YouTubeの登録者数は335万人、再生回数は38億回以上(※2024年7月現在)のYouTubeチャンネルを運営するのはお笑いトリオのビックスモールン。彼らのチャンネルは多くの海外ユーザーに視聴され、2024年4月にはアメリカ大陸で行われる「VIVA Fest」という大規模なサーカスのフェスティバルに招かれて渡米し、ラスベガスのショーにも出演した。そんなビックスモールンの3人に仕事やSNSに関するマイルールを聞いた。
テレビの影響力が弱まった? 肌で感じた反響の変化
ルール1周囲で起きた変化を見逃さず、風をとらえる
トレードマークのカラフルなボーダーの服を着た彼らに見覚えのある人は多いだろう。アクロバティックなボディアートを特技とする、お笑い芸人のビックスモールンだ。
テレビ番組に出演する機会は以前より減っているが、彼らの主戦場はYouTubeやTikTokだ。YouTubeの登録者数は335万人で海外の視聴者も多い。
ビックスモールンが世界で注目される存在になったきっかけは、リーダーのゴン氏が2019年にインターネットに興味を持ったことだった。
私たちはスマホが普及する前にテレビに出ていた時期がありました。『エンタの神様』に出演したときは、地方の営業に人が押し寄せて急遽イベントが中止になったこともあったほどです。そこまで売れている実感もなかったので、テレビの影響力に驚きました。
しかし、スマホが普及していくにつれて、国民的なテレビ番組に出演しても以前より反響がなくなったことに気づいたんです。不思議に思って調べていくと、インターネットの広告費がテレビの広告費を上回ったことを知りました(ゴン氏)※2019年に初めてインターネット広告費はテレビを上回り、以後インターネット広告費は増加傾向にある
彼らはネットの潮流に乗り、2019年3月に流行りはじめていたTikTokのアカウントを開設した。
彼らが得意とする鳩時計のボディアートの動画を投稿してバズり、アメリカの女子高生たちが真似をした動画を数多く投稿されたこともあった。京都の営業に行った時に、外国人や日本の高校生から「TikToker!」と声をかけられる。自分たちに風が向いてきたのを感じたという。
@bicsmallngon 鳩時計 Cuckoo clock حمامة ووتش 鸽子手表 Голубь смотреть Reloj de paloma 뻐꾸기 시계 #ビックスモールン ♬ オリジナル楽曲 - ビックスモールン ゴン - bicsmalln ビックスモールン
ギャラが減る…最初はグリ氏の加入に反対
ルール2リスクをとっても、やりたいことにチャレンジする
TikTokに力を入れていこうと決めた頃、ビックスモールンに新たなメンバーとして加わったのが当時20代だったグリ氏だ。ビックスモールンは2001年の結成から18年間コンビとして活動していて、元々のメンバーであるゴン氏とチロ氏は40代。若手であるグリ氏はなぜ加入したのだろうか。
小学校の頃からビックスモールンのファンで、ボディアートをやってみたくて体操教室に通ったこともありました。お笑い芸人としてコンビを組んでいたのですが、まったく売れず解散することになったんです。でも、やめるくらいならビックスモールンの2人に弟子入りをしたいと思い志願しました。そして3人目のメンバーとして入ることになったんです(グリ氏)
グリ氏が弟子ではなくメンバーになったのには理由がある。ビックスモールンの2人は2018年にNYのアポロシアターに出たことがあった。そのときに、「3人以上でパフォーマンスしたほうが表現の幅が広い」と気付いたリーダーのゴン氏は、メンバーを増やしたいと考えていたのだ。
グリ氏からの弟子入りの志願を受けて、ゴン氏は「3人目のメンバーとしてグリ氏を迎えたい」と元々の相方であるチロ氏に話した。しかし、チロ氏は新メンバーの加入に前向きではなかった。
やっとお笑いだけでご飯を食べていける状況になって、趣味の絵で個展を開くこともできて、やっと余裕が出てきた頃でした。お笑いのギャラは人数で等分するのでメンバーが増えれば一人当たりのギャラは減ります。またアルバイトをしなければいけないと思いました(チロ氏)
そんなチロ氏を、ゴン氏はどう説得したのだろうか。
アポロシアターにまたチャレンジしたいこと、2020年に東京オリンピックが迫っていて、ボディアートで五輪の輪を表現するためにはもう一人メンバーが必要だと伝えました。チロが気にしていたのはお金の面だったので、『メンバーを増やす事で仕事の幅が広がり収入自体が増えれば、人数が増えても大丈夫だ』と説得しました(ゴン氏)
@bicsmallngon 東京オリンピック閉会式、Tokyo Olympics Closing Ceremony #東京オリンピック閉会式 #TokyoOlympics #tokyo2020 #parisolympics2024 ♬ オリジナル楽曲 - ビックスモールン ゴン - bicsmalln ビックスモールン
ゴン氏の熱意が伝わり、「当面はUberのアルバイトをする」と決めたチロ氏はグリ氏の加入を承諾した。こうしてグリ氏はビックスモールンの一員になる。そして、グリ氏の加入がその後のビックスモールンの飛躍を支えることになった。
グリ氏が加入した後、それまでゴン氏が担当していた動画の編集業務はグリ氏とチロ氏の担当になった。少しずつ手ごたえのある動画が出てきたものの、すぐに収益化ができたわけではない。
そんな日々が半年ほど経った頃にコロナ禍となった。グリ氏は給付金をもらって細々と生活をしながら、動画を投稿し続けていた。動画プラットフォームから収益を得るには、再生時間や登録人数などのルールがある。なかなか収益化には至らず、グリ氏の生活は、公共料金も払えないほど苦しくなっていた。
数カ月後の収益化を待つのか、生活のためにアルバイトをしたほうがいいのか悩みました。しかし、アルバイトをすると時間が取られてしまい、動画を投稿するペースが落ちてしまいます。もし生活ができなくなったらその時に考えればいい。うまくいけばハッピーな未来になるはずだと希望をもって動画を作り続けました(グリ氏)
結果としては水道が止められる前に、YouTubeの収益化ができ、そこからはアルバイトをする必要はなくなった。
一方、Uberのアルバイトを始めたチロ氏にとっては、コロナ禍は転機になった。Uberを活用する人が増え、顔と名前を出して配達をしていたチロ氏が食事を届けると喜んでくれる人がたくさんいた。配達員をしていることが話題になってUberのCMに出たり、テレビ番組に密着されたりするなど当時は仕事のほとんどがUber関連だったという。
コロナ禍でお笑いの仕事が思うようにできない状況でしたが、配達に行くと小さなお子さんが目をキラキラさせて『写真を撮ってほしい』と言ってくれる。コロナ禍で精神的にも厳しいときだったので、Uberのアルバイトに僕自身も支えられました(チロ氏)
ビックスモールン流「バズる動画の作り方」
ルール3 視聴者が見たい動画に自分たちのエッセンスを加える
ビックスモールンの動画が大きくバズるきっかけになったのは、グリ氏が「外国でトレンドになっている動画を真似てみませんか」と提案したことだった。
ボディアートをメインにやってきたのですが、TikTokのトレンドをチェックしながら流行っている動画を取り入れてみるのはどうかと考えました。ただ、自分たちのネタを入れない劇のような動画を撮ることに、最初は葛藤もありました(グリ氏)
3人で話し合った結果、まずは一度試してみようということになった。全力で動画を撮影して投稿したところ、いきなり1,000万以上の再生数を記録したのだ。
試しにあげた動画でしたが、全力でやることが大事だと思いました。再生回数が増えて、どんどんフォロワーが増えていくのが楽しかったですね(チロ氏)
数字は何より説得力があります。1,000万回再生されたということは楽しんでみてくれた人がそこにいる。この出来事をきっかけに、それまでの価値観が一気に崩れました。たとえばテレビに出るときは番組のプロデューサーやディレクターに評価されなければ番組に出られません。でも、SNSは評価する資格を視聴者一人ひとりが持っている。視聴者が評価してくれることが新鮮でした(ゴン氏)
この出来事をきっかけに、自分たちが見てほしいものではなく、視聴者が見たい動画を作ろうという発想に変わった。そして現在は「視聴者が見たいものを優先しながらも、自分たちのエッセンスを足すことを大切にしている」とグリ氏は語る。
トレンドの動画をただ真似るのではなく、僕たちの強みであるボディアートを入れたり、動画の撮り方を変えて見せ方を工夫しています。トレンドをただ真似しているだけでは、毎回一発勝負をしていることになり、結果が積みあがりません。だから自分たちの特色をちょっとずつ入れて反応を確かめて、何が評価されているのかを分析してきました。すると、結果が出ない動画が減り、バズる確率が上がっていきました(グリ氏)
90歳までボディアートを続けていく! そして世界へ
ルール4 3人の持ち味を生かし、チームワークを大事にする
ビックスモールンの3人はそれぞれ得意なことに違いがある。それぞれの特性をリーダーのゴン氏は次のように語る。
動画を始めたときは僕が一人で動画を編集していて、TikTokやYouTubeの登録者は30万人ほどでした。その後、2人に企画や編集を任せてからYouTubeは300万人以上も登録者が増えています。
特にグリは僕たちより10歳以上若いので、スピードが速いし吸収力があります。そして物事を比べて分析する能力がとても高いんですよね。今年ラスベガスのショーに出られたのも、グリの分析力があったからなんです(ゴン氏)
実は2024年にアメリカで舞台に立ったとき、ビックスモールンのネタに対する反応はあまりよくなかった。その原因をゴン氏は振りを極限まで短くしてしまい、観客にネタが理解しにくかったからだと考えた。
ネタを披露する機会はまだあったが時間は1時間しかない。なんとか調整しなければと焦るゴン氏に、グリ氏は自分の考えを伝えた。
僕たちのネタがつまらない、わけではないと思いました。他の人のショーを見ていたら、ネタの合間に手を広げるアクションをしていることに気付いたんです。そのジェスチャーで、観客に拍手のタイミングを伝えているのだなと思いました(グリ氏)
ネタをすぐに変えることはできないので、その場で改良案を考えて実行した結果、次の出番では観客からの反応が良くなり、結果としてラスベガスの舞台に出ることができたのだ。グリ氏の分析力が生きた結果だ。
次にチロ氏の特性をゴン氏はこう語る。
チロは体幹が整っていて、僕たちがボディアートをする上で要になる存在です。そして、同じことを反復してやり続ける能力があります。投稿しているショート動画は数を多く投稿することが効果に大きく影響します。チロは今、月に100本以上のショート動画を作って投稿し続けています。僕は同じ作業を繰り返すのが苦手なのでとてもできません(ゴン氏)
そして、リーダーであるゴン氏の役割は、アンテナを広げて世の中の流れを感じ取り、大きな方向性を決めていくことだ。最初にTikTokを始めたのもゴン氏の発案だった。
取材を通して感じたのは、3人がそれぞれの個性を認識しリスペクトをもっていることだった。このチームワークのあり方はビジネスの世界においても非常に重要だと感じた。最後に、今後の夢について聞いた。
できれば90歳までボディアートを続けていきたいと思っています。これはボケではなく本気です。歳をとって身体が動かなくなってきたら、若い人を黒子として雇って僕たちの手足を動かしてもらう。そして『昔はね、自分たちの力でやっていたんですよ』と言いたい。そんなじいさん達がいてもおもしろいですよね(ゴン氏)
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オリジナル記事:【驚異の38億再生】テレビでは見ないけど、実は世界各地で引っ張りだこ! ビックスモールンがSNSに振り切ったワケ | デジマ4つのマイルール
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