日本初の「顔認証自販機」は、ダイドードリンコが展開する「KAO-NE」(カオーネ)だ。事前に顔写真やクレジットカード情報などを登録すると、顔認証決済により手ぶらで飲料が購入できる仕組み。
2021年4月のローンチから2年が経過し、国内の導入台数は約70台まで伸びている。国内企業や学校への導入事例もあり、反響は概ね好評だという。ダイドードリンコの東京本部に出向き、顔認証決済サービス付きの自販機「KAO-NE」を体験してみた。
手ぶらでOK、10秒以内で受け取れる
「KAO-NE」には、自動販売機の右端、高さ150cmほどの位置にタブレットが設置されている。購入手順は、次の3ステップとなる:
- 購入したい商品の選択ボタンを押す
- タブレットで顔を撮影する
- 4桁のパスコードを入力する
飲料のボタンを押してから受け取るまで、10秒もかからないスムーズさだった。特に顔の撮影からパスコードの入力に切り替わるまでは、かなり速い印象だ。多少顔がブレていても認証できた。購入後は、登録したメールアドレス宛に利用通知が届く仕組みだ。
利用するには、事前登録が必要
初めて顔認証決済を利用する場合、タブレット上のQRコードを読み取り、次の6つを登録する必要がある:
- 氏名
- 決済通知用メールアドレス
- パスワード
- 顔写真
- クレジットカード情報
- 購入時に利用する4桁のパスコード
登録項目は多くないが、一つハードルに感じたのはクレジットカードの本人認証サービス(3Dセキュア)だった。これはクレジットカードの主要国際ブランドが推奨する本人認証サービスで、「本人認証パスワード」の入力が求められる。クレジットカード本体に印字されておらず、使用頻度が少ないことから筆者は記憶していなかった。利用の際は、この「本人認証パスワード」を用意しておく必要がある。
他社に先駆けて自販機の「イノベーション」に着手
ダイドードリンコが「KAO-NE」の開発に着手したのは2018年のこと。当時、東京オリンピックで顔認証を導入しようという動きがあり、先んじて顔認証決済サービスを自販機に取り入れようと動き始めた。ちなみに同社は、国内飲料事業の売上の8割以上を自販機で稼ぐという。
「KAO-NE」の開発を主導した自販機営業企画部の古門義浩(ふるかど よしひろ)氏に、開発背景や戦略を聞いた。
自販機の稼働台数でいうと当社は業界3位で、自販機の売上額も高い。そのため、当社の事業に欠かせない自販機でイノベーションを起こすことをミッションとしています。一方で、自販機は20〜30年前から大きな進化をしていませんでした。そこで、今後主流になるであろう顔認証に着手したわけです(古門氏)
「KAO-NE」で使用しているのは、NECが提供する顔認証技術だ。同技術はNIST(米国国立標準技術研究所)の顔認証ベンチマークテストで世界No.1評価を5回獲得しており、世界トップレベルを誇る。
NECさんの技術を取り入れた理由は2つあります。1つは世界1位の顔認証技術を持っていること。もう1つはビルの入退館や自動改札といった通り抜けだけでなく、すでに顔認証による決済にまで着手していたことです。当時、そこまで先進的な企業は他に見当たりませんでした(古門氏)
古門氏いわく、「KAO-NE」の開発でもっともハードルが高かったのが、顔認証技術と自販機をつなげることだったそうだ。
実は、自販機は外部サービスとは規格が大きく異なるので、両者をつなげるのは難易度が高いんです。しかし、以前テスト的にタブレット上のQRコードを読み取って自販機の商品を決済する変換ボードを作ったことがあり、その基盤があったため早期に顔認証決済が実現しました(古門氏)
あえて、少し遅くした「顔認証」のスピード感
「KAO-NE」を開発するにあたり、こだわった点をたずねると「スピード感」だと古門氏。速すぎず、かといって遅すぎない。利用者が安心して使える使用感を追求したという。
技術的には、いくらでも動作を速められるんです。テスト段階では現在よりもかなりスピーディーで、カメラが顔を捉えた瞬間に撮影して一瞬で認証される仕様でした。しかし、使ってみると『速すぎて不安』だと(笑)。あまりに速いので『ちゃんと認証されているの?』と不安になってしまうんです。そこで、意図的にスピードを少し下げて『きちんと認証している』と認識できる、もっとも心地いいスピード感としました(古門氏)
たしかに、筆者も初めて体験した際、「顔がややブレているけれど本当に認証できたの?」と少なからず不安を感じた。そういった不安感を払拭するために、あえて動作をゆっくりにして、パスコードの入力も設定しているのだ。
顔認証の精度が低いという懸念があるわけではありません。ただ、誤認証やなりすましなどの不安を抱く方が多い現実を踏まえ、パスコードの入力を用いて、よりセキュリティを高めています。将来的にそうした不安が払拭されれば、もっと使いやすい仕様に変更したいですね(古門氏)
こうした安心感の追求もあってか、ローンチから2年が経過した現在、顔認証でのエラーやトラブルなどは、ほぼ起きていないという。
利用者登録ができていない、パスコードがまちがっているなどのエラーの場合は、案内文が表示された後、最初の画面に戻ります。何らかの理由で顔認証がうまくできなかった場合は、3回失敗すると最初の画面に戻ります(古門氏)
その他にトラブルがあるとすれば、インターネットの障害や自販機自体の故障など。今や顔認証の精度は筆者のような素人が想像するよりはるかに高く、エラーが出るような心配は無用のようだ。
企業や学校で好評。唯一のハードルは「利用登録」
現在、「KAO-NE」はダイドードリンコの社内、全国の企業、学校など約70台まで導入が広がっている。手ぶらで仕事をする環境下での利用を想定して作られており、食品加工会社、 医薬品・化粧品加工会社、精密機器を取り扱う病院などで多く採用されている。
クレジットカードの登録が必要ということで最初は拒否反応が見られるものの、一度使うと「もう他の自販機は使えない」と、その利便性にハマる人が多いとか。
全寮制の中高一貫校にも導入されている。この場合、保護者のクレジットカードで登録をする、あるいはプリベイド式のウォレットアプリ「Kyash(キャッシュ)」で登録することになる。
学校での採用理由は、現金と比較してトラブルになりづらいキャッシュレスを推奨する動きがあるためです。また、若いうちに先進技術に触れることで、刺激を得てほしいという狙いもあるようです。導入後の副次的なメリットとして、保護者の方のメールアドレスで登録すると、お子さんが顔認証決済をした際にメール通知が届くこともあげられます。見守りサービスのようなものですね(古門氏)
同校ではテスト的に1台設置したところ反響が良く、すべてのエリアで手ぶらで買えるよう11台に増設したそう。
顔認証決済を普及させるには、アカウントの集約がカギ?
ダイドードリンコでは、早々に2000台の設置を目標としている。そのうえで課題となるのは「利用者登録」だという。
KAO-NEを普及するにあたり、登録のハードルをいかに下げるかが重要です。登録した方には1本無料で飲料をサービスするなど、登録を促す仕組みを考えています(古門氏)
さらには、KAO-NEを自社の飲料自販機のみならず、他社の自販機や食べ物等の物販機、飲食店や売店などにも広げていきたいと古門氏は話した。
競合の動きでいうと、伊藤園が「顔認証決済対応自動販売機を5月中旬から開始する」と発表したばかり。利用者の利便性を突き詰めると、1つのアカウントであらゆる顔認証決済が利用できるとベストだ。逆にいえば、「複数のアカウントを持つぐらいなら使わなくてもいい」と敬遠される原因になることも。広く顔認証決済を普及させるには、アカウントの集約もカギになりそうだ。
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オリジナル記事:日本初「顔認証自販機」を体験してみた | ダイドードリンコが開発した背景とは?
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