2022年5月から、日本でのMicrosoft 広告のサービス提供が始まった。ローンチから約1年が経ったが、かなり好調との評判だ。Microsoft 広告の特徴や優位性について、日本マイクロソフトの広告事業責任者・有園雄一氏に聞いた。
Microsoft 広告の売上が伸びている
――昨年5月にMicrosoft 広告が日本に再参入してから1年が経ちました。広告売上は好調ですか?
有園: 売上ゼロからのスタートですから、順調に伸びています。私自身はインターネット広告やデジタルマーケティングに約25年携わっており、その時に経験した成長スピードと比較しても、圧倒的に速いペースです。
もちろん、当時はインターネット広告という新たな市場が作られた時代で、今とは市場規模が違いますからフェアではありませんが、とにかくすごい勢いで伸びているという感覚です。
――広告の主な掲載先は、Bingの検索連動型広告とオーディエンス広告ということで、Bingのシェアが売上に大きく影響しそうです。
有園: 下図左側が検索エンジンのシェアで、Bingがここ1年でぐぐっと伸びているのがわかると思います。現状、20%くらいです。
また、生成AIを組み込んだ「Bing Chat」が今年の5月に一般公開され、誰でも使えるようになりました。これも好影響を与えていると思います。Bing Chatは、PCだけでなく、スマホでも多くのユーザーにご利用いただいています。
図の右側はブラウザのシェアですが、Edgeも着実に伸びています。Bingと同じような動きですね。
――Bing Chatで「Microsoft 広告の特徴について教えてください」と聞いてみたのですが、回答に参照URLが記載されていて、わかりやすいですね。
有園: まず回答があって、その下に参照元ページの名前とURLが掲載されます。回答は、検索エンジンのアルゴリズムで評価したコンテンツと、LLM(大規模言語モデル)で学習した情報をもとに信頼度が高いと判断したコンテンツをベースに作成されています。
Microsoft 広告のオーディエンスの特徴
――Microsoft 広告のオーディエンスの特徴を教えてください。
有園: Microsoft アカウントのユーザーは、平均年齢が44歳で、男性がやや多めです。特徴としては、以下のような傾向があります。
ひとつは、年収レンジが高い。これは、オフィスでPCを使って仕事をしている人が多いことが関係しているでしょう。また、決裁権限を持っている意思決定者が多いのも特徴です。
年齢層は、45歳以上に加えて10代、20代の割合も多くなっています。
――コロナ禍でリモートワークが普及しましたが、ユーザーの検索行動に何か変化をもたらしましたか?
有園: 2022年にマイクロソフトが委託した調査会社 Forresterが実施した調査によると、自宅で会社の仕事用PCを使って仕事をしている人が、仕事の合間に個人の検索をして、ECで個人の買い物などをしているという傾向が如実に出ています。そのような方々を我々は「ワークデイコンシューマー」と呼んでいます。会社だと周りの目が気になるけれど、リモートワークなら個人の行動がしやすくなるということでしょう。これが、Microsoft 広告にとってはプラスに働いています。
そうした背景もあり、Microsoft 広告はBtoBに強いというイメージがあるようですが、一般消費者の方にも多く使われています。年収レンジが高いという属性のため、不動産、自動車、ラグジュアリー商品などが特に相性がよく、ふるさと納税の出稿にもすごく使われています。もちろん、法人向けPCなども、すごく伸びています。
CTR、CVRが高く、CPAは低い。その理由は?
――広告主にとって、Microsoft 広告のメリット、優位性は何でしょうか?
有園: Bingのオーディエンス広告に加えて、Bing Chatにも広告を出せます。広告主にとっては、選択肢が増えたということです。
実はBing Chatの回答画面のCTR(クリック率)は、従来の検索エンジンの検索結果画面におけるCTRと比べて、世界で3倍高いことが明らかになっています。会話形式でやり取りしながら自分の知りたい情報を取得するので、本当に知りたい情報が出てきやすく、結果としてCTRが高くなるのだと推測しています。CTRが高い面と低い面のどちらに広告を出す方がよりクリックされるかと考えると、やはりCTRが高い方がクリックされやすく、広告効果が期待できます。
もうひとつは、1stパーティデータのクオリティが高いので、ターゲティング精度が高いことです。
マイクロソフトは多岐にわたる製品やサービスを提供しているので、多くのお客様にご利用いただくことにより得られる匿名の行動データを豊富に保有しています。そうして得られた信頼性の高いデータは、ターゲティングの精度向上など広告配信の最適化に活用しています。
そのため、広告主にとっては、不必要な競争がなくなって、無駄にCPC(クリック単価)が上がりません。
例えば、「アルバイト」で検索したユーザー1人に、50代向けアルバイトの広告と20代向けアルバイトの広告を表示されると、広告主にとっては競争相手が増える状態です。本来は出さなくていい面に出てしまう広告や、本来は競争しなくていいのに競争になってコストが上がる、といった不都合が生じるわけです。
Microsoft 広告では、質の高いデータがあるため、検索キーワードで絞り込まないユーザーにも、精緻なターゲティングができます。そのため、CVR(コンバージョン率)が上がりやすく、CPA(顧客獲得単価)は低く抑えられる。これが、Microsoft 広告が広告主に評価され、伸びている主な理由です。
――選択肢が増えるという話では、Netflixが広告技術パートナーとしてマイクロソフトを選定しましたね。マイクロソフトの情報に基づいて、Netflixにも広告配信できるようになるのでしょうか。
有園: マイクロソフトは2021年にアドテク企業のXandrを買収しましたが、このXandrのDSPを使ったNetflixへの広告配信を、米国では既に行っています。今後日本でもさまざまなサービスを展開できるよう検討を進めていきます。
企業は1stパーティデータをたくさん持つことが重要
――生成AIの登場により、広告主にとって気をつけるべき点や、準備すべきことはありますか?
有園: まず、検索連動型広告の運用は、AIの活用で非常に楽になりました。以前は、入札画面を頻繁に確認して金額を調整し、コストをにらみつつ順位を維持するのがものすごく大変でした。それがAIの導入で、「1位狙い」「CPA最適化」など、ボタンひとつで自動化できるようになります。
一方で、心構えとしては、1stパーティデータを広告主も持っていた方がいいでしょう。生成AIを使いこなすためには、学習データが多ければ多いほどいいのです。
例えば、チャット機能を使って自社のオウンドメディアや自社ECサイトにチャットボットを埋め込むと、お客様と会話することができるようになります。その会話内容も顧客データとして取り込み、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)を構築することなどはお勧めです。
これが広告とどう関係するかというと、例えば、化粧品をデパートに買いに行くと、メンバーズカードとカルテを作って、化粧品メーカーの美容部員の方がアドバイスしてくれます。店舗ごとにカルテがあり、キャンペーンのハガキが両方の店舗から送られてくることもあります。メーカーは、自社のお客様が誰か知りません。
これを、メーカーのECも含めてすべての店舗で共通の顧客IDに統合し、購買データやECサイト上のチャットの内容なども顧客データとしてひとつのCDPに収集すれば、広告配信が最適化できるだけでなく、さまざまなマーケティング施策が可能になります。
人はいろいろなところで活動しますが、1ヵ所の行動だけを学習しても、その人に最適なレコメンドや広告配信はできません。1人の人間の行動すべてとは言わないまでも、できるだけ多くの場での行動を集めて統合すれば、AIの学習が進んで、その人に最適な提案ができます。1stパーティデータが広告主にとって重要になるというのは、こういうことです。広告プラットフォーマーが決済サービスなどに参入するのは、こういったことを見据えているからです。
――最後に、日本市場における今後の目標をお聞かせください。
有園: 売上などの数値目標はもちろんありますが、それよりも、Microsoft 広告は新しい価値を提供することを目指しています。
ブランディングもできるNetflixのようなプラットフォームから、質の高いデータを使って配信するオーディエンス広告、Bingの検索連動型広告、リテールメディア、SNSのLinkedInなど、フルファネルで広告掲載面を持っているのは、マイクロソフトだけだと思います。今後は、このフルファネルで、AIを活用しながら新しい価値を市場に提供していくことが目標です。
――ありがとうございました。
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オリジナル記事:日本市場で急成長!Microsoft 広告のCPAが低い理由は何ですか? 日本マイクロソフト 有園雄一氏に聞いた | インタビュー
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