自社のマーケティング課題をデジタルの力でなんとか解決したい。それは何も一般企業に限った話ではない。デジタル領域を専業とする企業、デジタルマーケティングに強みを持つ広告会社であってもそうだ。
アイレップは1997年の創業初期からインターネットビジネスを手がけ、デジタルマーケティング市場での広告会社としては老舗にあたる。しかし広告以外のビジネスの認知度は高いとはいえず、事業拡大の障害となっていた。そこで着手したのが「インバウンドマーケティング」だ。「デジタルマーケターズサミット 2023 Winter」に同社の平林氏が登壇し、KPI180%を達成するまでの経緯を解説した。
株式会社アイレップ ソリューションビジネスユニット ユニットマネージャー 平林 孝仁氏
歴史ある広告会社が自らインバウンドマーケティングに取り組む
アイレップは1997年11月設立。日本でインターネットビジネスが勃興しはじめた時期とも重なる。当初はさまざまな事業を展開していたが、次第にインターネット広告へ集中。現在は、博報堂DYホールディングスの傘下企業となっている。
実に4半世紀にわたってインターネット広告を手がけてきたのがアイレップであり、その中でもリスティング広告とSEO施策サービスの知名度は高かった。
だが同社の事業はそれだけではなく、デジタルマーケティング支援を全方位的に実施するだけの体制を整えている。平林氏は「リスティング広告やSEO施策では継続的にお問い合わせをいただいているのだが、デジタル起点のフルファネルマーケティングを展開していることがあまり知られていなかった」と振り返る。
リスティング広告やSEO施策以外のサービス認知度が低く、いかに改善するかが課題だった
では、どうすればそれを世間に認知してもらえるのか? そこで始めたのが「広告会社が自社サービスの認知拡大のために、『インバウンドマーケティング』に取り組むこと」だった。
インバウンドマーケティングとは、Webサイト記事や動画などの各種コンテンツを配信して、顧客の関心・興味を惹く手法のこと。テレビCMやダイレクトメールなどの「アウトバウンドマーケティング」とは対義的に扱われる。つまり、顧客が“自発的にその会社の製品・サービスに興味が沸いた”と感じてもらうための方策である。
そこで立ち上げたのが、デジタルマーケティング関連の記事・動画・セミナーなどを総合的に提供するWebサイト「DIGIFUL」だ。2019年下期から企画が立ち上がり、コロナ禍を受けて計画が前倒しされ、2020年夏にオープンした。
認知度不足の改善のためにインバウンドマーケティングに着手。Webサイト「DIGIFUL」を開設した
Webサイトを公開し問い合わせ数が着実に増加、KPI 180%を達成
DIGIFULの公開は、デジタルマーケティング情報を探している企業内担当者とアイレップを結ぶという意味で、BtoBマーケティングの定番的手法でもあったが、リード(見込み客)の獲得に大きな威力を発揮した。下の図は、顧客からの問い合わせ数の変遷を示したグラフである。
DIGIFUL開設後は問い合わせ件数が大幅に増加
2020年5月はコロナ禍もあって問い合わせ数が大幅に落ち込んでいるが、DIGIFUL公開後は徐々に回復。翌年度も順調に伸び、KPI 180%を達成している。
この他、メールマガジンの配信数、問い合わせを促すための資料ダウンロード数についても、各種施策を加速させた結果、軒並み高数値をたたき出している。
これまでアイレップに届く問い合わせは、ほとんどがリスティング広告やSEOに関するものだけだった。しかしDIGIFULでインバウンドマーケティングを本格化させて以降、問い合わせジャンルが多様化した。また既存のお客様からは『DIGIFULの記事で紹介されていた提案を我が社にもしてほしい』といわれることが増え、アイレップ営業担当者へのスキル依存が減る効果もあった(平林氏)
問い合わせのバリエーションも広がった
BtoBマーケティングの3ステップ、どの部門が担当すべき?
続いて平林氏は、DIGIFULを通じたインバウンドマーケティングの推進体制について具体的な説明を行った。まず前提となるのは、BtoBマーケティングを構成する3つのステップだ。
- リードジェネレーション:見込み客の獲得。広告、イベント出展、テレマーケティングなど多種多様な方法がある。
- リードナーチャリング:獲得した見込み客に対して、購買意欲を向上させるための施策。セミナー、メールマガジン配信など。
- フィールドセールス:最終成約のため営業担当者が見込み客のもとへ訪問する。
では、この3ステップの業務を遂行するのは社内のどの部門か。リードジェネレーションはマーケティング部門、フィールドセールスは営業部門とハッキリしているが、リードナーチャリングは曖昧になりがちだ。
部門間の連携は、多くの会社にとって課題だろう。そこで当社では、マーケティングとセールス(営業)部門を一体化させた。これで機動的なマーケティング施策ができるようになった(平林氏)
3ステップのうち、リードナーチャリングについてはマーケティング部門とセールス部門の協力体制を明確化した
またKPIの設計も綿密に行った。たとえば売り上げ1億円アップというKGIがあった場合、達成するためにどれくらいの顧客数が必要なのか、そのためには新規顧客を何社獲得すればよいのか、というように逆算的にKPIを算出。そこからさらに、実施するマーケティング施策を決めていった。他にもサイト訪問者数、リードナーチャリングにおけるスコアリングの状況などもサブKPIとして重要視したと平林氏は明かす。
続いてマーケティング部門が担当した、①リードジェネレーションと②リードナーチャリングの施策を見てみよう。
①リードジェネレーション最大化の施策
SEO/コンテンツマーケティング/ウェビナー
リードジェネレーションの最大化に向けた施策は、以下の3つだ。
- SEO:検索エンジンからの流入を増やすための基本ともいえる施策。DIGIFULではサイト制作段階からSEO要件を盛り込んだため費用対効果が大きかったという。
- コンテンツマーケティング:各種のデータ分析結果をもとに、発信したい情報に優先順位をつけた上でコンテンツ(おもに記事)を作成。この際、他部門とも連携してコンテンツを拡充させた。
- ウェビナー:DIGIFULはコロナ禍前後に立ち上がったサイトということもあり、オンラインセミナーを積極的に実施した。こちらもコンテンツマーケティング同様、他部門の協力を仰いだ。なお2020年上期にはウェビナーを15回開催し、2,000件以上のリードを獲得した。
リードジェネレーション施策として、SEO/コンテンツマーケティング/ウェビナーを中心に取り組んだ
コンテンツ不足に陥らないために社内の協力体制を築く
DIGIFULでは企画立ち上げの段階から、「すでに獲得できている顧客」「目標達成のために獲得したい顧客」の数を具体的にカウントし、それを見越してコンテンツも準備・作成するという方針がとられていた。つまり、そのセグメントをしっかり狙える力を持ったコンテンツを用意する必要があるということだ。
とはいえ、コンテンツは自然と生まれてくるものではない。必ず誰かが文章を書いたり、動画を撮ったり、ウェビナー用スライドを作成したりしなければならない。外部の業者を頼るのも1つの手段だが、やはり最終的には社内人材の協力が欠かせない。
最初のうちは、『普段の業務が忙しい』という理由でなかなか記事執筆の協力を社内から得られなかった。ただ、それでも諦めず、全社一丸となってやるんだというメッセージを出し続けた結果、現在は(コンテンツの作成数が)期別の目標に組み入れられるところまできた(平林氏)
コンテンツを社内制作できるよう、粘り強く働きかけた
②リードナーチャリング最大化の施策
MA/インサイドセールス
見込み客の購買意欲を高めるという、リードナーチャリングの軸となっているのはMAとインサイドセールス(おもに架電)だ。メールマガジンのリンクをクリックした回数などでスコアリングし、一定値に達したらホットリード(今すぐにでもサービスを買う客)とみなし、担当者が電話するという流れである。これ自体はオーソドックスなものといってよい。
リードナーチャリングは課題多し、精度アップの努力を
ただ、スコアリングさえ高ければ万事解決かといえば、そうではない。それまで一切スコアリングに変化のなかった客が突如行動を起こすこともあり、「型どおりのナーチャリングとはならず、難しい面が多かった」と平林氏は漏らす。
DIGIFULでは、MAを活用したメールマガジン施策のほか、Webサイトの閲覧状況や、営業部門全体での商談状況なども勘案することで、より精度の高いターゲティングを心がけているという。
リードナーチャリング体制の例
DIGIFULでの実績を、多くの企業へ
アイレップは広告会社であり、そしてデジタルマーケティング支援を広く手がけている。DIGIFULのようなインサイドマーケティング施策を自ら実践しつつ、そのフレームワークをクライアント企業に提供することもまた、大きな事業の柱である。
アイレップでは広告領域以外にBtoBマーケティング支援サービスも展開。DIGIFULの運営は、まさにその実例
たとえば不動産会社A社を支援した事例としては、Webサイト老朽化、顧客インサイト(ニーズ)が分析しきれていないといった課題に対し、包括的な解決案を提案した。
この事例では、サイト訪問ユーザーの回遊状況を調査したり、デプスインタビューなどを実施したりして、顧客ペルソナに基づいたユーザーエクスペリエンス定義書を作成。それを元にサイトリニューアル、コンテンツ作成方針の決定までをサポートした。この結果、サイト流入ユーザーの増加は当然として、CVRが1.4%上昇、回遊率(1セッションあたりのPV数)も1.5ポイント増加したという。
マーケティング支援サービスの事例
平林氏は「インバウンドマーケティングの実践経験をもとに、お客様のBtoBマーケティングを支援できるのがアイレップの強み」と改めて強調。DIGIFUL発信の情報を参照しつつ、ウェビナーなどにも積極的に参加してほしいと呼び掛け、講演を締めくくった。
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オリジナル記事:老舗デジタル広告会社が自らBtoBマーケティングに挑戦! KPI 180%を達成 | 【レポート】デジタルマーケターズサミット2023 Winter
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