「モノが売れない時代」。マーケティング担当者の間からついつい漏れ出てしまう言葉だ。コロナ禍、景気、消費スタイルの変化。さまざまな要因はあれども、消費者が買い物をしないわけではない。そして何より、お気に入りの商品やサービスへの愛を語る消費者、つまり「ファン」の存在がSNSで可視化され、購買へとつながっている状況に着目すべきではないか。
企業がファンとコミュニケーションすることで、新しいなにかが生まれる。「ファンマーケティング」を熟知するvisumo(ビジュモ)の千林氏が「デジタルマーケターズサミット 2023 Winter」に登壇し、新時代のマーケティング像を解説した。
株式会社visumo 取締役 千林 正太朗氏
SNSあっての「ファンマーケティング」
ファンマーケティングとは、そもそも何なのだろうか? なぜファンマーケティングが求められているのか? それを理解する鍵になるのはSNSの普及だと千林氏は語る。
ユーザーがTwitter、Instagram、TikTokなどを通じて、その商品やサービスの“ファン”であることを簡単に発信できるようになった。結果として、UGC(User Generated Contents:ユーザー自身が生成するコンテンツ)がかつてなく増えたこと。これがまず前提になる(千林氏)
UGCが増え、それが参考になると思った別のユーザーは、付随するタグを中心に情報収集・検索する。この一連の行動は「タグる」と呼ばれ(Googleで検索する“ググる”とは異なる)、消費者行動として定着しつつある。
ファンの声は、企業発信のマーケティングメッセージとは意味合いが異なる。テレビや新聞などマスコミはかつてのような存在感をもたなくなっており、ファンの声をユーザーが参照しやすい環境が整っているならば、SNS上のUGCが購買の参考とされるのは、自然な流れといえるだろう。
UGCの激増が顧客の購買行動を変えた
そこで、自社製品・サービスを愛好してくれるファンを増やし、満足させ、結果としてポジティブなUGCをSNS上に増やそうというのが、ファンマーケティングの発想である。
ビジュアルマーケティング支援するプラットフォーム「visumo」
visumo(ビジュモ)は、ITシステムの受託開発などを広く手がけるソフトクリエイトホールディングスのグループ企業である。SNSや動画に特化したマーケティング支援のため、グループ内でECサイト構築サービスを手がけるecbeingのいち事業部門が独立するかたちで2019年に設立された。
visumoは「ビジュアルマーケティングプラットフォーム」を標榜したSaaS型サービスとして誕生し、現在は以下のサービスを提供している。
- visumo social:Instagramの公式および、インフルエンサーや店舗のアカウント、UGC(User Generated Contents:ユーザー生成コンテンツ)などの写真や動画を管理画面でピックアップし、公式サイトやオウンドメディアに活用・分析ができる
- visumo vidio:YouTube、リール、TikTokなどの動画アセットを管理し、ECサイトやオウンドメディアなど会社全体で活用・分析ができる
- visumo snap / visumo comment:店舗や宣伝広報部門などスタッフのスマートフォンからアップされた写真や動画、コメントを、ECサイトやオウンドメディアなどに活用できる(snap)/専門知識は不要、ノーコードでWebサイトを制作可能(comment)
いずれもが、自社ECサイトやオウンドメディアなどに掲載するコンテンツを充実させ、ファンマーケティングを構築するためのツールとして有効だと千林氏はアピールする。
visumoの主要な4つのサービス
ファンマーケティングの具体例3Tips
ファンマーケティングの手法には類型的なパターンがある。その中から以下の3つを具体的に見ていこう。
- ファンコミュニケーション
- SNSキャンペーン
- アンバサダープログラム
ファンマーケティングの具体例①
ファンコミュニケーション
近年「ファンミーティング」「ファンイベント」という表現を耳にする機会が増えているが、これがまさにファンコミュニケーションである。参加するファンの満足度は高いが、企画や準備のハードルは高くなりがちだ。
事例① ニトリ
そこで参考になるのが、visumoが家具・生活雑貨チェーンのニトリとタッグを組んで展開した事例。「みんなのニトリ」と題した特設ページには、さまざまな“映え画像”が掲載されているが、これはすべてUGCであるという。ただし、ニトリが投稿ユーザーに連絡し、許諾を受けた画像に限られている。
「みんなのニトリ」では、visumo socialが活用されている
具体的には以下の流れで運用される。
- Instagram上に「♯ニトリ」「♯mynitori」のタグ付きで投稿された画像をvisumo socialが収集する
- 指定した投稿に対し掲載の許諾願いのコメントを付ける
- ユーザーがそれを許諾する場合、コメントに「♯yes」のタグを付けて再コメントする
この一連の工程をシステム的に管理・処理するのが、visumo socialの基本機能である。
visumo socialでは、SNS投稿に対する許諾申請などをシステム的に統括・管理できる
千林氏によれば、許諾をとるためのコミュニケーションの中では「今度、別の買い物をするので、その投稿もよければ見てください」といった返信を受けることが非常に多いという。また、そのユーザーがもっと「みんなのニトリ」で紹介されようとするためか、画像のクオリティがより高くなる傾向もあるそうだ。
ユーザーが自発的に投稿し、企業がユーザーに声をかける。企業は重要なマーケティング資産を獲得し、ユーザーは自身のコンテンツ作りに磨きをかける。この好循環現象をvisumoでは「UGCループ」と称し、注目している。
企業からユーザーへの声かけで生まれる好循環現象「UGCループ」
なお画像だけでなく、コメントでもこの仕組みは応用可能だ。
ニトリご担当者様からいただいたコメントによれば、visumo socialを採用していただいたのは『ニトリとお客様の距離を近づけたい』から。これは、かなり深い言葉だと思う。店頭での接客を重要視していても規模の限界がある。それを補うのがオンラインでの声がけであり、企業とお客様の距離を実際に縮められることが証明できたのではないか(千林氏)
ちなみに家具の場合、ユーザーの実用環境を考えると「あるメーカーの家具だけで完全統一した部屋」は想像しにくく、複数社の製品が混在する環境が一般的だろう。しかしメーカー側としては、競合他社製品を交えたルームコーディネート案を、自社Webサイトで提案するのは難しい。
その点UGCは、当然ながらユーザーの実環境を踏まえたものになる。企業の論理を超え、あくまでユーザー視点に立ったコンテンツを提供できることもまた、UGCの強みだと千林氏は訴える。
UGCは企業の壁など関係なしに、自分が好きなもの・よいと思うものを発信してくれる
事例② パナソニック
一方、パナソニックでは住宅設備の施工例を充実させるため、最終消費者はもちろん、ショールーム、工務店などに対してもInstagram画像の利用許諾申請を行っている。
これによって、パナソニックのウェブサイトには常に新しい画像が用意されることになる。サイトの更新・コンテンツ不足に悩む担当者にとっても、サイト訪問者にとっても、効果的な運用だと言えよう。ただし、その前段階として、UGCを集めていることを各所で明示しておくことも重要。そのためパナソニックでは、Webサイトでの告知以外に、当該製品購入者向けのチラシも用意している。
パナソニックでは住宅設備の施工例画像を増やすため、UGCを活用している
ファンマーケティングの具体例②
SNSキャンペーン
抽選プレゼントなどを用意して、ハッシュタグ付き投稿を呼びかける手法がSNSキャンペーンだ。これもまた、ファンマーケティングの一形態である。
事例③ 吉野家
牛丼チェーンの吉野家では、自社ECサイトにおけるキャンペーンとして、Instagramへの投稿を呼びかけた。その時期は夏休みシーズン。牛丼店といえば男性客のイメージが強いが、子供が喜んで食べる・安心して食べられるという面を訴求するのが狙いだった。
吉野家による投稿キャンペーンの例
同様に、ECサイトで販売している牛丼の具(冷凍)の拡販にあたっては、一般ユーザーがInstagramに投稿していたレシピについて、許諾を得て活用。さらにはvisumo socialの機能を利用し、レシピ投稿からECサイトへの導線を作った。こうすることで、単に「いいね」をもらうだけでなく、購買にもつなげることができる。
事例④ リンナイ
コンロ・給湯機器メーカーのリンナイは、「#meライフ」という画像投稿キャンペーンを定期開催している。SNS投稿キャンペーンは短期のスポットで開催される例が多いが、投稿数があまり集まらず、途中で諦めてしまうケースが少なくない。
リンナイでは、投稿キャンペーンを月締めにし、翌月以降の告知ページに優秀作を掲載するなど、徹底した活用を実施。また、リンナイ自身のオウンドメディアでも転用する旨を募集規定に含めている。
リンナイは投稿キャンペーンを定期的に実施
ファンマーケティングの具体例③
アンバサダープログラム
特定の製品・サービスなどに対して愛着や関心のあるユーザーを選定し、プロモーションなどで協力していくのがアンバサダー(大使)プログラムである。
どういったユーザーをアンバサダーとするかで「ハッシュタグ投稿型」「選定型」「公募型」の3パターンに分類されるが、中でも「ハッシュタグ投稿型」は、特に緩やかな運用方法。特に厳密な認定をすることなく、単純にハッシュタグを付けて投稿してくれたユーザーすべてをアンバサダーとみなす。「ファン皆様がアンバサダー」という立て付けだ。
事例⑤ 東京ミッドタウン
商業施設の東京ミッドタウンでは、隠れた魅力をアンバサダーに発見してもらうためにプログラムを活用。寄せられた投稿は多面展開させ、Webサイトだけでなく、現地のデジタルサイネージにも掲出した。
東京ミッドタウンの事例
菓子・製パン材料の富澤商店、作業着・アパレルのワークマンの2社は「選定型」を採用。ただし両社とも、選定フローを外部ベンダーなどに委託せず、自社運用しているという。
事例⑥ フラコラ
「公募型」は、アンバサダー募集を明示して、広くコンペティションを行う形式である。化粧品ブランドのフラコラ(fracora)では、規定回数以上のSNS投稿などを条件にして募集。さらにアンバサダーの中でもステージ区分を設け、参加者のやる気を引き出す仕組みも作った。
アンバサダーを公募して、さらにステージ制でやる気を引き出そうという試みも
ファンとのコミュニケーションをvisumo socialで簡単・効率的に
visumo socialはInstagramとTwitterに対応。両SNSに投稿されたコンテンツの中から目的のものを発見・収集し、該当投稿者への連絡、許諾後のサイト転載までを一連の流れとして実行できる。
そのうえで千林氏は、ファンマーケティングが“盛り上げ”の醸成だけに留まらないと主張する。自社サイトにUGC、いわゆる“映え写真”を取り込み、人気コンテンツとなれば、外部からのトラフィック増、ひいてはSEOにも好影響を与える。結果として、PV数アップ、売り上げアップなど、業績指標にも貢献できる。
ファンマーケティングは業績指標にも貢献できる
「事業者からの一方的な発信は過去のものとなりつつあり、現在はファンと一緒に“オウンドコンテンツ”を作る時代に変化している。UGCは企業やブランドにとってのビジュアルアセット(資産)であり、その有効活用のためにもvisumoを役立ててほしい」と千林氏は述べ、講演を締めくくった。
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オリジナル記事:ユーザー愛にあふれたUGCをフル活用する「ファンマーケティング」実践の3TIPS | 【レポート】デジタルマーケターズサミット2023 Winter
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