広島県観光連盟が挑むマーケティング体制改革 4年で実現したDMP構築とデータ活用の成果 | 【レポート】Web担当者Forumミーティング 2024 春

【レポート】Web担当者Forumミーティング 2024 春
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かつて広島県の観光振興を手がける広島県観光連盟(HIT)では、観光統計を1つ集計するにしても、観光庁のWebサイトからデータをダウンロードし、Excelに手作業で貼り直していた。だが、プロジェクトの開始から約4年を経て、DMPを構築し、TableauやLooker Studioなどの可視化ツールによって最新データを把握できる体制を構築した。

Web担当者Forum ミーティング 2024 春」では、HITの中野隆治氏と、HITの業務改革サポートに携わっているヴァリューズの和田尚樹氏が、HITがデータ活用組織を自走化するまでの裏側について語った。

中野隆治氏、和田尚樹氏
(左)一般社団法人広島県観光連盟(HIT) 経営企画・マーケティング事業部 プロデューサー 中野隆治氏、(右)株式会社ヴァリューズ ソリューション局 DX推進支援G シニアマネジャー 和田尚樹氏

観光事業パートナーに「マーケティング」を浸透させるHIT

広島県観光連盟は、広島県の観光振興をはかる一般社団法人で、行政機関とも関係が深い。源流となる組織の発足は昭和25年と長い歴史を誇るが、2020年4月に体制を刷新。民間企業出身者をチーフプロデューサーに招くと共に、“硬そうな組織”のイメージを払拭すべく、「HIT(ヒット)」という愛称を用いるようになった。中野氏自身は広島県庁へ入庁後、三井物産への出向、県観光課の勤務を経て、現在はHITのプロデューサーを務める。

広島県は「観光を県経済の成長を支える産業の1つにする」という目標を掲げている。その達成に繋がる最重要ミッションが「何度も訪れたくなるリピータプルな観光地づくり」だ。となれば観光プロダクト(観光資源)作りが思い浮かぶところだが、中野氏らは“お客様のことを知る”、つまりは顧客志向もまた欠かせない要素と捉え、組織としての活動基本方針に盛り込んでいる。

広島県とHITの戦略概要

しかし、観光は1つの組織だけで成り立つものではない。観光スポットの所有者・運営者はもちろん、交通、宿泊、小売などさまざまな事業者や、観光地域づくり法人(DMO)などとの協力調整が欠かせない。

HIT自身はもちろん、周辺のパートナーもまた自発的にデジタルマーケティングに取り組めるだけの仕組みや体制が必要です。HITだけがマーケティングをするのではなく、パートナー自身が積極的にマーケティングできるようにするのもまた、HITの目標です(中野氏)

HIT自身はもちろん、連携するパートナーにも自発的なマーケティングを促すのが狙い

250万人規模のインターネット行動データを分析するヴァリューズ

この観点からHITが協力を仰いだのが、経営コンサルティングや成長支援、行動ログ分析事業などを提供するヴァリューズだ。

ヴァリューズの大きな強みのひとつが、「250万人規模のインターネット行動データ」である。許諾を得たユーザーからインターネット上の全行動履歴を収集し、その莫大なデータを分析することで、ニーズや市場傾向を読み解き、マーケティング課題で悩むクライアント企業への助言を行っている。

HITを伴走支援するヴァリューズの強み

HITが抱えていた4つのマーケティング課題

中野氏が、改革前の2020年時点でHITが抱えていたマーケティング課題として挙げたのが以下の4つだ。

  1. 行政や民間企業からの出向者が多い
  2. 大量のデータを有効に活用できていない
  3. アナログな手作業が多く、収集に時間を要する
  4. データ活用が浸透しない

ある意味、どの企業にも共通の傾向と言えそうだが、HITの組織体制的に大きな重石となっていたのが、1.の「行政や民間企業からの出向者が多い」という点だ。体制上、どうしても人員の出入りが激しいため、マーケティングに対する意識を組織全体にまで浸透させるのが特に難しかったという。

複数の課題に対してヴァリューズが伴走支援

2020年、HITはヴァリューズの支援を受け、これらの課題に対しての取り組みをスタートさせた。まずはヴァリューズが保有している顧客行動データから、広島の観光に関わりのありそうなデータを抜き出し、会議などで提示したほか、HITが主体となって開催するパートナー向け勉強会にも、ヴァリューズが積極的に関わった。

経験上、「いいデータがありますよ」とデータだけを提供しても、それ止まりで、利用促進まで達することはできません。データをもとに関係者の皆さんが実際に会話してコミュニケーションすることがその後の活動の起点になるので、勉強会は重要です(和田氏)

ツール導入でデータ分析の内製化を実現

同時に、HITが保有している調査分析データとヴァリューズ保有のデータをどう連携させ、分析するかの議論も深めていった。その結果導入したのが、データ分析・可視化ツール「Tableau(タブロー)」である。

ここで中野氏がこだわったのが、外部にデータ分析を委託しない、「データ分析の内製化」だ。外部に委託すると費用が延々とかかり続けるというコスト面の背景もあるが、主に組織内の作業実態を踏まえての判断だという。

HITに限らず、一般企業でも人事異動によってメンバーが入れ替わりますし、高度な専門的な作業ができる人がずっといるとは限りませんよね。だから、なるべく仕組みをシンプル化して、自分たちだけでデータ分析を行える体制づくりをとにかく意識しました(中野氏)

ヴァリューズが顧客企業に対して伴走支援を行う際には、まずデータの可視化に着手するケースが多い。和田氏によれば、可視化は3~6カ月程度の比較的短い期間で一連の工程が完了するにも関わらず、これまで見えなかったデータが見えるため、成果を得やすい。可視化によって業務を理解すれば、それを効率化させる手立てが生まれる。その成果を持って次のデータ基盤構築に取り組むという好循環に繋がるのだという。

まずはデータを可視化し、データ活用の気運を高める

Tableauで観光統計を素早く集計・公表可能に

そうして実現したデータ可視化の効果は明らかだ。たとえば、これまでHITでは、観光庁が宿泊旅行統計として公表している毎月30種類以上の表・グラフから、必要な値を目視で見つけ、手作業で抽出して社内レポートに仕上げており、手間と時間がかかっていた。

現在は、Tableauでデータを集計し、DMPで随時閲覧できる体制を構築した。グラフグラフや表などの整形がしやすくなったのはもちろん、HITが運営するWebサイト「Dive! Hiroshima」の事業者向けページで、宿泊者数や旅行消費額などの統計データをダッシュボード上で一般公開する体制も整えることができた。

TableauとDMPを使って、データ集計やレポート作成を効率化

データの管理形式と業務フローも変更

一般的にExcelなどの表計算ソフトでデータを管理する場合、「ワイド型」と呼ばれる帳票形式になることが多い。これだと人間の目には見やすいが、データベース管理には不向きとされている。そこで、DMP導入にあたって、データをまとめる際には「ロング型」と呼ばれるデータベース形式を前提とするよう、業務フローも変更した。

ワイド型・フロー型の違いは、データのシステム管理の世界では大前提の概念だというが、中野氏は、「システム構築以前は、データをどうやって管理するという視点すらありませんでした。しかし、ヴァリューズに伴走してもらったことで、『こんな形式でデータを見たいから、こんな風にデータを持つべきだ』という認識ができるようになりました」と述べる。

もし、データベース構築をヴァリューズに丸投げしていたら、ワイド型・フロー型の違いの重要性などには気付かなかったでしょう。内製化を目指して勉強会などを繰り返した結果、データの細部にまで目が届くようになったと思います(中野氏)

システム利用を容易にすべく、HIT内で作成するデータの構造を「ワイド型」から「フロー型」へ変更

現場担当者に“中間KPI”を提示する

こうして、データ分析の内製化を実現した結果、HITとパートナー事業者との間では、「観光消費額」「観光客数」「日本人客とインバウンド客の内訳」などの大きな指標となる数値が共有できるようになった。だが、「それだけではまだ不足だ」と中野氏は考えた。

「観光者数」などは最終的なKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)ではあるが、現場の担当者の日々の業務や細かな施策の成果が、すぐに県全体の観光者数の増加につながるわけではない。もっと、現場担当者1人ひとりが、日々の業務遂行で参考にできるような細かな数字を把握できるようにする必要があった。

現場担当者の役に立つ指標も出す必要があった

そこで導入したのが、Webアクセス解析サービスの「Google Analytics 4(GA4)」と、BIツールの「Looker Studio(ルッカースタジオ)」だ。

まず、関係者に対してGA4の用法を徹底的にレクチャーし、集計したい指標の洗い出しと、具体的にどのようなタグを設定すればよいかまで内製化できるようサポートを行った。

「Google Analytics 4(GA4)」を活用し、目標値を管理。集計データの閲覧には「Looker Studio」を使う

その後、GA4で集計したデータをLooker Studioでモニタリングする体制を整えたことにより、いわゆるKGI、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)はTableauを参照しつつ、それよりもさらに細かな“中間KPI”的な指標はLooker Studioで追うという使い分けができている。

GA4が使えないユーザーでも、Looker Studioを見れば現状が把握できるので、日々の議論がかなり具体的にできるようになりました(中野氏)

把握すべき指標ごとに、TableauとLooker Studioを使い分ける

データ活用は一日にしてならず、長期的視点で

このように、HITは約4年かけてマーケティング領域のデータ活用と内製化を実現した。中野氏は取り組みを振り返って、「データ活用は一朝一夕でできるものではなく、各担当者が成長していった結果」と語る。

今後目指すのは、パートナーとの連携拡大だ。HITのパートナー企業にも自発的なマーケティング志向を広げていくための試行錯誤を続けていくという。

HITの考える、データ活用自走化の意義

ヴァリューズは、さまざまな企業・団体へデータ分析のノウハウを提供しており、データの活用法はもちろん、収集の方法などにも豊富な知見がある。また、直近では、リサーチエンジンサービスの「Dockpit」をリニューアルしたほか、自社のデータマーケティングメディア「マナミナ」を通じた情報発信も強化中だ。和田氏は、「ぜひ一度、ヴァリューズのサービスに触れてほしい」と呼びかけ、講演を締めくくった。

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