業界の最前線で活躍する方にオススメの書籍を教えてもらう本連載。今回はマンガ編の第3回だ。お話を聞いたのは、ビービットでUXコンサルタントをされている村石怜菜さん。Web担当者Forumで連載中のマーケターコラム「Half Empty? Half Full?」でもおなじみの村石さんにオススメのマンガを紹介してもらった。
小売業、EC、スタートアップ、急成長サービスなど、さまざまな業界を体験
現在はUXコンサルタントとして、クライアント企業のサイト改善の支援を行っている村石さんは、ここに至るまでさまざまな経験を積んできた。まず、新卒で入社したのがベーカリーのアンデルセン。ここでは、店舗運営・接客販売などを担当していたが、EC業界に転職した。
iPhoneが発売された時期に、これからはITがより強くなると感じました。小売は好きだったので、EC業界に転職しました(村石さん)
パルコデジタルマーケティングで、商業施設や小売専門店を中心としてクライアントに対して、Web・ECシステムの導入支援や、構築・開発リニューアルなどを担当し、リアルとオンラインのUX設計に携わる。消費行動学やファッションに関心が高かった村石さんにマッチしており、最年少の次長に昇進した。
その後、スタートアップへの関心が高まり、電子チケットのサービスを展開する会社に転職する。Webブラウザ上でスタンプを押すとチケットをもぎれるサービスで、アプリが不要という強みがあった。ここでは、プロダクトマネージャーとなり、ゼロからプロダクトをつくる経験をした。
アメリカではウォルマートが小売事業者としてDX(Digital Transformation)を進めています。日本版ウォルマートのような場所を探しましたが、なかなか小売でデジタルに力を入れている会社が見つかりませんでした。そこで、消費者にインパクトがあるという点で、決済サービスのPayPayに入社しました(村石さん)
PayPayで約2年半働き、サービスが急成長する勢いやサービスが世の中へ与えるインパクトの大きさを体感できた。一方で目まぐるしく変化するなかで、UXの専門性を極めたいという気持ちが大きくなった。そこで、2023年9月にビービットに転職したわけだ。
現在は、クライアントへのコンサルティングを通してUX改善の支援を行っている。従来型の買って終わりというユーザーとの関係構築ではなく、接点をつくって、ファン化、ロイヤルティ化することをゴールに、定量、定性の両面から分析して改善活動を進めている。ビービットは「USERGRAM」というユーザー行動を分析するクラウドサービスを提供しているが、その導入企業に対して伴走支援をしている形だ。
私の世代はEC黎明期で、大学でコンピューターサイエンスを学んでいなくても、現場で勉強しながら業務を行ってきました。Webディレクター、デジタルマーケター、プロダクトマネージャーと、時流に応じて呼び名が変わる自分は、専門性がないと感じて、腰を据えてUXに取り組みたいと思って転職をしました。
ビービットは、正論だけではなく、ビジネスインパクトまで含めた改善に責任を持っている点も入社理由の1つです。ビービットの藤井保文さんの著書である『アフターデジタル』シリーズを読んで興味をもっていたことも大きいですね(村石さん)
上杉謙信女性説をもとにしたマンガに、男性と無理に張り合う必要はないと気づいた
今回、マンガを紹介してくれるにあたって、これまで読んできたマンガの棚卸しをしたという村石さん。キャリアの変遷にあわせて、自分の支えになるマンガが変わっていると感じたという。そんな村石さんが最初に紹介してくれたマンガは、「海月姫(くらげひめ)」「東京タラレバ娘」などの作品で知られる東村アキコさんの、上杉謙信女性説をもとにした歴史マンガだ。
1冊目 『雪花の虎』(東村アキコ:著 小学館:刊)
上杉謙信は、確かな根拠はないものの、さまざまな歴史的事実から女性だったのではないかとの推測もある。このマンガでは上杉謙信女性説をもとにストーリーが進む。歴史学者が監修し、東村アキコさんの綿密な現場取材をふまえて、身内や一部の家臣を除いて女性であることを隠して戦国の世を生きた上杉謙信が描かれているのだ。
村石さんが読んだのは2017年頃。次長へ昇進した頃だった。
上杉謙信は、15歳で初陣を戦った後、17歳で大勢の部下を率いて先回りした戦術で勝利を収めます。プレッシャーもあるし、相談できる人がいないなか、自ら指揮を取りながら先人を切って戦います。読んでいたときはマネジメントに悩んでいたんですが、このマンガを読んで、男性と張り合わなくてもいいんだ、と思いました(村石さん)
家臣が上杉謙信は女かどうかを議論していると、家臣の妹のお手伝いが「別に女だったとしても驚かない、女の神様もいるんだから、いいんじゃない」というシーンがある。
当時、年上の男性と戦わないといけないと肩ひじを張っていましたが、肩の力を抜いてもいいんだ、と思えました。マンガのモノローグに、東村アキコさん視点での祈りや希望が感じられて励まされました(村石さん)
なお、上杉謙信がかかげているのが「天下静謐(てんかせいひつ)」。自分から戦いをしかけることはなく、他の人に助太刀にいく。また武田信玄に塩を送ったというエピソードが仮に本当だったとしたら、天下静謐という視点があったからではないかと想像が膨らむという村石さん。
同じく女性の生き方をテーマにした作品として、社交界のなかでの女性を描くNetflixのドラマ「ブリジャートン家」、エリザベス1世の物語『セシルの女王』(こざき亜衣:著 小学館:刊)も村石さんのオススメだという。
ライバルチームのメンバーにもストーリーがある! チームを率いるときの参考になった本
「王道のマンガだけど....」と断りを入れながらも紹介してくれたのが、2冊目のマンガだ。
2冊目 『ハイキュー!!』(古舘春一:著 集英社:刊)
このバレーボールを題材にしたマンガを読んだのは、電子チケットの会社でプロダクトマネージャーとして、エンジニア、デザイナー、QA(品質保証)、プロジェクトマネージャーから成るチームでプロダクトを開発していたときだ。
チームの面々は個性豊かで、とても優秀な人たち。プロダクト開発にやりがいを感じながらも、視点・観点も職種も異なるメンバーの集まりに、チームワークやコミュニケーションで悩む側面もありました。『ハイキュー!!』を読んで、6人で励まし合いながらバレーをするのがうらやましくて仕方がありませんでした(村石さん)
Vリーグを観に行ったときに、「ハイキュー!!」のポスターがあるのを見て興味を持ち、そしてアニメを見て、はまってしまったという。
主人公は背が低くて、小柄な身長でありながらエースとして活躍していた「小さな巨人」に憧れてバレーボールを始め、「頂きの景色」を目標にバレーボールと真摯に向き合います。さらに、主人公だけでなく、いろいろなチームのメンバーにもスポットが当てられています(村石さん)
「小さな巨人」を目標にバレーボールを始めた主人公は、練習や試合を通して成長していく。うまくいくときばかりではなく、試合に負けることもある。そんなときに顧問がメンバーに伝える「負けは弱さの証明ですか」という問いかけが熱いと村石さん。
また、次期エースと期待されるチームのムードメーカー的な存在が、心折れそうになる場面がある。しかし「平凡な俺が下を向いている暇があるのか」と立ち上がるシーンにも共感したという。
どんなメンタルのときでも、このマンガには何かしら刺さる言葉があるので、元気をもらいたいときに読んでいます。プロダクトマネージャーとして、世の中に良いものを出そうとしているのに、自分の能力不足で時間がかかったり、不正転売を防止する、という通常のカスタマージャーニーとは異なるユーザを考慮したりすることで苦戦することもありました。ゴールへ導けないことがつらくて、監督やキャプテンはすごいなと思いながら読んでいました(村石さん)
ノンバイアスで俯瞰的に物事を見定める主人公
3冊目は、2023年に菅田将暉さん主演でドラマ化され、話題となった作品だ。PayPayで働いていたときに読んでいた。
3冊目 『ミステリと言う勿れ』(田村由美:著 小学館:刊)
最初はタイトルに惹かれて読み始めたという。主人公は小さいときに何かしら闇を抱えるような経験をして、学校の先生を目指す大学生。さまざまな事件に巻き込まれ、いろいろな登場人物の抱える問題の本質を飄々といい当てていく。
主人公は物事をバイアス無く俯瞰的に見ているので、本質をつくような質問をして、そこから糸口を見つけて問題を解決します。ただ、このマンガでは事件の解決は本筋ではありません。人間関係や根底にあるバイアスに対して問題提起をしているんです(村石さん)
主人公は、「常々思っているんですけど」で自説を始めるが、おしつけがましくないのがいいという。やはり主人公が語る「よく真実は1つというけれど、真実は人の数だけあります」という言葉も、複数の解釈ができることを伝えている。
UX設計では使いやすさを考えてプロダクトをつくります。しかし、他の企業が実装していて話題になっているという理由で同じようなものをつくりたいと主張する人もおり、討論になることがあります。このマンガを通していろいろな視点で見る癖がついたので、その人自身にはなれないけれど、その人の視点で見るとどうなのかを考えられるようになりました(村石さん)
経済行動学を気楽に学べる
4冊目は、アンダーマイニング効果、極端回避性、アンカリング効果など、行動経済学が学べる本だ。マンガだけでなく、行動経済学についての文章の解説も充実していて勉強になるという。
4冊目 『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』(佐藤雅彦、菅俊一、高橋秀明:著 マガジンハウス:刊)
このマンガは、とっつきにくい行動経済学を気軽に学べるものとしてオススメしたいという。マンガの絵柄が懐かしい感じなのも味があっていい。
行動経済学は、本で読むだけだと理論の本質まで理解するのは難しいですが、マンガになっているとエピソードがおもしろくて頭に残りますね。翻訳本ではよくアメリカの事例が載っていてピンとこないことがありますが、この本は日本に住んでいる私たちにとって身近な事例が多くて、共感できます(村石さん)
その他のオススメコンテンツ
村石さんはSNSはあまりやらないそうだが、ポッドキャストを聞くことは多いという。お気に入りは、ジェーン・スーさんと堀井美香さんの「OVER THE SUN」。マンガ『セシルの女王』も、ジェーン・スーさんが帯を書いていたことをきっかけに読んだそう。
マンガも含めて基本的にKindleで買うという村石さんだが、本屋に行って平積みになっている書籍を見て、トレンドや話題のマンガを見つけることも多いという。
『僕のヒーローアカデミア』(堀越耕平:著 集英社:刊)は紙で買ったマンガの1つです。ヒーローと敵の二項対立がありますが、敵側にもさまざまなエピソードがあります。『ミステリと言う勿れ』にも通じますが、多重的な意味合いがあって、勧善懲悪ではなく、一人ひとりのストーリーに焦点を当てているところが今の時代なのかなと思います(村石さん)
これまで読んだマンガを振り返ってみたら、たまたまキャリアの変遷とお気に入りのマンガが重なったという村石さん。その時々で印象に残る物語は変わってくるが、村石さんがこれまで積み重ねてきたキャリアと苦労、それを支えた物語が伝わってきて、非常に共感できる取材となった。
村石怜菜(むらいし れいな)
株式会社ビービット
UXインテリジェンス事業本部
マネージャ
小売企業でのキャリアをスタートし、現在は株式会社ビービットでUXコンサルティングを通じたDXの実現を支援。 PARCOのグループ企業にて小売や商業施設、エンターテインメント施設などのデジタルマーケティングやオフラインの顧客体験設計・改善に従事。
スタートアップやPayPayでのプロダクトマネージャーやサービス企画職を経て、市場調査や戦略策定、要件定義から開発、グロースまでの幅広い領域を経験。
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