2023年上半期は、AIの台頭、リテールメディアなど新興勢力の出現、レイオフの波に大きく揺れ、広告プラットフォーム各社は変化への対応に追われた。下半期、そして2024年以降には、どのような変化がおとずれるだろうか? アタラの杉原剛氏が「デジタルマーケティングサミット 2023 Summer」に登壇し、近未来の予想と、マーケターとして備えるべきことについて解説した。
2023年を振り返る
2024年以降、デジタル広告界隈でどのような変化が起こるのか予測をする前にまず、2023年上半期を振り返った。杉原氏は、アタラの運営する広告運用者向けメディア「Unyoo.jp」に2023年初頭に掲載された「日本のリテールメディア元年:広告プラットフォームの2023年業界予測」の記事をもとに、次の3つのポイントを振り返っていった:
- 2023年は日本のリテールメディア / xメディア元年になる
- TikTok、Amazon、Pinterestなどが広告シェアを伸ばす
- AIの衝撃:ChatGPTがBingに搭載され、検索エンジンのユーザー行動にも広告ビジネスにも影響する
ポイント1: 2023年はリテールメディア / xメディア元年
2023年のデジタル広告業界のなかで最も大きな動きとして挙げられるのが「リテールメディア / xメディア元年」だ。
リテールメディア元年
これまでも、いち早くリテールメディアに着手してきた企業もあったが、ここにきて最大手小売りもリテールメディアに着手するようになってきた。最近の事例としては、ファミリーマートとドン・キホーテが手を組んでリテールメディアに参入したことが挙げられる。
リテールメディアに取り組むには、優良なファーストパーティデータを多くもっていることが前提にある。そういった優良で豊富なデータを、広告を含めてマーケティングで活用していくことが、リテールメディア活用の流れとなっている。
多くの広告IDをもっているファミリーマートさんとドン・キホーテさんという2社が一緒にプラットフォームを組む、このことは、業界に対して大きなインパクトになりました(杉原氏)
また、イオンネクストのオンラインマーケット事業「Green Beans(グリーンビーンズ)」が、リテールメディアプラットフォーム「CitrusAd(シトラスアド)」を採用するというリリースを、スタート前から打ち出したことも大きなトピックだ。
イオンさんのリテールメディアに対する気合いの入れ方もうかがえる、非常に楽しみな取り組みです。アメリカなど海外と同様に、いろいろな会社が今後もリテールメディアに参入すると予想されます(杉原氏)
xメディア元年
「xメディア」とは杉原氏の造語で、小売り以外の事業会社がファーストパーティデータを使って広告事業を展開することを指している。アメリカでは、小売業以外のいろいろな会社が広告プラットフォームを始めており、「Everyone’s an Ad Network」とまでいわれる状況になっている。これからは、欧米と同じように日本でも、大量かつ質の高いファーストパーティデータを保有している会社は、小売りに限らずこぞって広告事業に参入することが見込まれる。例えば、次のようなものがある:
Uber ジャーニー広告:Uberの車内で目的をもって移動している消費者に向けて、例えば乗り手の行き先にあるお店の広告を表示するなど、購入やブランド認知を促進する広告を掲載することで消費者の注目を集める。日本でも展開が始まっている。
docomo Ad Network:docomo ユーザーをベースに、メッセージS、マイマガジン、dmenuに配信できる広告プラットフォーム。まずはドコモメディア内での配信を開始しているが、今後は、外部メディアでもこのデータを使ってターゲティングできるようになると発表されている。
さらに杉原氏は、次図のように、プラットフォーム業界は分散期に入っていると指摘する。
自分のターゲティングしたいユーザーがどこにいるのかを判断して、プラットフォームを選ぶ目利きが重要になってきます。さまざまなメディアを使いこなしていくことが必要です(杉原氏)
日本特有の課題
このように今後盛り上がっていくリテールメディア、xメディアだが、日本特有の課題として、次の5点を挙げている:
広告事業を立ち上げることになり、大がかりなDXプロジェクトになる。そのため、経営課題として大規模なDXプロジェクトに投資できるか / 推進できるか
小売業のECは発展途上 = 広告在庫としては乏しい。まずはサイネージなど外部配信をしてマネタイズしながら、自社ECメディアを育てていく流れになるのではないか
デジタル人材、マーケティング人材を確保できるか
ファーストパーティデータが多いから広告事業に向いているわけでは決してない。ターゲティングに向いているデータであることも必要
消費財メーカーの広告部門・マーケティング部門と販促部門が連携できるか。リテールメディアは、これらの部門と連携して予算を使っていくため、うまく連携できることが必要
ポイント2: TikTok、Amazon、Pinterestなどが広告シェアを伸ばす
次に、Google、Facebook以外の広告シェアについて言及した。
TikTok広告に「Search Ads Toggle」機能を追加
「Search Ads Toggle」により、TikTok広告がフィードだけでなく、検索結果画面にも表示できるようになった。広告グループ単位の設定を行う際、「Search Ads Toggle」のToggleをオンにすると、検索広告の配信が可能になる。
Amazon広告、Pinterestなどのオフサイトへの広告配信開始
Amazon内の検索広告でオフサイト配信が可能となった。Pinterestなどパートナーサイトで検索したときにAmazonの広告が出てくるというもので、これまでGoogleが得意としてきた広告と同じ形だ。
ポイントとしては、Amazon広告が、Amazonの外へ広告を広げてきたこと、そして先ほどのTikTok同様、Googleの牙城であった検索広告へ参入していることが挙げられます。
ポストクッキーの状況になったときには、検索広告が強くなってきます。今後もこの流れになりますから、選択肢は従来通りGoogle広告、Yahoo!広告、Facebook広告だけではないことを意識して広告予算を考えた方がいいでしょう(杉原氏)
ポイント3: AIの影響
MIT、マッキンゼーが行った調査で、AIがマーケティングに大きな影響を及ぼすということが判明しており、無視できない状況になっている。
例えば、キャンペーンを実施する際の工程を考えてみる。次図のように、「市場分析・競合分析」「戦略立案」「キャンペーン企画」「クリエイティブ制作」「ハイパーパーソナライズ」「モニタリング&インサイト」、こうしたすべての工程においてAIが絡んでくる。杉原氏は、「その中で人間がマーケティング従事者としてどのように関わればいいのかが課題になる」と話す。すでに大手プラットフォームでは管理画面の中にAIを実装しているところがあり、多くのユーザーが便利に活用している。
さて、広告プラットフォームの業務を大別すると、「入札・ターゲティング」「入稿」「レポーティング・インサイト」の3つがある。「入札・ターゲティング」には以前からAIが実装されており、もはや珍しいものではない。「レポーティング・インサイト」においても、例えばGoogle広告での最適化プランの提示など、AIが使われている。そしてついに、「入稿」についても生成系AIが入ってきている。
入稿に生成系AIが入ってきたので、広告プラットフォーム業務全体にAIが入ったことになります。現在は黎明期なので、これからますますAIの活用は進むでしょう。極端な話ですが、WebサイトのURLを入れればキャンペーンを作ってくれる、クリエイティブも作ってくれる、入札ロジックもコントロールして、最適化も意思決定だけ人間がすればいい、といった世界が近づいてきていると思います(杉原氏)
2024年の近未来予測とマーケターが備えるべきこと
これまでの話を踏まえて、2024年の近未来予測とマーケターが備えるべきこととして、大きく3つの話題を挙げた。
① AIによるハイパー・パーソナライズを実現
杉原氏は、 AIによるハイパー・パーソナライズに取り組み始める会社が早ければ今年、来年には出てきてもおかしくないという。次図のようなAIドリブン・マーケティング運用支援システムが出現し、ハイパー・パーソナライズを実現していくと考えられる。
プロンプトに則って1,000種類のバナー広告を生成しても、従来通り、管理画面から手動で入稿するのは難しいですよね。そこで、end-to-endでシステムを連携してトータルなシステムをつくり、生成系AIのパワーを広告やアプリなど各施策に使えるようにするわけです。こうしたシステムは、欧米の会社のなかでは近々にも出てくると思います(杉原氏)
なお、AIによる影響は大きいが、できないことも多い。次図のように、やはり人間が介在することは引き続き求められる。
例えば、データに意味づけをする、データをチェックしてフィードバックしていくようなことは人間が行わなくてはなりません。つまり人間が介在した「Human-In-The-Loop(人間参加型のAI)」が重要になります。こうした仕組み、マーケティングの現場ワーク、AIを理解した上で、どのような意味づけをし、どのようなアウトプットを求めるのかの判断は今後もマーケターが担っていく領域だと思います(杉原氏)
② リテールメディアは拡大を続ける
リテールメディアは、今後も拡大し続ける。そのポイントは次の3つだ。
- 大手スーパーやコンビニが本格的に着手するため、それが大きな契機となって盛り上がる
- 日本型のリテールメディアを模索する数年間となる
- グループ会社じゃなくても IDやトラフィックを統合するための合従連衡(がっしょうれんこう:戦略的連携)がみられる
③ クローズド・ループ型のソーシャルショッピングの台頭
ここ最近話題になっているのは、クローズド・ループ型のソーシャルショッピングだ。これまでは、ソーシャルの中で商品情報が表示されても、クリックするとECサイトなどに飛び、そこで購入するという流れだった。しかし、商品情報をクリックすると、そのままプラットフォーム内で購入できるようにする流れが起きている。先行しているのはTikTokだ。中国で大成功し、現在アメリカで立ち上げを行っており、今後、世界へと広がっていくと予測される。ただし、このクローズド・ループ型は出品者にメリットももたらすが、デメリットもある。
プラットフォームで購買が完結すると、コンバージョンレートが高くなります。これが出品者にとってのメリットですが、ユーザーデータをプラットフォームが握ってしまうという点がデメリットになります。このメリット、デメリットをふまえて、どのようにプラットフォームと付き合っていくのかを考えていかなくてはいけないでしょう(杉原氏)
2024年に向けて、マーケターに求められること
最後に、杉原氏は、マーケターに求められることを5つにまとめて紹介した:
- プラットフォームの分散期は目利きと統合的な管理能力が求められる
- AIのHuman-In-The-Loopに入れるようにAIを使いこなし、理解する
- 2024年のChromeのサードパーティCookieサポート廃止に向けて、ファーストパーティデータ、代替ソリューションを理解し試す
- プラットフォームのクローズド・ループコマースを評価し、備える
- 現場のマーケティングをきちんと理解し経験した上で、上流へ向かう
「2024年以降も、経営・事業戦略や事業成果とマーケティングを結びつけることができる人となれることを目指し、マーケターとしてさらに活躍していってほしい」と語り、講演を終えた。
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オリジナル記事:激変するデジタル広告業界を解説! 2024年の未来予測とマーケターが備えるべきことは? | 【レポート】デジタルマーケターズサミット2023 Summer
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