1~3分の短尺ドラマ、通称「ショートドラマ」が世界的に流行している。動画はTikTokやYouTubeショートなどで配信されるほか、ショートドラマ専門の動画配信アプリ「BUMP(バンプ)」などが、Z世代を中心に支持を集めている。
このショートドラマ市場でクリエイター集団として存在感を放つのが、2021年に結成された「ごっこ倶楽部」だ。今では一法人として活動し、TikTokのフォロワーは170万人に拡大。日本テレビやNTTドコモ、パーソルホールディングス、JALなど大手企業とのタイアップによるショートドラマを制作しており、多くの成功事例を持つ。
企業がマーケティングにショートドラマを取り入れることで、どんな利点があるのか。ごっこ倶楽部を運営する株式会社GOKKOのCOO兼統括プロデューサーの志村優氏に聞いた。
一瞬も目が離せない「ショートドラマ」の魅力、市場も急成長
ここ数年で一気に市場が拡大したショートドラマ。中国では2020年にショートドラマ市場が誕生し、BUMP代表取締役の澤村直道氏いわく、2024年は中国国内市場が8,000億円まで伸びているという。また、市場調査会社のYHリサーチによれば、2029年には世界規模で約8.7兆円規模になると推定している。
ショートドラマの最大の特徴は1〜3分の短尺、かつ縦型であることだが、それ以外にも一般的なドラマや映画との相違点があるという。
まず、映像の始まりから終わりまで延々と音楽が流れています。数分のうちにストーリーが急激に動き、それがすばやいカット割りで展開されます。60分枠のテレビドラマのハイライトと呼ばれるような盛り上がりが1話に凝縮されるイメージです(志村氏)
実際にごっこ倶楽部が制作したショートドラマを見てみると、「学校でのいじめ」や「兄弟・姉妹間の嫉妬」「夫婦間の悩み」など描かれている題材が明確であり、多くの人が共感できそうなストーリー展開になっている。「夫婦における家事と育児の分担」や「LGBTQ当事者の悩み」など賛否両論が起こりそうなテーマも視聴回数が伸びやすいという。
TikTokやYouTubeショートでは、プラットフォーム側のおすすめとして表示されるなど偶発的にショートドラマを目にする視聴者が多いことから、話数は最大でも4話までに制限している。一方、コンテンツそのものの収益化を狙った長編を制作したい場合は、BUMPや「TopShort(トップショート)」などショートドラマ専用のアプリでの配信がメインになるそうだ。
アプリでは最初の数話を無料で配信し、その後は1話ごとに販売価格を設定して課金して視聴してもらうのが基本です。広告を見るなどのアクションで無料視聴できるオプションもあります。こうした配信スタイルの場合、課金のタイミングを見極めてストーリー展開を練っていきます(志村氏)
2021年5月のごっこ倶楽部の結成当初は、自分たちの思いを乗せたドラマ、演じたい役柄を意識してショートドラマを制作していたが、2022年2月に法人化してからは、企業とのタイアップ案件も多く手掛けるようになった。
タイアップでは、各企業のTikTokやYouTubeショートのアカウントで共同制作したショートドラマを投稿していくスタイルです。企業によって得たい結果やリクエストは異なりますが、自社が持つメッセージ性を盛り込みながらブランドリフト効果を狙っていくのが通常です(志村氏)
制作費はテレビCMの100分の1? ショートドラマの制作プロセス
ごっこ倶楽部が制作するショートドラマは、従来のテレビCMやウェブCMよりも低コストなのも特徴だ。タイアップの場合は1本500万円〜、中長期にわたって複数本を制作する場合は3,000万円〜が制作費の目安とのこと。1分あたりの単価を換算すると、従来のテレビCMの10分の1〜100分の1にまでコストを抑えられるそうだ。
低コストの理由として、志村氏はまず「インハウスでの制作」を挙げた。役者、脚本家、プロデューサー、ディレクター、撮影舞台などを抱えており、基本的に自社内のリソースでショートドラマを制作しているという。
自社オフィスの他に、社員寮も兼ねたハウススタジオを構えているので、スタジオの利用料もかかりません。編集も一定のスペックがあるパソコンで行えますし、動画配信後の分析も自社で行います(志村氏)
縦型動画は、従来の横型よりも画面に映る範囲が狭い。それゆえに広範囲でセットを作り込まずとも自社スタジオを病院やカフェなどに見立てて撮影することが可能とのこと。さらに、制作プロセスにおいてもコストを抑える工夫がある。
従来のCM制作では、字コンテや絵コンテを制作するケースがほとんどだと思いますが、弊社の場合は、この工程が一切ありません。過去に制作したイメージに近い動画をサンプルとしてクライアントにお見せした後に脚本を制作し、脚本が固まったらキャスティング、撮影準備をして、すぐに撮影に臨みます(志村氏)
多くのキャストを自社の役者でまかなえるため、スケジュールも柔軟に調整しやすい。撮影もスピーディーで、撮影当日にその場で画角を決定し、芝居のニュアンスも役者の感性を活かしながら撮ることが多いという。
企業とのタイアップも実施。日テレ・パーソル・JALでの成功事例
ごっこ倶楽部では、日本テレビ、NTTドコモ、パーソルホールディングス、JAL、JR西日本など数々の企業とのタイアップを実施している。ここでは、3社の事例に絞って、その反響を紹介する。
日本テレビ
>2023年に縦型ショートドラマ専用アカウント「毎日はにかむ僕たちは。」を開設。「はにかんでしまうような一瞬」をコンセプトとし、主に4人の俳優がさまざまなキャラクターを演じ分け、「胸がキュンとする明るい恋」「思い出してしまう悲しい恋」「他愛もないけれど思い出に残る日常」などをショートドラマに落とし込み、継続的に配信している。
2024年8月現在、TikTokのフォロワーは63.2万人にのぼり、総再生回数は10億回を突破。日本テレビの調査によれば、Z世代(同調査では15~24歳と定義)の約3人に1人が認知しており、約4人に1人が実際に視聴している人気アカウントに成長している。
パーソルホールディングス
2023年に公式TikTokアカウントを開設。グループビジョンの「はたらいて、笑おう。」を主題として、働く人々を主役に職場環境やキャリアの悩みなどにまつわるショートドラマを継続的に投稿している。たとえば、「今の仕事を選んだ理由」や「仕事のやりがい」「辞めそうになったけれど、その仕事を続けている理由」など、働く人が共感するようなテーマが多い。
開始から3ヵ月でフォロワーが10万人に達し、2024年8月現在は17.8万人まで拡大。既存のTV施策と比較したリーチにおけるコスト効率は140倍と、当初の予想以上の反響を得ている。
JAL ※セプテーニとの共同制作
2022年に公式TikTokアカウントを開設、2024年8月現在は45万人のフォロワーを持つ。JALが唯一羽田空港からの直行便を出している沖縄の離島「久米島」の魅力を伝え、旅行目的地としての需要喚起につなげたいという目的でPR用のTikTokショートドラマを制作。2024年1月25日に前編、26日に後編を公開したところ、公開1ヵ月で総再生数が1,000万回を突破、コメント数は2,700件以上になった。
同ショートドラマと連動した沖縄・離島周遊旅行が当たるキャンペーンでは、他の地方路線キャンペーンと比較し応募者数が2倍になった。また、配信前後における久米島行きの航空券の予約数は270%以上増加し、効果的な販促・PR施策となった。
ショートドラマは、まだまだ盛り上がる
中国で先行して市場が拡大したショートドラマだが、今やその人気はグローバルに広がっている。
ショートドラマ配信アプリの種類も多岐にわたり、北米地域で支持を得る「ReelShort(リールショート)」、アジア地域で人気の「TopShort(トップショート)」「DramaBox(ドラマボックス)」「GoodShort(グッドショート)」などがある。上述したアプリはすべて中国発となる。
ごっこ倶楽部でも自社制作のコンテンツをグローバルで展開させていくことを視野に入れているが、単純な転用では難しいようだ。
字幕や吹き替えでグローバルに配信することは可能ですが、日本でウケたショートドラマがそのまま他国でも支持を得るわけではありません。エリアごとに好まれるストーリーも違えば、人気のあるアーティストや楽曲も異なります。国ごとにローカライズしなければ、高い視聴回数は狙えないと思います(志村氏)
日本市場においては、今年の秋頃からショートドラマ専用の配信アプリが大量に登場し、ほとんどの企業がマーケティング施策としてショートドラマを活用するだろうと志村氏は予測を示した。
大手企業と取り組んでいる進行中の案件が多くありますが、これは今後も増えると予想しています。ショートドラマはテレビや新聞などのマス広告よりも特定の層に刺さりやすく、短尺で凝縮した情報を届けられます。コンテンツを頻繁に配信することで、短期間でも認知向上やブランドリフト効果を得やすいと考えます(志村氏)
ショートドラマはタイパ重視といわれる若年層に適した情報取得のスタイルであり、企業にとっても効率的なマーケティング施策といえそうだ。ますます拡大していくであろうショートドラマ市場から目が離せない。
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オリジナル記事:Tiktokフォロワー170万人の「ごっこ倶楽部」に聞くショートドラマの魅力、日テレ・JALの成功事例&低コスト制作の裏側
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