Google Chrome(以下、Chrome)のサードパーティCookieのサポート廃止がいよいよ今年中に迎える予定で、インターネット広告業界には大きな変化が訪れます。そんな中「ポストクッキー時代はファーストパーティデータ戦略が大事である」とは以前から言われていますが、なぜ大事なのか、どんなことに注意すべきかを考えてみたいと思います。
ChromeのサードパーティCookie廃止後の世界を整理してみよう
ChromeのサードパーティCookieサポート廃止後、インターネット広告では何が一番影響を受けるのでしょうか。それはアドレサビリティです。
アドレサビリティとは
アドレサビリティとは簡単にいうと、デジタル広告が、個人のデバイスやブラウザを識別し、到達可能である状態のことを指します。最もわかりやすい例がリターゲティング広告です。サードパーティCookieの仕組みがあるおかげで、一度ウェブサイトに訪問したユーザーに対して広告を見せることができています。
プライバシーサンドボックスでリタゲ広告と同様のことが実現
ChromeのサードパーティCookieのサポートが廃止になることで、その方法が大きく変わろうとしています。それがプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)です。プライバシーサンドボックスのProtected Audience APIという仕組みを広告事業者が広告システムに組み込むことで、リターゲティングと同様のことが実現できるといわれています。
プライバシーサンドボックスはChromeのみ。それ以外のブラウザは対象外
そういう意味では、プライバシーサンドボックスはアドレサビリティソリューションの一つです。ですが、プライバシーサンドボックスはChromeブラウザで実現するものです。つまり、Chrome以外のブラウザは対象となっていません。
ご覧のように各社のPC、モバイルのブラウザシェアを考えると、プライバシーサンドボックスだけでは不十分で、その他の手段が必要です。代替手段はたくさんありますが、ファーストパーティデータを活用する方法が最も注目されています。
ファーストパーティデータとは
ファーストパーティデータをおさらいすると、企業が自社で収集したデータで、たとえばウェブサイトのアクセスデータ、会員の登録情報や購買記録データなどを含みます。
ファーストパーティデータがあれば、その対象となるユーザーや顧客からデータ活用に対する許諾を得た上で、直接コミュニケーションをとることは今でも可能です。今後はデータクリーンルームなど、メールアドレスや電話番号などを安全な形で暗号化した上で、広告プラットフォームやパブリッシャーが保有しているファーストパーティデータと掛け合わせることで、ピンポイントで広告配信や効果測定を行うことができる仕組みの利用も進んでいくと思われます。
このことからも、アドレサビリティを実現する上でもファーストパーティデータが重要であることをご理解いただけたと思います。
ファーストパーティデータは特性上増やしにくい
ファーストパーティデータの重要性は認識しつつも、集めようと思ってもすぐに集められるものではありません。想像してみてください。ファーストパーティデータがウェブサイトのアクセスデータ、会員の登録情報や購買記録データだとすると、これらをすぐに2倍にする、というのは時間もリソース(コスト、労力、スキル)もかかりますよね。
ファーストパーティデータの収集方法
自社にとって、そして収集対象となるユーザーや顧客にとっても何が有益になるのかを理解した上で、以下のような手段でデータを収集します。
- ウェブサイト、アプリ、ソーシャルメディア、イベント、営業活動など、さまざまなチャネルを通じてデータを収集する計画を立て、集約することを考える
- コンテンツやサービスの質を高めることで、ユーザーを引きつけ、彼らが自分の情報を提供するきっかけを作る
- カスタマイズされたユーザー体験を提供し、より多くの情報を自発的に共有する状況を作る
- 顧客ロイヤルティプログラムや報酬システムを通じて、顧客からのデータ収集を促す
- 顧客からの直接的なフィードバックや調査を通じてデータを収集する
こういった形で、まさに「あの手この手」でデータ収集をすることが求められます。さらに、データを増やすための企業買収なども選択肢の一つです。
マッチング率を常に考える必要がある
ファーストパーティデータを広告で活用するには、自社データを他社データとマッチングして活用する、ということになります。たとえば、「カスタムオーディエンス」や「カスタマーマッチ」、「データクリーンルーム」などが該当します。データ同士を照合する場合、必ずマッチング率を考慮する必要があります。
マッチング率とは、広告主のファーストパーティデータとプラットフォームのファーストパーティデータを突き合せたときの数値です。照合するためのキーは、広告プラットフォーム各社でばらつきがあるものの、メールアドレスか電話番号が主流です。
プラットフォームによっては、照合した際に推定マッチング率を出してくれるものもありますので、そういったデータを参考にするのがよいですが、多くの場合、30~50%などといわれています(プラットフォームなどによって、ばらつきはあるので注意)。
つまり、持っているデータが100件あったとしても、実際に使えるのは30~50件になってしまう、ということです。そうなるとある程度の効果を出すには、そもそものボリュームが必要になります。
広告業に携わっていらっしゃる読者の多くであれば「広告配信量→実際のインプレッション→クリック数→コンバージョン/登録数」という流れから、それぞれのポイントにおける、おおよその確率から逆算すると、相応のファーストパーティデータが必要になるということは容易にお気づきかと思います。
ゼロパーティ、セカンドパーティデータも意識しよう
ファーストパーティデータをあらゆる手段で増やしていくのは重要ですが、ゼロパーティデータやセカンドパーティデータも今後はますます重要になります。
ゼロパーティデータとは
まず、ゼロパーティデータとは何でしょうか。2017年にForrester社が初めて使った用語で、Forrester社による定義には「顧客が意図的かつ主体的にブランドと共有するデータ。これには、個人の嗜好、購入意向、個人的な背景、個人がブランドからどのように認識されたいかなどが含まれる」とされています。
ファーストパーティデータは有益ですが、今、保有しているデータだけでは、ユーザーや顧客についてあまり多くのことがわからないことが多いのです。サードパーティCookieのサポートが廃止になることで、ユーザーの興味関心などがわかりづらくなるということも考えられています。ファーストパーティデータを補足したり、強化したりする意味でもゼロパーティデータは有益です。これをデータエンリッチメントといい、既存のデータに補足的な情報や文脈を提供し、付加価値を高めることを意味します。
実際のゼロパーティデータは、さまざまなチャネルで、アンケート、投票、クイズ、プリファレンスセンター、フォームなどを使って収集します。
ゼロパーティデータとファーストパーティデータを併用することで、企業の顧客理解を大幅に強化できます。その結果、顧客セグメンテーションによりパーソナライズとターゲティングが実現できますし、「顧客が何を望んでいるか、何をしようとしているか(ゼロパーティデータ)」と「顧客が実際に何をしたか(ファーストパーティデータ)」を組み合わせることで、予測モデリングによる予測作業を改善することもできるでしょう。
セカンドパーティデータとは
一方、セカンドパーティデータとは、自社が保有しているデータではなく、特定のパートナー企業から得ることができる外部データのことをいいます。セカンドパーティデータは、他の企業が所有しているファーストパーティデータに過ぎません。
自社では集めきれないが、他社がデータを保有している場合は、これもユーザーの適切な許諾を得て連携させます。それによってデータエンリッチメントが可能になり、ユーザーについてより多くのことが理解でき、効率的かつ効果的なターゲティングができるようになります。
ファーストパーティデータ戦略は「増やして」「強化する」
上記のように、ファーストパーティは増やすことも必要ですが、強化し続けることで、よりマーケティング戦略を実行する上で多くのメリットを享受できます。
そういう意味では、今後、ファーストパーティデータを戦略の中心に置く会社は増えていくと考えられますし、ファーストパーティデータを中心に据え、ゼロパーティデータとセカンドパーティデータで補足・強化していく「0-1-2」の考え方が重要になるように思われます。
今後のデータ戦略、データマネジメントの参考にしていただければ幸いです。
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オリジナル記事:2024年後半に迫るChromeのサードパーティCookie廃止:なぜ、ファーストパーティデータ戦略が大事? | 杉原剛のデジタル・パースペクティブ
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