パルコのECサイトが2023年3月、リニューアルオープンした。名称も従来の「PARCO ONLINE STORE」から「ONLINE PARCO」と変更。“共創型ECサイト”と銘打ち、パルコのファン作りをめざしている。
ECサイトリニューアルは、2年にわたる大型プロジェクトとなった。約300項目の機能要件をピックアップして優先度をつけたことや、関係者が多いなかで最適解を導き出すことに苦労したという。
リニューアルを決めた背景やプロジェクトの進め方について、担当者に話を聞いた。
株式会社パルコ デジタル推進部 業務部長。リニューアルプロジェクトでは、統括プロジェクトマネージャ 兼システムプロジェクトリーダーを担当。
株式会社パルコ CRM推進部 業務課長。リニューアルプロジェクトでは、主にサービス視点での要件定義やサイト構築を担当。テナントの窓口も担う。
株式会社パルコデジタルマーケティング 事業推進部。リニューアルプロジェクトではPMO(Project Management Office)を担当。
新型コロナウイルスで店舗が休業、ECサイトを見直すことに
もともとPARCO ONLINE STOREでは、店舗の営業時間を越えてWebで接客ができる“24時間パルコ”という考えのもと、取り置き予約サービスの「カエルパルコ」を展開していた。パルコの店舗で販売している商品のみを取り扱っていたため、簡易的な機能のみのECサイトであった。
しかし2020年、コロナ禍の影響により店舗休業を余儀なくされ、ECでの売り上げが不可欠に。また消費者のEC利用も進んだことで、既存のシステムでは短期間の大量のアクセスに耐えられないインフラ性能不足が問題となった。
そのため抜本的に仕組みを見直すこととなる。
まずは要件定義から! 打ち合わせ回数は400回を超える
こうして2020年10月にリニューアルプロジェクトがキックオフ。まずは、デジタル推進部とCRM推進部が主導し、2か月かけて新しいECの方向性を模索した。
『パルコがECを持つ意味』について考え直しました。これまでの歴史を顧みると、弊社は新しい才能をインキュベートしてきました。またファッションだけでなくアートや食など、さまざまなジャンルが融合しています。そうしたパルコの目利きや編集力を生かした“パルコならでは”の商品を扱い、コンテンツとつなぎ合わせることで、ファンを増やしていくことを重視したのです(櫻井氏)
その後、RFP(Request for Proposal:提案依頼書)の作成に4か月かける。約300項目の機能要件をピックアップして優先度をつけたほか、インフラやセキュリティ面など非機能要件も強化することを定めた。
同時にシステムベンダーは20社ほど選定。半数の企業と商談をし、4社にプレゼンをしてもらったという。役職者を含むメンバーで採点し、最終的に「ecbeing」と契約した。選定の評価軸は、次の4つだった:
- 約300項目の機能に対する実現性
- モール型ECを標準機能として保持しているか
- システム安定性・堅牢性
- 構築コスト
ECシステム構築の方針として、標準パッケージファーストを掲げました。あれこれやりたいという要望を実現するためには、全部カスタマイズする必要が出てきます。スモールスタートで始めるためにも、標準パッケージでどれだけの機能が実現できるかが重要でした(在田氏)
こうして2021年8月に体制が整い、9月から開発が始まる。
社内会議は週1回のペースで実施し、サービス要件やシステム、フロントデザイン、経費などについて打ち合わせしましたね。協力会社とは、毎回1時間以上かけてじっくりと進捗管理を行いました。打ち合わせの回数を数えたところ、通算で400回を超えていましたね。それだけでなく、チャットでのやりとりや個別の相談も行ってました(小池氏)
ちなみに小池氏は、社内トラブルが起きないようにドキュメント管理を徹底しているという。
しっかりログを残すことで、『どうしてこうなった?』と振り返ることができます。いつでも誰でも経緯がわかる状態を残すことが大切だと考えています(小池氏)
そして2022年11月、ギャラリーなど社内の10店舗のみでプレオープン。2023年3月にはテナントも加わり、「ONLINE PARCO」としてグランドオープンした。プロジェクト開始から、2年以上の月日が経っていた。
大変だったのは、関係者が多いなかで最適解を導き出すこと
サイトリニューアルにあたり特に苦労したのは、次の2点だという:
- 約300項目の機能要件をピックアップして優先度をつけたこと
- ECサイトのフロントデザインを決定すること
というのも、パルコはモール型ECサイトだ。自社製品を売るのではなく、何百店舗もあるテナントの商品を取り扱うため、数多くのステークホルダーが存在する。そのテナントに使ってもらえるようなECサイトにしなくてはならないため、各所に「どのようにECサイトを使いたいか」とヒアリングをする必要があった。また、サイトのデザインは「どのテナントも嫌がらないもの」が求められた。
多くの要望が寄せられましたが、本当に使う機能なのか、どれくらい使うのかをひとつひとつ確認し、優先度をつけることに苦労しました。とはいえ、要望は我々にはない発想が多かったので、ありがたかったです。また全国にあるパルコには尖った店舗もあれば、地元に根付いた店舗もあります。全店舗が同じデザインのECサイトでいいのかなど議論しました(櫻井氏)
その結果、ヘッドレスコマースを導入。店舗や事業部によってデザインが自由に作れるようにした。また在田氏は、「SEOにはこだわりを持っているので、それも苦労した」と話す。全ページをリスト化して、タイトルとディスクリプションを手作業で書き換えたという。
名称変更から会員ID統一、越境ECにも取り組む
リニューアルにより、何が変わったのだろうか?
まず前述のとおり、名称が従来の「PARCO ONLINE STORE」から「ONLINE PARCO」に変更となった。これは単にモノを売るだけでなく、オンライン上でパルコを楽しんでもらいたいという思いから、“STORE”を外したという。
さらに、顧客サービス「PARCO MEMBERS」を導入し、パルコが提供する複数サービスのIDを統合させた。決済関連では「ポケパル払い(パルコ専用のQRコード決済)」「QRコード決済機能」「後払いシステム」を追加。予想以上に、ポケパル払いを利用している人が多いという。
また海外向け代理購入サービス「Buyee」を導入し、英語・中国語(繁・簡)・韓国語の多言語翻訳に対応。越境ECの強化にも取り組んだ。もちろん、表示スピードの改善や検索性の向上といった基本機能も改善した。
そのほか、テナントなどからの要望を反映し、次のような機能を追加した:
- 予約販売機能
- 抽選販売機能
- 特定客だけアクセスできるシークレット機能
- リアルイベントと連動できる来場者限定販売機能
- もぎりができる電子チケット(半券をもぎ取れる)など
標準パッケージから予定よりもカスタマイズが発生しましたが、お客様やサイトにとっては良いリニューアルになったと感じています(小池氏)
社内・テナント・顧客がより安心して利用できるECサイトにしていく
「ONLINE PARCO」にリニューアルしてから数か月が経った。これまでの反響を聞くと、社内からも評判がよく、従来のECサイトよりも興味を持つテナントが増えたという。
ECサイトのリニューアルでは、失敗して長期閉鎖する事例も聞いたことがありますが、今回は大きなトラブルもなくここまでやってこられました。細かい不具合はありますが、これまでと比べて圧倒的に少ないと感じています。これからも社内、テナント、お客様が安心して利用できるようなECサイトにしていきたいです(在田氏)
「リニューアルプロジェクトは終わりましたが、これはゴールではなく、始まりです」と小池氏は言う。今後は改修を重ね、よりファンを惹きつけるECサイトにしていくことだろう。
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オリジナル記事:サイトリニューアルに2年! 計400回の打ち合わせをしてまで、パルコが実現したかったECとは? | Webサイトリニューアル特集
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