東京海上日動あんしん生命のオウンドメディアが約4年で月80万UUを達成できた理由とは? | 【レポート】デジタルマーケターズサミット2024 Summer

【レポート】デジタルマーケターズサミット2024 Summer
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オウンドメディアを開始して数年すると、メディアを継続するかどうか議論が行われ、経営層に価値をどう理解してもらうか悩んでいる担当者も多いのでは。スタートから約4年で月80万UUを達成したオウンドメディア「マネコミ! 」も、運営には苦労が多かった。

デジタルマーケターズサミット 2024 Summer 」では、マネコミ!を運営する、東京海上日動あんしん生命保険の齋藤瞬(わたる)氏が登壇し、オウンドメディアを継続する秘訣や運営体制、今後の展望について語った。

東京海上日動あんしん生命保険株式会社 デジタル戦略部 ユニットリーダー 齋藤瞬氏

2020年にスタートした「マネコミ!」。SEOに力を入れ、80万UU/月まで成長

東京海上日動あんしん生命保険は1996年10月に開業し、東京海上グループの中核企業として国内の生命保険事業を担っている。齋藤氏は2014年に同社に新卒で入社し、営業経験を経て、2021年にデジタル戦略部の立ち上げと同時に配属となった。デジタルマーケに関する知識の習得は配属後からだったという。配属後はオウンドメディア、Web広告、SNS立ち上げ・運用、データ活用、インフルエンサー・スポーツチームとの協業、マーケティングメディアミックス、商業ブランド戦略などさまざまな業務を経験してきた。

東京海上日動あんしん生命保険は、主に保険代理店を通じて商品を個人・法人客に向けて販売している。齋藤氏が所属するデジタル戦略部は、デジタルを通じて獲得した顧客と代理店をつなぐ役割を担い、顧客に直接アプローチする「ダイレクトアプローチ」の施策の推進を行っている。また、代理店を経由しないネット申込戦略もデジタル戦略部が担っている。

オウンドメディア「マネコミ!」は、デジタルネイティブ世代の生命保険ニーズ未顕在層との接点強化を目的に2020年に開設された。金融や保険の専門知識がないユーザーにも理解しやすい表現にこだわり、“将来のためになる情報”を発信しており、これまでに約500本の記事を公開している。コンテンツは、就職や結婚、子育て、親の介護といったライフイベントに沿った情報が中心で、保険や税務、家計管理、法律の専門家と共に記事を制作している。

現在、月間80万UUが訪れるオウンドメディアに成長し、金融機関が運営するオウンドメディアとしては訪問者数が比較的多く、これまでの戦略が功を奏していると考えています。SEOに力を入れており、流入の9割が検索流入です(齋藤氏)

オウンドメディアを閉鎖した過去。経営層の理解を得るため、必要性を数字で伝える

実は同社ではマネコミ!の前に別のメディアを運営していたが、SEOを重視しておらず、流入がほとんどなく閉鎖をした過去がある。そのため、「新たにオウンドメディアを立ち上げたいと経営に伝えた際、なぜ必要なのかを理解してもらう難しさがあった」と齋藤氏は話す。マネコミ!も、齋藤氏が担当になったとき、上司から「意味がないので閉鎖したいと思っている」と言われ、まさに逆風からのスタートだった。

そのハードルを乗り越えるには、経営層の理解が必要だった。以下の図は、顧客の購買ファネルごとにデジタル戦略部の施策を記載したものである。マネコミ!は「未認知顧客」「認知・未利用顧客」「潜在顧客」にアプローチする施策である。

東京海上日動あんしん生命保険のデジタルマーケティング全体像

この図は、経営層にマネコミ!の価値を説明するために使用した資料をベースに作成しています。施策ごとのユーザー獲得単価などの数値と合わせて説明を行い、以前に運営していたオウンドメディアと何が違うのかを明示し、理解を得られました(齋藤氏)

現在、訪問者の年齢層は、20代~40代前半が3/4を占めており、アンケート調査より「独身」「子あり既婚」層が大半であることがわかっている。当初のねらい通り「デジタルネイティブ層との接点強化」は果たせていると齋藤氏は述べる。

「認知・未利用顧客」「潜在顧客」へのアプローチとして効率的な手段がオウンドメディアだった

オウンドメディアを作った背景には、これまで「認知・未利用顧客」「潜在顧客」へのアプローチ手段が弱く、マーケットを取りきれていないという課題認識があったという。この層へのアプローチ手段を検討した結果、たどり着いたのが、広告流入ではなく、ユーザー自らの検索行動で流入につなげるSEOに強いオウンドメディアだった。

「認知・未利用顧客」「潜在顧客」へのアプローチ手段としてオウンドメディアを導入

SEOに強いオウンドメディアを活用することで、キーワードと流入数を分析してお客様のニーズの把握ができ、ニーズに合致した記事を出稿することで流入単価も安価に抑えられるのではという仮説があった。4年経った現在、仮説通り、記事のPV数を活用した顧客のニーズ把握や、市場調査としての活用ができている他、Web広告と比較すると安価にユーザーを獲得できているという。

マネコミ!は4名体制で運用。保険会社が運営するメディアだからこそ、情報の質に徹底的にこだわる

続いて齋藤氏はマネコミ!の運用体制について紹介した。役割はコンバージョン強化と記事編集で分け、マネージャーを含め4名体制で運用している。さらに、コンバージョン強化、記事編集のそれぞれに支援するベンダーがいるという。

コンバージョン強化担当は、マネコミ!のマネタイズを目的に、施策の検討や、他社との協業を行っている。具体的には、保険無料相談の獲得施策の検討やアフィリエイト広告の出稿、会員化施策の検討、インフルエンサーやプロスポーツチームとの協業、グループ内でのマネコミ活用などの施策の検討・実施だ。なお、齋藤氏はコンバージョン強化担当を担っている。

記事編集担当は、ターゲットキーワードの選定から記事のチェックまでを行い、毎月10記事以上を公開している。他社メディアを調査し、新しい領域のカテゴリーの検討を行ったり、Webアクセス解析をして数字面の変化を追ったりしている。特に時間がかかるのは、記事のチェックだという。保険会社が運営するメディアとして情報の質に徹底的にこだわっており、デジタル戦略部だけでなく、リーガル部門などの関連部門も巻き込んで記事チェックを行っているため、キーワードの選定から記事公開まで約1ヶ月半かかるという。

質へのこだわりの成果として、検索エンジンでは上位表示され続けており、読者からも一定評価をいただいているのかなと考えています。これからも質の面では妥協せず、取り組んでいきます(齋藤氏)

Googleの検索アルゴリズム改定で、流入が減少。アルゴリズムに合わせて記事内容を変更し、流入増加につなげる

マネコミ!は、東京海上日動あんしん生命保険の公式サイトのサブドメインに公開されているため、ドメインパワーが影響し、順調に成長してきた。しかし、2021年にGoogleの検索アルゴリズムの改定でユーザー数が一時減少した。

このとき、ベンダーと共に新しいアルゴリズムの影響について調査したところ、「1つのキーワードに端的に回答する記事」が評価を高めていること、特に生命保険が該当する「YMYL(Your Money Your Life、財産や生命・健康に関連する情報)領域でアルゴリズムの影響が顕著であること」が判明した。

それまでは1記事で流入数を効率的に確保するため、複数のキーワードに対応できるような記事内容にしていた。アルゴリズムの改定後、改善策としてキーワードごとに記事を細分化し、メインキーワードを中心としたトピッククラスター形式で記事を作り直した。加えて、日々細かい改善やHTMLの修正も行うことで、アルゴリズム改定前よりも検索結果の順位が高まり、流入増加につながったという。

この経験から学んだのは、オウンドメディアの運営においてGoogleアルゴリズムの改定情報をいち早くキャッチするのがとても重要だということです。どのくらい影響があるか、どのような対応をすればよいかを意識して運営するのが大切です。それにはベンダーさんの協力も必要で、二人三脚でやっていく姿勢が必要だと思っています(齋藤氏)

マネコミ!の今後の展望は? 会員向けサービスを開始し、ファンマーケティングへの取り組みを加速させたい

順調にUU数を伸ばしてきたマネコミ!だが、今後はどのような展望を考えているのだろうか。これまでマネコミ!は、「生命保険ニーズ未顕在層との接点強化」と位置づけ、主なKGIを保険無料相談の獲得として運営してきた。だが、保険無料相談の獲得はハードルが高く、そこだけに価値を置くと限界が来ると考え、改めて位置づけを整理したという。

今後は位置づけを『認知獲得から潜在顧客をライトな顕在層に変容させること』及び『第一想起の獲得』に変え、データを取得するハブ機能として存在価値を発揮したいと考えています。マネコミ!の強みはSEOに強いこと、生命保険ニーズ未顕在層と言われる年代のユーザー、ライフステージのお客様の流入を獲得できていることです。マネコミ!を活用してデータを収集することに注力し、その他の施策への展開ができれば、さらなる存在価値が発揮できると考えています(齋藤氏)

具体的には、マネコミ!で会員向けサービスを開始し、まだ取引がないユーザーに会員登録を促す。会員の行動データや趣味思考を把握することで、保険見込み客の創出及び成約確度の向上を狙う。また、マネコミ!を通じて、東京海上日動あんしん生命の認知向上につなげていく。既存顧客にもマネコミ!の会員になってもらうことで、お客様と日常的な接点が持ちづらい生命保険業界において、お客様のニーズやライフイベントの変化をキャッチできるようにしたいと考えている。担当代理店にその情報を連携することで、アップセルにつながる施策が実施できるのではと構想しているという。

さらなる今後の展望として、マネコミ!を軸としたファンマーケティングを考えていきたいという。マネコミ!のファンを創出することで、東京海上日動あんしん生命へのロイヤルティ向上につなげられると見込んでいるからだ。

資産形成、節約は、マネコミ!が強みとする分野です。そういった分野でコミュニティを作り、コミュニティ内でファンミーティングや、会員限定のサービスを展開して接点を持つことで、ロイヤルカスタマーの創出ができるのではと考えています(齋藤氏)

月間80万のUU数があるからこそ挑戦できる、マネコミ!の強みであり、これこそがオウンドメディアの可能性だと齋藤氏は話す。

特に苦労した「社内稟議」と「マネタイズ」。経営層にマネコミ!の存在価値を伝え続ける

ファンコミュニティという新しい可能性も見えてくるほどに成長したマネコミ!だが、その過程では苦労の方が多かったと齋藤氏は言う。1つは社内稟議だ。同社では、施策ごとに毎年予算申請を行う必要があり、申請が通ると次年度の予算がつく。そのため、毎年施策の振り返りを行い、今後の可能性や効果を示していかなければならない。

マネコミ!はKGIを保険無料相談の獲得としていたが、それだけではなく、さまざまなトライアル施策のPoCや、ユーザー調査の場として活用や、マネコミ!の人気コンテンツを保険代理店や企業に提供して活用する施策などに価値があることを経営層に伝えて理解を得てきたという。

もう1つの苦労は、マネタイズのハードルの高さである。マネコミ!のターゲットは、生命保険ニーズ未顕在層であるため、いわゆる「今すぐ層」と言われる生命保険に今加入したい層ではなく、今後何かのタイミングがあれば検討をする「いずれ層」のユーザーであるため、すぐには成果に結びつきにくい。

また、他社の商品と比較して検討したいというユーザーも多いため、保険会社に保険相談したいというユーザーよりも、保険比較サイトのような会社に相談をしたいお客様が多く、保険相談の獲得に苦労している。インフルエンサーマーケティングなどにも挑戦したものの、PR施策を見てすぐに購入する商材ではないため、大きな効果を得るには至らなかったと振り返る。さまざまな場面で苦労に直面をしながらも、施策を継続できたのは、マネコミ!の存在価値を経営層に理解してもらえているからだと齋藤氏は述べる。

齋藤氏が考えるマネコミ!というオウンドメディアの3つの意義とは

続いて、齋藤氏が感じているオウンドメディア、マネコミ!の意義を3つ紹介した。

  1. 情報提供
    保険情報や金融知識、生活の知恵、健康上のリスクに備えるためのノウハウなど、多岐に渡るトピックから自社の強みが活かせる話題をコンテンツとして提供。
     
  2. ブランディング
    自社の強みやコンセプトをアピールすることで、信頼性と知名度を獲得。2023年度からは、社員を紹介する「あんしん解体新書」という連載コラムを開始した。ブランディング効果に加え、社員のモチベーションアップにもつながっている。
     
  3. 顧客エンゲージメント
    今後、会員制を導入することで、ユーザーごとに最適なコンテンツを最適なタイミングで提供できるようになり、エンゲージメント向上が期待できる。

これらをマネコミ!で実現することで、顧客ロイヤルティの獲得や、長期的なパートナーシップ関係の構築による解約抑止にもつながると考えています。契約後の接点が少ない生命保険において、オウンドメディアを通じた自社ブランドのファン化、ファンマーケティングにも活用できることがオウンドメディアの意義です(齋藤氏)

オウンドメディアを運営する上での4つのポイント

最後に、オウンドメディアを運営する上で重要なこととして、4点を挙げた。

  1. ニュースサイトなどのポータルサイトとの差異化を図ること
    たくさんの情報があふれる中で、マネコミ!を見る理由を考える。その答えの1つは生命保険会社が発信する情報の質の高さなので、コンテンツの質にこだわっていく。
     
  2. オウンドメディアで「何をしたい?」という当初の思想をサイト上で実現すること
    「何のために」という設立当初の戦略が非常に重要である。当初の目的を変更する場合は、ユーザーが違和感を持たないようにする。ユーザーと直接接点を持てるメディアだからこそ、当社のDNAである「お客様本位」を体現していくことが重要。
     
  3. オウンドメディアのポジションを確立すること
    「情報提供型」「自社の商品訴求」「自社ブランディング」「未契約者向け」「既契約者向け」などさまざまなポジショニングを検討し、自社のオウンドメディアはどこを狙っていくのかを整理する。
     
  4. 担当者の信念
    オウンドメディアは山あり、谷ありの世界。担当者がオウンドメディアの必要性を信じきる力が必要。

齋藤氏は「これまで何回も『辞めた方がいいんじゃないの?』と言われ続けてきましたが、継続してきたことで社内でも一定の評価を得ることができ、世の中にも多くの方に見ていただけるのかなと感じています。今後も皆さんと共に学んで成長していきたい」と話し、講演を締めくくった。

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