マーケティング支援会社トライバルメディアハウスは、2022年8月にコーポレートサイトをリニューアルした。リニューアルを担当したのは、Web制作会社のベイジ。前編では、サイトリニューアルを決めた理由、制作会社の選定理由について聞いた。
後編では、「戦略フェーズでどんな議論をしたのか」から聞いていく。Webサイトリニューアルプロジェクトでありつつ、「トライバルメディアハウスは何者か?」「誰に・何を・どのように提供しているのか」といった市場定義の議論に2か月を費やした。この生みの苦しみを経ることで、問い合わせ1.3倍につながる本気のWebサイトリニューアルができたという。リニューアルの舞台裏を詳しく聞いた。
戦略フェーズで導き出された1枚の図が議論のベースに
――前回、制作の前の戦略フェーズで2か月間の議論を行ったということでした。トライバルメディアハウスのどんなことを明らかにしていったのでしょうか。
ビジネスのそもそもの話、いわゆる「誰に・何を・どのように」の話です。中でも苦労したのが、市場定義ですね。トライバルメディアハウスは、ソーシャルメディア運用に強いマーケティング支援会社ですが、その周辺領域のマーケティングサービスも多く提供しているので、下手をすると、「総合代理店」のように見えがちです。しかし、話をするなかで「実態として総合代理店とは異なるし、そうは見えてほしくない」という思いを感じ、会社が狙っている市場をどう表現するか、議論を重ねました。そして、3回目の打ち合わせで出した図(下図)に「これだ!」という納得感がありました。生みの苦しみがあって、簡単に進んだわけではありませんでした。
当社は広範囲にわたるサービスを提供している分、今までは、市場、顧客が定まらず、「全部クライアント」と言ってきましたが、それではだめだと。「誰に・何を・どのように」提供するのかを厳しく議論していきました。
左の円が「総合/統合マーケティング支援(=ブランドターゲット)」で、右の円が「ソーシャルメディアマーケティング支援(=セールスターゲット)」とし、2つの円が重なる部分を「重点訴求市場」と定義しました。
「ソーシャルメディアの専門家」という認識に加えて、「マーケティングの専門家」を加えていく、ということです。
我々が目指すのは、従来の広告・イベント・PRなどのマーケティング施策のソーシャル化です。PRしてメディアに露出するだけでなく、それがトリガーとなって、ソーシャルやネットで話題になり、テレビで取り上げられ、さらに拡散していく。このような流れをマーケティングのソーシャル化と捉えています。トライバルメディアハウスは、マーケティング施策のソーシャル化を支援・推進していきたいのです。
今までしっかりと言語化、図式化されていなかったものが、この図に落とし込めたことで、メンバー間のコンセンサスが取りやすくなりました。後は、我々がやりたいこと・伝えたいことをクライアント・ユーザーにどう伝えれば良いかストーリー設計を行い、信頼、安心を得るために、どう説明すれば伝わるのか論理構成を考えていきました。
そうですね、次はコア・オブ・ストーリーの設計をしていきました。コアストーリーの設計は、ダイレクトマーケティングで使われている顧客の行動を促すストーリーのフレームワークを流用しています。具体的には、「問題提起」→「結果」→「実証」→「信頼」→「安心」の流れに沿ったものです。
これをトライバルメディアハウスだとどういうストーリーになるのか考えていきます。たとえば、「問題提起」では、ユーザーはどんな問題があるのかを整理します。ユーザーの問題を解決できる端的なメッセージを「結果」として、それを証明する「実証」を含めながら示し、ユーザーが信頼する要素として「信頼」、不安を打ち消す要素として「安心」を打ち出す。
このストーリーをWebサイト全体で表現するために、どのようにコンテンツを展開するのか考えていきます。訪問する人によって、知りたいこと、興味あることは異なるので、できるだけ全てに対して応えられるようにコンテンツを用意して、サイト全体、あるいはサイトの一部を見ても伝わるようにしています。
コンテンツは多いほどよい! 訪問者が数ページしか見なくても、大量のコンテンツが必要な理由
ベイジでは、Webサイトはコンテンツがたくさんあるほど良いと考えています。Web業界では、1訪問で多くても4~5ページしか見ないので、それだけあれば十分という話があります。しかし、人によって読みたいページは異なります。さまざまな人に対応できるWebサイトにすることが、結果として問い合わせが増加していくのです。
たとえば、ベイジのサイトでは指名検索でトップページに訪問し、そのままフォームから問い合わせをする人が多くいます。この人自身は、ベイジのWebサイトをほとんど見ていません。それなのに問い合わせをするのは、ベイジにまつわるなんらかコンテンツを見た人に推薦された、あるいは過去にどこかでベイジに触れて想起した可能性が高いです。
例えば、社内でWebサイトリニューアルの話題が出たときに、ベイジを薦める社員がいて、それでベイジを知り、Webサイトに来て問い合わせをする。こういった行動は比較的良く見られますが、これはアクセス解析だけで可視化するのは難しく、アクセス解析だけを見ていると、Webサイトの貢献度がわかりづらくなってしまう理由でもあります。
トップページからの直接の問い合わせは理想ですよね。ビジネスをしていると、今期中に受注、請求ができる「今すぐ客」ばかりを狙いがちです。しかし、いつか必要な時に問い合わせをしてくれる「そのうち客」がどれくらい育っているかが、長い目で見ると重要です。
僕自身が枌谷さんを認知してから、発信するコンテンツを見て信頼して、問い合わせをしています。「そのうち客」だった自分が、認知してからしばらくして「今すぐ客」になったことからも明らかです。そのうち客がどれだけ育っているかを測るシグナルの一つがトップページからの問い合わせだと僕も感じています。
池田さんのような「そのうち客」を増やしていくには、さまざまな手段でコンテンツ発信をしていく必要があります。Webサイトも手段の一つですから、自社が持つノウハウをコンテンツ化してたくさん置いておくのが大事なのです。それが後々効いてくると、経験則的に思います。
PV、問い合わせ件数だけでなく、問い合わせ内容の質が上がった!
――実際、リニューアルしてからの効果はどうでしょうか?
実績紹介のPVは5倍、採用ページは10倍になるなど、見てもらいたいコンテンツが見られていますね。問い合わせは、リニューアル前と比べて約1.3倍になっています。件数だけでなく、問い合わせ内容が具体的になったことが大きいです。
今まで問い合わせ内容には2~3行しか書かれていませんでしたが、コンテンツを細かく載せることで、トライバルメディアハウスに何が相談できるのかが伝わったのだと思います。そぐわない問い合わせが減って、問い合わせ時点で具体的になっているので、営業が楽になりました。
それはうまくいっているケースですね。Webサイトを変えたからといって、必ずしも数字が劇的に改善するとは限らず、商材やマーケティング活動による認知などがかけあわさって数字が伸びます。Webサイトが良くても、他が足りていないと効果があまり出ません。
Webサイトがボトルネックだったら、サイト改善で数値が上がります。トライバルメディアハウスの場合は、今まで本当は取れていたのに、取れていなかったコンバージョンがあって、その落としていた部分を取り切れるようになった、ということだと思います。
一つ一つのコンテンツをシェアしやすいパッケージにする
――戦略フェーズのあとのコンテンツ制作のフェーズはどのように進めたのでしょうか。
コンテンツ軸で何を伝えていくのかを整理して、サイト全体で伝えきれているか、お客さんの知りたいことを用意できているかを考え、さらにユーザーをどうナビゲートしていくかを考えます。
そのために顧客タイプとは別に6種類のユーザーの情報取得タイプを決めました。
一般的なBtoBサイトの場合、①指名検索・フォーム直行型のユーザーは、初訪問で25%くらいいます。このユーザーを落とさないようにするのが基本です。
それから他のユーザーのための動線設計も考えていきます。②指名検索・回遊型は、相談をするかどうか迷っているユーザーが含まれます。③指名検索・コンテンツ特定型は、会社概要だけ確認したい意思決定者などが当てはまります。
このように、ユーザーを分類し、ユーザーに合わせた情報設計をしていきます。
⑤メディア消費型や⑥URL共有型のユーザーには、シェアブル(シェアしやすいパッケージのコンテンツのこと)なコンテンツを用意しておくことが大事です。3000~5000文字くらいの持ち運びやすい情報にすることを意識して制作しました。
リニューアルにあたって、当社が支援させていただいている、業界別のマーケティングについて共通のフレームで書きました。読み物としてクオリティ、文量を統一しています。この業界のマーケティングはこうするべきと書いて、最後の方に実績と問い合わせを入れています。
最後はデザインで仕上げ、中継地点としてのWebサイトの役割を発揮させる
――戦略フェーズを経て、情報設計、コンテンツ制作、配置などができましたが、このあとは?
ここまでできたら、サイトマップに落とし込み、あとは1ページずつワイヤーフレームを作って制作していきます。
デザインの話は、最後の最後でした。いろいろなパターン、テイストを用意してもらって、議論しながら選びました。トライバルメディアハウスは、正解がみえないマーケティングという領域で、「こっちだ」と力強く牽引することが自社の役割と捉えています。そのイメージをデザインで表現するのに時間をかけました。
メインビジュアルは、デザイナーとライターが何度も協議しながら、最終的に「こっちだ。ソーシャル時代に心動かすマーケティング」というわかりやすいコピーとそれに相応しいビジュアルを提案しました。特に「心動かすマーケティング」という言葉が、トライバルメディアハウスにぴったりだと個人的に思っています。
新しいWebサイトは、社内のインナーコミュニケーションにも役立っていて、自社のパーパスに対する理解度も深まっています。新入社員にも伝わりやすいですし、採用でも効果があります。グローバルナビゲーションにある「特長」はベイジのWebサイトにならったのですが、「何ができるのか、何が得意なのか」を明確にできたと思います。
――最後に企業におけるWebサイトの役割についてどう捉えていますか?
BtoBのコーポレートサイトの流入経路は、それほどバリエーションがありません。認知を獲得するというよりも、すでに知っている・興味を持っている人が、さらに知るために見に来る場所です。きちんと理解促進することで、認識が変わったり、好意度、信頼度があがったりして、「そのうち客」が「今すぐ客」に変わり、問い合わせにつながります。
BtoBの場合は、購買の過程で必ずWebサイトに訪問します。広告や展示会には認知獲得の役割を持たせられますが、Webサイトにはそれは期待できません。Webサイトはむしろ商談までの中継地点のようなもので、さらに知ってもらうための場所です。中継地点を前提として、情報をコントロールすることになります。
問い合わせを2倍にするのは簡単ではなく、Webサイトリニューアルだけでは達成できません。マーケティングや営業など購買プロセス全体の整理が必要です。その上で、Webサイトで顧客のために何をしてあげたいのか、企業がしっかり考えないといけないのです。
僕は経営者なので、会社における「Webサイトの価値」を俯瞰して見られますが、Web担当者の場合は、Webに最適化されたKPIを追うことが仕事になりがちなので、購買プロセス全体への接続が難しい場合もあります。「Webサイトはなぜあるのか」「何ができて/何ができないのか」を考えることが、企業Webサイトリニューアルの成功への近道なのかもしれません。
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業Webサイトとマーケティングの実践情報サイト - SEO・アクセス解析・SNS・UX・CMSなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:Webサイトリニューアルで問い合わせ1.3倍|PJで「会社は何者か?」の議論に2か月かけた理由 | Webサイトリニューアル特集
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