プレスリリースやカタログ、広告のコピー、Webサイトの見出し、SNSの投稿など、Web担当者やマーケターは、言葉でどう伝えるかを考える機会が多い。そこで、今回は言葉で人の心を動かすプロである、電通のコピーライター 橋口 幸生さんに、エモいコピー・文章作成に役立つ書籍を紹介してもらった。
コピー・テキスト作りの基本ノウハウと考え方を学べる2冊
言葉による表現を磨くことは、マーケターに限らず全ビジネスパーソンに役立つ。メールやプレゼン、会議資料、報告書など、誰かに言葉で物事を伝える機会が誰にでもあるからだ。そこで橋口さんは、まずはコピーやテキストを作る際の基本ノウハウが学べる2冊を紹介してくれた。
1冊目 『100案思考 「書けない」「思いつかない」「通らない」がなくなる』(橋口 幸生:著 マガジンハウス:刊)
本書『100案思考』には、橋口さんご自身の経験から実感されたノウハウが書かれている。広告業界クリエイティブ部門の新人の多くは、「アイデアを100案出せ」といわれてきたという。広告業界以外の人も、ぜひ100案を出してみてほしいと橋口さん。
しかし、いざ考えてみると100案どころか3−4案で止まってしまうはずだ。その理由は、自分で「良い案を100個出す」とハードルを上げてしまっているから。100案を出すためのコツについて、橋口さんは次のように説明する。
1つ目は、つまらなくても、ありがちでもいいので100案出すこと。100案出して良いものが無かったとしても、アイデアの種が見つかることもありますし、この方向性ではだめだということがわかります。
2つ目は、アイデアにはオリジナリティは不要と割り切ること。
3つ目は、アイデアが思いつく、ひらめくというのは誤解で、自分で書きながら見つけていくものだと心得ることです。文章、文字にする過程で、自分の中にある何かを探り当てられる瞬間があります。そのためには、インプットが必要です(橋口さん)
橋口さんが商品のコピーライティングをするときも、まずはクライアントが用意したオリエンテーションの資料、オンラインの情報、図書館にある資料、関連する書籍などを読み漁り、とにかくインプットを増やしていくという。
日々のインプットも重要だ。インプットには、書籍やセミナーだけでなく、打ち合わせでの会話、街なかで見たもの、誰かのSNSの投稿なども含まれる。橋口さんも、友だちのFacebookの投稿にあった言葉をコピーに活かしたことがあるという。
コピーライティングは、自分の中から出すというよりも、世の中にあるものを集めて咀嚼して出すことです。マーケターの方も、おもしろい言葉やタイトルに惹かれてクリックした記事があったら、メモして覚えておくといいと思います(橋口さん)
なお、案を出した後はその中から選ばないといけない。選び方は「好き嫌いではなく、良し悪しで選ぶ」と橋口さん。経験が浅いうちは、良し悪しがわからないだろうが、ヒットしている商品のコピー、目に止まったコピー、過去の名作などを学ぶうちに、良し悪しがわかるようになっていくという。
2冊目 『言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術』(橋口 幸生:著 宣伝会議:刊)
ビジネスのメールで「させていただけないでしょうか」など過剰な謙譲表現で、本来の意図が伝わりにくくなっていることはないだろうか。
橋口さんも、メールは丁寧に書くべきものと考えていた時期があったが、ある時、ヒット作を出している人は、どんな場面でもわかりやすく普通の言葉で伝えていることに気づいたという。今まで参考にしていたのは下手なビジネス文書だったと悟り、わかりやすく書くことを最優先するようになった。
「させていただく」のような謙譲語を使うのは、「相手に嫌われないようにしたい」という心理があるからでしょうが、過剰です。過剰な謙譲語、尊敬語を避けるのも言葉ダイエットの一つです(橋口さん)
もう一つ、伝わりやすくするコツはシンプルにすること。「一つの文には一つの内容だけ」というルールを守るだけでもわかりやすさがアップする。それから、具体的な言葉にすることも大事だという。たとえば、プレゼンで抽象的なことを話す際には、具体例を入れるだけで聴衆の理解度が上がる。
広告を使ってメッセージを伝える仕組みを理解する2冊
3冊目 『広告の仕事~広告と社会、希望について』(杉山 恒太郎:著 光文社:刊)
3冊目に紹介するのは、数々のヒット広告を手がけてきた伝説のクリエイター杉山 恒太郎さんの著書だ。帯に「広告から“公告”へ」というメッセージがあるように、広告が広く告げるものから、パブリックに告げるものへと変化していることが書かれている。
オンライン広告では、0.5%クリックされれば良い方と判断されるが、99.5%のクリックしなかった人のことを考えなければいけないと橋口さん。
たとえば、ターゲットに刺さるクリエイティブがターゲット以外の人の気持ちを逆なでし、広告の炎上原因になることもあります。マーケティングではターゲットのことを考えますが、ターゲット以外の人をリスペクトしなければ、マーケティングの価値は下がります。現在は意識の転換が必要な時期。ターゲット以外の人を意識するようになれば、広告はもっと良くなるはずです(橋口さん)
4冊目 『CXクリエイティブのつくり方 認知からファンになるまで、顧客を中心にあらゆる体験をつくる最新レシピ。』(電通CXクリエーティブ・センター CX推進チーム:著 翔泳社:刊)
橋口さんが所属する電通のCX推進チームによる1冊。CXとは、カスタマーエクスペリエンスのこと。認知、購入、購入後のことまですべてを「体験」として捉えて、それぞれで最適な体験を提供することを目指す。本書では、テレビCMや街頭ポスター、オンライン広告などを含めた広告キャンペーンがどのように作られているかをわかりやすく解説している。
点として見えている広告が、線としてどのように世の中に送り出されているかが解説されています。全編カラーで、対話形式で書かれていますし、一部マンガがあって読みやすい1冊です。
本書の中では、デュアルファネルを説明しています。これは、認知、興味、検討で購入に至った人が、その後リピートし続けてもらうことを説明したものです。現在の広告関係者の多くが、このデュアルファネルを意識して広告を考えています(橋口さん)
ターゲットについては、若い女性という大きな括りではなく、キャリア系、のんびり系など3−4種類のクラスターに分けて、どういう広告を当てていくかを考えていく。この考え方を具体的に説明している他、YouTubeやInstagramなどのSNS広告についても取り上げている。マーケティング初心者は、この本の内容にそってキャンペーンを実施してもよいと橋口さんは説明する。
「積ん読」で終わらせない。本を読みきるテクニックを知る1冊
最後に紹介された1冊は、本連載の愛読者にはうれしい1冊かもしれない。毎月、5−8冊程度の本を紹介しているが、買ってみたけれど読みきれない...となっていないだろうか。そこでオススメなのが次の一冊。
5冊目 『遅読家のための読書術』(印南 敦史:著 ダイヤモンド社:刊)
自身も読むのが遅く、積ん読派だったという橋口さん。読書術の本もたくさん買った中で、唯一役立ったのが本書だという。
音楽を聴くときには一音一音を捉えるというより、流れで聴きますよね。本も音楽のように流して読んでもよい、斜め読みでよい、と書かれていました。1冊に1行でもずっと覚えておけるフレーズがあれば十分だというスタンスも、参考になりました。
1日に20分、本を読む時間をとって、読書ノートにメモをとる。これを続ければよいのです(橋口さん)
橋口さんの周りの速読派の人たちも、全体をざっと眺めて内容を把握し、気になったら2回目を読んでいるという。
インプットのフローを絶やさないために
最後に、書籍以外の情報源について聞いてみた。橋口さんは新聞を購読しており、毎日読むようにしているという。気になる情報については、紙面の写真をスマホで撮影し、日付ごとのフォルダーに分けて保存している。
周囲の博識の人は、テレビを見ている人が多いそうだ。じっくり見るというよりも、浅く広く、気楽にインプットを増やすには、テレビが適しているからだ。
それ以外では、SNSや本、街なかで気になったものは、すべてメモしているとのこと。
『100案思考』で、メモしてあとで使おうと思っても使わないと書いています。それは事実で、インプットはストックではなくフローであり、流れを絶やさないようにすることが重要です。メモはあとから使うというよりも、記憶に定着させてあとで思い出しやすくするためのものです(橋口さん)
記憶の定着には、メモ以外では人に話すことが有効だと橋口さん。お子さんの読み聞かせで読んだ本の情報が、後日、コピーの作成に役立ったことがあるという。
今回は、5冊の書籍を紹介してもらった。橋口さんの言葉のこだわりや言葉による表現のノウハウがわかる書籍、広告全般の理解を深める書籍に加え、読書術の本もあった。マーケターとして、より心に響くメッセージを伝えるには必読だ。
橋口 幸生(はしぐち ゆきお)
株式会社電通
CXクリエーティブ・センター クリエーティブ・ディレクター / コピーライター
代表作はロッテガーナチョコレート、「世界ダウン症の日」新聞広告、出前館、スカパー!堺議員シリーズ、鬼平犯科帳25周年ポスターなど。「100案思考」「言葉ダイエット」著者。TCC会員。趣味は映画鑑賞&格闘技観戦。
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