この記事は、前後編の2回に分けてお届けしている。後編となる今回は、検索結果からの選択で現れる認知バイアスとして「顕著性バイアス」「権威バイアス」「親近性バイアス」「単純接触効果」「ハロー効果」などを把握したうえで、そのバイアスをSEOで活用するためのヒントを見ていこう。
検索結果からの選択で現れる認知バイアス
検索結果では、ユーザーの注意を引こうと激しい競争が繰り広げられている。競っているのは次のような要素たちだ:
- 広告
- 強調スニペット
- 画像パック
- 動画パック
- 「他の人はこちらも質問」(PAA)
- SERP特有のカルーセルとリッチスニペット
- 数件のオーガニックリンク
- など
近く、グーグルのAIを利用した「AIによる概要(AI Overview)」で画面が埋め尽くされることになるだろう。
クリック率の調査を見ると、ページの下部にいくほど、オーガニック検索結果のクリック数は急激に減少している。加えて、クリック率は業界によっても異なるだろうし、最新のSERP機能が表示されることを前提にアップデートする必要がある。最新のSERPを見れば、クリック率が下がっているかもしれない理由がわかる。
SEO担当者としての課題が複雑になる要因として、認知バイアスはSERPのあらゆる場所に存在することがある。
ということは、心理学をうまくオーディエンスに適用できれば、第一印象を良くするチャンスが得られる。ブランドやコンテンツが訪問者に刺さったなら、あとは具体的なマーケティング課題を解消するだけだ。
確証バイアスについてはすでに説明した。人は、純粋にバランスの取れた視点を求めているのでなければ、自らの先入観を裏付ける結果を選択する(つまり、ほとんどの場合は先入観が影響する)。
「自らの先入観を裏付ける結果を選択する」とは、どのようなものだろうか? こういうことだ:
僕は最近、コレステロールが高い家系に属することを知った。そこで、心臓に良い食事を医者に聞きに行った。
すると、次のように言われた:
赤身肉や卵黄など、一般的によくないとされる食品は避けるように。アボカドも避けるべき食品の1つだ。
僕は以前に、アボカドの脂質は「健康的」だと聞いたことがあった。そこで検索してみたのだが、検索結果のなかで無意識のうちに「アボカドが(悪玉)コレステロールを下げるのに最適な選択である」という僕の考えを裏付けるリンクをクリックしていた自分に気付いた。
僕はSEOを担当していて、消費者心理やマーケティングのことばかり考えている人間だ。そんな僕でもやってしまう。
誰もが、無意識のうちに確証バイアスに陥っている。
しかし、僕たちの選択の仕方には、他にどのような認知バイアスが働いているだろうか? 次の5種類のバイアスについて、それぞれ解説したうえで、SEOでやるべきことのヒントを示していく:
- 顕著性バイアス
- 権威バイアス
- 親近性バイアス、単純接触効果、ハロー効果
検索結果からの選択で現れる認知バイアス顕著性バイアス
あ、リスだ! 僕たちは皆、すぐに気が散ってしまう。僕たちが住んでいる世界は刺激が多すぎる。それに、視覚に偏り過ぎているし、目新しいことに影響されやすい。
検索でこれを実証しているのが顕著性バイアスだ。僕たちは、目立つものに注意を向ける傾向が非常に強い。
顕著性バイアス(特徴バイアス)とは、より目立つ、あるいは強い印象を受けるアイテムや情報に注目する傾向のことで、それ以外のあまり目立たない情報は見落とされがちだ。
君がレコード会社を経営していて、コンテンツマーケティングキャンペーンを展開しようとしているとしよう。君はMoz Proでキーワードを調査し、ターゲットにするキーワードのリストを作成した。優秀なSEO担当者は必ず現在のSERPを見て、どのようなコンテンツが表示されるかを確認する。君が調査しているキーワードは、「colored vinyl」(カラーレコード)だ。
検索結果は次のようになる:
この結果だけを見ても、画像カルーセル、開閉型のサイドウィジェット、「他の人はこちらも質問」(PAA)が表示されているのがわかる。盛りだくさんだ。公正を期して言えば、ほとんどのSERPはこれとは異なる。しかし、実際に検索結果を見ることで、現状を把握し、どうすれば対抗できるかを確認することの重要性を浮き彫りにしている。
アンディ・クレストディナ氏は、まさにこの問題についてMozCon 2022で素晴らしいプレゼンテーションを披露した。次の動画で、注意を引くさまざまなSERP機能に関する同氏の分析や解説を確認してみてほしい。
グーグルは今後も、検索ユーザーの意図を満たすと思われるSERP機能を追加し続けていくと予想できる。オーディエンスの顕著性バイアスに影響を与えることになるため、これをモニタリングすることが重要だ。
SERP機能は、検索ワードだけでなく、業界やオーディエンスによって傾向が変わることも知っておくといいだろう:
- eコマース、エンターテインメント、料理、ホスピタリティ → 画像カルーセルが増える。
- 若いオーディエンス → ショート動画が増える。
- ローカル → レビュースニペットが増える。
SEOでやるべきことのヒント: 顕著性バイアス
ターゲットキーワードで実際検索してみて視覚的に目立つSERP機能があれば、それを活かすべきだ。Moz ProのSERP Featuresトラッカーを使えば、大量のキーワードからなるリストをモニタリングできる。
レビュー
ローカルやeコマースに関するクエリで表示されるようにしたいなら、オンラインレビューを活用してSERPで視覚的に目立つようにしよう。ローカルSEOに関しては、Mozブログでミリアム・エリス氏の書いた記事をどれでもいいので読んでほしい。同氏はローカルビジネスの心理とベストプラクティスのエキスパートだ。
画像
画像カルーセルが表示される機会のある重要なキーワードでは、製品、会場、料理などの高品質な画像に費用をかけよう。
動画
動画がよく表示されるクエリならば、YouTubeのSEO戦略とオーガニック検索戦略を組み合わせて、動画カルーセルに表示されるようにしよう。TikTokの動画がグーグルの検索結果に表示されることも増えているが、依然として圧倒的に多いのはYouTubeだ。必要に応じて、さまざまなコンテンツを用意してほしい。
専門的なアドバイス: どの動画プラットフォームで最初に動画を公開するかを第一に考えよう。多くの動画SERPでは、エバーグリーントピックでない限り、より新しいコンテンツが優先される。
サイトリンク
SERPでの専有面積を増やすには、ブランドキーワードでサイトリンクが表示されるようにしよう。
検索結果からの選択で現れる認知バイアス権威バイアス
「E-E-A-T」を知らないSEO担当者は、もういないだろう。グーグル(とSEO担当者)は、検索品質評価者向けガイドラインに従ってグーグルが評価する4つのタイプのコンテンツを重視している。4つのタイプとは、経験・専門性・権威性・信頼性(E-E-A-T)だ。
僕たちは、正しい方向に導いてくれる権威を信頼する。市場のリーダーとして、また特定のトピックの権威として地位を確立しているブランドや人物を信頼する。
権威バイアスは、権威を持つ人の意見、推奨事項、または方向性への信頼が深まった場合に生じる。信頼性が獲得または認識されることで、僕たちの意思決定に影響を及ぼすことがある。
このバイアスが利用された典型的な例が、米国で1980年代に放送されていた咳止め薬ヴィックス・フォーミュラ44のCMだ。このCMに出演していた俳優のクリス・ロビンソン氏は当時、昼ドラ『ジェネラル・ホスピタル』で白衣姿の医師を演じていた。米心理学者ロバート・チャルディーニ博士は著書『Influence(影響)』(未邦訳)のなかで、ロビンソン氏が実際には医師でないにもかかわらず、人々はこの広告で作り出された権威バイアスに影響されたと指摘している。
しかし、多くの場合、権威のシグナルは特にYMYL(Your Money or Your Life:資産や人生)に影響を与える検索で獲得される。
「.gov」「.org」「.edu」で終わるドメイン名を考えてみてほしい。
健康に関するクエリの検索結果には、権威のシグナルが頻繁に表示される。それは病院のウェブサイトだ。病院は、健康に関する権威だからだ。
次のような検索結果で、英語圏の検索ユーザーがクリックする可能性が高いのはどれだろうか?
おそらく、「.com」ドメイン名のサイトではなく、医療機関のサイトを選ぶだろう。
君が信用してもらえるのは、君や君のブランドが信頼でき、有益な情報を提供しており、倫理的で、誠実であるという評判を得ているからだ。
Moz Proでは、Brand Authority(ブランド権威性)を評価できる。こうした信頼のシグナルに合わせてブランドの信頼性と権威性を評価できる指標を算出している。こんどは金融セグメントで、ウェルズ・ファーゴ(米国最大手の銀行の1つ)のようなウェブサイトでは、どのように表示されるか見てみよう。きっと他のサイトより高いだろう。
ウェルズ・ファーゴ(wellsfargo.com)のBrand Authorityは91と、実際に高かった。
SEOでやるべきことのヒント: 権威バイアス
title要素とmeta descriptionタグにパワーワードを使おう。やりすぎは禁物だが、信頼のシグナルを発するキーワードをちりばめられるか試してみてほしい:
- accredited(認定された)
- certified(認証を受けた)
- proven(実績のある)
- reputable(信頼できる)
- secure(セキュアな)
- experienced(経験豊富な)
- safe(安全な)
必ず、自分の業界に適したものにしよう。
もっと大きな、戦略的なレベルで、自分のオーソリティのためにできる最善のことが、次のものだ:
自分のブランドを構築しよう。
あきれた顔をしないでほしい。まさにこれこそ必要なことだ! SEOは、より大きなマーケティング戦略の中の1つのチャネルだ。すべてのプラットフォームが連携して、複合的に成果を生み出す必要がある。言うは易く行うは難しだ。君のブランドと、その分野におけるリーダーとしての認知度によって、オーソリティは高まる。
比較的小規模なビジネスなら、一貫性と質を確保しつつ、通常はチャネル全体でビジビリティを高める必要がある。あるいは、オーガニックなバイラルの機会を見つけて、ブランドの評判を向上させることも必要だ。
もっと大手のブランドであれば、あらゆる環境が整っていて、大量のリソースを持っているかもしれないが、サイロを越えて取り組むのは難しい。マーケティング部門の中でも、他のチームによる編集作業の予定を把握するのは容易ではない。
いずれにせよ、ブランド開発には長い時間がかかる。一晩で構築できるものではない。小さく始めて、「北極星」を目指すブランディング原則に従い、権威バイアスを活用できるところはブランドや顧客に導いてもらえるようにしよう。
検索結果からの選択で現れる認知バイアス親近性バイアス、単純接触効果、ハロー効果
ブランドについて言えば、僕たちは自分が知っているものを信用する。安全で信頼できるからだ。親近性バイアス(親近性ヒューリスティック)は、それが最善かどうかに関係なく、僕たちが認識可能な選択肢を選ぶことがいかに多いかを浮き彫りにする。
このバイアスについては、あまり深く掘り下げるつもりはない。というのも、ジュリア・パノッツォ氏が最近の記事で親近性バイアスと単純接触効果の背後にある心理についていろいろと述べているし、ミリアム・ジェシエ氏もSEOとコンテンツプログラムにローカルレベルでこのバイアスを取り入れる一連のスマート戦術を紹介しているからだ。
親近性バイアスで覚えておくべき重要なことだが、オーディエンスに対し、インターネット上の複数の接点で一貫してプレゼンスを維持する必要がある。たとえば、
- ソーシャルメディア
- インフルエンサーマーケティング
- 広告
- Webサイト
またはその他のどのチャネルを経由してアクセスする場合でも、検索ジャーニーのなかで君のブランドがオンライン検索に表示されれば、オーガニックのリスティングをクリックしてもらえる可能性が高くなる。
これは、Forbesがグーグルで非常に効果的である理由の1つだ。このブランドは知名度が非常に高い。そのため、「Best Mattresses 2024」(2024年のベスト・マットレス)のような意外な結果が表示されたとしても、人々はこのブランドを知っているため、結果をクリックする。
(前編でも触れたが、司法省がグーグルを相手取って起こした訴訟で)グーグルがクリック率やUX指標などの行動シグナルを使って検索順位に影響を与えている事実が判明したことを考えると、上位に表示される恩恵をよく知られているブランドが受けていることは間違いないだろう。
加えて、ハロー効果もある。その本質は、他の人物やブランドに関連する肯定的な感情を利用することだ。僕たちは、ある側面で良い印象をもった対象を、他の領域でも肯定的に受け止める傾向がある。
Forbesだけでなく、The New York Times(NYT)もハロー効果の恩恵を受けている。NYTは、ハロー効果を利用した互恵的な買収によってブランド力を高めている。
2016年、NYTは製品レビューサイトWirecutterを買収した。アフィリエイトマーケティング分野におけるWirecutterの優れたコンテンツに加えて、NYTの信頼性と評判がこのサブブランドの地位をさらに押し上げた。
2022年、NYTはネット上でブームになっていたWordleを買収した。世界中で愛されているこのゲームは、すでに大変人気のあったNYTのデジタル版クロスワードパズルとゲームのセクションをさらに強化することになった。
どちらの買収も、プラスの関連性がある2つのブランドを結びつけることで相乗効果を生み、新しい分野と確立された分野でブランドエクイティを増強するものだ。
買収によってブランドを成長させることはできないかもしれないが、ブランドの提携による親近性、単純接触効果、ハロー効果を活用することはできる。
クーラーボックスメーカーのIGLOO(イグルー)は、スヌーピー、グリーン・デイ、『NARUTO -ナルト-』といったブランドや人物と提携している。
フォートナイトは、レゴ、ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ、レディー・ガガなど、さまざまなエンターテインメントブランドと提携している。
SEOでやるべきことのヒント: 親近性バイアス、単純接触効果、ハロー効果
数百万ドルの価値がある知的財産(IP)と提携する資本やレバレッジがなくても、ハロー効果の恩恵を受けることはできる。
重要なのは、自分の業界やサービスを補完する提携のチャンスを探すことだ。たとえば、次のようなものなら大企業でなくても実現可能だろう:
地域のパーティー会場なら、地域のイベント、子ども向けの美容院、玩具店と提携する。
SEOのSaaSツールなら、優れた大手SEO企業と提携する。
インテリアショップなら、ソーシャルメディアのインフルエンサーと提携する。
こういったパートナーシップはそれぞれ、ブランド検索や関連の検索でSERPに表示されるようにするのに役立つ。
2つ目のヒントとして、トップブランドの関連リストに名前が載るようになろう。この戦略は、サラウンドサウンドSEOまたはフジツボ式SEOとして知られている。
自分の業界でトップのX製品やXサービスに関連するものとして他のブランドのリンク集に表示されれば、宣伝になるだけでなく、検索のビジビリティも高まる可能性が高い。最近では、リスティクル(箇条書きでまとめられた形式の記事)ほどグーグルが好むものはない。
継続的な検索ジャーニーへの影響
マーケティングファネルはもはや直線的ではなく、すべての検索が同じように作られているわけではない:
次に買う車を検索することは、次に買う歯ブラシを検索することよりも大きな決断だ。
医学的症状を検索することは、人生にとってアップルパイのレシピを検索するときとは異なる影響をもたらす。
楽しいアクティビティを検索することは、小さな子どもの夏の水遊びについて検索することよりもう少し一般的だ。
米国の歴代大統領のペットの一覧を検索することは、生成AIの最新の進歩とは別物だ。
僕たちは常にその瞬間に検索意図を満たせるとは限らない。しかし、グーグルとさまざまなウェブサイトの間を行き来する面倒な検索ジャーニー全体を通して、オーディエンスに種をまく機会がある。SERPや自身のウェブサイト上でオーディエンスを獲得できる。
この記事では、次のようなバイアスを紹介してきた:
- 確証バイアス
- 顕著性バイアス
- 権威バイアス
- 親近性バイアス
- 単純接触効果
- ハロー効果
しかし僕たちの脳にあるバイアスはこれだけではない。ネット検索に影響を及ぼす認知バイアスは数百種類もある。常に活発に働いている僕たちの脳に錯覚を起こさせる仕組みが、僕たちの思考に自然に組み込まれているのだ。
しかし、僕たちはSEO担当者として、オーディエンスや、オーディエンスの考え方、検索の仕方をよく理解しておく必要がある。
次にSEO戦略に取り組むとき、コンテンツやソーシャルメディアのチームと協議するとき、あるいは個人的に必要な検索をするときは、認知バイアスの影響を考慮しよう。
人間の行動と心理を理解することは、それだけでSEOのキャリアをレベルアップさせるために投資できる、最も重要な知識の1つだ。
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オリジナル記事:SEOと認知バイアス: SERP編(顕著性バイアス、権威バイアス、親近性バイアス、ハロー効果など) | Moz - SEOとインバウンドマーケティングの実践情報
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