世界を席巻し続けているChatGPT。画像や文章、音声などのコンテンツを生み出す生成AI技術の代表として、さまざまな用途での活用が試みられています。それに伴い、チャットボットが改めて注目を集めています。チャットボットはユーザーの質問に対して予め用意された返答を自動で返してくれるプログラムですが、想定外の質問には対応できない仕様でした。しかし、ChatGPTをチャットボットに実装することで、さまざまな質問に回答することが可能になり、大きな進化を遂げました。
今回は、活用事例を交えながら、次の3つについて解説します:
- チャットボットが注目されてきた背景と課題
- ChatGPT実装によりチャットボットはどのように進化をしているのか
- 進化したチャットボットはデジタルマーケティングにどのような効果をもたらすのか
チャットボットが注目されてきた背景
チャットボットは2010年代ごろから存在し、約10年の歴史があるサービスです。現在は、国内にチャットボットのベンダーが数多く存在しており、簡単で安価にチャットボットを作ることができる環境になっています。
注目されてきた背景1コールセンターのコスト削減
チャットボットの利点は、お客様がコミュニケーションを取りたいときに、24時間365日即時に対応が可能であることでしょう。
そのため、消費者からの問い合わせをコールセンターで対応している事業者にとって、省人化によるコスト削減を実現するための選択肢となっていました。コールセンターでは1件あたりの接客コストは600円~1,000円といわれており、月間の問い合わせ件数が1万件の場合、最大で1,000万円の費用がかかる計算になります。
注目されてきた背景2購入や契約まで進んでもらえるようにする手段
また近年では、新規顧客の獲得コストが高騰したことによって、チャットボットの導入を検討する企業も増えています。
コロナ禍でD2CやECに参入する企業が増えたことで、CPAが過去10年間で5倍にまで上昇しているという話もあります。加えて、ECサイトにおける離脱率の高さも大きな課題となっています。ユーザーが広告経由でECサイトを訪問したにもかかわらず、商品ページで90%以上が離脱、決済フォームに進んだユーザーでも70%が離脱してしまいます。さらに、初回購入者の70%以上が継続購入していない現状があります。
その結果、広告などで集客したユーザーにできる限り購入やサービス契約まで進んでもらえるような体験を提供する手段として、チャットボットが注目を集めてきました。
従来のチャットボットの課題
チャットボットが注目を集めてきたとはいえ、ブレークスルーしなかった要因がありました。それは「ルールベースであること」です。
課題1ルールから外れた質問には回答できない
予め作成したルールに則ってユーザーの質問に回答する仕様であるため、事前に登録されていない質問や複雑な質問には回答できません。ユーザーは悩みを解決できないため、ストレスを抱え、コールセンターに電話することも少なくありませんでした。
課題2運用工数が肥大化してしまう
また、チャットボットの担当者はユーザーの質問に対する解決率を上げるために、回答ロジックのPDCAを何度も回すことになってしまうなど、運用工数が肥大化してしまう欠点もありました。
ChatGPTの登場で、進化するチャットボット
この状況がChatGPTの登場により大きく変化しました。ChatGPTをチャットボットに実装することで、前後の文脈を理解し、適切な回答ができるようになったのです。ユーザーからの質問に対し、文脈を理解しつつ、迅速かつ的確な回答ができるようになりました。
たとえば、「洗顔フォームでおすすめはありますか?」という質問に対して、「こういう商品がおすすめです」「こういう点が特徴です」という回答をすることは従来のチャットボットでも可能でした。しかし、次に「乾燥肌でも使えますか?」という質問をした場合には、従来のチャットボットでは文脈を理解できないため、「そういったご質問にはお答えできかねます」などの回答しかできませんでした。
一方で、ChatGPTを実装したチャットボットは、1個前の会話が洗顔フォームについて話をしているところから判断して、「この洗顔フォームは乾燥肌の方でもご利用いただけます」というように、百貨店の美容部員や接客スタッフの方と会話するような接客ができるようになりました。
このように、チャットボットはChatGPTを実装することで単なる「FAQの自動化」ではなく「接客の自動化」にまで進化してきています。
ChatGPTを組み込んだチャットボットの活用事例
ここでは、ChatGPTを組み込んだチャットボットの実際の活用事例として、筆者が所属するwevnalで提供しているチャットボット「BOTCHAN AI」を導入している株式会社バルクオムの事例を紹介します。
株式会社バルクオムでの活用事例
メンズスキンケアブランド「BULK HOMME」では、チャットボットに自社情報を学習させることで、接客コンシェルジュのような振る舞いを再現し、オンライン接客を自動化しています。
たとえば、おすすめの商品を聞かれた際に、単におすすめ商品を提示するのではなく、「男性の肌には、水分を守りながら皮脂や汚れを落とす洗顔料が必要だと考えているため、このような機能を持たせました」などの開発ストーリーを添えながら回答するなど、ブランドを体現するようなコミュニケーションを行っています。
また、ユーザーからの質問に対して、薬機法に則した回答も実現しています。たとえば「このシャンプーは育毛効果はありますか」という質問がきた場合、従来であれば、薬機法に抵触しない回答をするために人が対応する必要がありました。しかし、関連法規の学習をさせたことで、「育毛効果については、製品の特性上、効果を保証するものではありませんが、頭皮の健康をサポートすることで、髪の成長をうながす効果が期待できます」といった目的解釈に耐えうる回答ができるようになっています。
このようにChatGPTならではの文脈を読んだ受け答えに加え、自社情報をもとにブランドならではのコミュニケーションが可能になりました。また、薬機法にも対応することで、より幅広い質問に対応できるようになり、人間と遜色ない接客を実現可能にしています。
生成AIがさらに進化した先にあるデジタルマーケティングの未来
今後、さらに生成AI・ChatGPTが進化した未来では、この世界にあるほとんどの知識や情報が生成AIに埋め込まれ、あらゆる問いに対して受け答えができるようになることが予想されます。
未来予想1企業やブランドを体現する最適な会話を実現
デジタルマーケティングの領域では、企業やブランドごとに個別最適化された生成AIが登場し、その企業らしいコミュニケーションや振る舞いを、滑らかな会話で実現しているでしょう。
さらに、お客様とのコミュニケーション後の行動結果の情報をひも付けることで、「どのような受け答えをすれば最終的に購入してもらえるのか」を自動学習させることができるようになり、ユーザーごとに購入につながる最適なコミュニケーションを実行できるようになります。
そこにはさまざまな変数があり、普段接客をする方は暗黙的に判断・実行がされてきましたが、この暗黙知の部分も解明が進むかもしれません。
未来予想2蓄積されたコミュニケーションデータからインサイトを発見
また、今後チャットボットの会話履歴であるコミュニケーションデータは大量に蓄積されていきます。これまで問い合わせ情報は定量情報への変換が難しく、扱いづらいものでした。しかし、ChatGPT4が登場し、自然言語処理の分野が進化したことで、定性情報を定量情報へ変換することができるようになりました。
これらにより相談内容や会話履歴を定量的に把握でき、ユーザーが持つ悩みの解像度が上がり、ニーズやインサイトの発見ができるようになるでしょう。
このように、誰に対してどんな価値を届けたいのかが決まっていれば、それを伝えるコミュニケーションは自動で実行されていく未来が待っています。そうした未来に人間がやるべきことは、お客様のニーズやインサイトをとらえ、モノやサービスのコンセプトを企画し、良い商品を開発していくことがより大事になっていくのではないでしょうか。
これまで注目を集めては失望されることをくり返してきたチャットボットですが、生成AIにより「FAQの自動化」から「接客の自動化」へと進化しています。今後は行動結果を学習させることで、ユーザーごとに購入につながるコミュニケーションを自動化できるようになるなど、さらなる進化を続けていくことが予想されます。
本稿を皆さまのチャットボットをどのように活用していけるかを考える上での一助にしていただければ幸いです。
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オリジナル記事:注目を集めては失望されてきたチャットボットがChatGPTで進化! ブランドを体現するコミュニケーションを実現 | マーケターが知っておきたい生成AI
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