デジタル広告が急増する中で、やはり有力なメディアといえば、GoogleやYahoo!など検索エンジンへのリスティング広告だ。広告をいかに効果的に作成し、展開していくのか。激戦に飛び込もうとしている「リスティング広告初心者・初級者」に向けて、アドテク界ではマスターとして慕われるアナグラムの田中広樹さんに、オススメの本をご紹介いただいた。
難解な公式情報から「必要な部分」だけを抽出している本
今回、オススメの本を初回してくれる田中広樹さんは、リスティング広告運用で知られるアナグラムで広告運用の現場を牽引し、「Google 広告ヘルプコミュニティ」でプロダクトエキスパートとしても活動。社内外からの信頼も厚い。そんな田中さんが紹介する1冊目は、リスティング広告の基本的な考え方や運用方法など“全体感”が1冊でインストールできる本だ。
1冊目 『いちばんやさしい[新版]リスティング広告の教本』(杓谷匠、田中広樹、宮里茉莉奈:著 インプレス:刊)
リスティング広告を始める際にまず突き当たるのが、Google広告やYahoo!広告などのヘルプページの難解さだろう。当然正しさは担保され、情報が詳細まで掲載されてはいても、専門用語が多く、「知っておいた方がいいかもしれないけれど、知らなくてもなんとかなる情報」も多い。そこから、リスティング広告を行う上で、基礎中の基礎となる骨子部分を抜き出し、さらに平易な言葉でまとめたのが本書だ。
著者に名前を連ねているので、ちょっと手前味噌かと思われてしまいそうですが(笑)、基本的な考え方や進め方など、全体を捉えて理解するのに極めて最適な1冊だと自負しています。新版といいながらも4年前のものなので、細かい仕様や操作のところはかなり変わっています。
でも、この本で基礎的な考え方をしっかり理解して“取っ掛かり”とすれば、新しい仕様や技術、手法などを学んだ時に、すんなり自分のものにできると思います(田中さん)
特に近年のリスティング広告は自動化技術が進んでおり、設定後の運用はほぼ手放しでできるようになった。しかし、最終的に自動化を選択するとしても、「なぜそうなるのか」「どういう考え方で最適化されるのか」といった仕組みを理解していなければ、何か不具合が生じた時や、さらなる効果を出したいと考えた時にコントロールができなくなる。いざという時の対応に差がつくというわけだ。「まずは一読しておくことが望ましい本」といえるだろう。
ビジネス目線でリスティング広告の考え方を学ぶ本
そしてもう1冊、基礎中の基礎を知るために読んでおいてほしいのが、こちらの本になる。
2冊目 『新版 リスティング広告 成功の法則』(阿部圭司:著 ソーテック社:刊)
著者の阿部圭司はアナグラムの代表取締役なので、今度は“よいしょ”と思われるかもしれませんが(笑)、ビジネス視点でリスティング広告を捉えたオススメの本です。もともと阿部は大手アパレルメーカーからWebディレクターを経てリスティング広告の世界に入ったこともあって、ビジネスの当事者感覚というのを持ち合わせています。ビジネス視点で役割や目標などを踏まえて取り組む方が、やっていても面白いし、成果も出ると思います(田中さん)
リスティング広告を突き詰めると、業務の範囲での良かった/悪かったに終止する傾向がある。いわばコンバージョン単価(CPA:Cost Per Acquisition)やコンバージョン率(CVR:Conversion Rate)などの数字に一喜一憂しがちだ。しかし、本来はビジネスの成果を上げることが目的。そのために、「誰に何を伝えるか」という設計が重要になる。そうした本質的な目標や施策設計を、当事者としてしっかりと考えるための内容になっているという。
本書では、KGI(Key Goal Indicator)やKPI(Key Performance Indicator)を踏まえたリスティング広告の活用方法や目標設定、さらに成果が出ない場合のボトルネック解消法などについて幅広く紹介されている。戦略的にリスティング広告を活用する考え方がまとめられている本になる。
2013年発行なので、仕様や操作法などについては古い情報になりますが、「何かあった時に解決策を見出すための基礎となる知識」をこの本から吸収できると思います。だから、当社でも新人にはまず読んでもらうようにしています(田中さん)
非エンジニアでも「デジタルマーケティングに関する技術の基本」がわかる本
続いて田中さんが選んだのは、技術について書かれた本だ。実は田中さんは、学生時代には電波工学を専攻し、NHKで放送エンジニアを務めていたという経歴を持つ。30歳手前でマーケティングの世界に転身したが、「技術的な基礎をしっかり学んだことで、変化が激しい業界でもキャッチアップし続けてこられたという実感がある」と語る。
3冊目 『集中演習 デジタルマーケターのためのテクノロジー入門』(山田良太:著 インプレス:刊)
リスティング広告は、基本的にインターネットを使った集客ゆえに、HTMLがわからない、URLやドメインの意味がわからないという状態では、何かあった時にお手上げ状態になってしまう。そこで、インターネットにまつわる必要最低限の技術について効率的に学べるのがこの本というわけだ。
CookieやIPアドレス、CSSなど、用語だけをとってみても、GoogleやYahoo!のヘルプページに山ほど出てくるので、そういう言葉の意味を知らないと何をどうしていいか、読み解くこともできません。単語が出てきた時に1つ1つ調べるよりも、一度体系的に技術を知っておくことで単語の意味だけでなく、つながりも理解できるので、技術について書かれた本は1冊でもいいからちゃんと読んでおくことをオススメします。技術に関する本の中でも読みやすく、網羅的に書かれているのがこの本というわけです(田中さん)
確かに最初は見様見真似で設定ができても、たとえばGoogle広告の計測タグをカスタマイズして実現しようとした時に戸惑ったという人は多い。そんな時でも基礎的な知識を知っておけば、比較的スムーズに対応できる。さらにいざという時にも逆引きができるため、復習もしやすい。章末に演習問題が掲載されており、知識の定着や振り返りができるのも実践的だ。
それでも「人に任せるからいい」という人もいるかもしれません。しかし、たとえばエンジニアさんなどに設定などを依頼する際、用語や仕組みを知っておくことでスムーズなコミュニケーションが図れます。そうした意味でも、ぜひとも基礎的な技術は押さえておいてほしいと思います(田中さん)
リスティング広告と切っても切れないタグマネージャを実践的に学べる本
リスティング広告を本格的にやり始めるとすぐに突き当たるのが、タグマネジメントツールの取り扱いだ。特に2012年に登場したGoogleタグマネージャはWebサイト上での広告施策に携わる人なら、必修になってきたといっても過言ではない。そこで必読というより、必携なのが次の本だ。
4冊目 『実践 Google タグマネージャ入門 増補版』(畑岡大作:著 インプレス:刊)
発行は2015年なので決して新しい本ではないが、未だに売れ続け、デジタル広告を担当する人のバイブル的な存在となっている。
広告の計測とタグの実装は、もはや切っても切れない関係になっています。エンジニアさんに依頼していたものが、タグマネジメントツールを使えば、マーケター自身できめ細やかに思い通りの設定ができるようになります。しかし、初めからヘルプページを読むのは難しいと思います。Googleタグマネージャはかなり直感的に使えるとはいえ、ポイントをおさえた本でコツをつかんでおいた方がスムーズに扱えるでしょう(田中さん)
本書は基礎的な情報だけでなく、さらに実用的なのは、実例が多く、初心者が形を真似しながら学べるところだという。
ケースごとに実践例やヒントとなるものが多く紹介されているので、参考にしながら自分なりに手を動かしていくことができるのがいいですね。全部覚える必要などなく、頭の中で困った時にこの本のどこを読めばいいか、インデックスみたいなものができていると心強いです。特に3冊目の『集中演習 デジタルマーケターのためのテクノロジー入門』と一緒に使えば、リスティング広告の運用も中級レベルにステップアップできると思います(田中さん)
施策側から見た分析や改善方法を網羅的にまとめたバイブル的1冊
そして、田中さんが最後に紹介するのは、これまでの4冊とまったく毛色が違う、ビジネスパーソンの必読書といわれる本だ。1984年に出版され、世界的なベストセラーになったのにもかかわらず、2001年まで日本語訳の許可が下りなかったという曰く付きで、かつては「幻の名著」ともいわれていた。その理由も「日本人に読ませたら成果を出しすぎて貿易摩擦が再燃し、世界的な大混乱になる」と、著者であるゴールドラット氏が懸念したためだというのだ。
5冊目 『ザ・ゴール - 企業の究極の目的とは何か』(エリヤフ・ゴールドラット:著 ダイヤモンド社:刊)
内容としてはシンプルで、利益を上げることを企業のゴールとして、工場の生産性を向上させていく話になっており、投資対効果や収益率、キャッシュフローなどについて触れられ、生産性を測る3つの指標としてスループット、在庫、業務費用などが解説されている。さらに、ゴールへの流れの中でボトルネックを見つけて、どう依存関係にあるか、どう解決するか、変えられないなら他をどう変えるかという話へと展開していく。
本書をリスティング広告の初心者にオススメするのは、この本に書かれた考え方が、そのままリスティング広告で成果を出すためのアプローチと変わらないからです。特定のキーワードがクリックされてもコンバージョンにつながらないのはなぜか、広告はリーチできているのに営業収益につながらないのはなぜか、というように全体の流れを見据えて課題を見つけて解決していく。自身が取り組むリスティング広告でどう成果を出すか、この本にはそのヒントがたくさん埋もれています(田中さん)
どうしてもリスティング広告だけをやっていると、それだけで成果を出そうとしてしまう。しかし、たとえば田舎で個人経営しているカフェで集客しようとすれば、リスティング広告を打つよりも近所にチラシを撒くほうが先のはず。そうしたことも俯瞰しながらリスティング広告に取り組むことで、自身がいま取り組むべき課題や目標値に実感を持つことができる。
小説のようにさらさらと読めるのですが、分厚くてちょっと手が出しにくい人もいると思います。そんな方には、コミックが出ているので、そちらを読んでから活字版を読むとすんなり頭に入ってきますよ(田中さん)
更新情報のキャッチアップ法
デジタル広告は更新情報が多い世界だ。上記の推薦本で基礎的な考え方や技術を知った上で、Googleなどのヘルプページの更新をチェックし、業界的なトレンドやツールの更新情報などをキャッチアップしておく必要がある。
- Google広告ヘルプ:https://support.google.com/google-ads/?hl=ja
田中さんはRSSによる情報収集ツール「Feedly」を契約し、常に海外のメディアなどをウォッチしている。英語の苦手な人は、本サイト(Web担当者Forum)のようなWebメディアを定期的に閲覧したり、情報が早い人のブログチェックをしたりすることも有効だ。
- feedly:https://feedly.com/
田中さんはTwitterなどのSNSも端的に最新情報を得るのに活用しており、特に最近は個人情報保護法やGDPR(General Data Protection Regulation)などの情報を得るため、一次情報となる省庁のサイトも定期的にアクセスしているという。
- 個人情報保護委員会 GDPR:https://www.ppc.go.jp/enforcement/infoprovision/laws/GDPR/
田中さんにとって、本は新しい情報を取りに行くための羅針盤的なものだ。「とりあえずやってみる」が優先されがちなリスティング広告運用も、全体を見渡してからとそうでない場合とでは、その後の捉え方や考え方も変わるだろう。まずはヘルプページを見たり、やみくもにやってみたりする前に、全体感や基礎知識を得るために今回のオススメ本をぜひ読んでみてほしい。
田中広樹
元公共放送の放送エンジニアからのキャリアチェンジで、前職の広告代理店にリスティング広告の運用コンサルタントとしてこの世界に飛び込む。その後、2012年1月にアナグラム第1号社員として入社。広告運用、クルーのブログの編集と自社Webサイトの管理、Googleアナリティクス・タグマネージャー・データフィードなどに関する技術支援、セミナー登壇、社内整備など経営以外の領域をだいたいカバー。お酒が飲めないのにワイナリーの収穫祭に参加する人。書籍「いちばんやさしい[新版]リスティング広告の教本」の著者。
アナグラム株式会社のURL:https://anagrams.jp/
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