Googleが米政府と独占禁止法訴訟を繰り広げている。この記事では、「この訴訟の争点」「訴訟がSEOにとって何を意味するか」に加えて、「長年再燃が続くSEO陰謀論をこの裁判が裏付けることになったかもしれない概要」を解説する。
そして、「ユーザー行動シグナルは、検索順位決定要因なのか?」の問いへの(現時点での)答えも、記事の最後で提示する。
Googleと米政府による独占禁止法訴訟の簡単な背景
Googleが米政府と争っているのは、米司法省がGoogleを相手取って起こした独占禁止法訴訟だ。これは歴史的な訴訟になる可能性が高い。
たとえば、過去にはMicrosoftも「OSでの独占的な地位を濫用し、ブラウザの分野を独占した」として、同じような訴訟を起こされた。その結果Microsoftは、Internet Explorerに代わるブラウザをユーザーが選びやすくなるように仕様の変更を余儀なくされた。
これまでの主な報道の多くや、Google自身の公式回答(「人々がGoogleを使うのは、それが便利だからだ」)も、「AndroidとiOSにおける検索エンジンの選択」という同じような問題が中心になっている。特に注目されているのは、Appleとの契約だ。Appleは、巨大な市場シェアとそれにともなうメリット(一定の量のユーザーデータなど)をGoogleにもたらしている。この点については、SEO担当者や素人から見ても比較的理解しやすい。僕たちの多くは複数の検索エンジンを使ってみたうえで、他の検索エンジンではなくGoogleを使うようになった経験があるからだ。
とはいえ、ここで何が「反競争的」と見なされ、何が「合理的なビジネス取引」と見なされるかについて、僕のように弁護士でない者には直感的には理解できない。
しかし司法省は、公式発表から判断すると、少なくとも別の部分、具体的には広告におけるGoogleの垂直的な独占に関心があるようだ。
この問題は、専門家でなければ聞いたこともないようなさまざまなプラットフォームに関連しているという点で、より理解しにくい。一方でこれは、会社がある分野(検索)での独占を持ち、他の分野(広告)で不当な利点を得ているという伝統的なケースともいえる。MicrosoftのOSとブラウザの場合のように、Appleのような第三者が絡む複雑さはない。
独占禁止法訴訟がもたらすSEOにとっての意味
デフォルトの検索エンジンの問題は、SEOの観点から見ればもう少し重要性が高いことは明らかだ。もしGoogleが、AppleだけでなくAndroidデバイスでもデフォルトの検索エンジンでなくなったらどうだろうか。Microsoftのデバイスではすでにデフォルトではないため、それがどうなるかはわかっている。君の場合はどうかわからないが、僕がWindowsをインストールして最初にするのは、組み込まれているBingの検索バーを削除して、FirefoxやChromeをダウンロードすることだ。
それにAppleも検索の分野で本格的な動きを見せているため、Bingよりも有望な二番手になるかもしれない。
SEOを進めるにあたって、2つの検索エンジンに合わせてサイトを最適化しなければならないとすれば、SEO担当者の仕事はさらに複雑になるだろう(特にAppleの検索エンジンがアプリ中心の場合は、なおさらだ)。ユーザーがAppleの検索エンジンを気に入れば、アプリではないウェブサイト自体の価値に影響を与える可能性さえある。
裁判の行方によっては、Googleの広告事業もどうなるかわからない。もしかしたら、米司法省の図のように、SSP・AdExchange・DSPが分断されてしまうかもしれない(場合によっては別会社にされるなど)。もしくはGoogleの検索結果ページで他の広告ベンダーが広告を販売することをGoogleが許可せざるを得なくなる可能性がある。そうなればSEOに対して二次的な影響が及ぶだろう。
有料検索が複雑になった世界では、オーガニック検索の重要性が増すことになるのだろうか。それとも、有料検索の競争がより激しい世界では、オーガニック検索の重要性は低下するのだろうか。現段階で、どちらの可能性が高いかはわからない。
同様に、オーガニック検索で競合する多くのウェブサイトは、ディスプレイ広告から資金を得ている。それが止まったら、あるいは強化されたら、どうなるだろうか。
SEO陰謀論の実際が明らかになる?
「Googleの独占的な地位がもたらす利点の1つであり、濫用しているもの」と見なされるのは、Google検索結果から得られるユーザー行動データだ。これは多くのSEO担当者にとって大きな関心事だろう。何年も前から、こんな仮説がある:
Googleは、検索結果ページにおけるユーザーの行動(操作)データを蓄積・分析して、そのデータをもとに検索順位の改善に使用している。
たとえば、次のようなことをGoogleがしていると言われている:
君のサイトが2位に表示されているとする。しかし、検索ユーザーの多くが1位の結果をスルーして2位をクリックしているのであれば、それは君のサイトが1位に値することを意味する(順位が上がる)。
君のサイトが1位に表示されているとする。検索結果で君のサイトをクリックしたユーザーの多くがすぐに戻るボタンを押して別の検索結果を選んでいるのであれば、それは君がその順位に表示されるべきではないということだろう(順位が下がる)。
多くのSEO担当者は以前から、これが実際に少なくとも何らかの形で起こっていると確信している(僕も確信している、詳細は後述)。数年前のサイラスによるホワイトボード・フライデーでも述べていた。何年も前のランドによる実際の実験でも確認できる:
検索とクリックのテストをしたところ、協力者が600人~700人(実在の人間で)いたときだけ、順位の変動があった。機械的な操作は難しそうだ。
In my query+click experiments, only those w/ 6-700+ real, human participants seem to have the rank-changing effects. That's hard to fake.
— Rand Fishkin (@randfish) September 4, 2016
2018年には、僕もDistilledのブログで何度かこの説に言及した。そのうちの1件はここに残っており、もう1件は削除されてしまったが、ここに再度アップロードした。たとえば、再度アップロードした記事では、次のように書いている:
3. 検索順位決定要因としてのユーザーシグナル
ハンナ: ジョン、もちろんその時点で、ユーザーからのシグナルを使うことになるのでしょうね? どの検索結果が最も頻繁にクリックされたかなど、そういったことにその時点で目を向けるのでしょう?
ジョン: そういう風に直接的な検索順位には使わないと思います。Googleはこのようなシグナルを、一般的なアルゴリズムを分析するのに使っています。というのも、膨大な数の検索クエリ全体のなかで、ユーザーがどこをクリックするかによって、クエリがより正しいかそうでないかといったことを把握できるからです。しかし、ごく一部のページに対する特定のクエリについては、さまざまな展開になることもあります。(後略)
つまり、ここで示唆されているのは、ユーザーシグナル(おそらくCTR[クリック率]や滞在時間などのユーザー行動シグナル)は「アルゴリズムを評価するために使う」のであって、「アルゴリズムの一部ではない」ということだ。しばらく前から、これがGoogleによる公式見解となっているが、以前はジョンがこのテーマを避けていたのに対し、今回の回答ははるかに明確でクリアだと感じた。
とは言うものの、Google自身は常にこうした憶測を否定しており(程度の差はあるが)、ときには真っ向からはっきりと、ときにはジョンのようにやや技術的な点からこれを否定している。多くのSEO担当者は、このようなトピックに関してGoogleの言葉を絶対的な真理ととらえており、現に僕は過去にGoogleの言葉を疑ってかかったために、Twitter(現X)などで公然と槍玉に挙げられたことがある。
陰謀論が米政府とGoogleの対立と、どう関係するのか
前セクションまでのことを考慮すると、2023年9月にGoogleの元エンジニアであるエリック・リーマン氏が証言した内容に、多くのSEO関係者が興奮を覚えた理由は簡単に理解できる。
その証言とは、次のものだ:
司法省はまた、リーマン氏に対し、「検索におけるクリックの使用を話題にしない」よう従業員に指示する「Sensitive Topics」(機密のトピック)に関するスライドについて尋ねた。同氏の証言によると、Googleが検索でユーザーデータを使用していることは周知の事実だ
しかし「検索結果の表示順位にユーザーデータを使用していることは認めないようにしている」という。これに関する有益な補足情報はあまり得られなかったが、その理由については、SEOが検索結果の操作に使われているかもしれないと思われたくないことと関係していると思う。
同氏はさらに、次のようにも述べている:
僕たちが検索順位の決定にクリック数を使用していることは、ほとんどの人が知っている。それが次のような論争を呼ぶ:
「誰もが知っていることなのに、なぜこの問題を曖昧にしようとしているのか?」
さらに、検索に関する2016年の全社会議用プレゼンテーションには、次のような驚くべきスライドが含まれている。
スライドには次のような記述もある:
ドキュメントに対する好意的な反応があれば、それは良いものだと判断する。否定的な反応があれば、それはおそらく悪いものだろう。
次のようなスライドもあり、
このスライドのノートには、次のようなメモがある:
(前略)もし今、検索をすれば(中略)、あなたの行動(反応)は次のユーザーに利益をもたらすことになる
他のドキュメントでは、「アテンション」「クリック数」「スクロール」「クエリの絞り込み」など、測定している具体的なシグナルを取り上げている。これらはいずれも、多くの人が何年も前から指摘していたものだ。
もちろん、僕のように多少の陰謀論好きなSEO担当者なら、手っ取り早くこれを結論として満足したいところだが、残念ながら当初予想していたほど明確ではないかもしれない。
ユーザーデータはどのように使われるのか
アルゴリズムにおけるユーザーデータの統合にはいくつかの異なるレベルがある。統合レベルが最も低いものから最も高いものへと大まかな順番で並べると、次の通りだ。
Googleのアルゴリズムでは、ユーザーデータを一切組み込んでいない。
リンクやセマンティックな関連性など、以前から検索順位決定要因となっている学習セットとして、一部のユーザーデータの履歴が使われる(Pandaアップデートのことを思い出してほしい))。
ライブユーザーデータを定期的に更新して、アルゴリズムを再学習させている。
コアアップデートにより、最新のユーザーデータが自動的にアルゴリズムに組み込まれる。
アルゴリズムはユーザーデータにリアルタイムで反応する(前述のランドによる実験で示されているように)。
リーマン氏によるこれらの発言(そしてこれまでのGoogleによる他の一連の証言)が、1を除くいずれにも当てはまるのはほぼ間違いない。ただし、ユーザーデータがこれまで学習データ、しかも従来の学習データでしかなかったのであれば、SEO担当者がそこに関与しようとすることをなぜ懸念する必要があるのだろうか? そのため僕は、ここでは3以上が暗示されていると考えたい。上述した全社会議のスライドも、僕と同じ見解のように見える。
さらに細かいニュアンスを補足すると、リーマン氏は2018年の電子メールで、次のように述べている:
ユーザーによる膨大な量のフィードバックは、加工されていない生のテキストの教師なし学習でほぼ置き換えることが可能だ。
少しわかりづらいが、この発言の背景が重要だ。同氏は「競合他社がGoogleのリードに追いつく可能性」を理論的に説明していた。これはGoogleがユーザー行動データを利用していることを前提にしており、「競合他社は、Googleほどのユーザー行動データをもっていなくても、代替手段でカバーできる」可能性を示唆しているものだ(Googleがユーザー行動データを使わなくなることを示唆しているわけではない)。
だが、リンクについてはどうか
この発言とほぼ同時期に、Googleのゲイリー・イリース氏はSEOカンファレンスPubconで、次のことを熱心に説明していた:
リンクは、もはや検索順位を決めるシグナルの上位3つには入らない。
タイミング的に偶然なのはほぼ間違いないが、そうだとしても疑問が生じる。リンクでないとしたら、何なのか。ユーザー行動シグナルか、ブランドか。可能性として、これもまた「このシグナルを操作しようとするのはやめてほしい」という意図があると思われるため、だれにもわからない。
結論として、ユーザー行動シグナルは検索順位決定要因なのかどうなのか
さて、結論はどうなのだろうか。ユーザー行動シグナルは、検索順位決定要因なのだろうか?
おそらく、答えはYESだ。
以前よりその可能性はやや高まっている。この記事がみなさんの参考になれば嬉しい。
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オリジナル記事:検索結果でのユーザー行動は順位決定に影響する? 米政府とGoogleの訴訟から探るその答えは…… | Moz - SEOとインバウンドマーケティングの実践情報
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