はじめに
前回は、ユーザーインタビュー実査のオープニング(導入)について、本物の会話例をとりあげながら、ていねいに解説しました。
今回は、引き続きインタビューの中心部分での会話テクニックを解説していきます。
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今回紹介するユーザーインタビューは、筆者が本記事を執筆するために、公開許諾をとったうえで実際に行ったものです。通常、インタビュー内容は機密保持のため公開されることはありません。全文公開はたいへん貴重な資料となりますので、ぜひこちらからダウンロードしてください!
インタビュー対象者の 事前アンケートシートの回答を確認する
インタビュー対象者には、第11回で紹介した「事前アンケートシート」を送り、回答をもらっています。
Aさんのアンケート回答は以下のとおりです。インタビューでは、このアンケート回答をAさんに見せながら、話をしていきます。
質問 | 回答 | |
---|---|---|
1 | お持ちの資格をすべて教えてください | TOEIC 860点、英検準1級 |
2 | そのうち、いちばん最近に取った資格を教えてください | TOEIC 860点 |
3 | お持ちの語学の資格をすべて教えてください。また得点(TOEICなど)や級(英検など)も教えてください | なし |
4 | あなたは学生ですか、社会人ですか | 社会人 |
5 | ここから、もっとも最近に取った資格についてお聞きします。その資格を取ろうと思ったきっかけを教えてください | 洋画にハマったことをきっかけに海外留学や給与Upなどに優位に働くのではないかと思い、受験した |
6 | その資格以外に検討していた資格はありますか。そのなかで、なぜその資格をえらんだのですか | スピーキングとライティングが苦手だったのものの、リスニングとリーディングは量をこなせば点数はしっかりと取れると思い、受講した |
7 | その資格を取ることで、どんなメリットがあることを期待していましたか | 給与UPや中途などの選考での合格率UP |
8 | その資格を目指すにあたり、不安に思ったり、気になったりしたことを教えてください | リスニングの勉強においてこれまでの人生でなかなか結果がでたことがなく、とても大変であったから |
9 | 受験までどのように勉強を進めたのか、教えてください | 受験まではリスニングをほとんど勉強時間に費やして、リスニングの問題を解くことでリーディングの勉強にも繋げるような意識で勉強した |
10 | 受験までの期間、どのようにしてモチベーションを維持したのか(あるいはしなかったのか)、教えてくだい | モチベーションはあまり維持ができなかったので、聞き流すだけでもと思いリスニングをとにかく聞いて、机に座らなくても勉強ができる状態にした |
11 | 具体的にどんな時間帯に勉強をしましたか。それはなぜですか | 音読などもしていたので、移動時間や寝る前などが多かった |
最初はインタビュー対象者の 属性を確認する軽い質問からスタート
今回の事前アンケートシートの冒頭には、第10回で説明したとおり、インタビュー対象者の属性についての軽い設問が4つ並んでいます。
インタビュー対象者の属性はリクルーティングで絞り込んでいます。しかしリクルーティング条件に合致しているということで面談しても、いざちゃんと聞いてみると、細かい例外はよくあります。
この場で齟齬を明らかにするのは、インタビューを止めるためではありません。齟齬をふまえて、これからする質問の言い回しやインタビューの重点を微調整するためです。
また、属性を尋ねるこれらの軽い質問は、インタビュー対象者にとってこの先の質問に答えるウォーミングアップにもなります。前提を共有しなおすことで、この先の「軸となる質問」と「その場その場で掘り下げる質問」を話しやすくする潤滑油になります。
「軸となる質問」と「その場その場で掘り下げる質問」については、第9回で解説しています。
- 羽山:さっそくお伺いしていきたいんですけど、まず概況の確認からで、お持ちの資格という点で書いていただきました、TOEICの860点、素晴らしいですね。(資格は)語学系以外にもあったりしますか。
- Aさん:語学系以外はとくにはないですね。
- 羽山:はい。ほかの語学以外の資格とかでも。
- Aさん:免許ぐらいしかないですね。
- 羽山:運転免許。とすると、TOEICと英検と運転免許という感じが今お持ち。
- Aさん:はい。
この4つの軽い質問は、あまり時間をかけず進めます。ここで時間を使うと、あとに続く本当に聞きたい質問の時間が少なくなります。
「軸となる質問」と 「その場その場で掘り下げる質問」で ユーザーの深い価値観に分け入る
ここからインタビューの中核です。「軸となる質問」と「その場その場で掘り下げる質問」をして、インタビュー対象者の深い心理に入っていきます。
「軸となる質問」はシンプルです。「アンケートに書いた回答がどういうことか、もう少し詳しく話してください」と切り出します。インタビュー対象者の話すきっかけをつくります。
- 羽山:(アンケートの)この5番の質問なんですけど、TOEIC860点取ろうと思われたきっかけを教えていただきたいというところで、アンケートでは「洋画にハマったことをきっかけに海外留学や給与Upなどに優位に働くのではないかと思い、受験した」と書いていただいたんですけども、こちら、もう少し詳しくどういうことかお話いただいてもよろしいですか。
会話がはじまったら、インタビュー対象者の話の切れ目で「その場その場で掘り下げる質問」をします。
どれくらいくりかえして掘り下げるのか、たとえば筆者はアンケートの「設問5」の深堀りだけで19回の質問をしています。執拗に「なぜ」をくりかえします。
「その場その場で掘り下げる質問」の さまざまなパターン
ここから「その場その場で掘り下げる質問」にどのようなパターンがあるのかを、Aさんとの会話をひとつひとつ取りあげて解説します。
ちなみに、参考までに言うと…筆者はものすごい「非コミュ」です。飲み会での雑談は苦手ですし、その場その場で臨機応変に質問を考えようとすると、すぐにあたまが真っ白になります。筆者は反射神経で会話ができる人間ではないのです。
それゆえに筆者は、質問のバリエーションを大量にストックするようになりました。無限の展開が考えられる飲み会での雑談と異なり、インタビューの質問は有限のバリエーションです。覚えることでなんとかなるのです。
質問パターン1:直接的に理由を掘り下げる
インタビュー対象者の発話について、その理由や背景を訊きます。対象者が抱えている深い心理は、この質問を通じて現れてきます。最もよく使う会話術です。アンケートの設問5への掘り下げる質問19回のうち、5回はこのパターンです。
- 「〜とは、なぜですか」
- 「〜とは、なんのためにするのですか」
- 「〜とは、どうしてそう思ったのですか」
- 「〜のきっかけは、なんですか」
- Aさん:もともと海外の企業で働きたいなっていう思いがあり、そこからいつか英語は習得しなければならないと思ってたんですけど、いつかいつかと過ごしていて。一時期、洋画にハマって、それをきっかけに、このテンションで英語勉強すれば続くんじゃないかと思って、TOEICを受験するというきっかけにつながったという形です。
- 羽山:なるほど。海外の企業で働きたいと思われていたっていうのは、なにか背景があるんですか。
- Aさん:そうですね。大学は早稲田に通っていて、周りもけっこう外資系に就職したりする中で、自分は日本のベンチャーに就職したんですけど、いつか(外資系を)目指せるようなポジションにいるのってけっこう大事かなって考えているうちに、そういう選択肢もあるので、取ろうかなと思いました。
Aさんとのやりとりでは「海外の企業で働きたい」というぼんやりとした言葉から、掘り下げる質問により「外資系に就職した周りと自分を比較している」「いつかは外資系を目指したいので、その立ち位置をキープしたい」という心理が明らかになりました。
筆者はAさんへ、ここからさらに「直接的に理由を掘り下げる」質問を重ねています。
- Aさん:外資系企業で働くっていうイメージです。
- 羽山:なるほど。外資系企業ですね。外資系企業だと英語が必要と思われたのはなぜなんですか。
- Aさん:やっぱり楽天とかマッキンゼーとか見てると、中途だと英語が話せて、かつ、ほかの企業での実務経験がある。5年以上みたいな条件なので、実務経験よりも英語を最初に取得しといた方が後々楽になるんじゃないかなと思って、早めに習得したっていう形です。
1回の「なぜ」で満足せず、背景をどんどん掘り下げることで、深い心理にたどりつけます。「外資系企業で働くため」という抽象的な回答が「外資系企業の中途採用条件で求められる英語スキルを満たしたい」という心理であると明らかになりました。
質問パターン2:あいまいな言葉を明確にする
- Aさん:大学は早稲田に通っていて、周りもけっこう外資系に就職したりする中で、自分は日本のベンチャーに就職したんですけど、いつか(外資系を)目指せるようなポジションにいるのってけっこう大事かなって考えているうちに、そういう選択肢もあるので、取ろうかなと思いました。
- 羽山:なるほど。そういう選択肢というのは海外で働くっていうことですか。
- Aさん:そうです。
会話ではあいまいな指示語が飛び交います。なんとなくわかったつもりで進めると、あとになってハシゴが外れることがあります。Aさんとの会話では「そういう選択肢」が何を指しているのかがあいまいだったので、明らかにしています。
- 「〜というのは〜ということですか」
- 「〜というのはXとYのどちらですか」
「あいまいな言葉を明確にする」パターンの質問は、インタビュー対象者を不用意に誘導してしまいやすい質問でもあります。「〜ということですか」と質問するとき「〜」の部分に、あなたが期待する答えを埋めないようにしましょう。
インタビューの場では、インタビュー対象者はつねにあなたの顔色を見ています。対象者にとって、あなたから出た言葉を細かく訂正するよりも、あなたの言葉に同調するほうが楽なのです。「(何か違うんだけど、まあ、それでもいいや)」というように、容易に誘導されます。
Aさんとの会話では、Aさん自身が数分前に口にした「海外で働く」という言葉を引用することで、筆者の概念を押しつけるのを避けています。なお、もし誘導してしまいそうで不安なときは「そういう選択肢とおっしゃったのは、何を指していますか」というオープンクエスチョンにすることで、誘導を防ぐことができます。
筆者の続く質問が「あいまいな言葉を明確にする」パターンの応用です。2つの選択肢を出すことで、言葉の意図を明確にしています。
- 羽山:海外と働くとおっしゃってるのは、外資系企業で働くという意味ですか。それとも、本当に物理的に例えばアメリカなり、ヨーロッパなりに移住するということをおっしゃってますか。
- Aさん:外資系企業で働くっていうイメージです。
「2つの選択肢を出す」質問は、前述にも増して対象者を誘導しやすいです。2つ選択肢を出されたとき、どちらもぴったりの選択肢でなかったときに、対象者はいくらかでも近いほうをえらぼうとします。「(どっちも違うんだけど、あえて言うなら、こっちかな)」という感じです。
例を挙げてみましょう。いまの時刻が10:30だったとしてください。インタビュー対象者に「今は10時に近いですか、11時に近いですか」と尋ねたらどうでしょう。このとき、もしあなたが「10時に近い」という答えを期待している表情を少しでもしたら、対象者はすかさず忖度した答えをします。
リスクを強調しましたが、インタビューでは対象者からどうしてもぼんやりとした発話しか引き出せずに困ることが、よくあります。そのとき「あいまいな言葉を明確にする」や「2つの選択肢を出す」の質問をすることで、対象者に「どのような粒度で話せばいいのか」をナビゲートできます。
質問パターン3:時系列を確認する
- 羽山:英語取らなきゃなっていうのは、いつぐらいから考えられていたことなんですか。
- Aさん:中学生とか高校生とかから資格は欲しいなと思ってたんですけど、やっぱり日本で生活してて、そんなになんか外国人と話す機会とかもないので、危機感がなく時間が経っていったみたいなイメージです。
会話では時系列がぐちゃぐちゃになりやすいです。出来事の因果関係を知るために、時系列を把握します。
- 「〜というのは、いつのことですか」
- 「〜と〜は、どちらが先ですか」
また、時間についてあいまいな表現が出たときも確認します。筆者の経験では、インタビュー対象者が「ちょっと前のことです」と言うので、数ヶ月前のことかと思って、念のため「いつのことですか」と訊くと「3年くらい前ですね」ということがありました。
おわりに
今回は、ユーザーインタビューの中心部分について、本物の会話例をとりあげながら具体的な会話テクニックを見ました。インタビューの会話術は「どのような質問をするか」に集約されます。多くのバリエーションを自分のなかに記憶しておくことです。
次回も、引き続いて「質問パターン4」以降を解説していきます。
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オリジナル記事:ユーザーインタビューで相手の本音を引き出す! 心理を掘り下げる質問テクニック②【発話録サンプル付】 | UXデザインはじめの一歩 ーインタビュー技術を磨こう!
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