各業界のエキスパートにオススメの書籍を教えてもらう本連載。今回お話をお聞きしたのは、Webデザイナー、アートディレクターとして活躍されている黒葛原 道(つづらはら とおる)さんだ。黒葛原さんは、写真撮影のディレクションを行うだけでなく、自身も趣味でフィルム写真を極めているそう。また、ECサイト「quote」の運営も担当しており、ECの現場で養ったノウハウをもとにした写真撮影やディレクションを強みとしている。そんな黒葛原さんに、写真撮影や写真のセレクトをする上で役立つ本を紹介してもらった。
写真の見方を覚えて、カメラマンに適切にオーダーできるようになろう
写真の良い・悪い、好き・嫌いは、感覚的なもので人によって異なる。では、プロはどのように写真をみているのだろうか。
プロが写真をどう捉えているのかを、写真を構成する要素から理解すると、写真を見る力が養われると黒葛原さんは話す。そして写真を見る力があると、うまく撮れるようになるだけでなく、カメラマンに撮影を依頼する時の指示が明確になる効果があるという。
1冊目 『みようみまねで自分らしい表現にたどりつく写真解体新書』(bird and insect:著 玄光社:刊)
黒葛原さんが最初に紹介してくれたのは、写真の構成要素を理解できる書籍だ。
本書は、全体の2/3で光や色の見方について、1/3でライティングや光の作り方が書かれています。例えば、柔らかい光、硬い光という表現がありますが、それぞれ撮影された写真の印象がどう変わるのかがわかります。硬い光は、色や影が濃く出るので鮮やかでハッキリとした色の写真が撮れますし、柔らかい光は、影がぼんやりするので写真全体で1つの世界観を出したいときに向いています。本書を読めば、写真の演出という観点から光を選べるようになります(黒葛原さん)
2冊目 『発信する・共感を呼ぶ Web&SNS時代のブランディングデザイン』(パイ インターナショナル:編 パイ インターナショナル:刊)
2冊目は、さまざまな企業のホームページ、Instagram、商品パッケージなどの事例をまとめた、カタログのような書籍だ。その企業が世界観をどう統一しているかがわかる。フード&ドリンク、ビューティ&リビング、サービス&ファシリティの3つの業種に分けて掲載されているので、自社の業種に合わせて参考にしてほしい。
参考デザインを探すために、手元にあるとよい本だと思います。例えば、写真のイメージは言語化が難しいですが、この本から撮りたいイメージや雰囲気を掴んで、本書を示しながら話せば、カメラマンに伝わりやすいと思います。
広告クリエイティブのタイトルや文章を作る時は、ターゲットやコンセプト、課題解決などを決めてから作りますよね。写真も、誰にどうなって欲しいのか、どんな課題を解決するのかという視点から選ばないと売上につながりません。そうした視点を踏まえた上で自社のブランドコンセプトのイメージを伝えるのに、本書は役立つはずです(黒葛原さん)
Instagramの写真は、インスタグラマーから学ぼう
マーケティングにおいて避けては通れなくなっているのがInstagram。Instagramで活躍するインスタグラマーから写真を学べる本が次の2冊だ。
3冊目 『憧れのインスタグラマー20名に学ぶ 美しい写真術』(fuka_09 他:著 インプレス:刊)
本書には、20名の人気インスタグラマーがピックアップされていて、見開きでその方の写真や思いなどが紹介されている。
この本では、フォロワーの多い人気インスタグラマーの写真撮影のやり方、使っているグッズやガジェット、レタッチ補正のビフォー・アフター、Instagramでのハッシュタグの使い方までもが掲載されています。QAもあって、季節のカラーやテーマの選定、小物の調達方法など、さまざまな角度からの情報があるので参考になります。
人によって機材や撮影方法も違いますし、スマホだけで運用している方もいます。自分の撮りたい世界観のインスタグラマーを見つけると、とても良いヒントが得られると思います(黒葛原さん)
4冊目 『Instagramあたらしい商品写真のレシピ』(6151 他:著 玄光社:刊)
こちらの本は5人の共著で、Instagramの特徴や強み、投稿の種類、ビジネスアカウント、投稿する時間帯などについても解説されている。
ナチュラル、ポップ、クラシック、エレガントの4つのタイプに分けて作例が紹介されているので、真似して撮るのもよいと思います。テクニカルな情報は少なめですが、被写体の並べ方、光の向きなどが難しくなり過ぎないように解説されています(黒葛原さん)
ECサイトは写真が売上を左右する! ECサイトの写真をマスターしよう
多数出版されているECサイトの書籍のほとんどには、「ECサイトでは商品写真が売上を左右する、写真が大事だ」と書かれている。しかし、実際の写真の撮り方については簡単にしか触れられていないし、かといって写真撮影の専門書では難しすぎる。そこで、黒葛原さんが現場で悩む方のために執筆したのが次の書籍だ。
5冊目 『ネットショップ初心者でも売れる商品写真の基礎知識とつくり方』(黒葛原 道:著 玄光社:刊)
ECサイトと実店舗を比較すると、実店舗では商品を実際に見ることができる、触れられる、試着できる、店員に聞けるということで情報量が圧倒的に多い。そのため、ECサイトでは写真点数を多くして、写真で商品の魅力を伝えていく必要がある。そこで本書では、商品の魅力を引き出す写真の撮り方を解説している。
この本では、ECサイトに特化して、食品、服、靴など商材別の撮り方について紹介しています。例えば服の場合ハンガーにかけるよりも、台などに置いて撮った方が形をきれいに見せられますし、コーディネート例を作ることもできます(黒葛原さん)
また、複数ECモールに出店する場合も考慮して、モールによって異なる背景の色や画像に含められる文字量の違いといったルールについてもフォローしている。
さらに、ECにとって強力な武器になるInstagramの特徴を活かした撮影についても紹介している。
Instagramのショッピング機能を使うと、1枚の画像で複数商品にタグ付けでき、それぞれ「ショッピングページの詳細」にリンクがはれます。例えば、モデルさんが持っているバッグ、着ているワンピース、身に付けているスカーフ、それぞれにリンクをはることができるのです。これはInstagramならではの、クロスセルに繋げられるとても嬉しい機能です。
このような機能説明を含め、Instagramの運用について6ページにわたって解説しているので、Instagramを使いこなしたい初心者の方に読んでほしいですね(黒葛原さん)
6冊目 『スマホでOK! 売上がグンとアップする写真の全ノウハウ』(石田 紀彦:著玄光社:刊)
著者である石田さんは、日本大学芸術学部写真学科卒業後プロカメラマンとなった後、MBA(経営学修士)を取得。さらに、中小企業診断士の資格を取っており、ビジネス視点をもったカメラマンとして活躍している方だ。2021年に日本政策金融公庫のWebサイトに公開された、石田さん監修のPDF資料「写真の撮り方ガイド 飲食店編」も好評だ。
本書では、複数の食品の作例を並べて、どれが美味しそうに見えるかというアンケート結果を載せて解説し、どう撮ればよいのかを紹介しています。
マーケティング視点で、売上の構成要素のうちボトルネックがどこにあるのかを分析し、それを写真で補うという取り組みを数字とともに紹介している、とても興味深い本です。まずは、PDF資料を見てみて、さらに知りたい方は本書を読んでみるとよいと思います(黒葛原さん)
書籍以外の情報源
書籍以外の情報源について聞いてみると、X(旧Twitter)、Instagramを見ているという。
Instagramは、特定の誰か、何かを見るというよりも、写真の撮り方のトレンドをつかみたくて見ているので、企業アカウント、一般の方のアカウント、広告も含めてよく見ています。例えば、アパレル系の投稿では、シャツやジャケットの肩を落として配置する撮り方が流行っていることがわかります。オーバーサイズが流行っているのでルーズな雰囲気を出すためかもしれません。おもしろいもの、新しいなと思うものへのアンテナは常に張っていますね。
なかでも見たことのない構図や撮り方など、気になった写真を見つけた時にはすべて保存してストックするようにしています(黒葛原さん)
また、注目されている方も紹介してくれた。
- 写真撮る人鈴木遥介
主に物撮り(商品写真の撮影)がメインのフォトグラファーのYouTubeチャンネル。実際に撮影しながら、撮影機材やライティングについてわかりやすく解説されている。 - 髙田鴻平_健康と料理写真の人
「こう撮るとこうなるシリーズ」で、撮影の裏側を紹介。スタジオだけではなく家で撮影していることも多いが、ライトやカメラの設定ですごく素敵な写真になることがわかる。
写真の専門書は、カメラの設定など敷居が高いものが多いが、黒葛原さんは写真の見方やInstagramでの撮影など、初心者も踏み込みやすく、しかもマーケター、Web担当者に役立つ書籍をオススメしてくれた。自分で撮影するよりもプロに頼んだ方が機材などのコスト面で安くなる場合もあるので、どう依頼すれば思い描いた写真が撮れるか、という視点からも参考にしたい書籍が多かった。
黒葛原 道(つづらはら とおる)
Webデザイナー/アートディレクター
ECサイト「quote」 アートディレクター
1999年にデザイナーとしてのキャリアをスタート。広告代理店、広告制作会社を経て、2003年からフリー。
2004年、大阪から宮崎へ移住。Webデザインを軸に、サイト構築に係る業務全般、それに伴うディレクションやコンテンツプランニング、撮影などを手がける。
ECサイトの立ち上げ、運営を通してマーケティングやブランディングを経験。実際に「売る」ことを経験しているのが強み。作って終わりにしないWeb制作がモットー。
2021年からAdobe Japan Prerelease Advisor、2022年からAdobe Expressアンバサダー、2023年からFigma Community Advocateを務める。
著書に『ネットショップ初心者でも売れる商品写真の基礎知識とつくり方』(玄光社)、『Webデザインの現場ですぐに役立つ Photoshop仕事術』(共著/ソシム)
- Twitter:https://twitter.com/armytoru
- Instagram:https://www.instagram.com/armytoru
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業Webサイトとマーケティングの実践情報サイト - SEO・アクセス解析・SNS・UX・CMSなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:「撮影依頼する時」「インスタ写真を撮る時」「ECで写真を選ぶ時」~写真のキホンが学べる6冊! | Web担 オススメの課題図書
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