デザインプラットフォームのFigmaが3月14日、日本上陸1周年を記念して「デザイン経営2023」を開催。オンラインを含めて約1,000人が参加した。
Figma Japan カントリーマネジャーの川延浩彰氏をはじめ、Meta Japanのイアン・ スパルター氏やデジタル庁の鈴木伸緒(のぶお)氏らが登壇し、企業経営におけるデザインの重要性などについて解説した。
Figma Japanの2022年の歩みと、2023年の展望
今回のイベントは、日本法人として初の単独開催となる。川延氏は「日本法人の設立を発表してから、3か月スパンでイベントを開催してきたが、毎回参加者が増え、当初の3倍以上になっている」と手応えを語る。
Figma日本法人は2022年1月に設立。当初は川延氏のみで、オフィスもない状態だった。
その後、7月にFigmaの日本語版をローンチ。営業・マーケティングを中心に8名の組織となり、10月には日本語でのサポート対応やテクニカルな面を強化するために、16名に拡大した。まもなく22名体制になり、新しいオフィスを東京・丸の内に構える。
そして2年目となる2023年は、コミュニティやDXへの貢献に注力し、今まで以上に日本市場にコミットするという。
コミュニティ
Figmaの公式コミュニティでは、ユーザーが開発したファイルやプラグイン、ウィジェットなどを無償提供しているが、今年3月から有料での提供も可能にした。またクリエイターを資金面でサポートする「クリエイターファンド」も新設。
自作のプラグインやウィジェットが世界中で使われるのは、クリエイターのモチベーションにつながっている。さらに収益化することで、より時間と労力をかけて、優れたものを前向きに作れる環境を提供したかった(川延氏)
また日本コミュニティを盛り上げるべく、2人目の「デザイナーアドボケイト※」を採用した。今後は、地方でも公式コミュニティを展開していくという。
DXへの貢献
「Great DX is not done without Great Design(すばらしいデザインなくして、すばらしいDXは実現できない)」
そんなサブタイトルがつけられた本イベント。その背景には、日本はGDP世界3位の経済大国でありながら、デジタル競合性ランキングでは毎年順位が下がり、現在29位であることが挙げられる。
ただし、暗い話ばかりではない。大胆なDX施策が日本経済にもたらすインパクトは約80兆円と試算されている。良いDXに必要なものは、良いデザインである。なぜなら、最終的なアウトプットがユーザーにとって使いやすいものではなければ、使われることはないからだ(川延氏)
川延氏はマッキンゼー・アンド・カンパニーのレポート『なぜ今、日本に「デザイン」が必要なのか』を引用しながら、良いデザインをするために重要な3つのポイントを紹介した。
- デザインは、会社の勝敗を左右する
- デザインには、経営陣レベルの意識づけが必要
- デザインは、たくさんの人が参加することでより良いものになる
日本に必要なのは「脱ハンコ&紙文化」
世界的に有名なデザイナーであり、現在Meta Japanのメタバースデザイン ディレクターを務めるイアン・スパルター氏のトークセッションでは、自身が手掛けたNIKEのDX事例などを交えながら、デザインの重要性や協働型デザインワークの必要性を裏付けていく。
デザインの概念や求められる質は、iPhoneの登場で大きく変わりました。NIKEも、ただ靴や服を売るだけではなく、ソフトウェアを通じたサービス「NIKE+」を立ち上げ、ビジネスモデルを大きく転換したのです。私たちデザイナーは、ユーザーが毎日のエクササイズでどんな体験や価値を得られるか、チームで一緒にストーリーを考え、サービスを構築していきました。人間の生活で起こっている問題を解決するのがデザインの役目であり、ユーザーの視点からビジネスのフレームワークを作ることでした(スパルター氏)
スパルター氏は、位置情報アプリを提供するスタートアップ・Foursquareのデザイナーだった頃にも言及。成功施策の1つに、エンジニアやプロダクトマネージャーなど、いろいろな人をデザインプロセスに携わらせたことが挙げられるという。
会議では粗くていいので、進行中の図やプロトタイプを見せ、他部署の人たちもデザインにかかわるようにしました。すると、優先順位がはっきりし、多角的な視点でアイデアが出てくるのです。顧客とのタッチポイントだけではなく、部門同士をつなぐことで、ワクワクした仕事ができるようになるものです。こういった協働型のデザインプロセスは、Figmaによって容易になる部分です(スパルター氏)
そんなスパルター氏は、数年前から日本に住んでいる。やはり気になるのが「紙の文化」だという。
いまだにいろいろな書類に署名とハンコが必要です。決済ではSuicaやPayPayが普及している一方で、送金や料金の支払いには紙やATMの操作が必要なことが多い。良いデザインとは、そういった複雑なトランザクションのプロセスを変えるもの。日本はDXの機会に満ちていると感じます(スパルター氏)
また参加者から「紙の文化に慣れきってデザインを重要視していない企業でも、DXをやるべき?」という質問が出た。スパルター氏は「イエス。状況が変わるのは時間の問題。危機感を持ち、一つずつでも新しいやり方を取り入れていくほうがいい」とアドバイスを送った。
行政でも、良いデザインでDXを加速させる
イベント後半に登壇したのは、デジタル庁デザイン・マネジャーの鈴木伸緒氏だ。サイバーエージェント、メルカリを経て、2022年11月にデジタル庁に入庁した。
デジタル庁では、「コロナワクチン接種証明アプリ」「政策ダッシュボード」「マイナポータル実証アルファ版」などのプロダクトをリリースしている。鈴木氏をはじめとするデザインチームは、UIデザインの改善などを施すことで、各サービスのクオリティを底上げしている。
そんなデジタル庁では、Figmaコミュニティにデザインシステムを公開している。
ある程度のレベル感のものであれば、自分たちで作れるようになるのが公開する目的。400あると言われている行政のシステムや、地方自治体のサイトにぜひ活用してもらいたい。DXを進めるうえで、我々の知見で得られたものを再利用や参考にしてもらうことで、社会全体として先に進む。共通化したデザインプロセスを公共のものにするのが我々の役割である(鈴木氏)
ちなみにデジタル庁が、行政の職員向けにサービスデザインに関する研修を開いたところ、約800名が参加したという。またデジタル庁は12月にも、視覚・聴覚障害がある人でも情報格差がないようDXするための「アクセシビリティ導入ガイドブック」を公開している。
参加したデザイナーの石橋宗親氏(フォースタートアップス株式会社)は、「デジタル庁では先日マイナポータルのハッカソン開催のアナウンスがあった。社会課題や身近な地域の課題を解決するデザインハッカソンをFigmaコミュニティでやるのも面白そう」と、官民協働の新しい試みに期待を寄せる。
鈴木氏のような民間出身者が多いデジタル庁のリーダーシップにより、日本全体で脱ハンコ&紙文化といったDXは飛躍的に進むだろうか。Adobeによる買収が進むなかでも、コミュニティを軸とした独自路線を進むFigmaとともに、目が離せない。
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オリジナル記事:Figmaが提唱する「良いデザインなくして良いDXなし」の真意、脱ハンコは現実となるか?
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