企業向け帳票・文書管理ソリューションやデータエンパワーメントソリューションを開発・提供するウイングアーク1st株式会社のオウンドメディア「データのじかん」は、開設から5年で月間80万PVを達成した。着実な成長を達成した鍵は、徹底したデータ活用だという。編集長を務める野島光太郎氏に、データ駆動型コンテンツマーケティングの神髄について聞いた。
スマホ対応で弾みがつき、一気に月間80万PVへ
――「データのじかん」は現在、月間80万PVだそうですね。開設から現在まで、PV数の推移を教えていただけますか。
野島: この図は、月間PV数の推移をグラフにしたものです。2017年4月に開設して順調に増えたのですが、その後いったん失速。2019年にSNSでいくつかの記事がバズったことが契機となり、また徐々に増え始めました。
2019年から2022年までは、コンテンツ制作が軌道に乗ってきたのですが、PV数は停滞。2022年にスマホ対応したことで、一気にPV数が増え、月間平均80万PVを超えた、というのが大きな流れです。
――2019年から22年までは、けっこう大変だったのですね。
野島: そうですね。でも、「PVを伸ばすことがメディアの成功」という定義ではなかったので、方向転回しなければというプレッシャーはありませんでした。編集部内では、いろいろ試しては失敗したり成功したり、ということを繰り返していました。
意思決定者の変化に対応しつつ、CPAの引き下げを目標に
――「データのじかん」を立ち上げる際に、目的やターゲットをどのように定義したのでしょうか?
野島: ウイングアーク1stは、BIツールなど、B2Bの製品・サービスを提供しており、パートナー様や営業担当がお客様を訪問して受注するのが基本です。マーケティングの役割のひとつは、パートナー様や営業がアプローチするための新規リードを獲得し、ハウスリストを作るのが主な仕事です。
それまでは、新規リードを獲得するために、イベントに出展したり、コーポレートサイトにダウンロード用資料を掲載したりするなどの施策を以前から行っていて、一定の成果を出していました。
ただ5年ほど前から、弊社製品の購入意思決定者に変化が出てきました。従来は、弊社製品の購入意思決定者は情シス部門やIT部門の方々だったのですが、最近は、ビジネス部門の方も増えてきています。
これは、検索キーワードの分析などでも明らかです。情シス部門やIT部門の方はテクニカルな単語や具体的なツール名などで検索することが多いのですが、ビジネス部門の方はもっと手前の、「データ活用」や「働き方改革」など、一般的な用語で検索することが多い。流入キーワードも、そちらが上昇傾向にあります。
ウイングアーク1stの場合、IT部門の方向けのWebコンテンツはコーポレートサイトにあるのですが、ビジネス部門の方向けのコンテンツがありませんでした。そこを補うためのオウンドメディアとして、「データのじかん」を作りました。
もうひとつ、CPAの高騰も課題でした。イベント出展は質の良いリードを獲得できるのですが、かなりコストがかかります。また、Web経由のリード獲得の多くは外部の資料ダウンロードサイトなどからのもので、これもCPA高騰をまねいていました。
そこで、全リード獲得数の10%を「データのじかん」経由で作ることで、CPAを下げるというのを目標にしました。
――メディア立ち上げ時に設定したKPIを教えてください。
野島: 立ち上げ時はPVはあくまで参考値でして、KPIは「データのじかん」を訪問した企業数で設定しています。
2017年当時、コーポレートサイトの実績から、PV数とサイト訪問企業数の比率を算出し、「データのじかん」で目標企業数を達成するために必要なPV数は月間8万くらいと推計していました。たまたまかもしれませんが、2017年はこれをクリアできました。
もうひとつのKPIはCPAで、5000円以下を目標にしました。
コンテンツマーケティングは必要なデータが豊富に手に入る
――毎月制作する記事数は何本くらいですか?
野島: 記事数は、20本/月を目安に作っています。最近は寄稿記事や転載の依頼なども増えたので、すべて編集部で制作しているわけではありません。去年1年間で370本、累計だと1800本くらいあります。
――記事のテーマをどのように決定しているのですか?
野島: 我々はデータ活用事業を営む会社なので、さまざまなデータを駆使したコンテンツマーケティングが特徴です。例えば、2ndパーティデータ。普通は競合製品のデータは分かりませんが、Webサイトの場合は「Ahrefs(エイチレフス)」や「Similarweb(シミラーウェブ)」などを使うと、手軽かつ比較的安価に競合サイトの情報が分かります。メガトレンドは「Googleトレンド」で調べられます。もちろん、自社サイト内の行動履歴(1stパーティ)も取れますし、n=1のデータ(ゼロパーティデータ)を収集・分析するための取材も、コンテンツマーケティング自体に組み込まれています。
例えば下図は「Ahrefs」で作った図ですが、競合のサイト(名前は伏せています)が、どのようなキーワードで流入しているのか、全部分かります。ウイングアーク1stのコーポレートサイトもですが、他社もほとんど指名か事例での流入で、その手前の潜在キーワードでの流入はほぼありません。
そこで、「データのじかん」では、潜在キーワードでコンテンツを作っていこうという戦略を立てました。この時、潜在キーワードの中でも顕在寄り、「BIツール 比較記事」みたいなものを思いつきやすいですが、さらに手前の、未意識や担当者レベルで顕在化のところを追っていこうという戦略です。
自社も競合もやっていない、ブルーオーシャンのキーワードを見つけて、そのキーワードで記事を作る。そういうことがコンテンツマーケティングでは容易にできますし、ブルーオーシャンを狙うのだから成果も出やすい。また、競合が成功しているキーワードが、自社にもマッチしそうだなと思えば、そこを狙いに行くこともあります。
面白いのは、「データのじかん」のデータを分析していると、想定していなかったキーワードでコンバージョンしていることがあります。例えば、編集部では意図していなかった、取材で出てきたキーワードでコンバージョンしていたり、競合製品の記事でコンバージョンしていたり。
一般に、競合製品を取り上げる記事は、敵に塩を送るようなものだからやめた方がいいと考えますよね。でもデータを見ると、その記事から流入してコンバージョンしていることがある。可能性としては「無料ツールの紹介記事を読んで、これだと使えないから有料でもっといいツールが欲しいと思った人がコンバージョンした」のかもしれません。
いずれにしろ、コンバージョンする記事だったので、掲載したことはメディアとして成功です。やっていることは、キーワードとして上がっているもの(お客様の関心事)をひたすら記事にしているだけなので、結果論ですが。
PDCAを回して溜まったデータをコンテンツ作成に活用
――記事のクオリティを上げるためには、どのような取り組みをしていますか?
野島: ひとつはファクトベース。一次情報で記事を作ること。もうひとつは、見つけたニーズを取りこぼさないこと。例えば初期の記事でインタビューしたDropbox Japanの植山周志さん(当時。現在はCanva Pty Ltd, Japan Growth and Ops Lead)はデータ分析の第一人者なので、お話に出てきたキーワードはすべてコンテンツ化するつもりでした。
各記事のクオリティを担保するコツは、優秀なライターさんにお願いすることですね。あと、PDCAはものすごく回します。その過程でデータが溜まっていきます。
――インタビュー相手をどのように選んでいますか?
野島: デジタル変革における大きな障壁は、技術的な課題ではなく、文化、人材、組織の課題だと思います。組織が変わるときには先導者となる人がいて、その人をフォローする形で徐々に広がる。ボーリングの1番ピンを倒すと、その勢いで全部倒れていくようにです。1番ピンに当たる人を我々は「越境者」と呼んでいて、そういう人を見つけてインタビューしています。これは「データのじかん」のコンセプトでもあります。
世の中にいらっしゃる越境者は往々にして「少数派」であり、「イノベーター」、場合によっては「変わり者」。大手のマスコミでは取り上げられていないことも多いので、普通に検索するのではなく、地方紙や商工会議所のセミナーなどで探します。あちこち取材しているライターさんに紹介してもらうこともあります。そういうことが、小さな勝ち筋を見つけて差別化できる要因になっています。
PVが伸びない記事は放置。伸びそうな記事にはアクセルを踏む
――公開後に思ったほどPVが伸びなかった記事に対しては、どのような対策をしていますか?
野島: 伸びなかった記事は、ほったらかしにしています(笑)。逆に、伸びた記事に対してはどんどんアクセルを踏む。例えば、Google検索結果ページで30位以下の記事は放置。20位の記事は10位にするためのSEOをします。検索結果で1ページ目に入れば、長期的にアクセス増が望めます。
――新規読者の集客はどのように行っていますか?
野島: SEOがメイン。他は、いくつかのニュースキュレーション系メディアの配信からの流入です。Googleニュースにも自動で配信されるので、それらが新規ユーザーを集める起点になっています。
SNSもやっていますが、そちらは元々ロイヤルティの高い人がシェアしてくれる形なので、新規獲得という感じではないですね。
――読者数を増やすためのKPIは何かありますか?
野島: 欲しいと思ったキーワードで新規流入が取れているかを見ています。どのようなキーワードで流入したかを「Ahrefs」で見て、狙っているキーワードで流入しているか、狙っていたものでないとしても、「データのじかん」のコンセプトと関係のあるキーワードで取れているかという観点で見ています。まったく関係のないキーワードで流入があった場合は、次のメンテナンスで改善します。
- 基本は、ファクトベース、一次情報、優秀なライター
- 地方紙や商工会議所のセミナーで取材先を探す
- 「越境者」を見つけ、キーワードをキャッチアップする
- PDCAをしつこく回す、溜まったデータで改善する
- 見込みのある記事にリソースを集中する
打ち手を増やせばデータが溜まってコンテンツの精度が上がる
――継続的にオウンドメディアを成長させるために、心がけていることを教えてください。
野島: 「ネガティブループにはまらない」ということです。
効率を追求すると、打ち手(コンテンツの数)が減り、顧客接点が減り、反響データが減り、気づきが減るので、コンテンツの精度が下がって、マーケティングROIが悪化、再投資できないのでコンテンツの数がさらに減ります。これがネガティブループです。
そうならないためには、まず打ち手を増やすのが重要だと思います。大きな勝ち筋だけやっていると、トレンドの変化で一気にダメになってしまうことがある。小さな勝ち筋や自分たちが気づいていなかった勝ち筋を見つけられるのが、オウンドメディアの存在意義です。
またちょっとした工夫ですが、「編集長」という肩書きも重要になることもあります。多様なコンテンツを出すことが、メディアのゴールやポジションとして違和感のない設計にしておくと、「上司からOKが出ない」という悩みを回避できます。
コンテンツマーケティングはありとあらゆるデータが取れるので、「顧客」の解像度も「実行」の解像度も上げられます。コンテンツ作りはマーケターがワンストップでできて、自由度が高い。だから楽しい。机上の空論ではなく、実際のお客さんと向き合って、頭に汗をかいて作るのは楽しいので、「コンテンツマーケティングをやれ」と言われたら、ラッキーだと思って楽しむことをおすすめします。
――ありがとうございました。
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オリジナル記事:5年で月間80万PVを達成した「データのじかん」編集長に聞いた データ駆動型コンテンツマーケティングとは何か? | インタビュー
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