Web担当者の役割はこの10年でどう変わり、そしてこれからの10年でどうなっていくのだろうか。「Web担当者Forum ミーティング 2023 秋」では、「企業Webサイト:未来予測2013〜2033 これまでと現在、これから」と題し、事業会社、支援会社の第一線で活躍する4名が登壇。企業Webサイトの過去、現在、そして未来について語り合った。
事業者、支援会社双方の視点からWebサイトの現在と未来を考える
議論に入る前に、パネリストの紹介が行われた。ライオンの長氏は新卒で資生堂に入社し2021年からライオンへ。コーポレート領域でサイトリニューアルや新規事業の支援、コーポレートブランディングの認知戦略の策定を担当している。
富士フイルムホールディングスの石井氏は、大手電機メーカーのハウスエージェンシーを経て、2010年に富士フイルムグループに入社。富士フイルムグループのコーポレートサイトやBtoC/BtoB各種商材サイト・オウンドメディアの立ち上げや運用を経験後、2017年よりデジタルマーケティングやブランディングを推進する部門にてコーポレートサイトのプラットフォームをグローバルで統合するプロジェクトに従事している。
長谷川氏は、2002年にコンセントを設立し、企業Webサイトの設計やサービス開発などを通じ、デザインの社会活用や可能性の探索とともに、企業や行政でのデザイン教育の研究と実践を行っている。
モデレーターの阿部氏は、2008年にコミュニケーションファーム ワンパクを設立。企業のブランディング・マーケティングコミュニケーションの支援を行っているほか、一般社団法人I.C.E(Interactive Communication Exparts)の理事長も務めている。
この10年で変わったことは?
ライオンの場合
まず、長氏がライオンのWeb関連の取り組みについて次のように振り返った。
ライオンのサイトは、1996年に当時の流行(アクセスカウンターなど)を反映した形で最初のWebサイトが公開され、会社案内、パンフレット的な役割を果たしていた。その後、カタログ情報などを掲載するようになり、2010年頃からマーケティング、事業貢献の位置づけで活用されるようになった。現在はブランディング色が強く、企業への共感者を増やす役割に変化しているという。
ライオンは『より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)』というパーパス(存在意義)を掲げています。2022年6月にコーポレートサイトをパーパス起点でリニューアルし、Storyを語るだけでなく実践している状況を伝えるStory Doing型のサイトへ刷新しました。さらに、『LION Scope』という自社メディアで習慣を探求するインタビューやコラムを掲載しています。『ライオン公式note』も立ち上げ、習慣づくりや研究開発の裏側などを伝えながら、サイト訪問につなげています(長氏)
LION Scope、ライオン公式noteは商品を伝えるのではなく、生活者と共に良い習慣づくりを探求していこうという狙いで運営されている。
富士フイルムの場合
続いて、石井氏が富士フイルムのコーポレートサイトの歴史について振り返った。
1995年に本社にてコーポレートサイトを設立。それを皮切りに、国内外の関係会社がそれぞれコーポレートサイトを設立していったが、富士フイルムブランドとして一貫したイメージを訴求するため、2008年にワールドワイドでのデザイン統合を実施した。さらに2020年には、ガバナンス強化やコンテンツ拡充、マーケティング強化に向けて、ドメイン、CMS、インフラを統合し、すべてのコーポレートサイトが共通のプラットフォームで稼働するようにした。2023年春には、さらなるブランディング強化に向けて、再度ワールドワイドでの一斉デザインリニューアルを行っている。
私たち富士フイルムグループは、ヘルスケアや半導体材料など、多方面でビジネスを展開しているため、2020年の統合では、全事業部にヒアリングを行い、コーポレートサイトへのニーズを把握するよう努めました。CMSを統一したことで国内外でコンテンツを共有できるようになったので、本社主導でのワールドワイド向けのコンテンツ作りが加速しました。海外のグループ会社は本社が制作したコンテンツを必要に応じて活用できるのでコンテンツ制作のコストやリソースを抑制できます(石井氏)
Webがメインストリームに
両者の取り組みを踏まえて、長谷川氏は次のように振り返った。
企業がWebサイトを持ち始めた2000年の頃は、誰かがゲリラ的にアップしたものがマスターで、作った人以外にはバックアップがないという状態だということもありました。それが、内容のオーソライズを行うようになり、ブランディング、使い勝手、インフラの安定性などが重視されるようになりました。この20年の間にWebがメインストリームになったと感じます(長谷川氏)
長谷川氏のコメントに対し、石井氏は社内コミュニケーションを含めてWebの扱われ方が大きく変わったと話す。
2020年の統合プロジェクトを実施する中で、関連部門との信頼関係が強まり、より密接にコミュニケーションがとれるようになったと実感しています。何か新しいことを行うときには、早い段階で相談が入るようになりました(石井氏)
長氏も、リニューアルを通して他部門の人とのコミュニケーションを深めたという。
私が入社したのはコーポレートサイトのリニューアルのタイミングで、プロジェクトリーダーとして推進することになったのですが、当初は他部門で集まる会議体もありませんでした。そこで定期的な編集会議を設けるようにして、各カテゴリの担当者と新規ページ制作や既存の改修要望などを話し合ってプロジェクトを進めていくようにしました。今ではいろいろな部門とコミュニケーションが図れるようになっています(長氏)
現在進行形で取り組んでいることは?
コーポレートサイトにおけるデザイン表現の拡充に取り組む富士フイルム
石井氏は、2020年に公式サイトのプラットフォームを統一したことについて、社内では「みんなで住む家ができた」と表現していると明かした。しかし、1つの家に住めるようになったことはファーストステップで、カーテンの柄を変えたい、エレベーターをつけてほしいなど、国内外の各事業部門からはさまざまな要望が出てきたという。ただ、100以上ものコーポレートサイトを共通プラットフォームで構築しているだけに、すべての要望をかなえることは難しい。
これをやればみんなに利益がある、みんなにとって必要なことだ、といった観点を大切にし、優先順位をつけながらデザインや機能の拡充をしているところです。新しく子会社ができたり、複数の子会社が合併したりすることもあるので、企業の変化に応じて、サイトを作ったり、統合したりということも発生します(石井氏)
この話を受けて、長谷川氏は次のようにコメントした。
富士フイルムの子会社の増減の対応の話は、まさに企業体は変化し続けるものであり、それにあわせてWebサイトも変化しなければいけないということを示しています。変化することが会社のあり方としてまっとうなので、Web担当者はその変化をあらかじめ織り込んでおくことが必要です(長谷川氏)
「Webアクセシビリティ」対応強化に取り組むライオン
ライオンでは、2024年4月1日から改正される「障害者差別解消法」の環境整備にあたる「Webアクセシビリティ」対応強化に取り組んでいる。
見た目上ではわからなくても、Webアクセシビリティの試験を実施してみると不適合項目が多数指摘されています。ソースコードの不備があったり、音声で流すと二重に流れたりということもあり、膨大な作業量があるので、少しずつ改善しています。現在、Webアクセシビリティ対応方針の策定やガイドライン的なものを整備しているところです(長氏)
Webアクセシビリティについては、国際規格や法令等の更新も随時行われており、継続的な取り組みになるので、コストなどリソースをどこまでかけるのかという問題も生じる。長氏は「Webアクセシビリティはインクルーシブの観点でも対応が必要であり、予算を確保して段階を踏んで対応していく」と語った。
Webアクセシビリティへの対応は、企業のWeb担当者にとって重要な課題だ。長谷川氏は次のように話す。
法律ができることによって、これまで採算性がないと見逃されていた課題に対して、取り組む企業が増えました。Webアクセシビリティは、表面的な話ではなく、Webサイトのコミュニケーション全般のオペレーションの話にもなります。踏み込み具合は企業ごとの判断になりますが、自社がどういう方針で取り組むのかを意思決定して可視化することが求められます(長谷川氏)
これから10年で変わっていくと予想されることは?
企業Web担当者に求められる役割の幅は広くなる
石井氏は「テクノロジーが発展し、Webサイトの制作方法も変わっていくので、その対応をWeb担当者は求められるようになる」と語る。さらに、「あらゆるお客さまとの最初のタッチポイントとしてWebサイトやSNSがあるので、Web担当者は企業としてどうあるべきか、大きな視点で考えるくせをつけていかなくてはいけない」と話した。
また石井氏は、この先もコーポレートサイトはあり続けると考えている。富士フイルムとしてのオフィシャルな見解を示す場所として、公式サイト、公式なチャネルが必要だと捉えている。
モバイルファーストのその先へ
長氏も、情報の一次ソースとして企業公式サイトは信頼性を担保するもので必要だという考えだ。しかし、コーポレートサイトの中だけで収まるのではなく、コンテンツが外に拡張しており、モバイルファーストのその先を考えていく時代に入ってきている。
また、現在では、Webサイトも含め、コンテンツに対して感覚的に操作できることが生活者にとっての心地よさにつながっている。「企業のコンテンツも、もっと感覚的な操作、アフォーダンスを考えたものを作る必要があるのではないか」と長氏は語る。
コーポレートサイトは情報が追加され続けていて、生活者にとっては探しにくい、見つけにくいという状態になってきているので、これからは各デバイス・コンテンツを通じたシンプルな感覚的操作がより重視されるようになると思います(長氏)
これを受け、長谷川氏は「社会全体で情報が増えていることを前提として、企業の情報の何を見ればいいのか、サービスを知る際にどこから見ればいいのか、それを考えていかないといけない」と語り、次のようにコメントした。
私はインフォメーションアーキテクトが専門で、20年前はWebの構造をカスタムメイドしていましたが、今はこういう商品群ならこのパターンでいけばいいというのが一般化して、むしろカスタムメイドしないほうがよくなっています。
さらに、人が感覚的な操作を好むようになってきていて、大学生の中にはWebページの上から下までの全部を読んだことがないという人もいます。みつけた箇所だけで判断する状態になってきていますから、こうした時代にどう対応していくのかが大切になってきます。同時に、情報の信頼性、正しさを誰が担保するのかといったことが課題になると思います(長谷川氏)
企業広報的なアプローチのコンテンツがトレンドに⁉
ここで阿部氏より、最近の傾向としてオウンドメディアブーム、コンテンツマーケティングブームが収束しつつあり、企業広報的なアプローチのコンテンツがトレンド化しているという指摘があった。企業広報的なコンテンツの例として、これまで内部のためのコンテンツだった社内報を公開するような動きもあるという。
長氏は、広報部門の一部としてコーポレートブランディングを担当している立場から、「コーポレートサイトはアウターだけでなく、インナーコミュニケーションの役割も担っているところがある。リリースや企業情報、パーパスについては外部の人への情報発信だけでなく、インナー(社員)への情報周知にもなる」と話した。
長谷川氏は、Webに限らず企業の活動がいろいろな人を巻き込むCo−Designが必要になることを指摘。パーパスは目的を同一にする人たちと一緒に活動を促すためのメッセージになると話し、パートナー企業としてもその視点があると提案がし易いことを伝えた。
最後にコーポレートサイト担当者に向けて次のようなメッセージが贈られた。
小学校、中学校からタブレットでオンライン授業を受けているツールネイティブ世代がこれからの消費者層になっていく中で、UX、ユーザビリティも変化が求められてきます。新たなユニバーサルデザインを模索しつつ、コーポレートサイトに閉じこもることなく、たとえば、ライオンのような日用品を扱う企業もメタバースなど新しい世界に積極的に出ていくことが必要になると思います(長氏)
コーポレートサイト担当者は楽しみながら仕事をしてほしいです。社内のいろいろな部署と関わる部門ですし、Webサイトを通して商品や社内の人と出会っていけるおもしろさがあります(石井氏)
Webは全部の情報が集まって外に出ていく、企業のコミュニケーションの中心です。Webサイトは企業の顔を担いますし、情報を集約して出すことはこれからも重要なことです(長谷川氏)
企業同士の情報交換も大事です。2000年代は、企業間で情報交換をする場がありました。Web業界はフラットな業界なので、他社の人ともぜひ交流してほしいです(阿部氏)
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業Webサイトとマーケティングの実践情報サイト - SEO・アクセス解析・SNS・UX・CMSなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:企業Webサイトはオワコンなのか? これからの10年を予測 | 【レポート】Web担当者Forumミーティング 2023 秋
Copyright (C) IMPRESS CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.