SEOで成果を出すことは年々難しくなっている。コンテンツ間の競争は激化し、E-E-A-T(Experience-Expertise-Authoritativeness-Trustworthiness)、コアウェブバイタルの導入など、多種多様な観点から評価されるようにもなった。本当に成果が出るコンテンツとは何か、正解がわからなくなっている担当者もいるのではないだろうか。
そんな今だからこそ、改めてコンテンツ制作のヒントになる事例として、モンスターラボが運営するオウンドメディア「モンスターラボ DXブログ」を紹介したい。今回は、1年でPV数約3倍、リード獲得数(資料ダウンロード)5.2倍を実現したSEO施策を探るべく、モンスターラボの馬場温子氏とFaber Company(ファベルカンパニー)の岡章浩に話をきいた。
苦境を脱し、いま勢いにのる「DX」関連のオウンドメディアに変貌
世界各国の人材を活用し、デジタルコンサルティング事業・プロダクト事業(DX推進支援、RPAツール、店舗向けオーダーシステムなど)を展開しているモンスターラボ。
同社ではリード獲得の一環として、2019年からオウンドメディア「モンスターラボ DXブログ」を運営している。馬場温子氏が施策に携わってから急成長しているオウンドメディアで、PV数は前年比3倍、リード獲得数(資料ダウンロード数)は5.2倍になるなど勢いに乗っている。
成長に大きく貢献しているのが、DX推進企業として認知度を高めるために必要不可欠な「DX」(月間検索数が約18万)というビッグキーワードで検索1位表示できていることだ。
しかし、最初からうまくいっていたわけではない。競合サイトの出現や、DXというワードの浸透によるユーザーニーズの広がりなどによって、一時期、サイト全体で順位を大きく落とした。2021年には昨年対比でリード獲得数が約60%ダウンもしている。このような状況の中で入社したのが、馬場温子氏だった。
馬場氏が入社したのは、「モンスターラボDXブログ」が苦戦していた2021年のこと。入社して課題だと感じたのは次の3点だったという。
- そもそも、コンテンツ自体が少ない
- 自社の強みや訴求したいキーワードで検索上位がとれていない
- 花形コンテンツを支える記事がない
1.そもそも、コンテンツ自体が少ない
運用開始から2年以上経過していたが、当時のコンテンツ数は20記事強。社内に十分なリソースがないことなどから、新規記事の更新が止まっていた。AIや「5G」「IoT」「DX」といった、検索上位表示できているキーワードもある一方で、全体的に検索順位が右肩下がりの傾向にあった。
2.自社の強みや訴求したいキーワードで検索上位がとれていない
コンテンツを公開したとしても、それが事業の成長に貢献しなければ意味がない。同社の場合、DX人材育成支援サービスがあるのに「DX 人材」に関する記事がないことや、UI / UXデザイン改善のサービスがあるのに「UIUXデザイン」というキーワードで検索上位表示できていないなど、自社の強みや訴求したいキーワードに対してきちんと施策ができていなかった。
3.花形コンテンツを支える記事がない
当時のモンスターラボDXブログには、集客の中心となるエースコンテンツがいくつかあったが、その周辺知識を補強するようなコンテンツがなかった。例えば、「DX」というキーワードによるエースコンテンツを考えてみよう。「DX」というキーワードであれば、ユーザーの検索意図はかなり広義にわたる。1つのコンテンツだけで説明しきることは不可能で、「DX 事例」や「DX 戦略」など複数の記事を用意しておかなければユーザーに最適なアプローチができない。
これらの状況を踏まえ「オウンドメディアの運用全体を変える必要があることをすぐに感じた」と馬場氏は話す。
コンテンツはみんなでやるもの? 役員やインタビュー部隊を巻き込むことを重視
馬場氏が担当となってから、特に重視したのが新規コンテンツの制作だ。1年半ほどで、新規の記事を50本以上追加した。狙うべきキーワードを決め、切り口を考え、執筆、分析まですべてを行っている。
担当者1人で継続的に記事を作るだけでなく、PV数や資料ダウンロード数の増加など成果に結びつけるのは決して簡単なことではない。一体どこに成功要因があるのだろうか?
馬場氏に聞くと、「社内をうまく巻き込むことがポイント」と語る。具体的な巻き込み方のポイントを2つ解説してもらった。
- 現場や経営層と定例ミーティングを組んで企画に生かす
- 社内の事例インタビュー部隊と連携し、リアルタイムで進捗を把握
1.現場や経営層と定例ミーティングを組んで企画に生かす
馬場氏が重視しているのが他部署との連携だ。
まず、内勤営業とも呼ばれる「IS(インサイドセールス)」に、週1回、現場で多いニーズや評判のよかった資料などを共有してもらうようにした。そこで細かく意見をもらい、ダウンロード資料や記事の企画に生かしている。
また、モンスターラボのコンテンツはほとんどの記事に「監修者」として同社役員陣などが入っている。
監修者は記事の信頼性を高める上で重要な要素なので、欠かさず入れるようにしてもらっています。専門家に確認してもらい、原稿をレベルアップさせるため何度も役員にラブコール(笑)を送りました(馬場氏)
監修者とも毎週ミーティングを行っており、テクノロジー分野、ビジネス分野、デザイン分野など、各領域の社内の専門家と話し合いをしている。記事の信頼性を高めるだけでなく「トレンドワード」に関する発見は、このミーティングから生まれることが多いという。
例えば「データドリブン」という言葉がある。昨今データ活用に対する世間の関心が高まっているが、Web上のリサーチだけでは、「誰が、どういうニーズのもとにこのキーワードにたどり着くか」が具体的には想像しにくい。しかし、専門知識をもつ人物にヒアリングすることでニーズを知り、記事の方向性やそもそものキーワード選定の良し悪しに気づける。
「現場にいる人たちがどんな情報を得たいと思っているのか」は調べているだけではなかなか見えてきません。監修者は、私が知らない自社の強みや特徴を知っていることもあります。
知識などを解説する「とは系コンテンツ」であっても、自社の強みを記事内に盛り込むだけで当社への認知・興味のきっかけになりますよね。その意味で、SEO担当者は1人でやるよりもみんなでやる方がいいと考えています(馬場氏)
2.社内の事例インタビュー部隊と連携し、リアルタイムで進捗を把握
また、馬場氏が重視していることの1つに、事例コンテンツがある。
新規記事においても、ダウンロード資料制作においても、事例は花形コンテンツ。コンテンツテーマに関連した事例があると、自社の強みを紹介しやすいんです。事例コンテンツはSEO施策でも有用なコンテンツの1つです。なので、いち早くキャッチアップして、出た瞬間に関連するコンテンツに盛り込むようにしています(馬場氏)
例えば、サービスの海外展開時に求められる「ローカライズ」は、近年ニーズが高まっている検索キーワードだ。ただ、どうしても「ローカライズ」を調べて書いただけでは、内容の薄いコンテンツになってしまう。
「自社の言いたいこと」と「読者が知りたいこと(検索ニーズ)」は、一致している部分もあればそうでないこともあります。どちらかだけではコンテンツとして不十分。どちらも満たしているのが良いコンテンツだと個人的には考えています。
読者の知りたいことを具体的に説明できるだけでなく、自社の強みや特徴もエピソードから伝えられるので、この2つを満たしてくれるのが事例コンテンツだと位置づけています(馬場氏)
SEOで検索意図を満たしつつ、自社の伝えたいことを事例で補強していく。そんな馬場氏の姿勢からか、「ローカライズ」のコンテンツはすぐに検索順位で1位になったという。
「DX」コンテンツを再び1位に。施策ポイントは3つ
こうした馬場氏の姿勢などもあり、順調にサイト運営が回り、うまく行きはじめたように見えた。しかし、そう甘くはなかった。
長年検索順位で1位を取り続けていた「DX」のコンテンツが2位へと転落してしまったのだ。「順位が1つ落ちただけでしょ?」と思われる方もいるかもしれないが、クリック数などに大きな影響が出る。海外のある調査では、検索順位1位と2位では2倍ほどクリック率に差があると報告されている(参考:https://www.seoclarity.net/mobile-desktop-ctr-study-11302/)。
1位から2位に転落した出来事について、馬場氏は「悪夢だった」と苦々しく語る。
そこで支援を行ったのが、Faber Companyの岡章浩だ。岡とともに、「DX」コンテンツを再び1位にするための戦略を練った。ポイントは以下の3つ。
- 文字数を大幅に減らす
- コンテンツ内容の精査+ヒートマップを活用した分析
- 競合をまねるのでなく、独自性を追求
1.文字数を大幅に減らす
まず1つ目のポイントは、文字数を大幅に減らしたことだ。リライトを行う際に、どんどん情報を継ぎ足した経験がある人もいるかもしれない。しかし、検索意図を満たそうと網羅的にすると文字数が膨大になってしまう。
「当時のDXコンテンツは明らかに情報過多で、結局何を伝えたいのかがわからない状態になっていた」と伴走した岡は述べる。
いま「DX」で検索する人が知りたいこと、つまりユーザーの検索意図を改めて見極めて書き出し、競合サイトの情報量と照らし合わせ、大幅に文章を削減することを助言しました(岡)
検索順位が下がっている時、現場担当者は「何かしなければ」と焦ってしまいがちだ。「SEO施策を進めていると、1人ではなかなか判断がつかないことが多い。今何をすべきかだけでなく、“何をやらない方がいいか”をアドバイスしてもらえるのは本当に助かった」と馬場氏は語る。
馬場氏は岡と共に、1万字以上あったコンテンツを6,000字ほどに作り直した。どのようにリライトしたのだろうか?
2.コンテンツ内容の精査+ヒートマップを活用した分析
リライトを行う上で役に立ったのが、SEO支援ツール「ミエルカSEO」とCVR改善ツール「ミエルカヒートマップ」だったという。ツールを活用した分析の効率化と精度向上が2つ目のポイントだ。
「以前とは競合の顔ぶれが変わってきていた」と馬場氏が語るように、DXのさらなる浸透により、ニーズやトレンドの変化を改めて確認する必要性があった。そこで、コンテンツの内容を改めて精査する際に、ミエルカSEOが活躍した。その分析の結果、以下のような仮説が生まれた。
- DX周辺ワード記事の整備が不十分
「DX」というキーワードを調査すると、新たに注目されてきた「デザイン思考」「UXデザイン」「アジャイル開発」などの重要トピックが出現した。「それらのトピックに対して、それぞれ解説記事を作った方がトレンドをおさえた記事になるのではないか?」と予測。それを「DX」コンテンツに紐づけることで、幅広い検索意図に応えられるようになるはずだと考えた。
- 用語解説部分の文章を削減し、事例を差し替える
検索キーワードの広がりや競合の状況などから、DXの基礎的な部分についてはユーザーにとって既知のものになってきたと判断し、大幅に削減。コンテンツ内の事例も最新のものにすることでトレンド性を高めた。
また、ミエルカヒートマップも活用することで、ページ内のユーザー行動も分析。その結果、コンテンツ内で使用していたフリー素材画像のところで読まれる割合が下がっていることがわかった。そこで、読まれている割合が低い画像は減らし、逆によく読まれている箇所には資料ダウンロードのボタンを置くなど導線を改善した。
3.競合をまねるのでなく、独自性を追求
さらに馬場氏は「DXくらいのビッグワードになってくると、競合をまねるだけでは絶対にまた追い抜かれる。当社の強みをコンテンツとして出して勝負することが大切」と、質の追求にも余念なく取り組んだ。3つ目のポイントは独自性の追求にある。
馬場氏のいう同社の強みは、上流から下流までワンストップで企業のDX推進を支援してきたことから得られる「事例」の豊富さだ。
事例の中で言及されている課題や解決策などは、多くの企業に共通することも多い。そこで、ただ事例を入れ込むだけでなく、事例の中にあるエッセンスをコンテンツ内に入れ込むことで、独自のコンテンツにしたという。
このように大幅な変化を加えたことで、1か月足らずで「DX」コンテンツは1位に返り咲いた。この取り組みについて、馬場氏は以下のように振り返った。
コンテンツを作る際、Web上のリサーチを行うだけでは足りません。SEOの土台を固めながら独自性も追求していく必要があります。Faber Companyさんの手助けでSEO施策の土台を築き、役員をはじめとした社内の協力によって独自性を高めることもできました。
PCの前でウンウン唸っているだけではきっと無理だったと思います。周りの協力を得ながらでないと良いコンテンツは生まれません(馬場氏)
社内でコンテンツマーケティングへの見方が変化
馬場氏がこのような取り組みを推進していく中で、コンテンツマーケティングに対する社内からの見方にも変化があるという。
当社への転職を考えている方がモンスターラボのコンテンツを読んでいるという声はよく聞きます。ブランディング観点でもコンテンツの効果が出てきていると感じています。「コンテンツにこんな効果あるんだね」と声をかけられることも増えました(馬場氏)
今後について馬場氏は、「自社のケイパビリティに沿ったキーワードを拡張しながら、用語解説に寄らないコンテンツ、カスタマージャーニーの深いフェーズにある方に対してのコンテンツを作っていきたい」と意気込む。国内外にある拠点の情報をユーザーに伝える場を作るべく、コーポレートサイトとの連携も考えているという。
最後にコンテンツ制作において大事なことを聞くと、馬場氏はこう答えた。
第1に自社をしっかり理解することですね。当初は私も、自社が強みとしてもっているもの、やっていきたいこと、具体的な事例を把握することに苦労しました。ただ、ある程度はじめに意識してインプットすることで、乗り越えられるはずです。
もう1つは、ユーザー理解です。実際にユーザーと普段から対峙している現場メンバー、会社の方針や戦略を決める経営層に話を聞くのは効果的でした。彼らの意見を反映させつつ、コンテンツをアップデートしていくことが重要だと思います(馬場氏)
一連の施策を伴走してきた岡は、馬場氏について「役員の皆さまを始め、周りを巻き込んでいくのがうまい。本人は『セオリー通りやっているだけ』というが、社内を巻き込んで進めていくのは簡単なことではないのでは」と感嘆する。
今回成功した要因の1つが「馬場氏の行動力」だ。記事や資料を作成フローや社内との折衝の方法はノウハウ化されていても、動かなければ何にもならない。馬場氏は、それを愚直に実行し、会社が一丸となって情報発信する体制を整えたことが成功の本質ではないだろうか。
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業Webサイトとマーケティングの実践情報サイト - SEO・アクセス解析・SNS・UX・CMSなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
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