マーケティング支援企業のトライバルメディアハウスでは、ファンマーケティングにおいて注目すべき存在を、「ファーストフォロワー」=「1人目の熱狂的なファン」であると提唱している。
『ファーストフォロワーのつくりかた 事例で学ぶ「製品・サービスの価値をファンと共に生み出す」ためのマーケティング』(翔泳社)の著者で、トライバルメディアハウスのクリエイティブディレクターである高橋 遼 氏は、「ファーストフォロワーの声を聞くことで商品の価値が定まり、ファンを増やしていける」と話す。
では、どうすればファーストフォロワーを見極め、商品の価値を見つけられるのか。実際にファーストフォロワーを念頭においたファンマーケティングで一定の成功を収めている「PostCoffee」の事例をもとに、それをひもときたい。
なぜ「ファーストフォロワー」に注目すべきなのか
そもそも、なぜ1人目の熱狂的なファンであるファーストフォロワーに注目すべきなのか。高橋氏は、「商品の真の価値を見定めるため」だと話す。
広く顧客を獲得することは重要ですが、買ってくれた全員が同じニーズを持っているとは限りません。ひとまず味見したい人や商品を評価したい人もいます。すべての顧客に可能な限りのおもてなしをしようとすると、本来大事にすべき商品の価値がブレてしまいかねません(高橋氏)
高橋氏の著書では、ファーストフォロワーの特徴として、「関与度」「好意度」「影響力」の3点があげられている。
その商品を好きで応援してくれているファーストフォロワーは、商品への関与度や好意度が総じて高く、良質な口コミなどによって他社の意識や行動を変える影響力を持っています。企業は、こうした顧客を重要視すべきだと考えます(高橋氏)
リリース初期に顧客が伸び悩んだ「PostCoffee」
2018年に設立したPostCoffeeは、スペシャルティコーヒーのサブスクリプションや通販サービスを展開するスタートアップだ。約30万通りの組み合わせから自分好みのスペシャルティコーヒーが毎月ポストに届くサブスクは、8万人以上のユーザーに支持される人気サービスに成長している。
だが、「リリース当初は顧客の獲得に苦労した」と下村氏は振り返る。
当初は『コーヒー×テック』を押し出し、アプリ内で2タップすると翌日にはポストにコーヒーが届く便利な通販サービスを展開していました。狙い通りにテック系メディアへの掲載を獲得し、ITに興味が強い層にアプローチできたのですが、思うように顧客が増えませんでした(下村氏)
2019年3月からβ版のサービスを展開し、2020年2月に正式リリース。その後、3ヵ月で会員数が7倍に増え(β版展開時との比較)、イノベーターやアーリーアダプター層の顧客獲得に成功した。しかし、継続ユーザーになりづらく、期待したような成果につながらなかったという。
コーヒーに対するニーズは非常に幅広く、サービスの『Who(誰が顧客なのか)』と『What(届ける価値は何なのか)』がうまく重なっていないと気付いたんです。そこで、ヘビーユーザーとすぐに退会したユーザーの数十人にヒアリングを実施しました。普段どこで、どんなコーヒーを買って、いつ、どのように飲んでいるかといったコーヒーにまつわる質問と、それ以外のライフスタイルについても深掘りしました(下村氏)
ユーザーの特性を知り、ファーストフォロワーを特定するために、「休みの日に何をするのか」「趣味は」「好きなブランドや芸能人は」など、さまざまな角度から質問した。これは、ユーザーが持つ欲求を見定めるうえで効果的なのだという。
単に『買った』『利用した』という結果だけを見るのではなく、サービスをどのように使っているか、楽しんでいるかを観察し、その行動の背景にどんな環境や状況があるかを把握することで、その先にある顧客の欲求が見えてきます(高橋氏)
ユーザーを知るためのヒアリング方法は、SNSやメール、電話、イベント、インタビュー、自宅訪問など多様で、必ずしも正解があるわけではない。自社サービスとユーザーにとって相性が良い方法をかけ合わせる必要がある。
ヒアリングで発見した3種類の「ファーストフォロワー」
ヒアリングを通じてユーザーを深掘りしていくと、7つの顧客セグメントがあり、そのうちヘビーユーザーは3種類に分類されることがわかったという。それがまさにファーストフォロワーであり、以下の3つとなる。
- ミーハー
コーヒーにこだわるというより、コーヒーのある生活スタイルを重視しており、趣味が多く、第三者から見てライフスタイルが充実している。多趣味であり、あえて「コーヒーが趣味」と答える人はいない。SNSでの投稿が頻繁で、男性も女性もどちらも存在している。 - ギーク
自身のコーヒー豆はロースターからしか購入しない典型的なコーヒー好き。コレクションしたい欲求も見られる。SNS投稿は多くないが、小さなコミュニティに属していることがあり、そこでの口コミが発生することがある。男性が多い。 - マダム
自身のQOLを高めるためにコーヒーについて知りたい、学びたい知的欲求が強い。自身の知的欲求の範囲内にコーヒーが入ってくると、PostCoffeeのファンになる傾向がある。コーヒーの生産や品種に興味はあるが、ロースターへの興味は薄い。SNSでの投稿が頻繁で、女性が多い。
ファーストフォロワーを見極めるなかで、もっともヘビーユーザーになりうるのが「ミーハー」と「マダム」であることも判明。そこで、主にこの2つの層に向けてマーケティング施策を打っているそうだ。
たとえば、ミーハー層にはライフスタイルと合わせてコーヒーをSNSで発信する傾向があり、それを促進する施策として、『キャンプとコーヒー』『自転車とコーヒー』など、ライフスタイルを想起させる発信を当社側でも行っています。マダム層には、知的欲求に応えるためにコーヒーの淹れ方や抽出方法を学べるイベントを開催しています(下村氏)
こういった施策を通じてUGC(ユーザー生成コンテンツ)が増え、ミーハーやマダム層に近い層の人々に、サービス認知が広がる良い循環が生まれているという。
ファーストフォロワーの声を生かしアップデート、継続率96%に
PostCoffeeでは、ファーストフォロワーへのインタビューとUGCの分析を継続しており、これが多くのサービス改善につながっている。
改善①
コーヒーを発送するボックスを「テープ止め」から「バンド」へ変更。開封する際にボックスが破れ、SNS投稿時に見栄えが悪くなることから、ボックスが破れないスタイルにした。
改善②
ボックスに同梱していた数ページの冊子に対して「捨てづらい」という声があり、処分しやすいタブロイド形式に変更した。
改善③
コーヒーのパッケージに貼られたラベルを収集しやすいよう、剥がしやすいラベルに変更した。
改善④
サブスクにおまけとしてクッキーを同梱していたが、一部のユーザーから「クッキーはいらない」といった声が聞かれたため、同梱をストップした。
改善⑤
サブスクは当初、「3種類のコーヒーを3杯ずつ届ける」ライトなプランしかなく、そこから種類や分量を増やすなどのカスタマイズを自在にできるようにしていた。しかし、カスタマイズが大変だったり、そもそもカスタマイズができると知らなかったりするユーザーが多く、最初から4つのプランを用意することにした。
改善⑥
サブスクに、好みに合わせて世界中のコーヒーが届く「ベーシックコース」に加えて、日本全国のロースタリー(自家焙煎のコーヒーショップ)のコーヒー豆“だけ”が届く新コース「ロースターコース」をリリースした。
その他にも、レビュー・評価機能や豊富な検索機能の追加、レコメンドの精度向上など、ファーストフォロワーの声を参考に、さまざまなアップデートを重ねてきました。そうした結果、2022年の売上は2020年と比較して450%増に。会員数は8万人を超え、サブスクの継続率は96%(2024年2月時点)まで向上しています(下村氏)
事業を伸ばしていくには、ファーストフォロワーの声を聞き続け、価値を市場にフィットさせていくファンマーケティングの活動が不可欠だと思います。時が経てば、市場が変化したり、顧客のニーズや競合の動きが変わったりもしますが、自社の熱狂的なファンの声を聞き続けることで価値を再発見し、改善のヒントが見つかるはずです(高橋氏)
今や多くの企業にとって必至の戦略となったファンマーケティング。ファーストフォロワーを見極められると、商品の価値が定まり、アプローチも明確になる。そうして顧客満足度が上がっていくと、ファンの輪が自然と広がるのかもしれない。
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オリジナル記事:ファンがファンを育てる! 珈琲サブスクPostCoffeeの成功事例で学ぶ“ファーストフォロワー”の作り方
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