みなさん、こんにちは。村石怜菜です。
このコラムを書いているのは3月上旬。早咲きの桜が咲き始め、春の息吹を感じられるようになってきました。私の会社はフルリモートですが、最近はコワーキングスペースを転々として、今までなかなか会えなかった皆さんとランチをしたりして、外からの刺激を受けるようにしています。
その中で、最近よく話題になるのが「外出の機会が増えて、外に着ていく服がない!」ということです。家の中では何ともないと思っていたものが、いざ外の明るい太陽の下に晒されると、意外と洋服が傷んでいた、ということはありませんか?
一方で、「服は欲しいけれど、環境負荷も気になる。ジレンマに陥っている」という声も耳にします。気候変動や物価高、世界情勢といった私たちを取り巻く環境にさまざまな変化が起きている今、ファッションとの向き合い方にも変化があると思います。
そこで今回は、ファッションとの向き合い方について、いくつかのアプローチを紹介したいと思います。
自分ととことん向き合う「自問自答ファッション」とは?
1つ目は「自問自答ファッション」です。
「自問自答ファッション」とは、徹底的に自分自身と向き合いながら服選びの苦しみから抜け出し、ファッションを楽しみ、自分が納得する服を着て、最終的に自分の人生を豊かにしていくことを目指しています。
つまり、自分自身に問いかけ、自分自身で答えながら、自分にとっての理想的なファッションスタイルを追求するということです。自問自答ファッションをすることで、自分自身が何を求めているのか、何が自分に合っているのかを見つけることができます。
また、自分自身に問いかけることで、自分自身をより深く知り、より良い人生を送ることができるといわれています。
「一年3セットの服で生きる」という考え方
自問自答するために役立つ本に、『一年3セットの服で生きる 「制服化」という最高の方法』(あきや あさみ:著 幻冬舎:刊)があります。
あきやさんは、百貨店で婦人服販売・管理・コンサルティング・販売員教育・パーソナルスタイリストの経験を積んだ後、「制服化スタイリスト」として独立しました。あきやさんと私は大学の同級生で、同じ被服学を専攻していました。私も実際に彼女にスタイリングを依頼したことがあります(私自身のためではありませんが)。
彼女の制服化のプロセスは、驚くほどユーザーの内面にフォーカスしたもの。「おしゃれかどうか」「トレンドに乗っているかどうか」といった、従来のファッションの基準とはまったく異なっています。親身に話を聞いてくれるので、カウンセリングを受けているかのようです。
本の中で興味深かった点は、制服化のプロセスが非常に整理されていて、実践しやすいことです。また、「ファッションやおしゃれに恐怖心がある」といった人たち自身が、内面に寄り添った心地良い洋服を選ぶための感覚を磨いたり、恐怖心を克服したりする方法にも焦点を当てています。
そのため、あきやさんの方法は即効性よりも持続性が高いと思います。個人的には、ファッションも運動と同じで、練習・実践、試着・イメージトレーニングの回数が必要だと思います。本では、自分がそのブランドが発しているコンセプトやメッセージに共感できるかどうか、刺さるかどうか、という点にも重点を置き、それを理解することが大切だとされています。
最小限のアイテムでコーディネートを楽しむ「カプセルワードローブ」とは?
2つ目の考え方は、「カプセルワードローブ」です。
カプセルワードローブとは、必要最小限の服を組み合わせて構成されるワードローブのことを指します。つまり、トップスやボトムス、アウター、シューズ、アクセサリーなど、基本的なアイテムを必要最小限の数で揃え、その組み合わせでさまざまなコーディネートを生み出し、ファッションを楽しむというものです。
カプセルワードローブの目的は、クローゼットの中身を整理整頓し、着回しの幅を広げ、コーディネートを簡単にすることです。また、もっている服を有効活用することで、無駄な支出を抑え、自分に合ったスタイルを見つけることもできます。
Instagramで #capsulewardrobe で検索すると、100万件以上の投稿がヒットし、アメリカやヨーロッパ(英語ではない投稿も多数)の投稿が多いように感じます。Googleトレンドで「Capsule Wardrobe」を検索すると、2015年から世界的に検索数が増えているようです。
これほどカプセルワードローブが支持されている背景には、以下のような社会的・文化的な要因が考えられるのではないでしょうか。
- 気候変動問題への意識の高まり:前回のコラム(サステナブルなお買い物は難しくなりがち? )でも書いたように、環境問題に対する意識は年々上昇し、消費行動にも影響を与えてきました。カプセルワードローブは少ない服を長く使い、消費を減らして、環境に配慮することができるという点で支持されてきています。
- 所有意欲の低下・ミニマリストが浸透:必要最小限のものしか所有しない「ミニマリスト」というライフスタイルが浸透・受け入れられて、すでに久しくなりました。物を所有することが豊かさの指標ではなく、自己表現や生活の質を高めることに価値を見出すようになったことがカプセルワードローブへの関心に影響していると考えられます。
- ファストファッションへの懐疑心:ファストファッションは、低価格で新しいファッションを提供することで、若者を中心に人気を博してきました。しかし、ラナ・プラザビル崩壊事故以降、ファストファッションの急速なライフサイクルが環境問題や労働問題にもつながっていると問題視されるようになりました。そうしたファストファッションへの批判と相反するものとして、長く着続けられるカプセルワードローブが支持されていると思います。
購入を決断する材料は何?
「自問自答ファッション」にしろ、「カプセルワードローブ」にしろ、自分がどれくらい洋服を持っているかを把握することが大切になります。
私の場合、過去にスプレッドシートで手持ちの衣類や肌着類まで書き出していたことがあり、その経験で適切な所有量を把握することができるようになりました。それ以降は、「これ以上買っても着回せないな」ということが肌感覚でわかります。
所有してよい最大量がわかったので、洋服を買う場合にはじっくり吟味。品質の高い服を長く着るか、そうでないものは着倒す勢いで高頻度着用しています。
それから、古着を購入することが多くなりました。もし新品を購入する場合には、そのブランドの哲学に共感するかどうか、もしくは将来他の人に手渡せる価値があるものかどうかを考えます。そうでない場合は、購入するまでの意欲が自然に湧かなくなりました。
アプリを利用して、購入品のログ管理
さらに購入するかどうかの判断に利用しているのが購入のログです。私はログをつけるのが好きで、いつ、何を、いくらで買ったのかを、いつでも振り返ることができるようにしています。所有しているものを把握することで、次に何かを購入する場合の判断材料とするのです。
いちいち面倒くさそうだなと思うかもしれませんが、ログといっても、ECサイトであれば購入履歴が残るし、リアルショップで買う場合はそのお店のアプリを提示して買い物情報を記録するだけ。そのため、アプリでログをつけることができるお店で買うことがほとんどになり、衝動買いをすることも無くなりました。特にログ管理しやすいのは、衣料品/化粧品/家電系です。
SNSで、手持ちの服を着まわす方法を学ぶ
SNSではショート系動画が主流となっていますが、その影響でファッションに関する知識を短時間で効率的に収集できるようになってきています。InstagramやYouTube、TikTokなどのショート系の動画で人気を集めているのは、変身系の動画です。
たとえば、おしゃれに興味がなかった男性が結婚式の前に奥さんに連れられて、髪型を一新すると、自分の新たな一面に気づき、照れくさそうになりながらもどこか自信に満ちた様子になる動画。
美容室で髪質や顔型などを理由に断られたが諦めきれず、別の美容室に駆け込んで自分がなりたかった理想の髪型になり、笑顔を取り戻す様子が描かれる動画。
こうした動画を、多くの人が観たことがあるでしょう。このマーケターコラム前任者の島袋孝一さんご自身も大変身を遂げ、SNS上で話題になったこともありますよね(参照:https://twitter.com/DIECE_SHOU/status/1448631580931420168)。
また、変身動画以外にも、「この着こなしはOK?NG?」という投稿も多く見受けられます。シャツのタックインの仕方やパンツの丈感や、スカーフの結び方など、手持ちのアイテムをいかに活用するかどうかを簡単に教えてくれます。
私自身は昨年着物の着付けを習ったので、着物のショート動画をよく見ます。敷居が高いと思われがちな着付けやコーディネートの情報を断片的にショート動画で収集し、点と点をつなげて自分の知識にしていくイメージです。
この春、自分と向き合うきっかけとしてファッションという手段も面白い
今回は、ファッションに対する最近のアプローチについて考えてみました。皆さんはどの部分に共感してくれたでしょうか? もしくは全然共感できなかったでしょうか?
私にとってファッションとは連綿と続く営みの中の一部であり、自分の世代以降にも繋げられるものだと思うようになってきました。興味のあったヴィンテージ品を購入したり、着物を習ったりしているのもその影響だと思います。
ファッションといっても必ずしもおしゃれである必要はなく、自分の内面に向き合った上での自己主張だったり、社会との接点だったり、とさまざまな側面をもっています。この春、新生活が始まるタイミングで、個人的にファッションという観点から自分を見つめてみるのも良いのではないでしょうか?
ブランドが公式中古ECストアをオープンしたり、中古商品をリメイクして販売したりと、「ブランド」の定義やブランド側の姿勢も変化しています。今回はファッションに特化しましたが、このような洞察は衣食住、金融など事業ドメイン問わず、事業開発・商品企画などで新しい気付きを得るきっかけになるのではないでしょうか。
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