海外での認知不足を克服し、年率50%成長! 旭化成エレクトロニクスの新たなデジタル戦略

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yu-ta(ゆーた)26歳、会社員 PC.スマホ周辺機器やスマート家電など ガジェットを使って スマートな生活を送っています。 このサイトでは管理人おすすめの 最新の便利ガジェット情報や お得に買えるセール情報を中心に 発信しております。
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(左から​​​)マーケティング&セールスセンター デジタルマーケティング部の井上望氏および同部部長の池原章浩氏

さまざまなセンシングデバイスや高度なIC製品を開発・販売している旭化成エレクトロニクスは国内向け、特に海外向けのマーケティング支援を強化する目的で、CMS「Adobe Experience Manager(AEM)」、 MAツール「Adobe Marketo Engage(マルケト )」を導入した。

海外では日本のような認知が得られていない同社が、特に海外でのプレゼンスを高めるためには、日本語サイトの翻訳サイトを海外に展開する、という状態から国ごとに最適化されたWebページやマーケティング支援を行うことが必須であった。CMS、MA導入により、デジタル起因での案件化率は導入する3年前と比較して3倍以上に伸び、年率50%成長を実現している。活用法や成果について、マーケティング&セールスセンター デジタルマーケティング部の井上望氏と、同部部長の池原章浩氏に話を聞いた。

グローバルマーケティング強化のために体制を刷新

旭化成は、100年以上前に始まった繊維事業を祖業とし、B2B製品から「サランラップ」「へーベルハウス」などのB2C製品まで手掛ける。創業100年を超える伝統的な大企業であり、国内ではその名を知らない人はいない。ただ、旭化成エレクトロニクスとなると、何の会社かすぐに言い当てられる人は少ないかもしれない。旭化成は3つの事業領域(マテリアル、住宅、ヘルスケア)で事業を展開しており、マテリアル領域に属する旭化成エレクトロニクスは、スマホに内蔵する地磁気センサーや、半導体集積回路などの電子部品を開発、販売している。

化合物半導体技術やアナログ/デジタル混載技術を特長とするユニークな製品を開発していて、会社としては海外事業収入の比率を上げたい考えだが、国内と違って海外では旭化成という名前でさえ知名度が低い。加えて、海外拠点のリソースは潤沢ではなく、少人数で広い範囲をカバーしなければならない状態だ。デジタルの活用は必須だった。

海外事業の収益向上が会社としての至上命題。それを背後からいかに支援できるかが、デジタルマーケティングの役割です。旭化成は、日本では知名度があるが、海外ではゼロに近い。我々の製品を知ってもらって、買ってもらわなければいけないのです(池原氏)

もちろんWebサイトはあったが、当初は海外事業を支援できるほどのものではなかったという。

英語のサイトはありましたが、日本語サイトを直訳しただけのようなものでした。また、コンテンツの量も質も足りていませんでした(井上氏)

井上氏は、2019年にコンテンツ制作担当としてデジタルマーケティング部の前身となる部署へ異動になった。元はLSI(大規模集積回路)の設計を担当していたというから、経歴としては異色だ。

BtoB製品でかつ技術的な内容のコンテンツも多いので、技術面の中身を知っている人がコンテンツ制作に関わることは必要だろう。また、伝統的大企業にありがちなのだが、旭化成エレクトロニクスには元々マーケティングの部署がなく、社内の各部署からメンバーが集められた状況だった。

競合となる海外企業はデジタルマーケティングで先行しており、旭化成エレクトロニクスは後れを取っている状態だった。そのため、Webの強化と、さらに獲得リードの質を高めるためのMA活用など、取り組みを強化する必要がある。そこで、2023年にデジタルマーケティング部の再編を行った。

旭化成エレクトロニクスのデジタルマーケティング体制​​​​

従来の環境に課題、CMSのリプレイスで地域ごとのローカライズを実現

井上氏がマーケティング部門に異動になったのは、ちょうどCMSの入れ替えを検討しているタイミングだった。検討の理由は、従来のシステムには以下のような課題があったためだ。

  • 別のグループ会社のCMSプラットフォームに間借りしている状態で、自由な運用ができない
  • HTMLを書くタイプのCMSなので外注に頼る部分が多く、品質・スピード・費用の面で課題がある
  • グローバル市場に向けたWebサイトと言いながら、日本語中心のサイト構成

デジタルマーケティングを強化するということは、コンテンツを作っただけで終わりにせず、しっかり効果測定して高速にPDCAを回すということ。そのためには、自分たちだけでコンテンツ公開ができないCMSは望ましくない。さらに、認知獲得のためのブランディングという意味でも、自社らしいデザインや国ごとに最適化したエクスペリエンスなど、自由度のあるページを作りたい。

そこで採用されたのが、Adobe Experience Manager(AEM)だった。HTMLの知識がなくても使えるWYSIWYGエディタやブロックエディタの機能で、Webページを迅速かつ柔軟に構築、編集できる。これにより、ほぼすべてのコンテンツを内製化した。さらに、3言語(日、中、英)6サイトで、地域ごとのローカライズも実現した。

グローバル市場を前提としたサイトを再構築

ローカライズではたとえば、「米国ではこちらの画像の方がウケがいいと現地担当者からアドバイスがあれば、米国向けサイトだけ使用する画像を変える」「この製品はこちらの地域では拡販しないとなれば、そのコンテンツは出さないようにする」などを行っている。

その他、製品情報データベースと連携して、自動的に製品情報ページを生成するような機能をカスタムで開発した。

Web環境全体イメージ

旭化成エレクトロニクスは非常に製品数が多いので、製品ページを作るだけでも結構な工数がかかる。なおかつ、製品の情報を手入力した場合に発生するミスは、製品に詳しい人間でないと気づけない。そういう意味でも、かなり工数削減ができているという。

マーケティング運営面でも課題、マルケトの導入へ

Webサイトにいくら集客しても、それが収益につながらなければ意味がない。BtoB企業では、問い合わせや資料ダウンロードの際に個人情報をフォームに入力してもらい、営業にアタックリストとして役立ててもらうというのが一般的だ。ただし、集めたリードが本当に案件化することは少ない。

まず集めたリードを営業に受け取ってもらえるか、受け取ってもらったとして、それが売り上げにつ ながるかを考え、営業に喜ばれるリードを生み出す必要がある。それには、さまざまなマーケティング施策とそのためのツールが必要だ。もちろん、渡したリードがきちんと案件化できたのかという観点で、効果測定や検証もしなければならない。

旭化成エレクトロニクスでも、Webサイトの強化とともに、MAツールを試していた。といっても、知識もなく、成果が出せるかどうかもわからない状態なので、比較的安価なツールでMAを試すという使い方だった。井上氏によると 「フォームの実装とニュースレターの配信くらいしかやっていなかった」という。

マーケティング運営面では、以下のような課題があった。

  • MAは、リード獲得のためのフォーム管理ツールとしてしか活用できていない
  • マーケティング施策の効果測定が行われていない
  • マーケティングで創出したリードを営業に渡すオペレーションが構築されていない

これらを解決するには、お試しで導入した既存のツールでは機能に不足があった。そこでAdobe Marketo Engage(マルケト)を導入した。AEMと同じアドビ製品なので、親和性が高いと考えられるこ とが採用理由の1つだった。また、高機能なため 高価な製品だが、旭化成グループの 別の会社で導入を検討していて、費用を案分できることも後押しした。 

MAを本格的に活用するためにユーザーコ ミュニティを活用

井上氏は2022年に産休・育休から職場復帰した。そのタイミングで、Webコン テンツ制作の企画などは継続しつつ、マルケトの専任担当者にアサインされた。マルケトでは、たとえば以下のよ うな機能を活用している。

  • メールを一斉配信するだけでなく、スケジュールを決めて自動的に配信
  • 顧客属性ごとに内容の異なるメールを出し分け
  • Zoomと連携してウェビナーを開催
  • 行動履歴などから購入意向の高さを測るリードスコアリング

活用方法の1つとして、ABM施策の実施がある。ABM(Account Based Marketing)は、特定の企業(アカウント)をターゲッ トとして設定し、その企業からの売り上げを最大化するという考え方だ。

MAツールの具体的な活用例

さらに、リードスコアリングについても、判断項目として行動情報に加えて属性情報を加味するなどで精度を向上した。当初は、スコアが高くても本当に営業に渡せるリードなのかをマーケティング部門で精査しなければならなかったが、これによりMQL(Marketing Qualified Lead)の確認工数が激減した。

元々、電子回路設計者でマーケターというわけではない井上氏が、かなり使いこなしているように見える。しかし、マルケトの担当は井上氏ひとりで、詳しい人材を採用したというわけではなく、「最初は全然使いこなせなかった」という。コンサルタントの力も借りたが、役に立ったのがユーザーコミュニティだった。

まずは「マルケトとは」から検索し始め、ユーザーコミュニティに「Marketo Foundation MUG」という初心者向け分科会を見つけました。基礎を教えてくれるウェビナーのアーカイブがあったので、それを見あさり、それでもわからないことはコミュニティの掲示板で質問して先輩ユーザーに教えてもらいました(井上氏)

井上氏は、マルケトによるこうしたマーケティング改善活動が評価され、2023年に「Japan Adobe Advocates」(アドビがチャレンジングな課題解決に取り組んだマーケターを選出する)を受賞している。

3年でデジタル起因の案件数が3倍に

デジタルマーケティング施策の効果測定は、マーケティング部門内に閉じたものになりがちだが、セールス部門によって案件化し収益につながらなければ施策の成功とは言えない。マルケトの活用によって、収益まで含めての効果測定ができるようになってきたのが大きな導入効果だ。

社内からも次のような声が挙がっている。

  • 「商談化しているお客さまの導線や背景が見やすくなった」(営業担当)
  • 「きちんとアクセス解析をしてPDCAを回すことで、ターゲットのお客さまからの問い合わせを増やすことができた」(製品開発担当)
  • 「少ないリソースでもウェビナーやコンテンツを効率よく量産でき、ターゲットのお客様を獲得できた」(営業担当)

組織から変えて、システムも整備した結果、少ない人員ながらうまくスケールアウトして成果が出せるようになりました。具体的な成果も出ていて、3年でデジタル起因の案件数が3倍に、年率50%で伸びています。少しずつですが、海外比率も上がってきました(池原氏)

グローバル市場に向けたBtoBマーケティングの成果

システムを導入することで、課題だったコンテンツ制作やマーケティング運用のスピードや質は改善された。ただし、「システムを導入して、ある程度活用できるようになってきたことで、ボトルネックがシステム面から運用面に変わってきている」と井上氏は感じているという。

基盤が整ったが、今はまだグローバルスタンダードの枠にはめてみたという段階。営業部門にとって快適とまではいかないが、今後は他部署との連携を強化し、さらに活用していくフェーズとなる。それには、他部署とのコミュニケーションが大事だ。

取り組みの1つとしては、社内向けのコミュニケーションサイトを作り、デジタルマーケティング部の活動内容や成果を、他部署に共有している。また、リードスコアリングのルールをプレイブックとして作っているが、それも公開している。

プレイブックは、社内啓蒙のツールにもなり、方針に迷ったときに立ち返る指針だ。さらには、同じプレイブックに沿った作業フローを実施することで、属人化を防ぐことができるのも大きなメリットになっている。

とはいえ、作って公開しただけでみんなが見てくれるというわけではないので、社内にいかに浸透させるかが、新たな挑戦だ。

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