクトショップの先駆けとしてアパレル界を牽引するユナイテッドアローズ。さまざまなターゲット層に応じて、ビューティー&ユース ユナイテッドアローズ、ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシングなどのブランドを展開している。
社是である『すべてはお客様のためにある』を、すべてのスタッフの基本姿勢・根幹としており、当然ながらCRMもその発想が基盤となっています。(池田氏)
そもそもCRMとはなにか
CRMとは、Customer Relationship Managementの略称であり、顧客管理基盤として活用され、リピート促進、顧客から得る収益(LTV)の最大化を図るためのツールとして捉えられていることが多い。
池田氏は「そのすべてが正解であり、企業のユニークネスによってそれぞれ異なる」と述べ、「自社のビジネスや商品、サービス、そして顧客がどんな方で、どんなニーズがあり、CRMを活用することで何が最適かを考えることが根幹になるのではないか」と語る。
ユナイテッドアローズのCRMでは「商品の使用体験」と「接客体験」に対する満足度をかけ合わせた、顧客満足度を評価している。この際の「接客体験」とは、店舗でのコミュニケーションやアプリやLINE、メールなどを通じて提供されるコンテンツであり、それぞれに満足して初めて次のリピートにつながると考えている。
つまり、ユナイテッドアローズのCRMとは顧客満足度を上げ続けること。それが長期の売上につながっていくというわけだ。
GOAL・KGI・KPIをどう設定するか
ユナイテッドアローズでは、以下のようにGOAL・KGI・KPIを設定している。
- GOAL:生涯顧客化
- KGI:顧客ロイヤルティ(LTV)=継続×頻度×単価
- KPI:稼働会員数(維持率・F2・新規会員数)
KGIであるLTVは、継続期間や購買頻度、単価を加味して算出している。KPIは「1年間の稼働会員数」としており、維持率やF2(初回から2回目の購入をした割合のこと)、新規会員数が含まれる。各施策はこれらに効果が出るように取り組んでいるという。
売上に直結する公式アプリの仕掛け
具体的な施策として、2022年3月にリニューアルした「公式アプリ」を紹介。オンラインストアと店舗両方の会員証機能を持ち、商品の閲覧・購入はもちろん、スタッフのスタイリングが閲覧できるといった機能が充実しており、半年間でMAUは約45万UUとなった。
バーコードスキャンの利用率アップ施策
アプリにはバーコードスキャン機能がある。店舗で気になった商品のバーコードをスキャンして「お気に入り」に登録したり、オンラインストアで購入したりできる便利な新機能だ。
しかし、リニューアル当時は利用率が低かったことが課題であった。そこで、店舗に設置したビーコンでお客様の来店時にアプリを検知し、バーコードスキャンを促すメッセージを配信。店内でスキャンを実行した方には、プッシュ通知でお気に入り登録を促し、さらに在庫や値下、再入荷の情報をお知らせした。
この施策後、バーコードスキャンの実行人数が増加し、購入率は2割以上高いことが判明した。
アプリストアのオーガニックDL数アップ施策
今回のリニューアルのタイミングで、ASO(アプリストア最適化)を実施。これまではアプリストア内で「ユナイテッドアローズ」を検索すると30.4位に表示されていた。キーワードやクリエイティブの最適化を行うことで、上位に表示されなかった問題も解決。iOSではオーガニックのダウンロード数が4割以上増えた。
キーワード対策
キーワード対策は丁寧に実施したという。順位を上げたいキーワードをメンバー内で目線合わせして選定し、App Storeのコネクトキーワードやディスクリプション、アプリタイトルなどを細かく変更して、順位が上がるか否か、PDCAを回しながら改善を行った。
キーワードについては社名・競合他社名のほか、ファッション、アパレルなどの一般ワードも対策した結果、1〜3位表示が対策前と比べて136%改善。成長率を鑑みながら統廃合を行い、現在は最適な状態となっているという。
なお、Androidは成長率がやや弱いが、リニューアル直後のカテゴリ変更の影響によるもの。キーワード順位のリセットが発生し、前年と比べ弱めになっている。その認識のもと、注力していく予定だ。
クリエイティブ検証
池田氏は「せっかくお客様がキーワード検索でアプリを見つけても、イメージが悪ければダウンロードしない」と考え、スクリーンショットのA/Bテストを数多く実施した。
「お気に入り機能」「会員証機能」「EC」「多機能性」「ブランド強調」といった訴求ポイントを複数組み合わせて検証。その結果、CVRが変更前より2.4ポイント上がり、複数枚の着用画像を見せることがダウンロード率向上につながること、横組みより縦組みが良いなどの知見も得られた。
顧客のレビューを軸にしたUI/UXの改修
ASO対策によって、競合ワードの検索時に2位に表示され、PVそのものが増加したが、ダウンロード数は比例して順調に伸びたわけではなかった。そこで課題とされたのが、リニューアル直後のアプリ評価であり、Androidは3.0をキープしていたもののiOSで1.4と低く、それがダウンロードのモチベーションを低下させている可能性が伺えた。
そこで低評価のレビューから「お客様の不満」となっているポイントを抽出。それに基づいてUI/UXの改善に精力的に取り組み、現在の評価はAndroidで3.3、iOSで3.0にまで上がってきている。UI/UXの改善については都度取り組んでおり、その中から次の施策が紹介された。
改修事例:アイテムタブでの性別切り替え
検索エリアでの性別の表示がわかりにくいとの指摘があり、アイテムタブでの切り替えを実施した。同時に通知許諾の際にも性別を入力することにし、回答によって性別による表示フィルターが予め設定されるようにした。
改修事例:「購入・お気に入り追加ボタン」の固定表示
「お気に入り追加ボタン」がわからなくなってしまうという問題が発生。そこで、購入ボタンとともに画面下部に固定表示し、いつでも押せるようにした。また、押したことがわかるように「触覚タッチ」を施した。
改修事例:ヘッダーにストアブランドタブを追加
ブランドに顧客がついていることが多いため、ブランド検索・選択を容易に行えるよう、ヘッダーにブランドタブを追加した。また「スタイリングをブランド別、店舗別一覧で見たい」という要望があり、実は機能として存在していたもののわかりづらかったため、タップ場所をわかりやすく目立たせた。
池田氏は「UI/UXの改善についてはたくさん取り組んだが、大切なのはCRMの目線だと感じた」と語り、特に重要なこととして次の2点を挙げた。
- CS部門と連携し、レビューに対して週次で必ず返信をすること
- お客様のご意見をベースにUI改修の改善項目や優先度付けを行うこと
レビューに対して誠実に対応していくことはもちろん、その内容をアプリ担当だけではなく、CSなど全社にフィードバックしていくことが大切。レビュー返信率は100%を維持し、真摯な対応はもちろん、改善項目や優先度付けに役立て、粛々と改修しリリースを繰り返している(池田氏)
レビューに真摯に対応することによって、かつて「1」と評価した顧客も再評価することが増え、結果的にアプリの評価の改善につながっている。また「改善していただいてありがとうございます」「応援しています」というような温かい声も届くようになったという。
LINEを活用したパーソナルなコミュニケーション術
次にLINEを活用した事例を紹介する。ユナイテッドアローズのLINE公式アカウントは、2016年から運用を開始。2017年12月からID連携のアカウントConnectを導入、2020年からアプリと同様にLINEでも店舗で仮会員証が発行できるようになっている。
なお、ID連携のインセンティブキャンペーンは年2回実施しており、2018年の友だち数は約15万人だったのが、2022年8月には172万人に増加した。
入り口はアプリと同様、店舗来店時の友だち登録が多く、その他はWebサイト上やメルマガアプリ、他のチャンネルからの来訪となる。「友だち登録」を行うと、ウェルカムメッセージが届き、その後ID連携を促進する通知が送られる。ハウスカード会員以外には店舗内でリッチメニューの中から仮会員証の導線があり、LINEによって簡単に仮会員になれるようになっている。
プッシュ通知の活用方法
LINEの友だちには「ブランドからのお知らせ」「季節の特集」「ルックブック」などをプッシュ送信。また年2回の夏・冬セールやキャンペーンのお知らせも送っている。オーディエンスのセグメントを細やかに設定できるので、上手く調整しながら効果をあげる努力をしているという。
配信ターゲットとしては、主に以下の3つを利用している。
- ユーザーIDアップロード(会員IDとLINE IDを連携済みの顧客)
- クリックターゲティング(過去の配信メッセージのリンクをクリックした顧客)
- インプレッションターゲティング(過去の配信メッセージを開封した顧客)
今後は、LINE Tagのトラッキング情報を活用した「ウェブトラフィックオーディエンス」への配信も本格化していくそうだ。
1.のID連携している顧客は、カード会員でもあるため、データをもとにパーソナルなメッセージを送ることも多い。コミュニケーションの設計については、Salesforceマーケティングクラウド経由のSSJS(Server Side Java Script)を活用している。
LINEのシナリオづくりはかなりの労力が必要。そのため、現状は11個のシナリオを軸に、細かなステップがいくつかある程度です(池田氏)
最も反応が良いのは「お気に入り」に登録している商品の情報だという。「在庫がわずか」「再入荷」の情報は反応が高く、メールよりも効果があるという。「○人がお気に入りにしている」といった情報を入れることで、クリック率も上がっている。
重要視するポイントはID連携
こうした施策を通じて、ユナイテッドアローズが重要視してきたのが「ID連携」だ。ID連携をしているお客様へのセグメントシナリオは、通常のセグメント配信に比べて非常に高いコンバージョンレートを獲得できている。今後はシナリオ展開数を増やして、ID連携でつながる顧客を増やしていく予定だ。
池田氏は「せっかくのCRM基盤を生かして、デジタルにおいても顧客に対してよりパーソナルで、店舗とも変わらない接客をしたい。その思想のもとでコミュニケーション設計をしている」と語る。
なお、LINEにおけるファネルは「見込み客・ライト顧客」から始まり「ブロック・スルー友だち」「アクティブ友だち」「ID連携」となり、よりコミュニケーションが濃くなっていく。LINEのKPIは、友だちの母数ではなくID連携のユーザー数にしているという。そのため、ID連携を促すために、インセンティブ(自社ポイント)を付与するキャンペーンを年2回実施している。
オムニチャネル化で、維持率やLTVも向上
ID連携を開始した2018年からまもなく5年目、ようやくデータが溜まってきたところで、その分析を積極的に行い、施策に生かしていくという。
すでにID連携については、年2回のキャンペーンのほか、カルーセル広告や友だち追加広告など各種広告も実施しており、どの獲得経路が一番効率的か検証している。新たなチャレンジとして、過去開催のキャンペーンについて、自社の会員データと突き合わせて分析しはじめた。
2020年12月に実施したキャンペーンでID連携したユーザーの2021年の継続率は、「店舗:75%」「E:C88%」「オムニチャネル:93%」だった。この結果からも、店舗での新規の会員登録を動線としながら、ID連携に引き上げていくことがCRMにおいても維持率向上に高く貢献していることが伺える。
顧客満足度を上げ続けるために
最後に池田氏は、CRMを意識した各チャネルの施策について「ぜひやっていただきたいこと」として3点挙げた。
まずはGOAL設定
自社でKPIの分解や自社のシェアリングについてチームや部署で語り合い、そのゴールに向かってさまざまなチャネルでの取り組みに落とし込むこと。自社アプリの見直し
自社アプリについてダウンロードの経路を把握し、導線を見直すことで新たなユーザー獲得につながる。UI/UXの改善には顧客の声をダイレクトに生かし、その際、レビューに対するアクションやアクティブサポートを行うことが大事。LINEはID連携を使いこなす
LINEは配信コストが高く、プッシュ配信だけではROIを合わせるのが非常に難しい。ただしID連携を使いこなすことで効果は上がる。
「特別なことはしていないが、顧客満足のために何ができるのか、何をしたらいいのかという意識を忘れずに取り組むことで成果も出た。そうした意識を忘れずにできることを行っていくのがCRM」と語り、まとめの言葉とした。
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オリジナル記事:ユナイテッドアローズの担当者が語る 「アプリやLINEを活用したCRM活用の成功と失敗」 | 【レポート】Web担当者Forumミーティング 2022 秋
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