「JR東日本らしい顧客体験のつくり方」CX指針策定の舞台裏と組織に生まれた変化 | HCD-Net通信

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yu-ta(ゆーた)26歳、会社員 PC.スマホ周辺機器やスマート家電など ガジェットを使って スマートな生活を送っています。 このサイトでは管理人おすすめの 最新の便利ガジェット情報や お得に買えるセール情報を中心に 発信しております。
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JR東日本では顧客体験向上を目指してCX指針「JR東日本らしい顧客体験のつくり方」を策定し、社内に発信しました。策定にかかわった同社の松本さんに、CX指針策定の狙いや組織に起こった変化などを聞きました。

東日本旅客鉄道株式会社
マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門
戦略・CXユニット マネージャー
松本貴之氏(HCD-Net認定 人間中心設計専門家)

JR東日本らしい顧客体験のつくり方

松本さんは2002年にJR東日本へ入社し、JR東日本アプリのリリースやリニューアル、経路検索への混雑情報提供など、数々の情報提供サービスの開発に関わってきました。「情報に実際に価値があるかどうか」「ユーザーがどのように利用するのかを深く掘り下げることが重要だ」と考え、人間中心設計(Human Centred Design:以降HCD)のエッセンスを取り入れてきました。

現在は、デジタルサービスのID統合とCXの戦略策定を担当。JR東日本内でCX向上の啓発を始めた背景には、同社が提供するデジタルサービスのID統合を進める中で、サービス間の体験が一貫していないという課題があったからです。問題意識を持つ社員がいる一方で、全体的な方針が決まっていないため、担当者によって取り組みの濃淡が生まれ、連携不足が生じていました。この課題を解決するため、松本さんは担当マネージャーとしてマーケティング本部へ異動しました。

組織立ち上げ当初の主なミッションはIDの統合でしたが、真に重要なのは顧客体験(CX)の向上です。HCDの重要性を社内に浸透させることが必要だと感じていました(松本さん)

新しいチームが発足したばかりで、統合IDのリリースにも数年かかる見通しだったため、中長期的な視点での「種まき」としてCX向上の啓発活動にも取り組むことにしました。

中期経営構想で掲げられた「ヒト起点」という言葉を引用し、「ユーザー視点」を正しく理解し、それを実践するための方法論を身に付けることをチームのミッションとして設定しました。これが、CXに関する活動の出発点でした。

最初の一歩として「JR東日本らしい顧客体験のつくり方」というCX指針を作成しました。

CX指針「JR東日本らしい顧客体験のつくり方」

JR東日本の企業文化を言語化するためのインタビュー調査

CX指針を作成するにあたって、「JR東日本の社員が考える企業文化(何を大切にしているのか)」や「お客さまから何を期待されているのか」を言語化するために、社内外の関係者を3種類に分類してインタビューを実施しました。

まず、「一般のお客さまへのインタビュー」です。JR東日本のサービス利用に対する経験を中心に、良かった体験や不満をヒアリングしました。次に、「社内のマーケティング本部でデジタルプロダクトに関わるマネージャーたち」の声を集め、彼らの仕事への取り組みや大切にしている価値観、入社した動機などを尋ねました。最後に、新たなインスピレーションを得る目的で極端なニーズや使い方をしているユーザーにも話を聞きました。彼らの生活スタイルや価値観についての質問を通じて、新しいトレンドや社会的な変化を探りました。

CX指針を作る前に、『JR東日本はどのような存在であるか、どのようなイメージを持たれているか』を、できるだけ多面的に把握したいと思いインタビューを実施しました。インタビューの内容を踏まえて『我々はどうしていくのが良いか?』をCX指針に落とし込んでいきました(松本さん)

JR東日本の中には、鉄道サービスに従事する人もいれば、エキナカなどに代表される非鉄道系の人もいます。インタビューの結果で特に興味深かったのは、鉄道系と非鉄道系という一見、文化が異なるように見える組織でも、「安全安心を提供する」という考えが共通していたことです。特に非鉄道系事業を担当する社員からも、「お客さまに安全安心を提供することの重要性」が自然に語られており、鉄道の価値観を重視していることがわかりました。

これが企業全体に浸透している文化だと強く感じました(松本さん)

プロジェクトのこれまでを振り返る松本さんとチームメンバーの様子

インタビューの結果から、JR東日本の文化的特徴として「人間味」「地域性」「誠実さ」の3つが浮かび上がってきました。お客さまが同社に対して期待すること、そして社員たちも共通して大切にしたいと感じている要素がこの3つだったのです。松本さんは、「この3つの言葉の重なりがJR東日本の共通言語であり、企業文化の核心なのではないか」と考えました。

この3つの言葉が本当に社内の共感を得られるかを確認するため、ステークホルダーを集めてワークショップを行い、さらに、言葉から連想される具体的な意味も言語化していきました。

「誠実さ」には、「安心感をつくる」や「ユーザーに主導権を譲渡する」という言葉の意味が含まれています。また、「地域性」は「つながりを生む」、そして「人間味」は「サポートする」や「生活に潤いを与える」といった、つながりを大切にする要素として明確化されていきました。

関係社員によるワークショップの様子

人とのつながりを大事にすることが、我々のキーワードなんだなということがわかってきました(松本さん)

作ったCX指針が機能するのか、人間中心設計のやり方で検証する

JR東日本の企業文化を表した3つの言葉を社内にどう伝えるか検討した結果、「JR東日本らしい顧客体験のつくり方」というCX指針をまとめた冊子を作ることになりました。

一方で、今回作ったCX指針が本当に有効か、社内で共感を得られるかを確認しないまま発表するのはリスクがあると感じ、ユーザー検証を行うことにしました。

検証方法として、JR東日本アプリのチームやエキュート、アトレ、ルミネなどのリアル店舗の開発メンバーと協力し、CX指針を基に新しいリアル×デジタルのサービスを考えるプロジェクトを立ち上げました。

プロジェクト内で、CX指針が有効に機能するかどうか検証し、修正してから社内に発表するという流れです(松本さん)

検証するにあたって、特に「解決策の検討」に焦点を当てました。たとえば、CX指針で策定された「移動の合図を見逃すな」といったキーワードがユーザーの体験に効果を及ぼしているか、アイデア出しやその後のレビューのタイミングで確認していきました。

解決策(CX指針)の確からしさをサービス開発プロセスでの実践を通じて検証

プロジェクト内で実際にキーワードを活用してみた結果、当初は「地域の『ならでは』を織り込もう」というキーワードがCX指針にありましたが、実際にデジタルプロダクトに落とし込もうとすると、具体性が不足しているためアイデアが湧きにくいという問題が見つかりました。

また、ユーザーテストで試したプロトタイプの中で、被験者へサービスを提供する際にメッセージを添えたものがあったのですが、とても感激されている様子が見られました。それらを踏まえて、「地域の『ならでは』を織り込もう」としていたキーワードを「一期一会を演出しよう」という瞬間的な体験の重要性に注目する新たなキーワードに変更しました。さらに、「思い込みでプロダクトを作ってはいけない」という重要なメッセージも追加しました。

検証プロジェクトを経て、「JR東日本らしい顧客体験のつくり方」を社内で発表しようと準備を進めていたところ、社内から「当たり前のことしか書かれていない」と指摘され、発表を一度見送った経験もあります。CX指針が本当に役に立つかどうかを再検証し、改訂を重ねてCX指針「JR東日本らしい顧客体験のつくり方」は、2024年6月に社内で公開されました。

冊子を作って公開しただけではうまくいかない、CX指針を軸とした浸透活動

発表したCX指針の5つのキーワードは、解決策を考える際のヒントに過ぎません。本当の意味でCXを向上させるには、ユーザーをしっかり理解し、ユーザーテストを行い、その結果に基づいてプロダクトをリリースし、さらにフィードバックを取り入れて再検討するというプロセスが必要です。

CX指針を発表しただけでCXが浸透していくとは思っていません。CXが社内に浸透していくには、まだやらなければいけないことがあります(松本さん)

CX指針に記載した5つのキーワード以外にも、盛り込みたい要素は他にもあったものの、社員にまず共感してもらうことを第一に考えて、CX指針に記載するのは必要最低限のエッセンスに留めました。

CX指針「JR東日本らしい顧客体験のつくり方」の一部

同僚のマネージャーからも「こういった指針を作って配っても、経験上ほとんどの人は見ない」と言われていました。松本さん自身も「作っただけでは効果が薄い。CX指針の意味やHCDの考え方を浸透させていくには、対面での勉強会やワークショップの開催、業務支援を実施していく必要がある」と最初から感じていました。

1人が1人に伝え、それが2人、4人と広がることを地道に続けていくしかない(松本さん)

デジタルプロダクト開発に関係する職場に赴き、作成したCX指針の冊子を手にディスカッションを行ったり、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を推進する社員向け研修の中で、CX指針とHCDに関する講義を行ったりしています。

社内での勉強会実施の様子

業務支援の活動としては、デジタルプロダクトを開発している他部署のユーザーインタビューを支援したり、プロダクトビジョンを策定するワークショップのファシリテーションをしたりしています。

さらに、デジタルビジネスやまちづくりを担当する部門、グループ会社の実務者も巻き込んだプロジェクトも実施中です。JR東日本グループが提供するデジタルプロダクトのIDが統合されたとき、リアル空間とデジタル空間を活用して何ができるか。策定したCX指針やHCDの考え方をベースに、新しいサービスのアイデアや実現方法を検討しています。

このプロジェクトでは、アイデアを思い込みだけで終わらせないためにHCDのプロセスを踏み、プロジェクトメンバーをインタビューに巻き込んだり、松本さんたちが仮説検証した結果をプロジェクトにフィードバックしたりしています。

HCDのプロセスを踏むと思い込み度が軽減する、ということを体験してもらったり、自分たちで実演したりしています(松本さん)

他部署のプロジェクトでのユーザーインタビューをサポートしている様子

このように、実践的で有効なサービスの開発を複数支援しています。外部のデザイン会社と社内の開発メンバーとの間のすれ違いが解消し、より良いプロダクト開発のプロセスが進んだりもしました。松本さんはHCDの考え方を活用し、チーム間のコミュニケーションを促進し、共通の目標を持ってプロジェクトを進めるためのサポートを続けています。

過去を否定するのではなく、お客さまを大切にする姿勢をデジタルへどう生かしていくか

松本さんは、自身がサービスを考える際にも社員にレクチャーする際にも、ダブルダイヤモンドの考え方を基本にしています。

誰の何を解決するのか、誰にどんな価値を提供するのか。それはあくまでも自分の思い込みでしかないので検証する必要があります。事実ではない可能性が高いことも含めて理解することが大事です。一次情報を基に仮説を検証する必要があるんです(松本さん)

多くの企業がDXに取り組む際、新しい技術やアプリを作ること自体が目的化し、本来のお客さまのための価値提供が軽視されてしまうケースが往々にしてあります。

技術や方法論を目的化してしまうと、『誰をどれだけ幸せにしたか』『どれだけ負荷を軽減したか』『どれだけ価値を提供したか』といったことがおろそかになります。根本的な思想を理解せぬままに方法論だけ教えてしまうと、おそらく間違った使われ方をしてしまって、本来の目的が達成されなくなります(松本さん)

「長年培われた安全安心をデジタルへどう生かすかが課題」と松本さん

「自社が現在DXに注力している中で、歴史がある企業であることを自己否定的に捉えている雰囲気が時折あり、個人的には違和感を覚えていました」と松本さん。デジタルの領域で新たなチャレンジや変革を進めていくことと、リアル領域である鉄道で積み上げてきた価値を提供し続けることは両立できることを示したかったのです。

インタビューで、どの社員からも『安全安心』という言葉が出るのを見て、鉄道150年の歴史の中で先人たちが積み上げてきたものが今の私たちにも浸透していると思ったんです。

JR東日本が大事にすべきことは、過去を否定するのではなく、長い歴史の中で培われた『安全安心』やお客さまを大切にする姿勢を継続しながら、それをデジタルへどう生かしていくかという視点なんです(松本さん)

松本さんは、この根底にあるマインドセットをデジタルの世界でも実践することが、他社にはないJR東日本の強みであると強く感じています。「リアルの世界では、お客さまの安全を第一に考え、配慮が徹底されています。しかしデジタルの世界では、フラストレーションを引き起こしていることがあります。これは、お客さまにデジタル上で『怪我をさせている』ことに等しい」と松本さん。

CX指針策定の裏側には、JR東日本グループの社員7万人が共感し、新しいチャレンジを促せるようなメッセージを込めたい、という思いがあったのです。

資格は自分のキャリアを示す、ひとつの証明

松本さんが人間中心設計推進機構(HCD-Net)の資格を知ったのは、名刺交換がきっかけでした。当時は「怪しい資格だな」と思ったそうですが、調べていくうちに、HCDはデザイン思考やリーンの考え方に通じるものであり、ユーザーを理解するプロフェッショナルな資格だと気づきました。専門家資格を取りたいと思う一方で、資格取得に必要な書類の記載量に対して取得の動機が薄く、なかなか受験に踏み切れなかったそうです。

現在のマーケティング本部に異動し、マネージャーとしてCXの重要性を伝える立場になったことで、周囲からも発信を期待されるようになりました。松本さん自身も「社内でCXやHCDの重要性を発信したい」という強い想いがあり、資格取得を真剣に考えるようになったのです。HCDの方法論を組織に導入し、人材育成をしていた経験もあったので、専門家資格を取得できる可能性は感じていました。

自分が何者か、今までやってきたことを証明することのできる資格だと思って、個人的には気に入っています。自分のキャリアを示す一つの証明だなと思っていますね(松本さん)

インターン生が職場に来て、デザイン思考をテーマに実習を行うことになった際、上司が「プロの松本君がいるから、ちゃんとプロの意見を聞きながら進めてね」と発言され、資格がひとつの信頼の証になっていると感じたそうです。

「資格は振り返りにも、成長の目安になる」と松本さん

人間中心設計の考え方を身に付けたことを示す、今のところ唯一無二の資格ではないかと思います。振り返りの機会にもなり、成長の目安にもなります。ポータブルスキルを示す手段としても、積極的にチャレンジしてみる価値があります(松本さん)

HCDの活動がきっかけとなり、2024年10月に、CX文化を広める活動を共に行っているメンバーと、ヘルシンキで開催されたサービスデザイングローバルカンファレンスに参加しました。

海外の方々のみならず、日本のHCDの第一人者が集まる場でもありました。そんな方々にたくさんお会いして、ゆっくりお話をする機会もあって、とても有益でした。名刺交換をするとHCD専門家の方がたくさんいらしたのもうれしく思いました(松本さん)

ヘルシンキでのサービスデザイングローバルカンファレンス参加の様子 右:松本さん、左:部下の竹内悠太さん

顧客中心に考えるモチベーションの源泉

松本さんの大学時代の専攻は情報通信系でしたが、顧客に近いところでの仕事を希望し、運輸車両部門からキャリアをスタート。当時の鉄道業界はまだ情報技術の黎明期にあり、挑戦する価値があると感じました。2005年に専門書籍本を読んだときから、人間中心で考えることに意味があると確信を持ち、途中で考えを捨てることがなかったと松本さん。

世の中に気付いていない人もまだ多かったということもおもしろかった。なかなか理解する人がいない中言い続けて、少しずつ変わっていくことのおもしろさみたいなのもありました(松本さん)

「お客さまに対して情報技術を活用して良い体験を提供したいというのが、もともと入社するときからあって。車両開発に関わりたかったのも、車両がお客さまと当社との重要な接点の一つだと思ったからです」と松本さん。

キャリアの中でさまざまなプロジェクトに関わり、人間中心設計を活かした商用サービスとして大きく結実したのが2014年にリリースした「JR東日本アプリ」でした。以降、世の中の変化に合わせてプロダクトも自分自身も成長し、現在のCX戦略を策定する活動へとつながっていきました。

自分が提供したプロダクトを使われた方々が、うれしい、楽しい、驚いたといった、少しでもポジティブな気持ちになってもらえることを大事にしてきたのかな、と振り返ると思います。それが世の中のためにもなり、会社のためにもなる。だからずっとこの界隈で仕事を続けています(松本さん)

学生時代、高田馬場から千葉まで電車で帰っていたとき、途中駅で快速電車に乗り換えると早く帰れるのですが、混雑する電車は避けたいと乗り換えなかったら、空いている快速電車に抜かれてガッカリする、ということがしばしばありました。車両の混雑具合を利用者に提供することが助けになるのにな、と感じたことが情報提供への関心の原点でした。

「あの電車は空いているからあっちに乗った方がいいよと、駅員じゃなくてもデジタルで教えてくれさえすれば『JR、気が利いてるじゃん』と思いますよね。日常でちょっとポジティブな気持ちを提供することができれば、自分も楽しい気持ちになれる」と、松本さん。当時から現在まで、顧客中心の思いがつながっています。

「CXにかかわる自分のキャリアを示す一つの証明がHCD-Netの資格だ」と話す松本さん

人間中心設計専門家・スペシャリスト認定試験

あなたも「人間中心設計専門家」「人間中心設計スペシャリスト」にチャレンジしてみませんか? 人間中心設計推進機構(HCD-Net)の「人間中心設計専門家」「人間中心設計スペシャリスト」は、これまで約1300人が認定をされています。ユーザーエクスペリエンス(UX)や人間中心設計、サービスデザイン、デザイン思考に関わる資格です。

人間中心設計(HCD)専門家・スペシャリスト 資格認定制度

  • 受験申込:2024年11月1日(金)~11月21日(木) 16:59締切
  • 主催: 特定非営利活動法人 人間中心設計機構(HCD-Net)
  • 応募要領: https://www.hcdnet.org/certified/
     
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