一般社団法人デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)は2023年11月16日、活動報告イベント「JICDAQ ANNUAL REPORT 2023」を開催した。デジタル広告取引の品質向上に取り組む企業を認証する制度の開始から3年目を迎え、認証事業者が156社に達するなど、活動の順調さをアピールした。今後はさらなる認知拡大に向けて、広報活動にも積極的に取り組む計画だという。
活動開始3年目、認証事業者は156社に到達
デジタル広告には現在、以下のような問題が顕在化している。
- アドフラウド…自動化プログラム(bot)を利用したり、スパムコンテンツを大量に生成したりすることで、インプレッションやクリックを稼ぎ、不正に広告収入を得る悪質な手法。
- ブランドセーフティ…インターネット広告の掲載先に紛れ込む違法・不当なサイト、ブランド価値を毀損する不適切なページやコンテンツに配信されるリスクから広告主のブランドを守り、安全性を確保する取組み。
※JIAAサイト インターネット広告基礎用語集(https://www.jiaa.org/katudo/yogo/yogoshu/)より引用
JICDAQではこうした状況の解決を目指すべく、さまざまな活動を行っている。
その中でも活動の柱となっているのが、デジタル広告を取り扱う企業の認証制度である。広告枠の販売者、買付者、仲介者など、さまざまな立場から広告に携わる企業について、その業務プロセスで品質向上対策が適切にとられているかを検証。第三者機関とも連携して、認証を発行している。広告事情に精通していない一般企業でも、このJICDAQ認証を取得した企業を通じて広告を発注すれば、アドフラウドやブランドセーフティなどのリスクを軽減できるという制度だ。
JICDAQの設立は2021年3月。日本アドバタイザーズ協会 (JAA)、日本広告業協会 (JAAA)、日本インタラクティブ広告協会 (JIAA)の3団体によって立ち上げられた。そして設立から3年目を迎え、本イベントでは、JICDAQ代表理事の中島聡氏が登壇。組織の活動状況について説明した。
活動初年度末となる2021年12月には、認証制度への登録事業者は109社を数え、59社が認証を取得した。
続く2022年12月には登録事業者164社、認証事業者132社に増加。イベント当日の最新値では、登録事業者は187社、認証事業者は156社へとさらに拡大している。関係企業の間で認証制度への理解が進む中で、広告枠の買い付けを行う広告会社が、認証を取得するケースが目立つと中島氏は明かす。
また情報発信強化の一環として、2023年11月1日にWebサイトのリニューアルを実施。JICDAQ認証の制度説明に関する情報を増やした。さらに登録者専用ページも新たに設けており、調査レポートなども公開していきたいという。
JICDAQ認証企業を通じた広告取引で、アドフラウド発生率が大幅低減
気になるのが、JICDAQの活動が本当にデジタル広告取引の品質向上に役立っているかどうかだ。この点についてJICDAQではモニタリングやアンケート調査を実施しており、その結果が中島氏から公表された。
モニタリング調査におけるJICDAQの定義では、広告会社から媒体社までの取引フローにおいて、JICDAQ認証事業者が2社以上介在したものを「JICDAQ商流」と定義している。デジタル広告不正監視ツール「アドベリフィケーションツール」の提供企業の4社によると、この「JICDAQ商流」における2023年1月~6月にかけてのアドフラウドの発生率は以下だ。
- A社…0.6%
- B社…0.5%
- C社…4.2%
- D社…2.4%
アドベリフィケーション事業者が公表しているベンチマーク値のうち、アドフラウド未対策時の発生率で最も高いケースは11.0%とされる。「JICDAQ商流」における発生率はこれを大幅に下回っており、中島氏も「広告主がJICDAQ認証事業者をお選びいただく価値が証明されたのではないか」と胸を張った。
しかし、こうして“広告を提供する側”で対策が進む一方で、“広告を出す側”には、デジタル広告取引の品質課題に対する理解が広がっていないという。広告業界団体の加盟企業に対するアンケートの結果によると、アドフラウドをはじめ「無効トラフィック」問題の認知率は広告会社・媒体社・仲介社では概ね80%以上であるのに対し、広告主では57.0%に留まった。ブランドセーフティについても同様で、広告関連事業社側の認知率が90%以上だが、広告主は78.5%だった。
この背景には、人手や予算の不足以上に、課題に対する知識の不足が大きいというのが中島氏の分析だ。アンケートでも「会社や部署として具体的にどう取り組めば良いのかわからない」「課題についてよく理解している人がいない」と回答した広告主の割合は、媒体社などと比べて高い傾向だった。
JICDAQ認証企業への発注が、不正防止の第一歩。広告主にも活動アピール
広告主側がデジタル広告の品質課題に対して認知率が低いという現状に対し、JICDAQでは、「登録アドバタイザー」の制度を運用している。
「登録アドバタイザー」制度とは、JICDAQの取り組みに賛同した広告主企業がこの制度に登録すると、JICDAQがセミナーやメルマガによる情報提供などを行い、安心・安全な広告出稿をサポートするという制度だ。登録すると「登録アドバタイザー」として社名がリストに掲載される。
この制度には一般消費者向け製品を手がける大手企業を中心に、11月1日の段階では129社が登録。「登録アドバタイザー」に対して、JICDAQ認証事業者への広告発注を強く推奨している。
この「登録アドバタイザー」に対して行ったアンケート調査では52社が回答。デジタル広告の取引にあたってJICDAQ認証事業者への発注状況を聞いたところ、37%が「発注先は認証事業者のみ」との結果だった。「特段の事情がない限り、発注先は認証事業者のみ」などの回答も含めると、合計89%の企業がJICDAQ認証を意識しており、広告関連企業が認証取得する意義は年々大きくなっている。
デジタル広告の発注実績について聞いたところ、登録アドバタイザーの実に90%が、『認証事業者への発注実績割合が9割以上』と答えている。JICADAQ認証を意識するだけでなく、実際の発注にも影響を与えている(中島氏)
デジタル広告の品質課題は根深く、広告主ができる対応策は限られる。しかし“JICDAQ認証事業者を選定すること”自体が対応策の第一歩となるのだ。今後JICDAQでは、「登録アドバタイザー」の増加にも広く取り組みたいとしており、専門誌への広告掲載など、広報・コミュニケーション活動を強化していくという。
海賊版サイトと広告不正の実情は? CODA代表理事が解説
イベント後半では、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の代表理事である後藤健郎氏が、権利侵害コンテンツとデジタル広告不正の関連について、最新動向を解説した。なお、JICDAQ認証の取得にあたっては、CODAが作成している「著作権侵害に関する要警戒リスト」の活用が条件の1つになっているという。
CODAは映画、アニメーション、放送番組、音楽、ゲーム、出版などの製作を手がける企業31社が会員として名を連ねており、コンテンツの正規流通促進、つまり権利侵害コンテンツへの対策を権利者や法執行機関などとも協力しながら展開している。
コンテンツの不正流通の態様はさまざまだが、不正コンテンツの配布サイトやリーチサイト(いわゆる海賊版サイト)においては、デジタル広告を掲載して収益化を図るのが常套手段となっている。広告主も無関係ではない。万一、海賊版サイトへ自社の広告が表示されてしまうと、ブランドイメージが毀損するのはもちろん、海賊版サイトの運営者へ広告費というかたちで金銭を供与することにもつながってしまう。デジタル広告を出稿する以上、広告担当者は海賊版サイトなどの動向などにも目を配っておかねばならないのだ。
コンテンツの権利侵害対策については以下のような問題があると後藤氏は説明する。
- 国によって対策に温度差がある
- 支払い手段として仮想通貨(暗号通貨)を利用し、完全に匿名でサーバーを運用したり、ドメインを取得したりできる
- 「ISD(Illicit Streaming Device)」という、世界各国のテレビ放送をストリーミングで無料視聴できてしまう不正機器が横行している
これらの問題は、日本での被害拡大も懸念されているという。
こういった問題に対して、CODAでは、動画配信プラットフォーム事業者に対して権利侵害コンテンツの削除要請を着実に行う一方で、2021年4月には「CBEP(国際執行プロジェクト)」にも着手した。エシカルハッカー(道徳的・倫理的に悪意を持つハッカーからの攻撃を防ぐ活動などを行うエンジニア)らと協力しながら、SNS上でオープンにされている情報などを元に権利侵害案件の運営者の特定を行うもので、各国の警察なとども広く協力しているのが特徴だ。
この成果として、スペイン拠点の広告配信事業者が日本コンテンツの海賊版サイト27サイトへ広告を配信しているのを発見。弁護士を通じて警告した。後藤氏によると、日本の権利者が海外の広告配信事業者に対して、具体的な広告出稿停止を警告したのはこれが初のケースとのこと。
移転繰り返す海賊版サイトには、広告表示停止で対処
海賊版サイトの実例として挙げられたのが「Dramacool」と呼ばれる一連のサイトだ。過去に国内企業の広告が表示されてしまったことが確認されている。
このサイトは、ドメインを次々に変更する「ドメインホッピング」を繰り返している。サイト運営者を発見したり、稼働自体を停止させたりするのは難しいが、広告の表示停止措置は、サイト運営者ではなく広告配信者へ要請できる。後藤氏も「いたちごっこ感は拭えないが」としつつも、次々発生する類似サイトに対して、広告掲載停止要請を随時行っているとの現状を説明した。広告配信者の対応も徐々に改善しており、当初は停止依頼から反映まで1週間程度かかっていたものが3日程度に短縮したという。
ちなみに、イギリスはブランドセーフティの対策が進んでいるとされ、海賊版サイトに出稿されている状況を放置すれば不正な利益供与とみなされ、法律にすぐさま抵触する恐れがある。よって広告主も真剣に取り組まざるを得ないのが実情だそうだ。
対して日本は、CODAをはじめ、民間機関による取り組みが奏功。法整備に至る前の現段階でも、効果的な対応ができているという。もちろん海賊版サイト問題は深刻で、現在進行形の課題ではある。楽観はできないが、総じて海賊版サイトにおける日本人対象の広告が掲載される例は大幅に減少したと後藤氏は説明する。ただし、JICDAQやそれに類する団体に参加していないアウトサイダー企業が広告を扱う例もあるため、いかに対応していくかは今後の課題だとも補足した。
最後に、イベントの閉会にあたってJICDAQ理事の橋爪恒二郎氏が挨拶した。今やデジタル広告はマスコミ4媒体の広告規模を超え、さらにはIT技術などと結びつく形で新しいマーケティング手法を日々生み出しており、広告にまつわる業務一切が大きな変革期を迎えていると橋爪氏は改めて指摘する。
たとえばAIは近年の成長分野だが、生成AIの活用により、著作権侵害やフェイク広告のまん延など懸念もある。こうした今後発生しうる問題に対してもJICDAQとして向き合うべきであり、今後も関係者と緊密に協力していきたいと述べた。
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オリジナル記事:JICDAQ認証企業を介したデジタル広告取引、アドフラウド発生率が大幅低減|JICDAQ23年度活動報告
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