ドメインをまたいでユーザーを追跡できるサードパーティCookieに対する規制が強まっている。これによって、広告配信の精度が落ちてしまうことを心配するマーケターも多い。この動きに対抗できる取り組みになりそうなのが、LINEヤフーが2023年10月のカンファレンスで発表した「Connect One」構想だ。
「LINE公式アカウント」とLINEヤフーが保有する法人向けサービスを連携し、あらゆる顧客接点を一気通貫させて、LTVを最大化するプラットフォームになる予定だという。
「Connect One」に込めた思いとビジョンについて、LINEヤフー 池端由基氏(上級執行役員 マーケティングソリューションカンパニー カンパニーCEO)と二木祥平氏(同カンパニーCPO)に話を聞いた。
世の中の流れと「Connect One」が目指す世界
LINEとヤフーは2023年10月1日に統合し、LINEヤフー株式会社という新会社としてスタートした。「『ユーザープライバシーファースト』を指針として掲げ、両社のさまざまなサービスを継続して提供するとともに、それらを連携してユーザーにより良いサービスを円滑に提供する」としている。池端氏によれば、単に「マーケティングソリューションを提供する企業」から、マーケティングも含めた「ビジネスを支援する企業」へ変化することが「Connect One」構想の本質だという。
LINEもヤフーも、広告による集客を得意とする会社というイメージが強いが、実はこれまでもオンラインとオフラインの接点をまたいだ取り組みがあり、成功を収めている。
たとえば、LINEの法人向けサービスの中に、飲食店などにおいてLINE上で注文ができるLINEミニアプリがある。「LINEミニアプリの注文履歴から『この人はレモンサワーが好き』とわかったので、お店のLINE公式アカウントからレモンサワーのクーポンを配信したところ、リピート率が爆上がりした」のような例だ。
ポイントは、マーケティングを「広告で集客すること」という狭い範囲で捉えず、「事業で利益を上げるためのすべての取り組み」と捉えること。
お客さま自身が使い慣れた自分のスマホでモバイルオーダーすることは、
- 店舗スタッフの負担軽減
- 店員を呼ばなくてもいいので気軽にオーダーでき、オーダーの取り違えなどのミスもなくなるので、顧客体験が向上し、その結果、売上も向上する
- 顧客の注文履歴がデータとして蓄積でき、その後の施策に活用できるようになる(※)
※LINEアカウントと紐づいた行動データの取得・活用にはユーザーの許諾が必須となる
これらすべてがマーケティングの範疇と言えるが、企業にとっては店舗DXなどのビジネスに関する変革にも踏み込んでいる。LINEヤフーのサービス全体でこれらすべてをつなぐことで、さらに強力にビジネスを支援できる世界を目指している。
私たちは、長い間広告事業に取り組んできた歴史があり、自信と誇りを持っている。広告事業はLINEヤフーの根幹ではあるが、『Connect One』構想には、さまざまな業種・業態の企業に対し、ビジネス全体のデザインやコンサルテーションをしていく組織になりたいという願いと思いを込めている。
LINEヤフーのサービスをすべて並べると、24時間365日、オンライン/オフラインを問わず、あらゆるライフイベントにおける接点がある。そこで得られるデータや、それを活用できる人材もいる。企業の広告やマーケティングを支援するだけでなく、ここから10年、20年に及ぶ変革期を支える、ビジネス全体をサポートする、そういう役回りを担える可能性があると思っている(池端氏)
サードパーティCookieに依存せず、LTVを上げる
ユーザーのプライバシー保護を重要視する流れの一環として、サードパーティCookieを廃止する動きが進んでいる。サードパーティCookieが使えなくなるということは、新規顧客や見込み客の獲得が難しくなるということ。つまり、広告をどんどん打って新規顧客をたくさん連れてくるという考え方は通用せず、これまでに接点を持った顧客のLTVを最大化するという考え方にシフトしなければならない。「Connect One」構想は、そのための仕組みとも言える。
これが外部要因だとすると、LINEとヤフーが統合したことによる、社内的な背景もある。
まず、ヤフーは検索やメディアが強く、そこに表示される広告ソリューションがある。LINEはLINE公式アカウントを使ったCRMが強い。もうひとつ重要なのがPayPayで、LINEヤフーとしてはオフラインの購入データも保有している。
たとえば、あるブランドの商品を「Yahoo!検索で見た」「LINE上で話題になっているのを見た」「店舗で買ったことがある」など、多様なタッチポイントで接触したデータをいったんストックできるのが、1つ目のキーポイントだ。これらのデータをユーザーアカウントに紐づけてストックすることで、Cookieを利用せずに、IDベースでのファーストパーティのユーザーデータをそれぞれの企業が保有することができる。
LTVを高めるために、獲得したユーザーのエンゲージメントを高めることが非常に大事になる。LINE公式アカウントの友だち追加やフォローといったアクションによって出会ったユーザーをストックできることが、非常に価値のあるポイントだと思っている(二木氏)
LINEヤフーのもうひとつの特徴が、データを集めるだけでなく、集めたデータを使う出口まで一気通貫でつなげられるという点だ。得られたデータを活用して精緻にターゲティングした広告やメッセージを配信するだけでなく、そのまま「Yahoo!ショッピング」や「LINEで予約」などで購買や予約につなげることもできる。その時の購買データを元にして広告配信すれば、広告の効果がさらに高くなる。
いろいろな生活動線でいったんユーザーとつながり続けられるストック機能。さらに、その蓄積されたデータの出口があるのがLINEヤフーの強み。そういった流れがシームレスにできるようにということを目指している(二木氏)
LINEとヤフー、統合の進捗と課題
一気通貫でデータを活用できるプラットフォームになるためには、ユーザーアカウントの連携と企業アカウントの統合の両方が必要になる。
フェーズ1である「LINEアカウント」と「Yahoo! JAPAN ID」のアカウントの連携については、2,322万(2024年1月末時点)のユーザーから同意を得ていて、「予想より順調に進んでいる」(池端氏)という感覚だ。
フェーズ2のサービス側の統合もすでに始まっている。企業アカウントの共通化、データソリューションの統合、広告プラットフォームの統合完了は3年を目標とし、PayPayとのアカウント連携は2024年度を予定しているとのこと。LINE公式アカウントを開設するだけでLINEヤフーに関連する法人向けサービスの利用を開始でき、一元管理ができるイメージになる。
2025年以降には、フェーズ3としてAIによるマーケティングのフルオートメーション化も構想がある。
今年から段階的に価値提供ができるようになると想定している。各種ツールのログインやUIUX、ソリューションの統合はもちろん、利用してくださる企業だけでなく、その企業の情報を受け取る側のユーザー体験をLINEヤフーのサービスを横断して便利・シームレスにしていくことが重要。さまざまなブランドや商品、お店とユーザーの距離が近くなり、生活がこれまで以上に豊かになる形を目指したい(二木氏)
今はまだ構想を発表した段階で、池端氏の思いとしては、「発表から3年である程度形になったものを市場に提供し、その次の3年で変化や価値を実感してもらうというスケジュール感」という。部分的には進捗しているものもあり、一緒にソリューションを作っていくパートナーを募集中だという。
2023年末から先行して、LINEとヤフーの相互マーケティングレポートという形で、Yahoo!広告、LINE広告、LINE公式アカウントの横断レポートを、一部の企業に提供し始めている。それぞれ重複しているのではないかという話もあったが、効果の面では併用メリットが大きいことがわかった(二木氏)
ファーストパーティデータを集めにくかった企業にも朗報
LINEとヤフーが統合したことで、ストックできるデータは以下の図のように拡大した。
LINEだけでも、図の左側のようなデータをストックできていた。これだけでも詳細なデータだが、ユーザー理解が難しくなっていくことを考えると、十分ではなくなってくる。そこで、企業ではこれを自社で持っているメールアドレスや電話番号などのファーストパーティデータとつなぐという取り組みを進めている。
業種によってはそもそもファーストパーティデータを集積しにくい企業もある。たとえば、消費財や食品のメーカーなどはオンライン・オフラインを横断しての施策が実施しにくい。また、飲食店など一部業界ではデジタルの活用の余地が大きく残っている。
そういう企業でも、LINE公式アカウントを利用する企業は増えている。LINEヤフーのサービスの多くはログインして利用するのが基本なので、ブランド情報をYahoo! JAPANで検索した、LINE VOOMの投稿で見た、PayPayを使って店舗で購入したというデータがユーザー個人に紐づけ可能になる。これは、「サードパーティCookieなどで追跡した個人データよりも、圧倒的に濃いデータ。Cookieの代わりになるというより上位互換」(二木氏)だ。
さらに、LINEヤフー全体で24時間365日の接点があることで、最適なタイミングでメッセージや広告でアプローチすることができる。
ユーザーとブランドとの関係性には波があり、ふとした瞬間に購入意向が高まりSNSからそのまま購入する機会も仕組みも増えてきている。一度接点のあったユーザーとLINE公式アカウントなどで何らかの形でつながっておいて、ユーザーの行動を見ながら高まってきたタイミングでメッセージやレコメンドなどで最適なコミュニケーションをとることが大切になる(二木氏)
企業がやりたかったことが、きっとできる
LINE公式アカウントにさまざまな法人向けサービスを統合するにおいては、もちろん個人情報保護やプライバシー保護の観点を忘れてはいけない。これについて池端氏に確認すると、「国内に1億人以上のユーザーを抱えているというのは、ほぼ日本全体という意識。責任と覚悟を持って取り組んでいる」とのこと。LINEヤフーとしてのプライバシーポリシーを公開し、問い合わせも受け付けている。
また、ひとつの企業グループなので、いろいろなデータを安全に精度高く突合できるという点もポイントだ。
今回さまざまなデータを統合するが、安全に突合できるというのを一番大事にしている。そもそも、プライバシー保護のトレンドを背景として安全にファーストパーティデータを使える環境を提供するためにConnect Oneが構想されたという側面もある(二木氏)
また、広告領域においては、広告審査という観点も重要だ。価値観の多様化によって、広告クリエイティブやメッセージがどのように受け取られるかが変化していくことに配慮する必要がある。
LINEヤフーグループはリーディングカンパニーであるがゆえに、そこに関しても先行的にアクションをしなければならない。価値観の変化に後から気づくのではなく、変わっていく過程において審査基準を見直し、万全を期してユーザー保護や出稿していただくクライアント保護を考えたガイドラインをアウトプットするようにしている(池端氏)
最後に、「Connect One」構想の環境をどのような課題を抱えている企業に積極的に使ってほしいかを聞いた。
見込み客の獲得やターゲティングに困っているマーケター、あるいはサードパーティCookieが使えなくなることで、マーケティングの方法を見直さないといけないというときの第一の選択肢になるようなソリューションにしていきたい。認知からCRMまで完結しているという強みに期待していただきたいし、使ってもらえたらいいなと思っている(二木氏)
我々は、クライアント企業の事業成長を支援したいと思っている。一緒に成功事例を作りたいと考えているので、興味が湧いたらぜひお声がけください。私が、こういうことができればいいのにできないなと思っていたことの、ほとんどができるようになった。やりたかったけれど何かの理由で頓挫していることがあるなら、それはきっと解決できる(池端氏)
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オリジナル記事:ヤフーとLINEの統合で、企業のマーケティングはどのように変わるのか?何ができるようになるのか? | インタビュー
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