「ダークパターン」が社会問題化している昨今。デジタルマーケターやWeb担当者はどのように対応していけばよいのだろうか? コンセントの代表取締役社長であり、欧米で出版されたダークパターン解説書の翻訳監修も手がけた長谷川敦士氏が、「Web担当者Forumミーティング2024春」に登壇。ダークパターンとは何か、ダークパターンが生まれる構造や対応法について解説した。
ダークパターンとは何か
コンセントは、「デザイン」をキーワードに、ビジネスモデル構築や事業開発、組織・人材開発を支援する企業である。長谷川氏は同社の社長を務める一方で、武蔵野美術大学のクリエイティブイノベーション学科で教鞭を執るなど、教育者・研究者としても活動している。
本講演のテーマであるダークパターンとの関わりでは、このほど専門書の翻訳監修を手がけた。ダークパターンという言葉の生みの親で、その概念の提唱者であるハリー・ブルヌル氏の著書『ダークパターン 人を欺くデザインの手口と対策』がそれだ。
では、ダークパターンとは何か。長谷川氏は次のように示した。
- ユーザーを騙し、人々の判断を誤らせるインターフェイス
- ダークパターンによって、プライバシーを侵害したり、お金をよけいに使わせたりする問題が発生している
ダークパターンの典型的な例としてあげられるのが「欺瞞的カウントダウンタイマー」である。ユーザーがサイトにアクセスすると、その時点から、割引オファーなどのカウントダウンが始まる。しかし、そのカウントダウンタイムが0になっても割引額は変わらない。フェイクのカウントダウンである。カウントダウンタイムを見せてユーザーを焦らせ、購買に導くというものだ。
長谷川氏によれば、一部のECサイト運営プラットフォームでは、フェイクのカウントダウンタイマーがオプションとして用意されているケースすらあるという。
ダークパターンの歴史
ダークパターンという言葉は比較的新しいものだが、“ユーザーを騙すようなインターフェイス”は、米国のドットコムバブル期、ECサイトが相次いで立ち上がっていく2000年前後には存在していた。ITビジネスの立ち上げ期とあって議論は成熟しなかったが、人間工学関連の学術研究レベルでは取り上げられる機会もあったと長谷川氏は解説する。
そこから時が下って2010年。UXデザイナーでもある前述のハリー・ブルヌル氏が、人を欺くサイトを集めた「DARK PATTERNS」(現在は「Deceptive Patterns」)というまとめサイトを開設。これによってダークパターンへの認知が世間へ広がっていった。
2010年代後半になると、研究者の間でもダークパターンの構造分析研究が本格化。当初は、ECサイトの収益拡大策としてのダークパターンが問題視されていた。しかし研究が進んだ結果、ユーザーが意図しないまま自らの個人情報を公開してしまうという、プライバシー侵害の領域にも懸念が拡大していった。
そして2021年には、米カリフォルニア州の消費者プライバシー法(CCPA)において、消費者のオプトアウトを実質的に妨害する施策を禁じる法案が施行されるまでに至った。
ダークパターンを禁止する動きは世界に広がっています。日本ではまだ直接の法律はないものの、特定商取引法や個人情報保護法などの既存の法制度による規制が進められており、消費者庁など関連する省庁の間で問題認識はしっかりなされています。現行法でどうやって対応できるのか、検討が進んでいる段階です(長谷川氏)
ダークパターン7つの類型~OECD策定
ダークパターンは、OECD(経済協力開発機構)によって7つのパターンに類型化されている。順にみていこう。
1. 行為の強制(Forced Action)
1つめは、タスク完了のために、ユーザーにアカウント登録や個人情報の提供を強要するといった「行為の強制」をすることだ。たとえば、ただ情報を見るだけのためにアカウント作成を要求する行為などが該当し、これは「行き過ぎた個人情報収集の強制」と見做される。
2. インターフェイス干渉(Interface Interference)
2つめは「インターフェイス干渉」だ。視覚効果を使ってユーザーに特定の選択を促したり、誘導したりする。たとえばYES/NOの2つの選択肢があったとき、一方のNOのほうだけインターフェイスを薄く表示(グレーダウン)し、一見してクリックできないよう見せかけ(実際には押せる)、YESのほうを押させようとする。コンピューターの世界では、“グレーダウンしているものは押せない”というのが一種の常識だが、それを逆手にとったものだ。
3. 執拗な繰り返し(Nagging)
3つめは「執拗な繰り返し」。たとえば「はい」「あとで回答する」の2つだけで、拒否の選択肢がないポップアップを繰り返し表示するような行為だ。何度も出るため、押し間違える可能性も高くなってしまう。こうしてWeb上でなかば強制的に同意させ、後になって「絶対解約できない」などの論法に持ち込む例が多い。
4. 妨害(Obstructing)
4つめは「妨害」。サブスクリプション(以下、サブスク)への入会はワンクリックでできるのに、解約はメールや電話などによるお問い合わせに限定し、解約行為を妨害している例が代表的だ。申し込み画面は日本語だが、解約画面は海外サイトで外国語、というようなケースも含まれる。
5. こっそり(Sneaking)
5つめは「こっそり」。あるサイトでは、商品を1回限り購入しているようにみせかけて、実はサブスクを買わせているといった例がある。なかには、定期購買であることを明記せず、「無料配送」という特典だけをアピールしているサイトもある。
実際の消費者行動として、商品の値段はしっかりチェックするが、決済時の送料や手数料には目を配らない人が多い。ユーザーが気づかなければ事業者側は儲けもの、という構図だ。
6. 社会的証明(Social Proof)
6つめは「社会的証明」。商品の購入数や閲覧数、訪問数などをユーザーに知らせて、ユーザーにプレッシャーをかけるものだ。「○○人がこの商品を見ています」などと表示する方法が知られている。
商品の人気度を知るという意味でユーザー側にも一定の益はあるのでグレーゾーンともいえるが、その情報がフェイクだったり、紛らわしい根拠に基づくケースだったりする場合が少なからずあるという(「いま商品が購入されました」と記載されていたが、実際には過去数日間の実績だったなど)。
7. 緊急性(Urgency)
7つめは「緊急性」で、先述のカウントダウンタイマーなどがこれにあたる。期限を示してユーザーを焦らせるわけだ。
情報設計観点のダークパターン
上記7つの分類はOECDによるものだが、情報設計の観点からみたとき、次のようなダークパターンの種類もある。
- 木を森に隠す:特別だが重要な条件を、膨大な文章の中に紛れ込ませて埋もれさせる方法。
- 文脈をずらす:文章などの流れとは全く異なる箇所でオプトイン・オプトアウトをさせる方法。文章の“量”で紛らわせるのではなく、文章の“質”でマスキングする手法だと長谷川氏は評する。
- 複雑すぎてわからない:二重否定、冗長表現などを使ってわざと説明文を難解にし、読み飛ばしなどを促そうとする方法。
- たどり着けない:情報は存在しているがなかなか行けない状態。ある特定の動線のみディスカウントが有効になったり、PCではあるがモバイル・アプリでは動線が見つからなかったりなども含まれる。
- そもそも複雑:インターフェイスの問題以前にそもそもの商品構成や契約形態などが複雑で、シンプルに見せる、わかりやすく見せることに限界がある状態。携帯電話の契約や保険商品などで多数のオプションが用意されている場合に多く見られる。
ダークパターンがなぜ生まれるのか?
現実として、ダークパターン的なWebサイトは多数存在する。そもそも悪意をもって自社サイト内にダークパターンを埋め込む事業者がいるのは確かだ。こちらはもう、法などの手段をもって取り締まるしかない。だが、その一方で、無自覚にダークパターンを生み出す一般事業者がいると、長谷川氏は警告する。では、なぜ悪意のない事業者がダークパターンを生んでしまうのか?
研究によれば、ダークパターンが生まれてしまう要因には、次図のような3つのトレンドがある。
1. 小売業における欺瞞的な慣行
次図にあるように、EC台頭前から、商品の売価を100円ではなく、たった2円安い98円にした方がお得に感じる「サイコロジカルプライシング(心理的な価格付け)」のような手法はよく知られている。ちなみに「1,999円」と「1999円」(カンマなし)でも、消費者側の受け取り方は変わる。
いつもやっている閉店セールもそう。しかし消費者側も、毎回目くじらを立てていてもしようがないと、許容してしまっているのが現状です。こうした手法は、ビジネス上のテクニックとして、むしろポジティプな施策として事業者側に広がっています(長谷川氏)
2. 公共政策における「ナッジ」
ナッジとは、行動経済学の知見を用いて、デザイン上のテクニックによってユーザーに行動変容を促す手法のことだ。一例としてあげられたのが、欧州における臓器提供意思表明率の差だ。オーストラリアでは99.98%と高い一方、デンマークは4.25%。同じ欧州でも極端な差がある。
この違いは国民性や世論の問題ではなく、臓器提供意思の表明がオーストリアではオプトアウト方式(提供しないならチェックを入れる)、デンマークではオプトイン方式(提供するときは書類にチェックを入れる)という、書類の表記の差の反映だと考えられている。どのような設問・選択肢を用意するかで、人々の意思表明の傾向は変わってしまう。
我々は、重要な判断をすべきときにわからない場合は先送りにしてしまう傾向(デフォルト効果)がある。そのため、チェックボックスをそのまま放置してしまいがちだ。このデフォルト効果を利用すると、文言をわかりにくくしてチェックボックスにチェックしておけば、チェックしたままになる可能性が高い。
こうしたナッジのテクニックは、公共分野ではある程度許容されているが、それを悪用したダークパターンも存在している。また、ナッジの公共分野での利用が憲法に適合しているのか、疑問視する声もある。
3. デザインコミュニティでのグロースハック
グロースハックとは、製品やサービスにあらかじめ成長し続ける戦略を取り込んでおくことだ。次図にあるように、主にシリコンバレーのサービス系企業では収益よりも市場での優位性獲得のための成長をはかるため、マーケティング、デザイン、エンジニアリングの融合を行った。
その結果、得られた武器の一つにA/Bテストがある。これによって、レイアウト、色、形、文言などを変えることでコンバージョン率が上がるか下がるかが簡単に調べられるようになった。AIによってさまざまなテストパターンを出すこともできる。
しかし、効果指標を達成するために、ダークパターン的な表現を入れてしまう場合もあり、「この表現ではユーザーが間違ってしまうかも」という考えが後回しにされかねない。企業としては「目標に向かって努力しているだけ」ともいえるが、意図せず結果的にダークパターンが生まれかねない。
ユーザーを増やすといった数値目標だけでPDCAプロセスを回そうとすると、それだけでもうダークパターンになってしまう可能性があります。「効果指標が下がっても我が社は絶対にこれだけはやらない」「問い合わせがあったら、効果指標よりも優先する」といった何らかのチェックポイントが必要かもしれません(長谷川氏)
ダークパターンへの向き合い方
ダークパターンの氾濫を防ぐため、まず考えられるのは悪質業者への対応だ。規制と業者のイタチゴッコは不可避だが、それでも最終的には法で規制するしかないだろうと長谷川氏は話す。
無意識にも関わらずダークパターンを生み出してしまった一般事業者にとって深刻なのは、レピュテーション(評判)に対するリスクだ。積極的な広告などを展開する一方で、サイト内でダークパターンがみつかれば信用が毀損する。
しかも、ダークパターンと見做された部分を取り下げたとき、現状の成果が低下する可能性は高い。組織全体として、ダークパターンをとりしまることで成果が下がることを認めなくてはならない。ゆえに、組織的な取り組みが必要になると長谷川氏は指摘する。
なお、Web担当者がまずは取り組むべきダークパターン対応は、次図のように3つある。自社サイトを確認してみてほしい。
ここまでみてきたように、ダークパターンは、白か黒か、チェックリストのように明示できるものではなく、グレーな場合が多い。それがセーフかアウトかを判断するのは大変難しい作業だ。ユーザーにどう説明するのかも含め、コミュニティが中心となって議論し続ける必要があると長谷川氏は述べ、講演を締めくくった。
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オリジナル記事:ダークパターンとは何か? Web担当者がユーザーを惑わさないために知っておきたい7分類 | 【レポート】Web担当者Forumミーティング 2024 春
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