テレビCMでもおなじみ「くらしのマーケット」。実は私もユーザーで、高所の掃除や家具の組み立てなどでたまに利用します。
出張訪問サービスなので、最初は「どんな人が家に来るのだろう」と心配もありました。ただ、家庭での困り事を検索すると、検索結果の上位に「くらしのマーケット」の記事やリスティング広告がよく表示されます。試しに頼んでみたところ、なかなか良いと感じたため、そこから「くらしのマーケット」のマーケティングや出店者の管理について興味を持ちました。
そんなわけで今回は、「くらしのマーケット」を運営する「みんなのマーケット」執行役員COO 兼 マーケティング本部長の中尾俊さんに話を伺いました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:海保 竜平)
※2022年8月19日に一部データを最新の数値に修正。
ネットワーク効果の最大化で「国民的なブランド」を目指す
――「くらしのマーケット」を運営する「みんなのマーケット」の社員数は約120人で、100人ほどがフルリモート勤務とのこと。今マーケティング本部には何人くらい所属していて、どんな仕事をしているのですか。
マーケティング本部にいるのは20人くらいで、ブランディング、販売促進、メディア運営、出店獲得営業、CRM、カスタマーサポートなど、幅広い領域を担当しています。
――中尾さんはどんな仕事を担当しているのですか。
全社の目標や方針に基づいたマーケティング戦略の策定と、戦略の言語化、KPIの設定、各施策のフォローが中心です。また、組織拡大のための採用も担当しています。実務に関してはほとんど現場主導なので、私は壁打ちの相手になって、思考整理の手伝いや施策のブラッシュアップを一緒に行っています。
――マーケティング戦略とは具体的にどんなことですか。
我々のようなプラットフォームビジネスの重要な概念のひとつに「ネットワーク効果」があります。マーケティングはその最大化に大きく貢献できると考えています。そのため、ネットワーク効果を生み出す起点となる出店者の獲得や、ネットワーク効果を加速させるブランディングの推進で、効率的に最大の成果を上げる方法を戦略として捉え、マーケティング本部全体で取り組んでいます。
――くらしのマーケットはどんなブランドを目指しているのですか。
「国民的なブランド」です。楽天さんやAmazonさんを利用するとき、サービスを利用する意味を考えながら買い物をする人は少なく、ほぼインフラ的に活用していると思います。我々もそんなふうに、インフラ的に誰もが手軽に利用できるブランドを目指しています。そのためには認知度はもちろん、安心安全に利用しやすいことやカテゴリの豊富さについても、もっと広く、国民的な規模で知っていただきたいと考えています。
出店者の獲得とカテゴリの拡充に全力
――中尾さんが入社したのが2014年。そこから「くらしのマーケット」もテレビCMを通年で打てるほどに成長しました。事業拡大に向けて、マーケティング責任者として特に注力した点は何ですか。
大きく3つあります。1つめは出店者を増やすこと。先ほども申し上げたとおり、ネットワーク効果の起点を成すのは、サービスを提供するサプライヤーの出店者なので、獲得に最大限注力してきました。現在も最重要施策のひとつとして取り組んでいます。
2つめは獲得してきた出店者の品質向上です。我々が取り扱う生活関連のサービスは、出店者がお客さまの自宅で作業をする機会も多いので、しっかりした対応ができる方でないとユーザーに不安を与えてしまいます。そのため、全社で徹底的に品質向上を図っています。
3つめはカテゴリの拡充です。現在、出店者数が約7万店、カテゴリ数は約300に上ります(2022年8月19日現在)。カテゴリを広げれば広げるほど、多くのユーザーの需要を満たすことができると思います。カテゴリの拡充は、我々がターゲットとするユーザーの拡大と同義なので、「国民的なブランド」を目指す以上、カテゴリの拡充を進めていく必要があります。こちらも全社的に取り組んできたことになります。
――出店者とカテゴリですね。ユーザーについてはどうですか。
ユーザーについては、サービスが充実するのに連動して、自然に付いてきていただけると考えています。良いサービスなら皆さんが使いたくなるはず、というシンプルな理由がひとつ。もうひとつはビジネスモデルの話で、プラットフォームビジネスは、サプライヤー側のコンテンツが充実していくと、検索エンジンから評価されやすくなります。検索順位で上位表示されれば、自然にユーザー、リピートユーザーの流入増につながると思います。
――ちなみに、「くらしのマーケット」のビジネスモデルはCtoCですか?それともBtoC?「マッチングアプリ」ともまた違いますよね?
BtoCになります。なぜならプロがサービスを提供する安心感と品質を重視しているからです。出店時の審査や出店後のコンサルティングなどを通して、プロによる高品質なサービス提供が実現されるよう努めています。
業界の品質向上のため、優れたサービスを提供している出店者を年に1回表彰するイベントを開催している。――「くらしのマーケット」のWebサイトを調べてみると、「くらしのマーケットマガジン」への流入が多いようで、SEOに注力していると感じます。記事本数のノルマなど、いかがですか。
記事の量産はしておらず、必要な記事のみを制作しています。SEOのトレンドとしても、本数ではなく、ユーザーの困り事の解決に役立つなど良質な内容を重視する流れだと思います。
ただ、カテゴリを追加し続けている関係上、カテゴリの概要を説明する「とはもの」や「相場」「選び方」のような初期セットアップ的な記事は、カテゴリ数の伸びと連動して、ある程度の本数になることはあります。
あとはリライトですね。リライトは1日5本程度上げているときがありますが、それも本数を意識しているわけではありません。順位の変動があったときに、自分たちの記事の順位が落ちたのは、ユーザーがより求めているコンテンツが他にあるからだと捉え、順位下落の原因をモニタリングして修正すべきところを修正しています。
――記事制作は外注ですか、内製ですか。
ほぼ内製ですね。一定レベルのSEOのノウハウは社内に蓄積されているため、良質なコンテンツを制作できる人を採用し、ユーザーの課題解決を意識した内容になるよう努めています。
流入が多くなっているのは、単純にマーケットの大きさが影響していると思います。「リフォーム」や「引越し」「ハウスクリーニング」など多彩なカテゴリでサービス提供をしていて、それぞれにユーザーの需要が大きく、関連する記事の本数も多くなりますから、自然と流入数も増えるというわけです。
――オーガニックに比べると、Web広告からの流入はそれほど大きくないようです。Web広告にはどれくらい注力していますか。
SEOもリスティング広告も、検索エンジン上からいかにユーザーを獲得するかという点では共通しており、そこにユーザーが大きなボリュームで存在する以上、両方とも注力するのは当然です。ただ、リスティング広告に関しては、広告費用がかかるため、費用対効果の見合う範囲で実施しています。
また、広告の割合がそれほど大きくないのは、オーガニックの獲得が十分にあり、広告依存体質に陥っていないことを示しており、良いことだと思います。
――「Cookie規制」と言われても、現状は問題ないという認識ですか。
プライバシー保護の観点に基づく規制強化の流れは確実に来ていますので、抗っても仕方がないかなと思っています。幸いなことに広告に依存している状況ではないので、今は様子を見ています。個人的には、Cookie規制に合わせたハック的なトラッキング手法や広告手法にはあまり興味はないので、状況に応じてできることをするだけです。
影響があるとしたら、細かいチューニングなどサイエンスの領域は少しやりづらさが出てくるかもしれません。しかし、面白いクリエイティブをつくったり、新たなメディアを活用したり、アートな領域をより強化したりしていくことで、マイナス分を十分カバーする成果が出せるのではないかと考えています。
オフィスに猫がいる会社としても知られる。猫好きな人には、たまらない癒し…カテゴリを全方位に広げ、休眠ユーザーを呼び起こす
――「面白いクリエイティブ」の使用先のひとつがテレビCMですか。資金調達した40億円の多くをCMに投資しているという記事も見ました。確かにCMで「くらしのマーケット」を知って利用した人が私の周囲にも複数います。昨年はゴリエ(以前放送していたバラエティ番組のキャラクター)がCMに登場して話題になりました。CMはお金が相当かかりそうですが、費用対効果はどうですか。
テレビCMは、販促だけでなく、カテゴリの豊富さや安心安全性などブランディング面での訴求も期待していて、後者に関しては短期的に費用対効果を測るのは難しいと考えています。
また、キャンペーン訴求のような販促面に関しても、流入や予約など全体的なボリュームはかなり獲得できますが、効率という点では、リスティングなどのデジタル広告のほうがターゲットを細かく設定できる分、良いと感じます。
ただ、CMのリーチはさすがで、数字は公表していませんが、認知度はかなり向上しました。ゴリエさんのCMもTwitterではポジティブなUGCが多かったですし、認知度向上に貢献したと捉えています。
認知度向上に連動する形で指名検察も増えますし、アプリの利用者数も伸びました。また、サービスに対する信頼性が上がったことで、CVRの向上にもつながっています。
もっとも、そうしたプラスの数値は、ブランディング施策による効果だけではなく、出店者の品質向上やUI改善など複合的な影響である可能性が高いと考えています。短期的な数値のリフトももちろん重要ですが、それ以上に俯瞰的な視点でブランドを向上させていくことが大切です。
――CMはリピートユーザーの獲得効果も大きそうですね。ほかにリピートユーザー獲得施策として実施していることはありますか。
おっしゃるようにCMによる呼び起こしの影響は大きいと思います。あとは、メルマガやプッシュ通知、会員向けキャンペーンなど一般的なリピートユーザー獲得施策は大体行っています。
その上で、我々の特徴的な施策としては、カテゴリの拡充が挙げられます。「エアコンクリーニング」で利用して良かったと感じた人が、今度は「家具の組み立て」で活用してみる。カテゴリが豊富にあると、そんなふうにご利用いただける機会が広がります。つまり、ユーザーニーズを幅広く捉えてカテゴリを増やすことが、そのままリピートユーザーの獲得施策というわけです。
オフィスの端にはダンベルがズラリ…。体を鍛えるだけでなく、リフレッシュやデスクワークの疲労解消にも利用される。電話営業のポイントは、対等な関係性の構築
――わかりました。次にテレマーケティングについてお聞きします。先ほどの説明で、マーケティング本部の最重要施策のひとつが出店者の獲得という話がありました。セールス部門ではなくマーケティング本部の方々が電話営業をしているのですか。
よくあるセールスチームとマーケティングチームの分断を起こしたくなかったので、マーケティングチームの中にセールス機能がある組織設計にしました。ですから、マーケティングチームがリードを獲得してセールスに渡すのではなく、マーケティングチームがデジタルマーケティングでリードを取り、その後のテレマーケティングも、クロージングも行うということです。
――効率性などの面でデメリットはないのですか。
デメリットは感じないですね。リードの段階で、後工程における注意点も把握できますし、むしろスムーズに進捗する印象です。
――もうひとつ、「へりくだったようなお願い営業はしない」という記事を読んだのですが、どういう意味ですか。
我々は出張訪問サービスを取り扱っています。例えば、横柄な態度の出店者が自宅に来たら怖いですよね?そうならないように出店者の選定には非常に神経を使っています。
まず、テレマーケティングの段階で、当社に出店いただくべきかどうかのフィルター機能が働かないと、後工程のコンサルティング本部のオンボーディングがうまくいかなかったり、ユーザーに迷惑を掛けたりする事態が発生してしまいます。トラブルを引き起こす可能性がある事業者には無理に出店いただく必要はありませんし、出店しても後でコストがかかるだけなので、フィルター機能を働かせる前提として、我々と出店者は対等なパートナーであるというスタンスを貫いています。対等な関係性にあることを後で出店者に知らせるのではなく、最初から認識していただく意味もあり、営業活動からそのスタンスで行っています。
それはちょっとしたコミュニケーションでも可能だと思います。例えば、アポを取るときに「時間はいつでも大丈夫です」「全部そちらに合わせます」とすると、へりくだった感じが出てしまいます。そうではなく、我々が日時を指定して、「この日時でお願いします」とむしろちょっと要求するような感じにして、対等な関係性の構築を意識したコミュニケーションになるよう注意しています。
――出店者の選定は神経を使いそうですね。何か基準はあるのですか。例えば、Aさんは大丈夫と思ったけど、Bさんは危なそうと感じたりして、選定基準が属人化していたら、本当は良い人なのに漏れてしまったりして、出店者とくらしのマーケットの双方が損をする事態も考えられます。
そこは結構難しいですね。ただ、社員相互に架電をモニタリングする仕組みがありますし、出店後にはコンサルティング本部のオンボーディングの工程もあります。そのときもフィードバックがきちんと働いて、「あの人はこういう態度だった」とわかるようになっています。そのフィードバックが日々のテレマーケティングにも反映されています。そんなふうにクオリティを上げるための仕組みづくりはかなり進捗してきたと思います。
――Googleマイビジネスの評価についてはどう感じていますか。中にはややネガティブな投稿もあり、出店者、ユーザーともに気になる人もいると思います。
くらしのマーケット内でユーザーに投稿していただいているクチコミは、おおむね高評価です。アプリのレビューを見ていただいても、ほとんどが良いレビューです。両方とも相当数のクチコミがあります。そう考えると、大半のユーザーは満足していると解釈しています。Googleマイビジネスのクチコミの一部とは乖離があるかもしれませんが、我々が把握している評価のほうがユーザーの素性がわかりやすい分、信ぴょう性も高いので、あまり気にしていないのが正直なところです。
――でも出店者にはフィルターをかけられても、ユーザーにはかけられないですよね?「国民的なブランド」を目指す上で、変なユーザーが増えてきたらどうするのですか。
特別に何か仕組みをつくる必要性は今のところ感じていないので、個別に対応する形になると思います。ただ、もし出店者に迷惑を掛けるようなユーザーがいるのであれば、別に無理に使っていただく必要はなく、個別にしかるべき対応を取るだけです。
逆に、ユーザーが遭遇しがちなトラブルはあるので、そこに対しては手当てをする必要があります。例えば、「予約していたのに、出店者が来なかった」「作業中に家具を壊された」などの事例に関しては、損害を補償したり、次回利用できるクーポンをお渡ししたりするといったサポート施策を少しずつ始めています。
採用したいのは、自分で突き詰めて考えられる自立した強さのある人
――最後に、これから「くらしのマーケット」をどのようなサービスに成長させていきたいか、抱負をお願いします。
やはり「国民的なブランド」として、誰もが普通に使っている状態を作りたい。その思いに尽きますね。そのためにはカテゴリがまだ全然足りないと思っています。
――そんなにカテゴリありますか!?
最近も自動車に関連するカテゴリで、「EVコンセントの設置」「カーエアコンクリーニング」「駐車場の土間コンクリート施工」などをリリースしましたが、ほかにも「板金」や「車検」もあるかもしれないですね。庭木に関連するものですと「落ち葉清掃」や「花植え」「人工芝施工サービス」といったサービスも最近リリースしました。そんな感じで細かいカテゴリはまだ無数にあります。それがイコールで我々の成長機会であり、チャンスでもあります。まだまだ1万カテゴリ以上を目指したいですね。
――カテゴリ案はどのように考えているのですか。
専任の担当者が常に考えています。ほかにもアイデアボックス的に社内から募る仕組みもあります。
――なるほど、それは楽しそうですね。カテゴリがどんどん増えていくと、それだけ人も必要になると思います。どんな人を採用したいですか。
成果をしっかりと出せる方を採用したいです。過去の経験を活かしていただきたいという思いがありつつも、一方で、過去の常識に囚われすぎないことも大切だと感じます。ですから、1回リセットするくらいの気持ちで新しいことに積極的に取り組める人を求めています。それまでの経験をゼロにするのは非常に勇気がいるのですが、その覚悟で新しい仕事に取り組める人は大いに活躍できるでしょう。
あとは、フルリモートの環境下で働くことになりますので、自立している人を求めます。何か判断の拠りどころがあるかというと、スタートアップですからそんなに多くはありません。自分で突き詰めて考えて、自分で判断していく姿勢と、困難に直面したときに自ら解決策を見つけだせるような強さがあると良いと思います。
――本日はありがとうございました。
Profile
中尾 俊(なかお・しゅん)
みんなのマーケット株式会社 執行役員COO 兼 マーケティング本部長。
大手広告代理店にてダイレクトレスポンスからブランディングまで幅広くデジタル広告領域を経験し、トレーディングデスクの立ち上げなどにも携わる。2014年みんなのマーケットに入社。約20人が在籍するマーケティング本部を統括。
くらしのマーケット
https://curama.jp/
「Marketing Native (CINC)」掲載のオリジナル版はこちら 出店者数7万店!暮らしを支えるインフラを目指す「くらしのマーケット」のマーケティングとは――みんなのマーケット・中尾俊インタビュー2022/08/02
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オリジナル記事:暮らしを支えるインフラを目指す「くらしのマーケット」のマーケティングとは――みんなのマーケット・中尾俊インタビュー | Marketing Native特選記事
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