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世界中に数多あるマーケティング関連本。どれを読めばマーケティングが分かるようになるのか。何から読めばマーケティングを理解しやすいのかを見極めるのは大変困難です。
「いっそ、あのマーケターの本棚をのぞき見できたら良いのに……」
そんな願いを実現したのが、連載「マーケターの本棚」です。今回はコンサルティングファームのケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズのデジタルマーケティングをゼロから立ち上げ、牽引した谷風 公一(たにかぜ・こういち)さんに、自社をエモく語るヒントになる1冊を紹介してもらいました。
<プロフィール>
谷風 公一:「プロジェクトを成功させるのが得意」なコンサルティングファーム、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社でコンサルタントとして様々な企業変革プロジェクトに参画。2019年よりマーケティング部門の責任者として、営業・マーケティング組織の改革、顧客をファン化するコンテンツマーケティングの推進に奔走。2019年から3年連続でMarketo Engage Champion(現Adobe Advocates)を受賞。
マーケターたるもの商材と会社を地続きで語るべし
B2Bの世界でマーケターをやっていて不思議に思うのが、商材のスペックや競合製品との差別化ポイントは語れても、その商材を取り扱う自社の存在価値や独自の強みをエモく語れるマーケターが意外に少ない、ということです。
この話を周囲にすると「そういうのは広報マターなのでは」という回答が返ってくることもあります。しかしそこを分断するのは違和感があるんですよね。商材と会社を地続きで語れなくて良いのか、と。
もうちょっと具体的に言うと、自社がその商材を通じて業界や社会のどんな課題を解決したいと考えているか、自社のカルチャーやエッジの立った部分が商材にどのように組み込まれているか、を熱っぽく説明したり社員や顧客の口を通じて生々しく語ったりするコンテンツを作らなくてもいいんだっけ、ということです。
「それってそんなに大切なの?」と思う人は、「会社として大きな買い物をする」ケースを想像してみてください。買い手の立場からすると、何かモノを買うとき、特にB2Bで大きな買い物をするとき「その商材を提供しているのはどんな会社か」はかなり気になる要素です。
なぜなら大きな買い物はほとんどの場合「買ったら終わり」ではなく、購入後も売り手との付き合いが継続するためです。システム導入であればベンダーを決めれば終わりではなく、そのベンダーとは、導入フェーズはもちろん運用や保守でも末永くお付き合いするケースが多いでしょう。
オフィスや工場の移転も同様です。売り手がなんだか顔の見えない会社や単なる御用聞きベンダーだったりすると「永年にわたりパートナーシップを結ぶのに、この会社に本当に我が社のことをお任せして大丈夫なのか」となってしまいます。
また、大きな買い物は買い手の重篤なビジネス課題を解決するための投資であることも多々あります。いくら最新の医療設備が整っているからと言って、得体のしれない医者に生死をかけた大手術をお任せすることはできませんよね。
買い手にとって大事なのは与信情報だけではないのです。「おたくのサービスはとても良い。それだけでなく、おたくの会社のビジョンやカルチャーにとても惚れている」とお客さんに言ってもらえたら誇らしいし嬉しいじゃないですか。
もちろん顧客と直に接する現場メンバーの活躍がファン化を促進するケースも多々ありますが、マーケターが商材と会社を地続きで語ることができれば、未来の顧客をも自社のファンにできます。そしてこういう顧客は、商材だけでつながる顧客より確実にエンゲージメントが高まるのです。
では、どうすれば自社をエモく語れるようになるか。ここで1冊の本を紹介します。
実例を元に「エクセレントカンパニー」になるための法則を検証した1冊
私が折に触れて参考にするのが本書です。本書は「グッドカンパニーがエクセレントカンパニーに飛躍できた要因はなんだったか」を実データをもとに検証した1冊。20年以上前の本ですが、今なお「確かにあの会社のエクセレントたる所以は本書のこの部分をちゃんと実践してきたからだな」と実感することが多々あります。
マーケターとして本書にある「エクセレントカンパニーになるための法則」を理解し「翻って我が社ではどうか」と考えてみれば、これまで気付かなかった自社に潜在するエクセレントな価値や自社推しコンテンツの種を見つけるためのヒントが見つかるでしょう。
本書によればエクセレントカンパニーになるための法則は全部で7つです(厳密にはエクセレンスを永続させるための法則がもう1つあります)。その中でも比較的、自社推しコンテンツ作りに応用できる法則2つをご紹介します。
世界一、経済的原動力、情熱がそろうのはどこか
第5章「単純明快な戦略」では、本書の調査対象となったいずれのエクセレントカンパニーでも、意思決定の際の判断基準は極めて単純な概念であることが描かれます。
例えばドラッグストア・チェーンを手掛けるウォルグリーンがなぜ同業他社のエッカードに比べ著しく飛躍できたか。それは「もっとも便利で最高なドラッグストアで、来客一人当たりの利益を最大限に増やす」という単純な概念で、熱狂的ともいえるほど一貫した意思決定を実行してきたからだ、と言います。
この概念だけ聞くと「なんだ、そんなことか」と思うかもしれません。しかしウォルグリーンは、現在店舗より利便性の高い場所に空き地が出た場合、それが例え半ブロック先であっても、現賃借契約の違約金を多額払うことになっても、即刻移転するそうです。
こういうエピソードを聞けば「それは徹底してるな……」と思うでしょうし、マーケターの観点からはこういうエピソードこそが自社と商材を地続きで語るエモいコンテンツの種になります。
本書ではこの「極めて単純な概念」を寓話になぞらえて「ハリネズミの概念」と呼称します。寓話「ハリネズミとキツネ」では、キツネがさまざまな作戦を編み出してはハリネズミを食べようとしますが、ハリネズミは「体を丸める」という単純明快な打ち手でそれを阻みます。
エクセレントカンパニーは、外的環境が変わるたびに複雑な戦略を次々と打ち出すのではなく、自らを取り巻く複雑な世界について考え抜き、理解を深めることで自社が飛躍するための単純な本質を見つけ出すものだ、と本書では語られます。
ちなみにウォルグリーンの競合他社であるエッカードもまた積極的な店舗投資を行っていました。しかし「エッカードの経営陣は根っからの買収屋(本書より)」であったため、店舗をまとめて買収する機会に手当たり次第に飛びつき、急成長の芽があると踏めば他業種であっても投資を惜しまなかったそうです。
結局エッカードはこうした積極的投資がうまく結実せず、ウォルグリーンに水をあけられ他社に買収される憂き目を見ることになります。典型的な「ハリネズミとキツネ」の例ですね。
ではみなさんが自社に眠っているかもしれない「ハリネズミの概念」をどのように見つけられるか? そのヒントも本書には描かれています。それは「ハリネズミの概念」は常に3つの円の重なる部分にある、という記述です。
3つの円とは、
(1)自社が世界一になれる部分はどこか
(2)経済的な原動力になるのは何か
(3)情熱をもって取り組めるものはなにか
自社の事業や商材にこの3つの観点を適用することで、みなさんの会社のどこに針鼠がいるのか、を探ることができますし、それは自社推しコンテンツ作りの大きなヒントになるでしょう。
このnoteを読んでいる人の中には「うちは多角経営をしているので針鼠の概念を適用しづらいのではないか」と思う人もいるかもしれません。本書ではこの問いに対してGEを引き合いに出し、その異例で微妙なハリネズミの概念を説明しています。巻末に近いところです。ぜひ探してみてください。
「人」で選ばれた社員を探そう
第3章「だれをバスに乗せるか」では、エクセレントカンパニーとそうではない会社で社員採用の方針がどう違うか、が描かれます。中でもマーケターとして注目したいのは「誰を選ぶかをまず決めて、その後に何をすべきかを決める」の部分です。何をすべきか、とは、会社の戦略や戦術の立案、組織やコア技術の構築など、会社の屋台骨に関わる仕事を指します。
みなさんの会社にも、見回せば「あの人、部署を超えていろいろやっているよなぁ。なんだか社内で信用が厚いよなぁ。もともと何やってる人なの?」という人はいませんか?
そういう人は生来のポテンシャルや会社とのカルチャーフィット感を見込まれて採用されたか、当初は特定の役割を見込まれて採用されたが、いろいろな仕事をこなすうちにいつの間にか越境的に「名前のない仕事」をあれこれやるようになったか、いずれかである可能性が高いです。
こういう人はインタビューのしがいがあります。自社や商材についてどう考えているのか、何が自社の強みなのか、我が社のターニングポイントはどこだったのか、などを自分がやってきた様々な仕事や立場を通じて「生き字引き」のごとく生々しく語ってくれるでしょう。
それだけではコンテンツになりづらいとしても、何かのコンテンツを作る際に織り込めるネタをいくつも仕入れることができるはずです。
またこういう人は「うちの会社や商材はこういうところがイケてない。もっとこうすべき」など、商材や技術に直接関わる当事者からは決して出てこない、第三者的な意見も述べてくれる可能性があります。
こうした意見は直接コンテンツに盛り込むことは難しいですが、「よくある質問」などのインプットにすることで商材のゴリ押し感を軽減したり、次のレベニュー戦略を構想する際の重要なインプットになったりします。
商材に関するコンテンツだからといって現行の関係者にだけフォーカスをあてるのではなく、「人」で選ばれた社員を探してとにかく話を聞いてみましょう。
以上、2つの法則についてマーケター観点での「使いどころ」をご紹介しました。ほかにも「第五水準のリーダーシップ」や「弾み車の回転」など、マーケター観点から「これはエモい自社コンテンツのヒントになりそうだ」と思えるエッセンスが本書には多々ありますので、ぜひ通して読んでみてください。
マーケティングの本以外からも刺激を受けよう
最後に。
マーケティングについて書かれた本を読んだり、そこに書いてあることを実践したりするのは大事なことです。しかしそれは、マーケターならば誰でもすぐに思いつくし取り組めることです。
もう一段階マーケターとして高みを目指したいなら、様々な分野の本をマーケターの観点から読み解き「この考え方はうちのコンテンツ作りに応用できそうだ」「うちのマーケ営業組織の立て直しのヒントになるかも」といった「自分事へ置き換える」訓練をすることもまた重要なのではないか、と考えます。
そうすることで、より深く自社や商材と向き合うことができる可能性もあるし、なにより自身のクリエイティビティや発想力の刺激につながります。面白い本があればぜひご紹介ください。
あと、コンテンツ作りでお困りの方は私の本『強いマーケティング組織と骨太コンテンツの作り方』も読んでみてください(マーケティングの本ですが)。
「note」掲載のオリジナル版はこちら マーケティング本だけで終わるな、エモいコンテンツのヒントは他分野の本にある:マーケターの本棚2024/01/09
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オリジナル記事: マーケティング本だけで終わるな、エモいコンテンツのヒントは他分野の本にある:マーケターの本棚 | みんなのデジタルエンゲージ
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