「顔認証」だけで、マンションのエントランスから玄関の扉まで開く ―― 顔認証プラットフォーム事業を手掛けるDXYZ (ディクシーズ)が国内初となる「オール顔認証マンション」を2021年1月に竣工。2023年3月末現在、29棟まで広がっている。
その一つである「ヴァースクレイシアIDZ(アイズ)新高円寺」で、顔認証を体験してみた。
エントランスからドアまで全部「顔認証」でOK
同マンションには、顔認証プラットフォーム「FreeiD(フリード)」を導入しており、エントランスやエレベーター、共有スペース、住戸ドアといった一連の場所で、顔認証により開錠ができる。
まずエントランスで試してみると、マスクをした状態、かつ2メートルほど離れた場所からでもスムーズに開錠。約0.2〜0.3秒で開錠でき、足を止める必要がないスピード感だった。
メールボックス、宅配ボックスも同様に顔認証で開錠できる。ナンバーを押したり、数字を合わせたりといった作業が発生しないので、両手がふさがっていても問題ない。
自転車置き場、ゴミ置き場の共有部も、同じくマスクをした状態でOKだ。エレベーターは、顔認証すると行き先階のボタンが自動で押される仕組み。
各部屋のドアは、セキュリティレベルが一段高いしきい値に設定されており、基本的にマスクを外さなければ開錠できない。共有部は利便性を、住戸ドアはセキュリティを重視しているという。
体験してみると「エントランスに比べるとやや反応が鈍い」と感じる部分はあったが、認証がエラーになるなどのトラブルはなかった。
最大のメリットは、鍵の持ち歩きや管理の手間が不要になることだろう。オートロック機能を利用しても、鍵やカード、スマートフォン(スマートロックの場合)のように、持ち忘れて外に締め出されるリスクもない。入居者からは「一度、顔認証を体験したら戻れない」という声も聞かれるそうだ。
ゲストへの「OneTime(鍵貸し)機能」も
顔認証を使用するには、専用アプリをダウンロードしたうえで登録作業が必要になる。氏名、ユーザーID、メールアドレス、パスワード、電話番号、生年月日、キャラクターアイコンを設定する。
FreeiDを導入するマンションは分譲と賃貸のどちらもあり、いずれも非同居家族や知人などのゲストに一時的に鍵を貸す「One Time(鍵貸し)機能」が利用できる。
その場合、鍵を借りるゲストもFreeiDアプリへの登録が必要になる。そのうえで入居者から招待を受けると、顔認証により一連の開錠ができる仕組みだ。
鍵の受け渡しが不要のため、入居者本人が不在でもゲストが入室できる点は大きなメリットといえる。ただし、同機能は無限に使えるわけではない。民泊などの不正利用を防ぐ目的で、マンションの管理会社によって利用状況が監視されているそうだ。
たとえば、1か月に5回使用したらアラートを出すなどの設定が管理会社ごとにされており、利用回数が著しく多い場合、注意を受けたり、それ以上ゲストを呼んだりできないという。管理会社にとっては不正使用を防止する観点で便利な機能だが、利用者にとっては、やや柔軟性が劣るかもしれない。
エラーは出ないの? 子どもが成長したら?
利便性が向上する「オール顔認証」だが、最先端のサービスであるゆえ予期せぬトラブルなどがないのかも気になるところだ。DXYZでBizDevマネージャーを務める橋本裕介氏にたずねた。
デバイスの電源が落ちていた、デバイスの調子が悪いといったことは実際にありました。デバイスは裏でコンセントを刺しているので、何かが激しくぶつかった衝撃などによりコンセントが抜けてしまったのかもしれません。とはいえ、非常にまれな事例です。平日の日中は遠隔監視をしているので、デバイスの調子が悪いときは再起動をすれば、多くの場合は元に戻ります(橋本氏)
トラブルとは異なるが、推奨の身長範囲が140〜180センチメートルのため140センチメートル未満の人の場合は、不便に感じることがあるという。
お子さんなど低身長の方の場合、玄関先に踏み台を置くなどして対処しているようです。共用部においては2メートル以上離れても顔認証が作動するので、デバイスから離れることで認証できます(橋本氏)
また、顔認証で心配なのが「顔が変わったときに正しく作動するのか」ということ。たとえば、成長段階で子どもの顔が変わる、整形をするなどの場合、エラーが出るのではないか。
顔が変わったタイミングで認証の精度が鈍くなることは、ありえます。ただし、その場合はアプリ内の顔情報を再登録していただくことで、再び顔認証ができるようになります。実際に整形前後などで検証したことはありませんが、顔認証で使用する特徴は二重などではなく、骨格や黒目と黒目の距離などです。そう考えると、多少顔が変わっても、いきなりまったく反応しなくなることは考えづらいですね(橋本氏)
「ヴァースクレイシアIDZ新高円寺」を含むいくつかの「オール顔認証マンション」で使用している顔認証技術は中国企業が開発したもので、双子など顔がそっくりな人が同一人物として認証される可能性は十分にある。とはいえ、現状は国内企業の技術も、アメリカや中国企業の技術も、他人受入率(他人が認証した際に本人だと誤認する割合)は0.01パーセント程度で大きく変わらないのが実情だという。精度の高さを追求するよりも、「UX」や「現実的な導入コスト」を優先していると橋本氏は説明した。
オフィスや幼稚園でも導入、DXYZが目指す社会は?
FreeiDはマンションでの導入事例がもっとも多いが、現在ではオフィスや幼稚園、ゴルフ場、テーマパークなどにも広がっている。
オフィスでは、食品トレー大手のエフピコや総合不動産管理会社の東急コミュニティーなど、2023年3月末時点で24社が導入している。オフィスで導入する場合、一度顔情報を登録すると複数の拠点で顔認証が利用できる利便性がある。さらに、拠点や部屋ごとに入退場の権限を自由に設定できる。
導入企業からの反響は非常にいいですね。特に人の出入りが激しい工場などは、カードの管理だけでも一苦労なんです。入社・退社・異動などの際にカードの受け渡しや回収、それに付随する事務手続きが発生します。FreeiDでは管理画面で登録や承認ができるので、管理の手間が削減します(橋本氏)
京都府亀岡市の「サンガスタジアム by KYOCERA」で実施した「子ども見守り顔認証サービス」の実証事業でも、好反応が得られたという。これは、施設内の3つのクラス(プログラミング教室・運動クラス・ボルダリングジム)で顔認証によって入退場ができるもの。
子どもが1人で出かけた場合でも子どもの入出・退出のタイミングが把握できるため、実証に参加した保護者から「また使ってみたい」という声が複数あがったそうだ。
今後、DXYZが目指すのは手ぶらでどこにでも行けるような社会だ。近い将来、アプリ内に決済機能も実装する予定だという。
現在、自治体、 電鉄会社、デベロッパーなどと、特定のエリアでの実証実験の話を進めています。買い物から交通、自宅やオフィスへの入退、役所での手続きまで、何でも顔認証でできる社会をつくりたいと考えています。それが実現すれば、財布や鍵、マイナンバーカードなどの身分証を持ち歩く必要がありません(橋本氏)
“モノを持たない”暮らしの実現は、もうすぐそこに迫っている。
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オリジナル記事:顔パスで扉がオープン “国内初”「オール顔認証マンション」を体験してみた
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